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仕事中の座位時間と健康リスク(台湾の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
座位時間と心血管疾患リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年1月19日付で掲載された、
仕事中の座位時間と健康リスクについての論文です。

1日のうち座っている時間が長いと、
動脈硬化関連の病気や糖尿病などのリスクを高め、
生命予後にも大きな影響を与えることは、
最近健康管理において注目されている知見の1つです。

その代表的な初期の知見の1つは、
オーストラリアで22万人以上の一般住民を対象としたものですが、
1日のうち11時間を超えて座っていると、
4時間未満しか座っていない場合と比較して、
総死亡のリスクが40%増加した、
という結果になっています。
このデータのポイントは、
1日の運動時間とは無関係にそうした関連が認められた、
ということで、
座っている時間が長いこと自体が、
それ以外の生活パターンとは独立して、
健康リスクになっているという点が重要なのです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22450936/

問題は仕事をしている世代では、
仕事の内容によって座っている時間がほぼ固定されてしまう、
という事実にあります。

たとえば、電話対応が主体の仕事では、
7時間以上座りっぱなし、というようなケースもあり得ますし、
仕事によってはより長い時間、
座っていることを強いられる、
というような状況もありそうです。
私は外来を主体の診療を仕事としているので、
結果としてかなりの時間は座ったままで仕事をしています。

仮に座っているだけで健康リスクとなるのであれば、
そうした仕事に従事していて病気になれば、
それは労災ということにもなりかねません。

企業の経営者は、
労働者を長く座らせない義務がある、
ということも言えなくはないと考えると、
この問題が社会に与える影響は実は非常に大きい、
と考えることが出来ます。

ただ、ここで注意が必要なことは、
座位時間と健康リスクを検証した多くの研究において、
仕事中の座位時間と、
仕事以外の座位時間には区別がないということです。

そこで今回の研究は台湾において、
大規模な疫学調査のデータを活用し、
仕事中の座位時間と健康リスクとの関連を解析しています。

対象は平均年齢39.3歳の481688名で、
平均の観察期間は12.85年です。
性別などの因子を補正した結果として、
殆どの時間座って仕事をしている人は、
殆ど座って仕事をすることがない人と比較して、
総死亡のリスクが1.16倍(95%CI:1.11から1.20)、
心血管疾患による死亡のリスクが1.34倍(95%CI:1.22から1.46)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で座る時間とそれ以外の時間を繰り返して仕事をしている人では、
総死亡リスクの有意な増加は認められませんでした。
また仕事中の座位時間が長く、運動習慣もない人が、
1日15から30分の運動習慣を身に着けると、
座位時間は変化していなくても、
総死亡リスクの増加は認められないことも確認されました。

このように、今回のデータからは、
仕事中の座時時間の長さは健康リスクに繋がり、
ずっと座りっぱなしではない仕事環境に移行することにより、
その改善が可能であることが示唆されました。

こうした知見は研究によってかなり差があり、
1つの結果のみで「座りっぱなしの仕事は駄目」、
と決めつけることは危険ですが、
今後座位時間が長いことを強いるような業務が、
制限される可能性もあり、
かなり社会に与えるインパクトの大きな知見であることは間違いがないので、
今後の推移を慎重にフォローしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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便座の蓋を閉めて水を流すことの感染予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トイレの蓋と感染リスク.jpg
American Journal of Infection Control誌に、
2024年2月付で掲載された、
洋式便器の蓋を閉めて水を流すことの、
感染予防効果についての論文です。

最近不特定多数の方が利用する個室トイレには、
「便器の蓋を閉めてから水を流して下さい」
というような掲示がしばしば掲げられています。

これは特に便中の感染性の病原体が、
便器の蓋を開けたままで水を流すことにより、
便座やその周辺に飛散して、
それがトイレを介した感染リスクに繋がるという指摘があるからです。

たとえば、クロストリジウム菌という、
院内感染などを引き起こす細菌について検証した研究では、
便座の蓋を開いた場合と比較して、
蓋を閉じて水を流すことにより、
周辺への細菌を含む飛沫の拡散が、
ゼロにはならないもののかなり抑制された、
という結果が報告されています。
https://www.journalofhospitalinfection.com/article/S0195-6701%2811%2900339-2/fulltext

