インフルエンザワクチンの急性腎障害予防効果(2024年韓国の疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Pharmacoepidemiology and Drug Safety誌に、
2024年9月付で掲載された、
季節性インフルエンザワクチンの接種が、
その後の高齢者の腎臓病に与える影響についての論文です。
脱水や感染、心疾患などに起因して起こる、
急性の腎機能の低下は、
特に高齢者においてその頻度が高く、
予後にも大きな影響を与える病態です。
これからインフルエンザの流行期に入り、
ワクチン接種も開始されますが、
インフルエンザ感染も、
急性腎障害のリスクの1つです。
インフルエンザ感染の予防のためには、
インフルエンザワクチンの接種が推奨されていますが、
その一方でインフルエンザワクチン接種後に、
急性腎障害が発症したという報告も散見されます。
実際に65歳以上の高齢者にインフルエンザワクチンを接種することで、
急性腎障害のリスクは増加するのでしょうか、
それとも減少するのでしょうか?
今回の研究は65歳以上の高齢者に対して、
無料のインフルエンザワクチン接種が継続され、
毎年80%を超える接種率が報告されている韓国において、
この問題の検証を行ったものです。
2018年から2019年のシーズンにおいて16713件、
2019年から2020年のシーズンにおいて16272件の、
急性腎障害の事例を解析したところ、
インフルエンザワクチン接種後1から28日の間に、
急性腎障害が発症するリスクは、
それ以外の観察期間と比較して、
2018年から2019年において17%(95%CI:0.79から0.87)、
2019年から2020年において14%(95%CI:0.82から0.90)、
それぞれ有意に低下していました。
このように、今回の検証においては、
インフルエンザワクチン接種は、
その後の急性腎障害の発症に対して、
予防的に働いている可能性が高く、
今後そのメカニズムの検証を含めて、
更なるデータの蓄積に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Pharmacoepidemiology and Drug Safety誌に、
2024年9月付で掲載された、
季節性インフルエンザワクチンの接種が、
その後の高齢者の腎臓病に与える影響についての論文です。
脱水や感染、心疾患などに起因して起こる、
急性の腎機能の低下は、
特に高齢者においてその頻度が高く、
予後にも大きな影響を与える病態です。
これからインフルエンザの流行期に入り、
ワクチン接種も開始されますが、
インフルエンザ感染も、
急性腎障害のリスクの1つです。
インフルエンザ感染の予防のためには、
インフルエンザワクチンの接種が推奨されていますが、
その一方でインフルエンザワクチン接種後に、
急性腎障害が発症したという報告も散見されます。
実際に65歳以上の高齢者にインフルエンザワクチンを接種することで、
急性腎障害のリスクは増加するのでしょうか、
それとも減少するのでしょうか?
今回の研究は65歳以上の高齢者に対して、
無料のインフルエンザワクチン接種が継続され、
毎年80%を超える接種率が報告されている韓国において、
この問題の検証を行ったものです。
2018年から2019年のシーズンにおいて16713件、
2019年から2020年のシーズンにおいて16272件の、
急性腎障害の事例を解析したところ、
インフルエンザワクチン接種後1から28日の間に、
急性腎障害が発症するリスクは、
それ以外の観察期間と比較して、
2018年から2019年において17%(95%CI:0.79から0.87)、
2019年から2020年において14%(95%CI:0.82から0.90)、
それぞれ有意に低下していました。
このように、今回の検証においては、
インフルエンザワクチン接種は、
その後の急性腎障害の発症に対して、
予防的に働いている可能性が高く、
今後そのメカニズムの検証を含めて、
更なるデータの蓄積に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
上部消化管病変とパーキンソン病との関連 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年9月5日付で掲載された、
パーキンソン病と上部消化管病変との関連についての論文です。
パーキンソン病は、
筋肉の硬直や手の震え、歩行困難などを症状とする難病で、
その原因は脳の黒質という部分における、
ドーパミンという神経伝達物質の欠乏によることが分かっています。
このドーパミンの欠乏は、
αシヌクレインという異常タンパク質が、
神経細胞に蓄積することにより起こります。
このαシヌクレインの異常構造物がレビー小体と呼ばれるもので、
認知症の1つであるレビー小体型認知症は、
同一の原因による病気なのです。
このαシヌクレインは、
胃や腸の粘膜に分布する神経叢にも出現しています。
近年胃や腸の神経叢に出現するαシヌクレインが、
自律神経の迷走神経を介して脳に伝わり、
それが沈着することでパーキンソン病を起こすのではないか、
という仮説が提唱されて注目を集めています。
勿論以前から、
パーキンソン病では便秘や胃腸の運動の低下など、
胃腸症状が伴うことが知られていました。
それは脳の病気に付随する症状と考えられていたのですが、
実は脳神経症状が出現する前から、
胃腸粘膜に分布する神経細胞へのαシヌクレインの沈着は認められていて、
それこそがパーキンソン病の大元で、
脳の症状は胃腸から自律神経を介して広がったものではないか、
という逆転の発想です。
ただ、たとえばパーキンソン病ではピロリ菌の感染が多い、
というような知見はあるものの、
実際に胃粘膜などの病変が、
その後のパーキンソン病の発症と関連しているのか、
というような点については、
まだ臨床的なデータは限られています。
そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
検査の時点でパーキンソン病の既往のない、
9350例の胃内視鏡検査の受診者のデータを後から解析する手法で、
内視鏡検査で確認された胃炎などの粘膜障害と、
その後のパーキンソン病の発症との関連を比較検証しています。
その結果、
平均で14.9年の観察期間において、
上部消化管の粘膜障害が認められた人は、
そうでない人と比較して、
その後にパーキンソン病を発症するリスクが、
関連する他の因子を補正した上で、
1.76倍(95%CI:1.11から2.51)
有意に増加していました。
つまり、胃や十二指腸の粘膜病変が、
何らかの機序で粘膜に分布する神経細胞に、
異常タンパクの蓄積を招き、
それが迷走神経などの自律神経を介して、
パーキンソン病の原因となったのではないか、
という仮説を補強するデータです。
この結果はまだ推測的なものに過ぎませんが、
胃や腸の粘膜の状態とパーキンソン病が関連している、
という臨床データは非常に興味深く、
今後のより実証的な検証に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年9月5日付で掲載された、
パーキンソン病と上部消化管病変との関連についての論文です。
パーキンソン病は、
筋肉の硬直や手の震え、歩行困難などを症状とする難病で、
その原因は脳の黒質という部分における、
ドーパミンという神経伝達物質の欠乏によることが分かっています。
このドーパミンの欠乏は、
αシヌクレインという異常タンパク質が、
神経細胞に蓄積することにより起こります。
このαシヌクレインの異常構造物がレビー小体と呼ばれるもので、
認知症の1つであるレビー小体型認知症は、
