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別役実「この道はいつか来た道」(2019年鵜山仁演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
この道はいつか来た道.jpg
舞台芸術学院創立70周年記念公演として、
1995年に木山事務所で初演された別役実さんの旧作、
「この道はいつか来た道」が、
金内喜久夫さんと平岩紙さんというキャストで上演されました。

僕は平岩紙さんの舞台での演技が大好きで、
別役実さんの舞台もとてもとても好きなので、
これはもう絶対見逃せないと思って出掛けました。

この作品は僕は初見ですが、
何度か別キャストでの上演が行われています。

作品が書かれた1995年には、
別役さんの劇作はもう1つの完成をみていて、
どちらかと言えば力を抜いた、
少人数で時間も短い、
人生スケッチ風のお芝居が多かった時期です。

この「この道はいつか来た道」も、
夫婦と思われる高齢の男女のみの2人芝居で、
舞台には電信柱とポリバケツだけがあり、
上演時間は50分ほどの短さで、
ラストは静かに雪が降って来て終わります。

内容自体も命の短い男と女が、
何度も人工的な出会いと別れを繰り返すというもので、
作品の仕掛けも結構明瞭に説明されますし、
別役さんの作品としては、
かなり平明で分かり易く、
意地悪さがあまりありません。
それがこの作品の魅力でもあり、
別役さんの作品群の中では、
物足りなさを感じるところでもあります。

今回の上演は、
何度かこの作品を演じている重鎮の金内喜久夫さんと、
年齢的には金内さんの半分以下の平岩紙さんのコンビで、
年齢差にはちょっと違和感があるのですが、
2人とも抜群の芸達者なので、
観ているうちにはそうした不自然さは、
あまり感じなくなります。

演出もこれ以上はないくらいのシンプルなもので、
まずは十全に別役作品の世界に、
浸り込むことの出来る舞台でした。

金内喜久夫さんが良かったですね。
ご高齢ですし、台詞が大丈夫なのかしら、
などと余計な心配もしていたのですが、
それは全くの杞憂でした。
金内さんはかつての「薮原検校」の語り手の芝居が、
名演として心に焼き付いていますが、
今回もなかなかの出来映えでした。

一方の平岩紙さんは、
個人的には当代の演技派舞台女優の代表の1人と思っていて、
彼女が出演しているだけで、
舞台に足を運ぼうという気分になる数少ない1人です。

今回もラストの前の艶然とした表情など、
彼女ならではの演技を見せてくれました。

ただ、別役さんの台詞はまだ平岩さんの中で、
こなれているとは言い切れず、
やや生硬いという感じはありました。
また、この芝居はあまり役の振幅が大きくないので、
平岩さんの力量が、
十全に発揮されているというようには思えませんでした。

そんな訳で少し不満もあったのですが、
久しぶりの別役芝居を、
最高のキャストで観ることが出来たのは幸せでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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