ただし、これは細菌の場合の話で、
よりその大きさが小さく、
新型コロナやインフルエンザ、ウイルス性腸炎などの原因となる、
ウイルス感染についても成り立つことであるかどうかについては、
まだ明確なデータがありませんでした。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
実験に使用する無害なウイルスを使用して、
それを排便時と同じように便器に巻き、
便座の蓋を開けた場合と閉めた場合とで、
トイレの水を流して、
周囲へのウイルスの飛散の有無を比較検証しています。

その結果、周辺でのウイルスの飛散量には、
便座の蓋を開けておいても閉めて水を流しても、
明確な差は認められませんでした。

つまり、トイレの蓋を閉めて水を流すことは、
細菌感染の予防には繋がっても、
ウイルス感染の予防には繋がらない、
という結果です。

それでは、どのようにすればウイルス感染の予防が可能なのでしょうか?

研究では1つの試みとして、
事前に便器を塩化水素系の消毒薬で洗浄を行ったところ、
ウイルスの周囲への飛散は90%以上抑制されました。

つまり、便器からのウイルス感染の予防には、
定期的に便器を除菌することが、
蓋の開け閉めよりも重要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後と糖尿病との関連(韓国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後.jpg
British Medical Journal誌に、
2014年2月13日付で掲載された、
非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後についての論文です。

肝臓に脂肪(中性脂肪)が過剰に溜まった状態を、
脂肪肝と呼んでいます。

肝臓は元々、身体の余分な脂肪を、
中性脂肪という形にして貯めこむ倉庫のような場所ですが、
その倉庫が脂肪で満杯となって膨れ上がったような状態が脂肪肝です。

その過剰な脂肪が炎症を起こし、
肝臓の細胞を破壊してしまうような事態に陥った状態を、
脂肪肝炎と呼んでいます。

肝臓の細胞が炎症を起こして破壊されると、
細胞の中にあった酵素が血液中に漏れ出て来ます。
この酵素の代表がALT(GPT)なので、
一般に肝機能の指標とされているALTが上昇することは、
肝炎の重要な指標となっているのです。

お酒を過剰に飲むことによって起こるアルコール性肝障害では、
高率にアルコール性の脂肪肝炎が起こります。
しかし、最近殆ど飲酒をしない人でも、
脂肪肝や脂肪肝炎になることが注目され、
それを非アルコール性脂肪性肝疾患と、
非アルコール性脂肪肝炎と呼んでいます。

この非アルコール性脂肪性肝疾患は、
メタボリックシンドロームと関連が深く、
いずれも内臓脂肪の蓄積の1つの現れと、
考えることが出来ます。

メタボと関連の深い生活習慣病としては、
他に2型糖尿病があり、
いずれも動脈硬化を進行させ、
心臓病や脳卒中などのリスクを高めることが知られています。

しかし、
2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患が合併した場合の、
動脈硬化性疾患のリスクや生命予後については、
精度の高い疫学データは不足しているのが実際です。

そこで今回の研究では韓国において、
20歳以上で1日アルコール30グラム以上の飲酒習慣のない、
7796793名の一般住民を対象とした健康調査のデータを活用して、
脂肪肝の簡易的指標である、
脂肪肝指数(Fatty Liver Index)により、
非アルコール性脂肪性肝疾患なし(脂肪肝指数30未満)、
非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い(脂肪肝指数30以上60未満)、
非アルコール性脂肪性肝疾患(脂肪肝指数60以上)に分け、
動脈硬化性疾患のリスクと生命予後を、
2型糖尿病のあるなしで検証しています。
観察期間の中間値は8.13年です。

その結果、
対象者のうちの6.49%が2型糖尿病と診断され、
糖尿病のない人での非アルコール性脂肪性肝疾患の比率は、
10.02%であったのに対して、
糖尿病の患者さんでは、
その26.73%に非アルコール性脂肪性肝疾患が認められました。

2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患のどちらもない人では、
心血管疾患のリスクは年間1000人当たり2.26件でしたが、
非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い群では3.83件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では3.77件と、
そのリスクの増加が認められました。

2型糖尿病の患者さんでは、
心血管疾患のリスクは年間1000人当たり8.28件と、
糖尿病のない場合と比較して著明な増加を認めていて、
ここで非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い群では9.19件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では8.34件と、
明確な増加とまでは言えない気がしますが、
よりリスクの高まる傾向を認めました。