同一の原因による病気なのです。
このαシヌクレインは、
胃や腸の粘膜に分布する神経叢にも出現しています。
近年胃や腸の神経叢に出現するαシヌクレインが、
自律神経の迷走神経を介して脳に伝わり、
それが沈着することでパーキンソン病を起こすのではないか、
という仮説が提唱されて注目を集めています。
勿論以前から、
パーキンソン病では便秘や胃腸の運動の低下など、
胃腸症状が伴うことが知られていました。
それは脳の病気に付随する症状と考えられていたのですが、
実は脳神経症状が出現する前から、
胃腸粘膜に分布する神経細胞へのαシヌクレインの沈着は認められていて、
それこそがパーキンソン病の大元で、
脳の症状は胃腸から自律神経を介して広がったものではないか、
という逆転の発想です。
ただ、たとえばパーキンソン病ではピロリ菌の感染が多い、
というような知見はあるものの、
実際に胃粘膜などの病変が、
その後のパーキンソン病の発症と関連しているのか、
というような点については、
まだ臨床的なデータは限られています。
そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
検査の時点でパーキンソン病の既往のない、
9350例の胃内視鏡検査の受診者のデータを後から解析する手法で、
内視鏡検査で確認された胃炎などの粘膜障害と、
その後のパーキンソン病の発症との関連を比較検証しています。
その結果、
平均で14.9年の観察期間において、
上部消化管の粘膜障害が認められた人は、
そうでない人と比較して、
その後にパーキンソン病を発症するリスクが、
関連する他の因子を補正した上で、
1.76倍(95%CI:1.11から2.51)
有意に増加していました。
つまり、胃や十二指腸の粘膜病変が、
何らかの機序で粘膜に分布する神経細胞に、
異常タンパクの蓄積を招き、
それが迷走神経などの自律神経を介して、
パーキンソン病の原因となったのではないか、
という仮説を補強するデータです。
この結果はまだ推測的なものに過ぎませんが、
胃や腸の粘膜の状態とパーキンソン病が関連している、
という臨床データは非常に興味深く、
今後のより実証的な検証に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
高齢者の疼痛への抗うつ剤の有効性(2024年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Journal of Clinical Pharmacology誌に、
2024年9月12日付で掲載された、
高齢者の痛みに対する抗うつ剤の有効性を検証した論文です。
腰痛や関節痛、頭痛などの身体の痛みは、
誰でも体験する非常にありふれたものですが、
日常生活に直結する深刻な症状でもあります。
特に慢性の原因不明の痛みに対しては、
痛み止めを使用する以外にあまり有効な手立てがありません。
こうした難治性の痛みに対して、
現行使用される薬の1つが抗うつ剤です。
抗うつ剤はうつ病の治療薬で、
疼痛治療薬ではありませんが、
慢性の原因不明の疼痛は、
脳内ホルモンなどが関連しているという仮説があり、
通常の消炎鎮痛剤よりも、
抗うつ剤がその緩和に有効であった、
という症例報告などがあります。
そうした知見を基にして、
抗うつ剤の処方が施行されているのですが、
大規模な臨床試験などのデータは乏しく、
その精度もそれほど高いものではない、
という問題点があります。
特に高齢者においては、
慢性疼痛の患者さんは多い一方で、
抗うつ剤の副作用や有害事象も多く発症することが予想され、
抗うつ剤の有効性を検証した臨床データの中に、
高齢者のものはより少ない、
という指摘があります。
そこで今回の研究では、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析という手法を用いて、
この問題の現時点での検証を行っています。
これまでの15の臨床研究に含まれる、
トータルで1369名の65歳以上の患者データをまとめて解析したところ、
最も多く検討されていた抗うつ剤は、
デュロキセチンとアミトリプチリンで、
対象となった痛みで多かったのは変形性膝関節症による膝の痛みでした。
臨床データの多くは対象者が100人未満という小規模なものでした
0から2週間という短期の投与では、
抗うつ薬の使用は痛みに対して有意な改善を示さず、
6週間から1年未満という中期間の使用において、
デュロキセチンのみが僅かながら有意な改善効果を示しました、
15件の研究中7件において、
対照群と比較して抗うつ剤使用群では、
有害事象などによって薬が継続困難な事例が多くなっていました。
このように、
65歳以上の高齢者においては、
抗うつ剤による慢性疼痛の改善効果は、
明確に実証されているとは言い難く、
今後より実証的な検証が必要と考えられました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Journal of Clinical Pharmacology誌に、
2024年9月12日付で掲載された、
高齢者の痛みに対する抗うつ剤の有効性を検証した論文です。
腰痛や関節痛、頭痛などの身体の痛みは、
誰でも体験する非常にありふれたものですが、
日常生活に直結する深刻な症状でもあります。
特に慢性の原因不明の痛みに対しては、
痛み止めを使用する以外にあまり有効な手立てがありません。
こうした難治性の痛みに対して、
現行使用される薬の1つが抗うつ剤です。
抗うつ剤はうつ病の治療薬で、
疼痛治療薬ではありませんが、
慢性の原因不明の疼痛は、
脳内ホルモンなどが関連しているという仮説があり、
通常の消炎鎮痛剤よりも、
抗うつ剤がその緩和に有効であった、
という症例報告などがあります。
そうした知見を基にして、
抗うつ剤の処方が施行されているのですが、
大規模な臨床試験などのデータは乏しく、
その精度もそれほど高いものではない、
という問題点があります。
特に高齢者においては、
慢性疼痛の患者さんは多い一方で、
抗うつ剤の副作用や有害事象も多く発症することが予想され、
抗うつ剤の有効性を検証した臨床データの中に、
高齢者のものはより少ない、
という指摘があります。
そこで今回の研究では、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析という手法を用いて、
この問題の現時点での検証を行っています。
これまでの15の臨床研究に含まれる、
トータルで1369名の65歳以上の患者データをまとめて解析したところ、
最も多く検討されていた抗うつ剤は、
デュロキセチンとアミトリプチリンで、
対象となった痛みで多かったのは変形性膝関節症による膝の痛みでした。
臨床データの多くは対象者が100人未満という小規模なものでした
0から2週間という短期の投与では、
抗うつ薬の使用は痛みに対して有意な改善を示さず、
6週間から1年未満という中期間の使用において、
デュロキセチンのみが僅かながら有意な改善効果を示しました、
15件の研究中7件において、
対照群と比較して抗うつ剤使用群では、
有害事象などによって薬が継続困難な事例が多くなっていました。
このように、
65歳以上の高齢者においては、
抗うつ剤による慢性疼痛の改善効果は、
明確に実証されているとは言い難く、
今後より実証的な検証が必要と考えられました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
肺線維症と肺癌との関連性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Thorax誌に2024年9月10日付で掲載された、
肺線維症と肺癌との関係性についての論文です。
