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「殿様枕症候群」 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
殿様枕症候群.jpg
European Stroke Journal誌に、
2024年1月29日付で掲載された、
枕の高さが脳卒中のリスクに与える影響についての論文です。

これは国立循環器病研究センターの研究者による研究です。

脳卒中の多くは50歳以上で発症しますが、
中にはより若年での発症があり、
概ね18歳から50歳までの間に起こる脳卒中を、
若年性脳卒中と呼んでいます。
ただ、これは必ずしも国際的な定義のようなものではなく、
文献によっては45歳までになっていたり、
40歳までになっていることもあります。

日本においてこの若年性脳卒中の原因として、
多いことが指摘されているのが、
脳動脈解離です。

脳動脈解離というのは、
脳に繋がる動脈や脳の中を走る動脈の、
内膜という内側の部分が部分的に剥がれることで、
そこに血の塊が出来て血管が詰まったり、
出血したりすることによって、
脳梗塞や脳出血が起こります。

この現象は勿論高齢者にも起こりますが、
比率から言うと若年性の脳卒中に多いのです。

何故脳の血管の膜が裂けるのでしょうか?

生まれつきの血管の脆弱性や外傷など、
幾つかの原因が指摘されていますが、
それだけでは説明の付かない事例が多いのが実際です。

今回の論文の執筆者らは、
椎骨動脈解離の患者さんで、
通常より高さの高い枕を常用し、
朝起きた時から症状が発現する事例の多いことに着目し、
高い枕により首が後方に進展することが、
解離のリスクになるという仮定のもとに、
単一の専門施設で、
椎骨動脈解離と診断された患者53名を、
同時期に脳卒中の疑いで病院を受診した、
年齢などをマッチングさせた椎骨動脈解離以外の患者53名と、
枕の高さと病気との関連を比較検証しています。
対象者の年齢の平均は49歳で、
若年性脳卒中の事例が多く含まれています。

その結果、
12センチ以上の高さの枕を使用することは、
使用しない場合と比較して、
椎骨動脈解離のリスクを2.89倍(95%CI:1.13から7.43)、
15センチ以上の高さの枕を使用することは、
10.6倍(95%CI:1.30から87.3)、
それぞれ有意に増加させていました。
この関連は柔らかい枕より硬い枕でより強く認められました。

論文ではこれを「殿様枕症候群(Shogun pillow syndrome)」と呼び、
硬い高さの高い枕の使用に警鐘を鳴らしています。

如何でしょうか?

これはBritish Medical Journal誌の、
クリスマス特集のような論文だと思います。

殿様枕症候群というのはユニークですが、
真面目に言っているのかどうか、
正直疑問にも感じます。

高さ15センチの硬い枕というのは、
実際に測定すると相当のもので、
果たしてそんな枕を誰が使用しているのだろう、
と素朴に疑問に思います。
すぐに思いつくのは、
病院のベッドの枕ですが、
それでも高さ15センチにはなりません。

またこうした比較をするには、
症例数は如何にも少なく、
予め想定された結果を検証するには、
もっと多い事例を集め、
より客観的な検証をする必要があると思います。
信頼区間の大きさも、
それを裏打ちしているように思います。

これでとても高い枕が椎骨動脈解離の原因とは、
言えないと思いますが、
こうしたちょっとした生活習慣が、
原因不明の脳卒中のリスクになっている、
という指摘は興味深いことは確かで、
今後のより厳密な検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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