総死亡のリスクについては、
糖尿病も非アルコール性脂肪性肝疾患のない群では、
年間1000人当たり3.03件でしたが、
非アルコール性脂肪性肝疾患疑い群では3.90件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では3.63件と、
これも微妙な感じはしますが、
リスクが増加する傾向は認めていました。

非アルコール性脂肪性肝疾患群のない2型糖尿病群では、
総死亡のリスクは年間1000人当たり11.64件と、
明確な増加を示していましたが、
そこに非アルコール性脂肪性肝疾患が加わっても、
明確な死亡リスクの増加は認められませんでした。

このように心血管疾患のリスクも総死亡のリスクも、
矢張り2型糖尿病において著明の増加していて、
2型糖尿病が生命予後に大きな影響を与える因子であることは、
間違いがありません。
非アルコール性脂肪性肝疾患は、
単独でも糖尿病ほどではありませんが、
心血管疾患リスクや総死亡のリスクを、
押し上げる因子にはなっていて、
疑いのレベルでも明確なリスク増加が認められる、
という点は重要な知見であると思います。
糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患が併存すると、
そのリスクはより増加する傾向を示していますが、
糖尿病の影響の方がより顕著であるためか、
併存の場合のリスク増加は、
それほど明確なものとまでは言えませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心房性心臓病患者に対する抗凝固剤の脳卒中予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心房性疾患に対する抗凝固療法の有効性.jpg
JAMA誌に2024年2月4日付で掲載された、
心房細動のない心房性心臓病に対する、
抗凝固剤使用の有効性についての論文です。

心房細動という不整脈は、
心臓の心房という部分が不規則に収縮する病気で、
通常は一時的に出現してまた元に戻ることを繰り返し、
それから不整脈のみが継続する、
慢性心房細動と呼ばれる状態に移行します。

そしてこの不整脈は、
時々発作を起こす状態であっても、
心房に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まる、
脳卒中(脳塞栓症)を起こすリスクが高まることが知られています。
たとえば動脈硬化が進行していることの想定される高齢者では、
たった一度の発作性心房細動を起こしただけで、
その後の脳卒中のリスクが約2倍増加した、
という報告もあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/

そのため、
この不整脈が確認された場合には、
不整脈自体を治療する試みと共に、
抗凝固剤と呼ばれる、
血栓が出来難くなる薬剤を、
継続的に使用することで、
脳卒中のリスクを抑制する治療が行われます。

ただ、実際には心房細動が確認されなくても、
左心房に負荷が掛かっているだけで、
脳卒中のリスクが増加するという報告があります。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/

そのため心電図などの所見から、
左心房に負荷が掛かっている状態のことを、
心房性心臓病(Atrial Caidiopathy)と呼んで、
それ自体を治療しようという考え方があります。

もしこれが事実であるとすれば、
まだ心房細動を発症しない状態であっても、
左心房への負荷がある状態であれば、
脳卒中の予防のための治療が必要だ、
ということになります。

しかし、実際には心房細動のない心房性心臓病の患者さんに、
抗凝固療法を施行した場合の有効性は、
明らかではありません。

そこで今回の研究では、
アメリカとカナダの複数施設において、
年齢は45歳以上で潜在性の虚血性梗塞の既往があり、
心房細動は確認されないものの、
左心房に負荷の所見のある、
トータル1015名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日81㎎の低用量アスピリンを使用し、
もう一方は抗凝固剤であるアピキサバンを使用して、
その後の脳卒中予防効果を、
平均で1.8年の観察期間で検証しています。

左房負荷の指標は、
心電図における左房負荷の指標である、
左房の機能を反映するP波の後半部分の所見
(PTFV1>5000μV)と、
心負荷の所見であるNT-proBNPの軽度上昇(>250pg/mL)、
エコーで計測した心房の大きさ(ADI3.0 cm/㎡以上)との3つの指標から、
少なくとも1つ以上を満たす状態、
として定義されています。

その結果、
アスピリンと比較してアピキサバンの使用は、
明確な脳卒中予防効果を示せませんでした。
また、重篤な出血系の合併症のリスクにおいても、
両群では有意な差はありませんでした。

このように心房細動以外の、
左房負荷に関わる脳卒中リスクの増加を予防する目的で、
アスピリンの代わりにアピキサバンを使用しても、
現状で明確な予防効果を示すことは出来ませんでした。