特発性間質性肺炎(特発性肺線維症)は、
肺の間質と呼ばれる部分が肥厚し、
次第に線維に置き換わって、
肺炎などの急性増悪を繰り返しながら、
悪化してゆく原因不明の病気で、
ある種の体質を持つ人が、
加齢や感染症、喫煙などの誘発因子の影響で、
発症すると考えられていますが、
その原因の詳細はまだ不明です。
特発性肺線維症の患者さんで肺癌のリスクが高い、
という知見はこれまでにも報告があります。
ただ、実際に肺線維症と合併した肺癌には、
どのようなタイプのものが多く、
その予後にはどのような特徴があるのか、
というような具体的な事項については、
まだあまり明確なことが分かっていません。
そこで今回の研究ではイギリスにおいて、
肺癌スクリーニングのデータを活用。
25136名の肺癌患者と250583名のコントロール群を対象として、
肺線維症と肺癌との関連を検証しています。
その結果、
肺線維症のない場合の肺癌診断率は0.8%であったのに対して、
肺線維症の患者さんでの肺癌診断率は1.5%と高く、
肺線維症は肺癌と診断されるリスクを、
1.97倍(95%CI:1.77から2.21)有意に増加させていました。
肺線維症と併発した肺癌では、
そうでない場合と比較して扁平上皮癌が多く(22.9%対19.1%)、
肺腺癌は少なく(18.0%対21.3%)なっていました。
肺線維症に合併した肺癌は、
進行したステージ4で発見される頻度は低い一方で、
その生命予後は悪いという傾向が認められました。
このように、
肺線維症では肺癌が合併し易いのですが、
その組織型や予後は通常とは異なる場合もあり、
今後その原因を含めて、
更なる検証が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Thorax誌に2024年9月10日付で掲載された、
肺線維症と肺癌との関係性についての論文です。
特発性間質性肺炎(特発性肺線維症)は、
肺の間質と呼ばれる部分が肥厚し、
次第に線維に置き換わって、
肺炎などの急性増悪を繰り返しながら、
悪化してゆく原因不明の病気で、
ある種の体質を持つ人が、
加齢や感染症、喫煙などの誘発因子の影響で、
発症すると考えられていますが、
その原因の詳細はまだ不明です。
特発性肺線維症の患者さんで肺癌のリスクが高い、
という知見はこれまでにも報告があります。
ただ、実際に肺線維症と合併した肺癌には、
どのようなタイプのものが多く、
その予後にはどのような特徴があるのか、
というような具体的な事項については、
まだあまり明確なことが分かっていません。
そこで今回の研究ではイギリスにおいて、
肺癌スクリーニングのデータを活用。
25136名の肺癌患者と250583名のコントロール群を対象として、
肺線維症と肺癌との関連を検証しています。
その結果、
肺線維症のない場合の肺癌診断率は0.8%であったのに対して、
肺線維症の患者さんでの肺癌診断率は1.5%と高く、
肺線維症は肺癌と診断されるリスクを、
1.97倍(95%CI:1.77から2.21)有意に増加させていました。
肺線維症と併発した肺癌では、
そうでない場合と比較して扁平上皮癌が多く(22.9%対19.1%)、
肺腺癌は少なく(18.0%対21.3%)なっていました。
肺線維症に合併した肺癌は、
進行したステージ4で発見される頻度は低い一方で、
その生命予後は悪いという傾向が認められました。
このように、
肺線維症では肺癌が合併し易いのですが、
その組織型や予後は通常とは異なる場合もあり、
今後その原因を含めて、
更なる検証が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
心筋梗塞後のβブロッカーの中断とそのリスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年8月30日付で掲載された、
βブロッカーの心筋梗塞後の中止の影響についての論文です。
βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。
交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。
心臓を栄養する血管が閉塞する、
急性心筋梗塞の際には、
βブロッカーを使用することで、
その後の死亡リスクを20%以上低下させる、
というデータがあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7038157/
急性心筋梗塞後にβブロッカーを使用することが、
ガイドラインにおいても推奨されて来ました。
ただ、これは心臓のカテーテル治療などが進歩する前のデータで、
現在でも当て嵌まるとは限りません。
特に心不全や心機能の低下が顕著ではないケースでは、
βブロッカーの必要性は高くないのではないか、
という意見も見られるようになって来ています。
2024年の4月にNew England…誌に掲載された論文では、
スウェーデン、エストニア、ニュージーランドの複数施設において、
急性心筋梗塞でカテーテル治療を施行した患者さんのうち、
心機能の指標である駆出率が50%以上と、
明確な心不全のない5020名の患者を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーを使用し、
もう一方は未使用として、
中間値で3.5年の経過観察を施行しています。
偽薬などは用いない試験デザインとなっています。
その結果、
患者の死亡や心筋梗塞の再発などのリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2401479
つまり、心不全のない急性心筋梗塞の患者さんでは、
βブロッカーの使用はあまり有効性はない、
ということを示唆する結果です。
今回の研究はフランスの複数施設において、
急性心筋梗塞後に長期間βブロッカーを使用している患者さんで、
心機能の指標である駆出率が40%以上に保たれている、
トータル3698名の患者さんをくじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーの使用を中止し、
もう一方はそのまま継続して、
中間値で3年の経過観察を施行しています。
登録の時点でβブロッカー使用期間の中間値は2.9年です。
その結果、
死亡と心筋梗塞や脳卒中の発症、心血管疾患による入院を併せたリスクは、
中断群の23.8%、継続群の21.1%に発症していて、
この差はデータの解析基準上、
有意な差ではないと判断されました。
つまり、安定した状態にある心筋梗塞後の患者さんで、
βブロッカーを長期継続後に中止しても、
患者さんの予後に大きな影響はない、
という結果です。
今後こうしたデータを元にして、
心筋梗塞後で一定の心機能が保たれている患者さんにおける、
βブロッカーの使用は、
かなり限定されたものになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年8月30日付で掲載された、
βブロッカーの心筋梗塞後の中止の影響についての論文です。
βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。
交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。
心臓を栄養する血管が閉塞する、
急性心筋梗塞の際には、
βブロッカーを使用することで、
その後の死亡リスクを20%以上低下させる、
というデータがあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7038157/
急性心筋梗塞後にβブロッカーを使用することが、
