SSブログ

高リスク病変に対する心臓バイパス手術とカテーテル治療の予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
CABGとカテーテルの予後の差.jpg
2019年のLancet誌に掲載された、
高リスク病変に対する心臓バイパス手術とカテーテル治療の、
長期予後を比較した論文です。

狭心症や心筋梗塞の治療において、
心臓カテーテル検査を行ない、
狭くなったり詰まった血管に対して、
血管を広げるカテーテル治療は、
ここ20年くらいで急速な進歩を遂げた、
循環器内科治療の花形です。

初めはPTCAと言って、
狭くなった部分に風船を入れ、
それを膨らませる治療が主体でしたが、
この方法では、
一旦は広がった血管が、
すぐにまた詰まってしまうことが多かったので、
ステントという金属製の管が開発され、
それを狭くなった血管に挿入する、
という治療が主体となりました。

この方法ではステント自体は金属製ですから、
それ自体が塞がることはないのですが、
今度はステントを挿入した部分の血管の、
内側の壁が増殖して狭くなったり、
そこに血の塊が出来るような現象が起こるようになりました。
この初期のタイプのステントを、
ベアメタル・ステント(金属ステント)と呼んでいます。

そこで次に、ステントの内側に特殊な薬を塗り付けた、
「薬剤溶出性ステント」という器具が、
開発され使用されるようになりました。
塗り付けられているのは、
シロリムスという、細胞の増殖を抑えるような薬や、
パクリタクセルという抗癌剤の一種で、
毒性があるので、
全身的には使用することは出来ず、
そのためステントの部位のみで、
薬剤がしみ出すような仕組みが考案されたのです。

この薬剤溶出性ステントの使用により、
ステントの中が治療後すぐに狭くなるような合併症は、
かなり減少したのですが、
その一方で、しばらく時間が経ってから、
血栓という血の塊がステントの中に出来て、
それでステントが詰まってしまうような現象は、
頻度は少ないもののゼロにはなっていません。

薬剤溶出性ステントにおいて、
エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムスなど、
より患者さんの体との適合性が高くするように改良されたものが、
第2世代の薬剤溶出性ステントと呼ばれています。

さて、
多枝病変と呼ばれる、
複数の血管に狭窄のあるタイプの狭心症や心筋梗塞では、
ステントなどを使用したカテーテル治療よりも、
心臓バイパス手術の方が、
長期的な生命予後は優れている、
というデータが複数存在しています。

ただ、その多くは、
まだステントが普及する以前のものか、
ステントは使用されていても、
ベアメタルステントのデータです。

以前ブログ記事でご紹介した2015年のNew England…誌の論文では、
多枝病変に対する、
第二世代の薬剤溶出性ステントを使用したインターベンションと、
心臓バイパス手術との比較において、
その死亡リスクには両群で差がなかったものの、
心筋梗塞の再発については、
ステント使用群でより多いという結果になっていました。

今回のデータは、
ヨーロッパとアメリカの18カ国85施設において、
最もリスクが高いと想定される3枝病変と、
左冠動脈主幹部病変に対して、
パクリタキセルを使用した、
第一世代薬剤溶出性ステントによるインターベンションと、
心臓バイパス手術のどちらかの治療をくじ引きで決め、
その後10年という長期予後を比較検証しているものです。

その結果、
10年の間にステントによるインターベンション群の27%、
心臓バイパス手術群の24%が死亡していて、
死亡率では両群には有意な差は認められませんでした。

これを3枝病変と左冠動脈主幹部病変とに分けて解析すると、
3枝病変においてはバイパス手術群と比較して、
ステント治療群での死亡リスクが1.41倍(95%CI: 1.10から1.80)
有意に高かったのに対して、
左冠動脈主幹部病変群においては、
2つの治療間の死亡リスクの差は認められませんでした。

今回の検証は第一世代の薬剤溶出性ステントを使用したもので、
第二世代以降のステントの使用では、
また別個の結果の出る可能性もありますが、
3枝病変においては長期の死亡リスクは、
まだバイパス手術がカテーテル治療を上回っているものの、
それ以外の病変においては、
バイパス手術とカテーテル治療の生命予後には、
大きな差はないと考えてほぼ間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0)