心房細動に至っていない左房負荷の脳卒中リスクに対して、
どのような対策を高じるべきかについては、
まだ明確な結論は得られていないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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GLP-1アナログ各種の個別比較(2024年ネットワークメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GLP-1アナログの個別比較データ.jpg
British Medical Journal誌に、
2024年1月29日付で掲載された、
糖尿病の治療薬を直接比較した論文です。

GLP-1アナログは、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。

もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。

最近ではまた、
GLP-1アナログを他のインクレチンなどのホルモンと配合して、
よりその効果を高めたような薬剤も、
次々と開発されています。
その中には既に日本でも発売されているものもありますし、
まだ未発売のものもあります。

そのうちGLP-1を別のインクレチンであるGIPと配合した薬剤が、
チルゼパチド(マンジャロ)で、
GLP-1アナログの代表的な薬剤であるセマグルチド(オゼンピック)を、
膵臓から分泌されるホルモンであるアミリンの作動薬と、
配合した薬がカグリセマです。

GLP-1アナログが2型糖尿病の治療薬として、
有用な薬であることは間違いがありませんが、
複数あるGLP-1アナログおよびその関連薬の中で、
どの薬剤が最も有効性が高いのか、
というような点を直接比較したデータは、
殆ど存在していません。

今回の研究はネットワークメタ解析という手法により、
個別のGLP-1アナログ及びその配合剤の臨床データを、
比較検証しているものです。

これまでの76の介入試験のデータに含まれる、
15種類のGLP-1アナログとその配合剤を使用した、
トータル39246名の臨床データをまとめて解析し比較したところ、
全てのGLP-1アナログが空腹時血糖と、
糖尿病コントロールの指標であるHbA1cの低下作用を示しました。

15種類の中で、
最もHbA1cと空腹時血糖の低下作用が強力であったのは、
GIP/GLP1アナログのチルゼパチドで、
HbA1cは平均で2.1%(95%CI-2.47から-1.74)の低下を示していました。

GLP-1アナログはまた、
いずれも体重の減少効果が認められ、
最も体重減少作用が強かったのは、
GLP-1とアミリンアナログの合剤でカグリセマで、
平均で14.03キロ(95%CI -17.05から11.00)の体重減少が認められています。
それに次ぐ体重減少効果が認められたのはチルゼパチドで、
平均8.47キロ(95%CI-9.68から-7.26)の体重減少が認められています。

コレステロールの低下効果については、
セマグルチドが有効性が最も高く、
使用の有害事象としては、腹痛や吐き気などの消化器症状が多く、
特に高用量での頻度が高くなっていました。

このように、
GLP-1アナログは血糖コントロール改善と、
体重減少についての有効性が確認されていて、
特に合剤においてその効果が高いことが確認されました。
一方で吐き気などの消化器症状で、
継続が困難となった事例も多く、
今後効果と有害事象とのバランスなどの観点から、
その個別の使用の選択肢が、
整理されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤で飲酒検査が偽陽性になる? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤による尿中アルコール検査の偽陽性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月8日付で掲載されたレターですが、
糖尿病の経口治療薬で、
尿の飲酒検査の偽陽性が検出された、
という興味深い報告です。

アメリカで60代の男性が、
10か月以上お酒を1滴も飲んでいないのに、
行政の検査で尿にアルコールのエタノールの反応が陽性となり、
主治医に連絡があった、という事例がありました。

その男性は糖尿病の治療で、
SGLT2阻害薬を使用していました。

この薬は尿へのブドウ糖の排泄を促進することにより、
糖尿病の病状をトータルに改善する作用を持つ、
経口糖尿病治療薬です。

医療機関で迅速検査を施行したところ、
尿糖は検出されたものの、
尿中のエタノールやその代謝産物を含め陰性の結果でした。

何故このようなことが起こったのでしょうか?