ガイドラインにおいても推奨されて来ました。
ただ、これは心臓のカテーテル治療などが進歩する前のデータで、
現在でも当て嵌まるとは限りません。
特に心不全や心機能の低下が顕著ではないケースでは、
βブロッカーの必要性は高くないのではないか、
という意見も見られるようになって来ています。
2024年の4月にNew England…誌に掲載された論文では、
スウェーデン、エストニア、ニュージーランドの複数施設において、
急性心筋梗塞でカテーテル治療を施行した患者さんのうち、
心機能の指標である駆出率が50%以上と、
明確な心不全のない5020名の患者を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーを使用し、
もう一方は未使用として、
中間値で3.5年の経過観察を施行しています。
偽薬などは用いない試験デザインとなっています。
その結果、
患者の死亡や心筋梗塞の再発などのリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2401479
つまり、心不全のない急性心筋梗塞の患者さんでは、
βブロッカーの使用はあまり有効性はない、
ということを示唆する結果です。
今回の研究はフランスの複数施設において、
急性心筋梗塞後に長期間βブロッカーを使用している患者さんで、
心機能の指標である駆出率が40%以上に保たれている、
トータル3698名の患者さんをくじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーの使用を中止し、
もう一方はそのまま継続して、
中間値で3年の経過観察を施行しています。
登録の時点でβブロッカー使用期間の中間値は2.9年です。
その結果、
死亡と心筋梗塞や脳卒中の発症、心血管疾患による入院を併せたリスクは、
中断群の23.8%、継続群の21.1%に発症していて、
この差はデータの解析基準上、
有意な差ではないと判断されました。
つまり、安定した状態にある心筋梗塞後の患者さんで、
βブロッカーを長期継続後に中止しても、
患者さんの予後に大きな影響はない、
という結果です。
今後こうしたデータを元にして、
心筋梗塞後で一定の心機能が保たれている患者さんにおける、
βブロッカーの使用は、
かなり限定されたものになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
深夜の部屋の明るさと2型糖尿病リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the Lancet Regional Health-Europe誌に、
2024年6月5日付で掲載された、
深夜の部屋の明るさと糖尿病リスクとの関連についての論文です。
昼に起きて夜に寝るという日内リズムが崩れると、
身体の代謝状態が乱れて、
それが2型糖尿病のリスクになると想定されています。
夜中にずっと起きていることは勿論ですが、
たとえば夜に照明を点けたままで寝ていたり、
テレビなどを点けたままで寝ていると、
それだけでもホルモンなどの日内変動に、
影響を与えると考えられています。
たとえば寝ている間部屋の明かりを点けておくと、
翌日のインスリン抵抗性が悪化した、
という研究結果などが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35286195/
ただ、実際に夜中の時間帯の光の曝露量自体が、
どの程度その後の2型糖尿病のリスクに繋がるのか、
というような点については、
実証的なデータは不足しています。
そこで今回の研究では、
イギリスの大規模な医療データである、
UKバイオバンクの住民データを活用して、
84790名の一般住民に1週間ウェアラブルの端末を装着して、
その個人の光の曝露量を計測。
その後7.9±1.2年の経過観察期間における、
2型糖尿病の発症との関連を検証しています。
その結果、
午前0時30分から午前6時という、
深夜から早朝の時間帯に、
暗い部屋で寝ていた場合と比較して、
48ルクス(街灯くらい)を超えるくらいの光曝露があると、
その後の2型糖尿病のリスクが、
53%(95%CI:1.32から1.77)有意に増加していました。
つまり、深夜に少し明るい中で寝ているだけでも、
それが続けば糖尿病のリスクになるという結果です。
夜は暗い部屋で寝ることが、
糖尿病の予防においても、
重要な生活習慣の1つであるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the Lancet Regional Health-Europe誌に、
2024年6月5日付で掲載された、
深夜の部屋の明るさと糖尿病リスクとの関連についての論文です。
昼に起きて夜に寝るという日内リズムが崩れると、
身体の代謝状態が乱れて、
それが2型糖尿病のリスクになると想定されています。
夜中にずっと起きていることは勿論ですが、
たとえば夜に照明を点けたままで寝ていたり、
テレビなどを点けたままで寝ていると、
それだけでもホルモンなどの日内変動に、
影響を与えると考えられています。
たとえば寝ている間部屋の明かりを点けておくと、
翌日のインスリン抵抗性が悪化した、
という研究結果などが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35286195/
ただ、実際に夜中の時間帯の光の曝露量自体が、
どの程度その後の2型糖尿病のリスクに繋がるのか、
というような点については、
実証的なデータは不足しています。
そこで今回の研究では、
イギリスの大規模な医療データである、
UKバイオバンクの住民データを活用して、
84790名の一般住民に1週間ウェアラブルの端末を装着して、
その個人の光の曝露量を計測。
その後7.9±1.2年の経過観察期間における、
2型糖尿病の発症との関連を検証しています。
その結果、
午前0時30分から午前6時という、
深夜から早朝の時間帯に、
暗い部屋で寝ていた場合と比較して、
48ルクス(街灯くらい)を超えるくらいの光曝露があると、
その後の2型糖尿病のリスクが、
53%(95%CI:1.32から1.77)有意に増加していました。
つまり、深夜に少し明るい中で寝ているだけでも、
それが続けば糖尿病のリスクになるという結果です。
夜は暗い部屋で寝ることが、
糖尿病の予防においても、
重要な生活習慣の1つであるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
SGLT2阻害剤の認知症予防効果(2024年韓国の疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年8月28日付で掲載された、
経口糖尿病治療薬の認知症予防効果についての論文です。
2型糖尿病は認知症のリスクであることが知られていますが、
その治療に使われる薬剤によって、
そのリスクに差があるかどうかについては、
まだ明確なことが分かっていません。
最近の知見では、
尿に糖を排泄するSGLT2阻害剤というタイプの薬剤の使用が、
認知症のリスクの低減に働いているのでは、
という報告が幾つか見られます。
たとえば2023年に発表されたカナダの疫学データでは、
66歳以上の2型糖尿病の患者さんで、
SGLT2阻害剤を使用すると、
他のメカニズムの糖尿病治療薬である、
DPP4阻害剤を使用した場合と比較して、
その後の認知症のリスクが、
トータルで20%低下した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36508692/
それではより若い年齢で使用した場合にも、
同様の影響は認められるのでしょうか?
今回の研究は韓国において、
年齢が40から69歳でSGLT2阻害剤を開始した、
110885名の2型糖尿病の患者を、
年齢などをマッチさせた、
DPP4阻害剤を開始した同数の患者と比較して、
認知症の発症リスクを検証しています。
その結果、
平均で670日の観察期間において、
DPP4阻害剤を使用した患者と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者は、
トータルな認知症のリスクが、
35%(95%CI:0.58から0.73)有意に低下していました。
このリスクの低下は、
治療期間が2年を超えるとより強く認められましたが、
認知症のタイプによらず認められました。
それでは、何故SGLT2阻害剤には、
認知症の予防効果があるのでしょうか?
現時点では正確なメカニズムは不明ですが、
幾つかの研究により、
このタイプの薬剤に、
脳神経細胞を保護するような効果のあることが、
報告されています。
今後より精度の高い方法で、
今回の結果は検証される必要がありますが、
最近臓器保護において多くのデータが報告されている、
SGLT2阻害剤において、
認知症予防においても肯定的なデータが蓄積されていて、
今後このタイプの薬の評価は、
より高まることになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年8月28日付で掲載された、
経口糖尿病治療薬の認知症予防効果についての論文です。
2型糖尿病は認知症のリスクであることが知られていますが、
その治療に使われる薬剤によって、
そのリスクに差があるかどうかについては、
まだ明確なことが分かっていません。
最近の知見では、
尿に糖を排泄するSGLT2阻害剤というタイプの薬剤の使用が、
認知症のリスクの低減に働いているのでは、
という報告が幾つか見られます。
たとえば2023年に発表されたカナダの疫学データでは、
66歳以上の2型糖尿病の患者さんで、
SGLT2阻害剤を使用すると、
他のメカニズムの糖尿病治療薬である、
DPP4阻害剤を使用した場合と比較して、
その後の認知症のリスクが、
トータルで20%低下した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36508692/
それではより若い年齢で使用した場合にも、
同様の影響は認められるのでしょうか?
今回の研究は韓国において、
年齢が40から69歳でSGLT2阻害剤を開始した、
110885名の2型糖尿病の患者を、
年齢などをマッチさせた、
DPP4阻害剤を開始した同数の患者と比較して、
認知症の発症リスクを検証しています。
その結果、
平均で670日の観察期間において、
DPP4阻害剤を使用した患者と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者は、
トータルな認知症のリスクが、
35%(95%CI:0.58から0.73)有意に低下していました。
このリスクの低下は、
治療期間が2年を超えるとより強く認められましたが、
認知症のタイプによらず認められました。
それでは、何故SGLT2阻害剤には、
認知症の予防効果があるのでしょうか?
現時点では正確なメカニズムは不明ですが、
幾つかの研究により、
このタイプの薬剤に、
脳神経細胞を保護するような効果のあることが、
報告されています。
今後より精度の高い方法で、
今回の結果は検証される必要がありますが、
最近臓器保護において多くのデータが報告されている、
SGLT2阻害剤において、
認知症予防においても肯定的なデータが蓄積されていて、
今後このタイプの薬の評価は、
より高まることになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
高齢者の慢性腎臓病における蛋白制限の影響(2024年スウェーデンの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日なので休診ですが、
終日事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年8月7日付で掲載された、
高齢者の慢性腎臓病(CKD)における、
蛋白制限の必要性についての論文です
CKDという言葉が、
一般向けの書籍や報道などでも、
使用される機会が最近増えています。
CKDはChronic Kidney Diseaseの略で、
要するに慢性腎臓病という意味合いです。
腎臓という臓器はソラマメのような形をして、
背中に近い位置に2つあり、
その主な働きは、
身体に不要な物質や老廃物を、
おしっことして体外に排泄すると共に、
身体の水分や電解質などの量を、
適切に調節することにあります。
この腎臓の働きは、
他の臓器と同じように、
年齢や、高血圧・糖尿病など他の病気の影響で、
次第に低下してゆきます。
この働きが高度に低下した状態が腎不全で、
こうなると身体は老廃物を排泄することが出来ないので、
そのままでは死に至ります。
そして、高度に進行した腎不全において、
死を回避する方法は、
腎移植を除けば、
透析により人工的に老廃物を除去するしかありません。
しかし、
透析の治療は患者さんにも大きな負担になりますし、
社会生活も大きく制限を受けると共に、
高額な医療費が掛かるために、
医療経済的にも大きな問題となっています。
特に日本においては、
超高齢化社会が目の前に迫っていて、
透析が必要となるような、
高度の腎不全の患者さんも急増が予想され、
社会保障制度の存続のためにも、
大きな問題の1つになることは避けられません。
CKDという概念自体はアメリカで始まったものですが、
より早期の段階で腎臓病の管理を行なうことにより、
透析が必要となるような患者さんの数を減らし、
医療費の削減を期待しようという考え方は、
現在の日本ではよりその意義が大きく、
事態はより切迫しているように思います。
こうした背景があるので、
報道などでもCKDの話題が、
しばしば取り上げられるようになりましたし、
僕のような末端の医者に対しても、
CKDを見落とさずに適切な管理を行ない、
一定以上進行した場合には、
速やかに専門医へ患者さんを取り次ぐように、
という指導が行われているのです。
CKDの概念は比較的シンプルです。
腎機能の低下は、
GFR(糸球体濾過量)という数値で表現され、
その数値が平均の体表面積当たり、
60ml/min という数値を切った状態が、
3ヶ月以上持続する場合に、
CKDがあると判断されます。
もう1つの要素はおしっこの所見で、
おしっこにアルブミンという蛋白が検出される状態が、
これも3ヶ月以上持続すれば、
GFRが60を超えていても、
CKDがあると診断されるのです。
CKDはその進行度によって、
1~5までのステージに分かれ、
概ねGFRの数値によって区分けされます。
1は90以上で、
2は60~89まで、
3は30~59で、
4は15~29、
そして5は腎不全でGFRは15未満となっています。
GFRは推算GFRとして、
血液のクレアチニンという数値から、
年齢と男女差のみから算定されます。
たとえば、
55歳の男性で血液のクレアチニンが1.5mg/dl の場合、
概算でeGFRは36.0ml/minとなり、
これは進行度ではCKDのステージ3になる、
という訳です。
こうした指標を導入する意味は、
ステージ3以下の進行度が比較的軽い状態で、
CKDを診断し、
その後の進行を遅らせて、
透析になるような事態を回避する方策を取る、
というところにあります。
それでは、
どのようにして腎機能の低下を遅らせることが出来るのでしょうか?