上記レターの著者の分析では、
尿検体に含まれていたブドウ糖が、
細菌の酵素によって発酵し、
エタノールが発生したことが要因ではないかと考えられました。

行政の検査では検体を採取してから、
実際に検査をするまでにかなり時間が経っていて、
その間の検体の管理も悪かったことから、
そうした事態が発生したと推測しています。

それとは別個の事例ですが、
2019年に日本で報告された症例報告では、
57歳のタクシー運転手が、
呼気のアルコール検査で陽性となり、
飲酒運転を疑われたものの、
実際には飲酒はしておらず、
糖尿病で服用していたSGLT2阻害剤の影響ではないか、
と分析されています。

これはSGLT2阻害剤の服用により、
呼気のアセトンが増加するのですが、
アセトンがエタノールと同じ温度帯で燃焼するため、
半導体センサーのアルコール検知器では、
偽陽性となってしまったのではないか、
という説明になっています。

要するに呼気でも尿でも、
アルコールの簡易検出法は、
SGLT2阻害剤の使用時には、
偽陽性となる可能性があり、
その点は充分に理解した上で、
こうした機器による飲酒検査は施行される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「殿様枕症候群」 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
殿様枕症候群.jpg
European Stroke Journal誌に、
2024年1月29日付で掲載された、
枕の高さが脳卒中のリスクに与える影響についての論文です。

これは国立循環器病研究センターの研究者による研究です。

脳卒中の多くは50歳以上で発症しますが、
中にはより若年での発症があり、
概ね18歳から50歳までの間に起こる脳卒中を、
若年性脳卒中と呼んでいます。
ただ、これは必ずしも国際的な定義のようなものではなく、
文献によっては45歳までになっていたり、
40歳までになっていることもあります。

日本においてこの若年性脳卒中の原因として、
多いことが指摘されているのが、
脳動脈解離です。

脳動脈解離というのは、
脳に繋がる動脈や脳の中を走る動脈の、
内膜という内側の部分が部分的に剥がれることで、
そこに血の塊が出来て血管が詰まったり、
出血したりすることによって、
脳梗塞や脳出血が起こります。

この現象は勿論高齢者にも起こりますが、
比率から言うと若年性の脳卒中に多いのです。

何故脳の血管の膜が裂けるのでしょうか?

生まれつきの血管の脆弱性や外傷など、
幾つかの原因が指摘されていますが、
それだけでは説明の付かない事例が多いのが実際です。

今回の論文の執筆者らは、
椎骨動脈解離の患者さんで、
通常より高さの高い枕を常用し、
朝起きた時から症状が発現する事例の多いことに着目し、
高い枕により首が後方に進展することが、
解離のリスクになるという仮定のもとに、
単一の専門施設で、
椎骨動脈解離と診断された患者53名を、
同時期に脳卒中の疑いで病院を受診した、
年齢などをマッチングさせた椎骨動脈解離以外の患者53名と、
枕の高さと病気との関連を比較検証しています。
対象者の年齢の平均は49歳で、
若年性脳卒中の事例が多く含まれています。

その結果、
12センチ以上の高さの枕を使用することは、
使用しない場合と比較して、
椎骨動脈解離のリスクを2.89倍(95%CI:1.13から7.43)、
15センチ以上の高さの枕を使用することは、
10.6倍(95%CI:1.30から87.3)、
それぞれ有意に増加させていました。
この関連は柔らかい枕より硬い枕でより強く認められました。

論文ではこれを「殿様枕症候群(Shogun pillow syndrome)」と呼び、
硬い高さの高い枕の使用に警鐘を鳴らしています。

如何でしょうか?

これはBritish Medical Journal誌の、
クリスマス特集のような論文だと思います。

殿様枕症候群というのはユニークですが、
真面目に言っているのかどうか、
正直疑問にも感じます。

高さ15センチの硬い枕というのは、
実際に測定すると相当のもので、
果たしてそんな枕を誰が使用しているのだろう、
と素朴に疑問に思います。
すぐに思いつくのは、
病院のベッドの枕ですが、
それでも高さ15センチにはなりません。

またこうした比較をするには、
症例数は如何にも少なく、
予め想定された結果を検証するには、
もっと多い事例を集め、
より客観的な検証をする必要があると思います。
信頼区間の大きさも、
それを裏打ちしているように思います。

これでとても高い枕が椎骨動脈解離の原因とは、
言えないと思いますが、
こうしたちょっとした生活習慣が、
原因不明の脳卒中のリスクになっている、
という指摘は興味深いことは確かで、
今後のより厳密な検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カルシウムのサプリメントによる心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カルシウムのサプリメントと心血管疾患リスク.jpg
Diabetes Care誌に2024年2月付で掲載された、
カルシウムのサプリメントが、
糖尿病の患者さんに与える影響についての論文です。