栄養指導で指摘されることが多いのが蛋白制限です。
蛋白質は勿論身体にとって必須な栄養素ですが、
腎機能が低下した状態で食事の蛋白質が多いと、
それが腎機能の低下に、
拍車をかける可能性が指摘されているからです。
そのため現行の海外のガイドラインでは、
ステージ1から2のCKDでは、
体重1キロ当たり1.3グラムを超える高蛋白食を避け、
ステージ3以上のCKDでは、
体重1キロ当たり0.6から0.8グラムに蛋白質を制限する、
というように記載をされています。
日本のガイドラインでも、
細部は異なる点はありますが、
ほぼ同一の方針が示されています。
しかし…
これが高齢者の慢性腎臓病においても、
同じように当て嵌まるものかどうか、
という点については、
議論があるところです。
高齢者は筋肉量が減少することによって、
体力の低下や転倒リスクの増加などが指摘されていて、
そのため体重当たり1から1.2グラムくらいの蛋白質の摂取を、
維持することが重要であると考えられているからです。
高齢者のCKDにおいて、
蛋白制限は必要なのでしょうか、
それとも必要ないのでしょうか?
今回の研究では、スウェーデンにおいて、
高齢者の健康についての3つの疫学研究のデータを、
まとめて解析する手法で、
生命予後に与える蛋白制限の影響を検証しています。
対象は登録時点で60歳以上の一般住民14399名で、
そのうちの4739名はCKDと診断されています。
最長10年の観察期間において、
1468名が死亡されています。
CKDでステージ4以上の患者さんは除外されているので、
対象となっているのは、
ステージ1から3の、
軽症から中等症の患者さんです。
ここで体重1キロ当たり0.8グラムという蛋白制限と比較して、
1.0グラムの通常蛋白群では、
総死亡リスクは12%(95%CI:0.79から0.98)、
1.2グラムの軽度高蛋白群では、
総死亡リスクは21%(95%CI;0.66から0.95)、
1.4グラムという高蛋白群では、
総死亡リスクは27%(95%CI:0.57から0.92)、
それぞれ有意に低下していました。
つまり、蛋白摂取量が多いほど、
総死亡のリスクは低下していたという結果です。
蛋白制限の生命予後改善効果は、
CKDのない人でより強く認められていて、
蛋白の組成では、
動物由来蛋白より、
豆類などの植物由来蛋白質の摂取で、
より強く認められる傾向がありました。
つまり、高齢者においては、
高蛋白食が生命予後の改善に繋がる可能性が高く、
確かに腎機能低下においては、
その効果は減弱はするものの、
CKDステージ1から3の状態であれば、
体重1.2グラム程度の高蛋白食は健康上のリスクにはならない、
蛋白の組成は植物性蛋白主体であればより望ましい、
という結果です。
今回のデータは生命予後のみを対象としたもので、
腎機能低下の抑止という観点からは、
また別の結果が出る可能性がありますが、
いずれにしても高齢者の腎機能低下時の蛋白制限については、
今後ガイドラインを含めて変更される可能性がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日なので休診ですが、
終日事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年8月7日付で掲載された、
高齢者の慢性腎臓病(CKD)における、
蛋白制限の必要性についての論文です
CKDという言葉が、
一般向けの書籍や報道などでも、
使用される機会が最近増えています。
CKDはChronic Kidney Diseaseの略で、
要するに慢性腎臓病という意味合いです。
腎臓という臓器はソラマメのような形をして、
背中に近い位置に2つあり、
その主な働きは、
身体に不要な物質や老廃物を、
おしっことして体外に排泄すると共に、
身体の水分や電解質などの量を、
適切に調節することにあります。
この腎臓の働きは、
他の臓器と同じように、
年齢や、高血圧・糖尿病など他の病気の影響で、
次第に低下してゆきます。
この働きが高度に低下した状態が腎不全で、
こうなると身体は老廃物を排泄することが出来ないので、
そのままでは死に至ります。
そして、高度に進行した腎不全において、
死を回避する方法は、
腎移植を除けば、
透析により人工的に老廃物を除去するしかありません。
しかし、
透析の治療は患者さんにも大きな負担になりますし、
社会生活も大きく制限を受けると共に、
高額な医療費が掛かるために、
医療経済的にも大きな問題となっています。
特に日本においては、
超高齢化社会が目の前に迫っていて、
透析が必要となるような、
高度の腎不全の患者さんも急増が予想され、
社会保障制度の存続のためにも、
大きな問題の1つになることは避けられません。
CKDという概念自体はアメリカで始まったものですが、
より早期の段階で腎臓病の管理を行なうことにより、
透析が必要となるような患者さんの数を減らし、
医療費の削減を期待しようという考え方は、
現在の日本ではよりその意義が大きく、
事態はより切迫しているように思います。
こうした背景があるので、
報道などでもCKDの話題が、
しばしば取り上げられるようになりましたし、
僕のような末端の医者に対しても、
CKDを見落とさずに適切な管理を行ない、
一定以上進行した場合には、
速やかに専門医へ患者さんを取り次ぐように、
という指導が行われているのです。
CKDの概念は比較的シンプルです。
腎機能の低下は、
GFR(糸球体濾過量)という数値で表現され、
その数値が平均の体表面積当たり、
60ml/min という数値を切った状態が、
3ヶ月以上持続する場合に、
CKDがあると判断されます。
もう1つの要素はおしっこの所見で、
おしっこにアルブミンという蛋白が検出される状態が、
これも3ヶ月以上持続すれば、
GFRが60を超えていても、
CKDがあると診断されるのです。
CKDはその進行度によって、
1~5までのステージに分かれ、
概ねGFRの数値によって区分けされます。
1は90以上で、
2は60~89まで、
3は30~59で、
4は15~29、
そして5は腎不全でGFRは15未満となっています。
GFRは推算GFRとして、
血液のクレアチニンという数値から、
年齢と男女差のみから算定されます。
たとえば、
55歳の男性で血液のクレアチニンが1.5mg/dl の場合、
概算でeGFRは36.0ml/minとなり、
これは進行度ではCKDのステージ3になる、
という訳です。
こうした指標を導入する意味は、
ステージ3以下の進行度が比較的軽い状態で、
CKDを診断し、
その後の進行を遅らせて、
透析になるような事態を回避する方策を取る、
というところにあります。
それでは、
どのようにして腎機能の低下を遅らせることが出来るのでしょうか?
栄養指導で指摘されることが多いのが蛋白制限です。
蛋白質は勿論身体にとって必須な栄養素ですが、
腎機能が低下した状態で食事の蛋白質が多いと、
それが腎機能の低下に、
拍車をかける可能性が指摘されているからです。
そのため現行の海外のガイドラインでは、
ステージ1から2のCKDでは、
体重1キロ当たり1.3グラムを超える高蛋白食を避け、
ステージ3以上のCKDでは、
体重1キロ当たり0.6から0.8グラムに蛋白質を制限する、
というように記載をされています。
日本のガイドラインでも、
細部は異なる点はありますが、
ほぼ同一の方針が示されています。
しかし…
これが高齢者の慢性腎臓病においても、
同じように当て嵌まるものかどうか、
という点については、
議論があるところです。
高齢者は筋肉量が減少することによって、
体力の低下や転倒リスクの増加などが指摘されていて、
そのため体重当たり1から1.2グラムくらいの蛋白質の摂取を、
維持することが重要であると考えられているからです。
高齢者のCKDにおいて、
蛋白制限は必要なのでしょうか、
それとも必要ないのでしょうか?
今回の研究では、スウェーデンにおいて、
高齢者の健康についての3つの疫学研究のデータを、
まとめて解析する手法で、
生命予後に与える蛋白制限の影響を検証しています。
対象は登録時点で60歳以上の一般住民14399名で、
そのうちの4739名はCKDと診断されています。
最長10年の観察期間において、
1468名が死亡されています。
CKDでステージ4以上の患者さんは除外されているので、
対象となっているのは、
ステージ1から3の、
軽症から中等症の患者さんです。
ここで体重1キロ当たり0.8グラムという蛋白制限と比較して、
1.0グラムの通常蛋白群では、
総死亡リスクは12%(95%CI:0.79から0.98)、
1.2グラムの軽度高蛋白群では、
総死亡リスクは21%(95%CI;0.66から0.95)、
1.4グラムという高蛋白群では、
総死亡リスクは27%(95%CI:0.57から0.92)、
それぞれ有意に低下していました。
つまり、蛋白摂取量が多いほど、
総死亡のリスクは低下していたという結果です。
蛋白制限の生命予後改善効果は、
CKDのない人でより強く認められていて、
蛋白の組成では、
動物由来蛋白より、
豆類などの植物由来蛋白質の摂取で、
より強く認められる傾向がありました。
つまり、高齢者においては、
高蛋白食が生命予後の改善に繋がる可能性が高く、
確かに腎機能低下においては、
その効果は減弱はするものの、
CKDステージ1から3の状態であれば、
体重1.2グラム程度の高蛋白食は健康上のリスクにはならない、
蛋白の組成は植物性蛋白主体であればより望ましい、
という結果です。
今回のデータは生命予後のみを対象としたもので、
腎機能低下の抑止という観点からは、
また別の結果が出る可能性がありますが、
いずれにしても高齢者の腎機能低下時の蛋白制限については、
今後ガイドラインを含めて変更される可能性がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
肉の摂取量と2型糖尿病リスク(2024年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the Lancet Diabetes & Endocrinology 誌に、
2024年9月付で掲載された、
肉の摂取量と2型糖尿病リスクについての論文です。
肉の摂取量、特に牛や豚などの赤身肉や、
ソーセージなどの加工肉の摂取量が多いと、
2型糖尿病の発症リスクが高くなるというのは、
これまでにも度々報告されている知見です。
ただ、その多くは欧米での疫学データによるもので、
アジア人種などで同様の傾向があるかどうかについては、
明確ではない点があります。
また、データの解析法は様々で、
特に赤身肉についてのデータは多いのですが、
鶏肉などの家禽においても、
同様の影響があるかどうかについては、
そのデータは限られていて、
明確な結論には到っていません。
そこで今回の研究では、
アメリカ、ヨーロッパ、アジア、太平洋地域など、
世界中で施行された31の疫学データをまとめて解析するメタ解析の手法で、
この問題のトータルな検証を行っています。
対象は登録の時点で2型糖尿病のない、
18歳以上のトータル1966444名の一般住民で、
中間値で10年の観察期間中に、
そのうちの107271名が2型糖尿病を発症していました。
そこで糖尿病の発症リスクと、
食事調査による肉の摂取量との関連を、
赤身肉(牛、豚、羊など)、加工肉(ハム、ソーセージなど)、
家禽肉(鶏など)に分けて検証したところ、
赤身肉の摂取が1日100グラム増える毎に、
10%(95%CI:1.06から1.15)、
加工肉の摂取が1日50グラム増える毎に、
15%(95%CI:1.11から1.20)
家禽の肉の摂取が1日100グラム増える毎に、
8%(95%CI:1.02から1.14)、
2型糖尿病の発症リスクがそれぞれ有意に増加していました。
この肉の摂取による糖尿病のリスクの増加は、
主に北米、ヨーロッパ、西太平洋地域で主に認められていました。
ここで赤身肉や加工肉の摂取を、
家禽肉の摂取に置き換えると、
糖尿病のリスクは低下することが推計されました。
このように、
肉の摂取量が多いことは、
全体で2型糖尿病のリスク増加に結び付いており、
特に赤身肉と加工肉の摂取量が、
より強く影響することが今回改めて示されました。
特に加工肉の摂り過ぎは、
糖尿病のみならず、
心血管疾患のリスク増加に結び付くことが報告されていますから、
ソーセージやハムなどの摂取は、
健康のためには控えるに越したことはないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the Lancet Diabetes & Endocrinology 誌に、
2024年9月付で掲載された、
肉の摂取量と2型糖尿病リスクについての論文です。
肉の摂取量、特に牛や豚などの赤身肉や、
ソーセージなどの加工肉の摂取量が多いと、
2型糖尿病の発症リスクが高くなるというのは、
これまでにも度々報告されている知見です。
ただ、その多くは欧米での疫学データによるもので、
アジア人種などで同様の傾向があるかどうかについては、
明確ではない点があります。
また、データの解析法は様々で、
特に赤身肉についてのデータは多いのですが、
鶏肉などの家禽においても、
同様の影響があるかどうかについては、
そのデータは限られていて、
明確な結論には到っていません。
そこで今回の研究では、
アメリカ、ヨーロッパ、アジア、太平洋地域など、
世界中で施行された31の疫学データをまとめて解析するメタ解析の手法で、
この問題のトータルな検証を行っています。
対象は登録の時点で2型糖尿病のない、
18歳以上のトータル1966444名の一般住民で、
中間値で10年の観察期間中に、
そのうちの107271名が2型糖尿病を発症していました。
そこで糖尿病の発症リスクと、
食事調査による肉の摂取量との関連を、
赤身肉(牛、豚、羊など)、加工肉(ハム、ソーセージなど)、
家禽肉(鶏など)に分けて検証したところ、
赤身肉の摂取が1日100グラム増える毎に、
10%(95%CI:1.06から1.15)、
加工肉の摂取が1日50グラム増える毎に、
15%(95%CI:1.11から1.20)
家禽の肉の摂取が1日100グラム増える毎に、
8%(95%CI:1.02から1.14)、
2型糖尿病の発症リスクがそれぞれ有意に増加していました。
この肉の摂取による糖尿病のリスクの増加は、
主に北米、ヨーロッパ、西太平洋地域で主に認められていました。
ここで赤身肉や加工肉の摂取を、