カルシウムはサプリメントとして摂取される、
代表的なミネラルの1つで、
その使用は主に食事によるカルシウムの不足を補い、
骨粗鬆症の予防など骨の健康の維持にあると、
一般にはそう考えられています。

しかし、最近になってサプリメントでカルシウムを摂ることが、
心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化関連の病気のリスクを、
増加させるのではないかというデータが報告されて、
その安全性に疑問が投げかけられる事態となっています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3738985/

サプリメントでカルシウムを摂ることは、
通常の食事から摂る場合と比較して、
摂取後比較的急激に血液中のカルシウム濃度が上昇する可能性があり、
それが血管の石灰化などに繋がるのではないか、
という指摘もあります。

特に糖尿病の患者さんは、
動脈硬化進行のリスクが高く、
骨代謝の異常も指摘されていますから、
よりその影響を受けやすい可能性があるのです。

今回の研究はイギリスの有名な遺伝情報を含む大規模な医療データである、
UKバイオバンクのデータを活用して、
434374人の医療データを元に、
カルシウムのサプリメントの使用と心血管疾患リスクとの関連を、
糖尿病の有無によって比較検証しているものです。

その結果、
関連する因子を補正した結果として、
糖尿病の患者さんにおけるカルシウムサプリメントの使用は、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを34%(95%CI:1.14から1.57)、
心血管疾患による死亡のリスクを67%(95%CI:1.19から2.33)、
総死亡のリスクを44%(95%CI:1.20から1.72)、
それぞれ有意に増加させていました。

その一方で糖尿病のない人では、
そうしたカルシウムサプリメントによる、
心血管疾患リスクの増加や生命予後の悪化は認められませんでした。

どうやら全ての人にカルシウムのサプリメントが有害であるのではなく、
糖尿病に代表されるような、
心血管疾患のリスクが高い人では、
そのリスクを増加させる可能性があるようです。

これはまだ現時点では確定的な知見ではありませんが、
カルシウムのサプリメントの意義が低下し、
そのリスクの可能性が高くなってきていることは事実で、
特に心血管疾患のリスクが高いような人は、
カルシウムは食事から充分摂取して、
サプリメントは使用しない方が安全であるとは言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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植物性タンパク質の摂取と健康寿命との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
植物性蛋白摂取と健康.jpg
the American Journal of Clinical Nutrition誌に、
2024年1月17日付で掲載された、
タンパク質の摂取量と健康との関係についての論文です。

高齢になると、
筋肉が萎縮して細くなり、
筋力が低下して転倒などのリスクが高まります。
これをサルコペニアと呼んでいます。

タンパク質を多く摂ることで、
その予防に繋がり、
健康寿命が延びることを示唆するデータがあり、
良質のタンパク質を積極的に摂ることが、
高齢者において推奨されています。

ただ、たとえば牛肉のような赤身肉を多く摂ることは、
生活習慣病の増加に繋がることを示唆する報告もあります。
乳製品の摂取も議論のあるところです。

つまり、単純にタンパク質を多く摂れば良いのではなく、
その組成に配慮する必要がある訳です。

また、高齢者がタンパク質を多く摂っても、
それがそのまま筋肉になる訳ではありません。
高齢になればタンパク質を造る力や利用する力もまた、
低下することが想定されるからです。

その意味ではもう少し前の年代、
たとえば60歳未満くらいの時期にタンパク質を多く摂ること、
それも赤身肉のような動物性タンパク質に偏らない、
バランスの取れた摂取を行うことが、
その後の健康状態に、
最も有効に働くと想定されます。

しかし、実際にはそうした観点から、
タンパク質の摂取の与える影響を検証した疫学データは、
これまであまり存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカで女性看護師を対象とした、
有名な大規模疫学研究のデータを活用して、
60歳未満の時期におけるタンパク質の摂取量が、
その後の健康長寿に与える影響を、
タンパク質の組成を含めて比較検証しています。

1984年の登録時に60歳未満で、
糖尿病や癌、心筋梗塞などの慢性の病気の既往がない、
トータル48762名の女性を対象として、
その後2016年までの長期の健康観察を施行。
2016年の時点でも癌、糖尿病などの持病がなく、
生活を介助なく送れて、
認知症や精神疾患もない状態を健康な老化と定義しています。

タンパク質は魚や肉などの動物性タンパク質と、
豆類や野菜、穀類など由来の植物性タンパク質、
そして牛乳やチーズなどの乳製品に分けて検証しています。

その結果、
タンパク質の摂取量が多いほど、
健康な老化を獲得する可能性が高まっていました。
具体的にはカロリーの3%、
摂取する総タンパク量が増加すると、
健康な老化の確率は5%(95%CI:1.01から1.10)、
それが動物性タンパク質の場合は7%(95%CI:1.02から1.11)、
乳製品のタンパク質の場合は14%(95%CI:1.06から1.23)、
植物性タンパク質の場合は38%(95%CI:1.24から1.54)、
それぞれ有意に高くなっていました。

つまり、中年期にタンパク質、特に植物性タンパク質を多く摂ることが、
その後の健康長寿に大きな影響を与える、
という結果です。

寝たきりにも認知症にもなりたくないなら、
植物性タンパク質を多く摂る食生活を継続することが、
科学的には最も効率的な予防法、
という言い方が出来そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤の腎結石予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
親族に不幸がありまして、
急遽早朝から出掛けています。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤の尿路結石予防効果.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2024年1月29日付で掲載された、
糖尿病治療薬の腎結石予防効果についての論文です。

SGLT2阻害剤は最近最も注目されている、
2型糖尿病の治療薬です。

この薬は尿へのブドウ糖の排泄を増加させる作用の薬です。

それにより確かに血糖値は低下しますが、
尿糖が増加することは尿路や陰部の感染のリスクを高めますし、
尿量が増加して脱水のリスクも高めますから、
使用開始当初は、
あまり良い薬のようには思えませんでした。

この薬が注目されたのは、
心血管疾患による死亡や総死亡のリスクを、
有意に30%以上低下させるという画期的なデータが、
エンパグリフロジンというSGLT2阻害剤で、
報告されたからです。

その後この心血管疾患の生命予後改善効果の多くは、
心不全の予後改善による部分が大きいことが解析され、
SGLT2阻害剤は心不全の治療薬としても、
有効な可能性が開かれたのです。

最近ではそれ以外に、
慢性腎臓病に対する進行予防効果も、
複数の臨床データで実証されています。

さて、2型糖尿病では腎結石や尿路結石のリスクが、
増加することも知られています。

そして最近SGLT2阻害剤の使用が、
糖尿病の患者さんにおける腎結石のリスクを、
低下させるのではないかというデータが報告されて、
注目を集めています。

その代表的なものの1つはこちらですが、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35290464/
これまでの臨床試験のデータを解析した結果として、
エンパグリフロジンの使用により、
腎結石の発症は40%有意に低下していました。

今回の研究はアメリカにおいて、
保険加入時のデータを活用することで、
2型糖尿病で新規にSGLT2阻害剤を開始した患者さんの、
その後の腎結石罹患率を、
GLP-1アナログもしくはDPP4阻害剤という、
いずれも広く使用されている糖尿病治療薬を開始した患者さんと、
比較検証しているものです。

358203名のSGLT2阻害剤新規使用者を、
年齢などをマッチングさせた、
同数のGLP-1アナログ新規使用者と比較し、
更に331028名のSGLT2阻害剤新規使用者を、
こちらも同数のDPP4阻害剤の新規使用者と、
腎結石のリスクについて比較検証したところ、
観察期間の中間値は192日で、
SGLT2阻害剤使用者は、
GLP-1アナログ使用者と比較して31%(95%CI:0.67から0.72)、
DPP4阻害剤使用者と比較して26%(95%CI:0.71から0.77)、
腎結石のリスクがそれぞれ有意に低下していました。

このように、
今回の大規模な疫学データにおいても、
他のインクレチン関連の治療薬と比較して、
SGLT2阻害剤の使用は、
比較的短期で腎結石のリスクを明確に低下させていました。

そのメカニズムはまだ不明の点もありますが、
尿量の増加による影響に加えて、
尿のPHなどの性質の変化が影響している、
というデータも蓄積されつつあります。

いずれにしても、
これまであまり有効な予防法のなかった、
腎結石の予防に関して、
明確な有効性のある薬剤が確認された意義は大きく、
今後これが2型糖尿病の患者に限った現象なのかを含めて、
知見が蓄積され実証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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