家禽肉の摂取に置き換えると、
糖尿病のリスクは低下することが推計されました。
このように、
肉の摂取量が多いことは、
全体で2型糖尿病のリスク増加に結び付いており、
特に赤身肉と加工肉の摂取量が、
より強く影響することが今回改めて示されました。
特に加工肉の摂り過ぎは、
糖尿病のみならず、
心血管疾患のリスク増加に結び付くことが報告されていますから、
ソーセージやハムなどの摂取は、
健康のためには控えるに越したことはないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
高身長とがんリスク(2024年中国の疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Cancer Epidemiology誌に、
2024年8月13日付でウェブ掲載された、
身長とがんリスクとの関連についての論文です。
身長が高いほどがんのリスクが増加するというのは、
かなり昔から報告されている知見です。
以前ご紹介した2013年のCancer Epidemiol Biomarkers Prev誌の論文では、
アメリカの閉経後女性を調査したデータにより、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクは13%増加した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23887996/
他にも多くの研究があり、メタ解析もありますが、
面白いことに概ね、身長が10センチ高くなる毎に、
10%程度のリスク増加が見られている、
という点では一致しています。
今回の論文は中国の研究者によるもので、
これまでの同様のデータは、
主に欧米人を対象として解析されたものなので、
今回はアジア人種で同様の検証を行った、
と記載されています。
ただ、最初に引用されている、
身長とがんリスクついての論文は、
その多くが韓国人の疫学データなので、
記載とはやや矛盾しているような気もします。
閑話休題…
今回の研究では中国のバイオバンクのデータを活用して、
年齢が30から79歳のトータル510145名の一般住民を、
中間値で10.1年観察した結果、
そのうちの22731名が何等かのがんを発症していました。
そこで他の関連する因子を補正した上で、
身長とがんリスクとの関連をみると、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクが16%(95%CI:1.14から1.19)、
肺癌のリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
食道癌のリスクが21%(95%CI:1.12から1.30)、
乳癌のリスクが41%(95%CI:1.31から1.53)、
子宮頸癌のリスクが29%(95%CI:1.15から1.45)、
それぞれ有意に増加していました。
これとは別個に、
メンデル遺伝子解析という手法で、
中国人、韓国人、日本人のこれまでのデータを、
まとめて解析した結果でも、
ほぼ同等の結果が得られました。
このように、
人種に関わらずがん発症のリスクが、
身長が高いほど増加する、
というのは間違いのない事実であるようです。
それでは、何故身長が高いとがんになり易いのでしょうか?
上記文献には2つの仮説が提唱されている、と書かれています。
そのうちの1つは、身長の高い人は細胞数が多いので、
細胞分裂の回数も多く、
それだけ分裂時の変異も起こり易いのではないか、
というものですが、
これはあまり説得力のあるものではない気がします。
もう1つの仮説は、
高身長の要因となる、
成長ホルモンや成長因子のIGF1が、
細胞の増殖を刺激して、
それががんのリスク増加に繋がっているのではないか、
というものです。
こちらの見解の方がもっともらしいのですが、
まだ実証されている訳ではない、という点には注意が必要です。
いずれにしても、
がんのリスクが身長に影響されるのは間違いがないとしても、
その影響は軽微なものなので、
高身長の方は特にそれを不安に感じる必要はないと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Cancer Epidemiology誌に、
2024年8月13日付でウェブ掲載された、
身長とがんリスクとの関連についての論文です。
身長が高いほどがんのリスクが増加するというのは、
かなり昔から報告されている知見です。
以前ご紹介した2013年のCancer Epidemiol Biomarkers Prev誌の論文では、
アメリカの閉経後女性を調査したデータにより、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクは13%増加した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23887996/
他にも多くの研究があり、メタ解析もありますが、
面白いことに概ね、身長が10センチ高くなる毎に、
10%程度のリスク増加が見られている、
という点では一致しています。
今回の論文は中国の研究者によるもので、
これまでの同様のデータは、
主に欧米人を対象として解析されたものなので、
今回はアジア人種で同様の検証を行った、
と記載されています。
ただ、最初に引用されている、
身長とがんリスクついての論文は、
その多くが韓国人の疫学データなので、
記載とはやや矛盾しているような気もします。
閑話休題…
今回の研究では中国のバイオバンクのデータを活用して、
年齢が30から79歳のトータル510145名の一般住民を、
中間値で10.1年観察した結果、
そのうちの22731名が何等かのがんを発症していました。
そこで他の関連する因子を補正した上で、
身長とがんリスクとの関連をみると、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクが16%(95%CI:1.14から1.19)、
肺癌のリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
食道癌のリスクが21%(95%CI:1.12から1.30)、
乳癌のリスクが41%(95%CI:1.31から1.53)、
子宮頸癌のリスクが29%(95%CI:1.15から1.45)、
それぞれ有意に増加していました。
これとは別個に、
メンデル遺伝子解析という手法で、
中国人、韓国人、日本人のこれまでのデータを、
まとめて解析した結果でも、
ほぼ同等の結果が得られました。
このように、
人種に関わらずがん発症のリスクが、
身長が高いほど増加する、
というのは間違いのない事実であるようです。
それでは、何故身長が高いとがんになり易いのでしょうか?
上記文献には2つの仮説が提唱されている、と書かれています。
そのうちの1つは、身長の高い人は細胞数が多いので、
細胞分裂の回数も多く、
それだけ分裂時の変異も起こり易いのではないか、
というものですが、
これはあまり説得力のあるものではない気がします。
もう1つの仮説は、
高身長の要因となる、
成長ホルモンや成長因子のIGF1が、
細胞の増殖を刺激して、
それががんのリスク増加に繋がっているのではないか、
というものです。
こちらの見解の方がもっともらしいのですが、
まだ実証されている訳ではない、という点には注意が必要です。
いずれにしても、
がんのリスクが身長に影響されるのは間違いがないとしても、
その影響は軽微なものなので、
高身長の方は特にそれを不安に感じる必要はないと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。