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GLP-1アナログ各種の個別比較(2024年ネットワークメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GLP-1アナログの個別比較データ.jpg
British Medical Journal誌に、
2024年1月29日付で掲載された、
糖尿病の治療薬を直接比較した論文です。

GLP-1アナログは、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。

もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。

最近ではまた、
GLP-1アナログを他のインクレチンなどのホルモンと配合して、
よりその効果を高めたような薬剤も、
次々と開発されています。
その中には既に日本でも発売されているものもありますし、
まだ未発売のものもあります。

そのうちGLP-1を別のインクレチンであるGIPと配合した薬剤が、
チルゼパチド(マンジャロ)で、
GLP-1アナログの代表的な薬剤であるセマグルチド(オゼンピック)を、
膵臓から分泌されるホルモンであるアミリンの作動薬と、
配合した薬がカグリセマです。

GLP-1アナログが2型糖尿病の治療薬として、
有用な薬であることは間違いがありませんが、
複数あるGLP-1アナログおよびその関連薬の中で、
どの薬剤が最も有効性が高いのか、
というような点を直接比較したデータは、
殆ど存在していません。

今回の研究はネットワークメタ解析という手法により、
個別のGLP-1アナログ及びその配合剤の臨床データを、
比較検証しているものです。

これまでの76の介入試験のデータに含まれる、
15種類のGLP-1アナログとその配合剤を使用した、
トータル39246名の臨床データをまとめて解析し比較したところ、
全てのGLP-1アナログが空腹時血糖と、
糖尿病コントロールの指標であるHbA1cの低下作用を示しました。

15種類の中で、
最もHbA1cと空腹時血糖の低下作用が強力であったのは、
GIP/GLP1アナログのチルゼパチドで、
HbA1cは平均で2.1%(95%CI-2.47から-1.74)の低下を示していました。

GLP-1アナログはまた、
いずれも体重の減少効果が認められ、
最も体重減少作用が強かったのは、
GLP-1とアミリンアナログの合剤でカグリセマで、
平均で14.03キロ(95%CI -17.05から11.00)の体重減少が認められています。
それに次ぐ体重減少効果が認められたのはチルゼパチドで、
平均8.47キロ(95%CI-9.68から-7.26)の体重減少が認められています。

コレステロールの低下効果については、
セマグルチドが有効性が最も高く、
使用の有害事象としては、腹痛や吐き気などの消化器症状が多く、
特に高用量での頻度が高くなっていました。

このように、
GLP-1アナログは血糖コントロール改善と、
体重減少についての有効性が確認されていて、
特に合剤においてその効果が高いことが確認されました。
一方で吐き気などの消化器症状で、
継続が困難となった事例も多く、
今後効果と有害事象とのバランスなどの観点から、
その個別の使用の選択肢が、
整理されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤で飲酒検査が偽陽性になる? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤による尿中アルコール検査の偽陽性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月8日付で掲載されたレターですが、
糖尿病の経口治療薬で、
尿の飲酒検査の偽陽性が検出された、
という興味深い報告です。

アメリカで60代の男性が、
10か月以上お酒を1滴も飲んでいないのに、
行政の検査で尿にアルコールのエタノールの反応が陽性となり、
主治医に連絡があった、という事例がありました。

その男性は糖尿病の治療で、
SGLT2阻害薬を使用していました。

この薬は尿へのブドウ糖の排泄を促進することにより、
糖尿病の病状をトータルに改善する作用を持つ、
経口糖尿病治療薬です。

医療機関で迅速検査を施行したところ、
尿糖は検出されたものの、
尿中のエタノールやその代謝産物を含め陰性の結果でした。

何故このようなことが起こったのでしょうか?

上記レターの著者の分析では、
尿検体に含まれていたブドウ糖が、
細菌の酵素によって発酵し、
エタノールが発生したことが要因ではないかと考えられました。

行政の検査では検体を採取してから、
実際に検査をするまでにかなり時間が経っていて、
その間の検体の管理も悪かったことから、
そうした事態が発生したと推測しています。

それとは別個の事例ですが、
2019年に日本で報告された症例報告では、
57歳のタクシー運転手が、
呼気のアルコール検査で陽性となり、
飲酒運転を疑われたものの、
実際には飲酒はしておらず、
糖尿病で服用していたSGLT2阻害剤の影響ではないか、
と分析されています。

これはSGLT2阻害剤の服用により、
呼気のアセトンが増加するのですが、
アセトンがエタノールと同じ温度帯で燃焼するため、
半導体センサーのアルコール検知器では、
偽陽性となってしまったのではないか、
という説明になっています。

要するに呼気でも尿でも、
アルコールの簡易検出法は、
SGLT2阻害剤の使用時には、
偽陽性となる可能性があり、
その点は充分に理解した上で、
こうした機器による飲酒検査は施行される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「殿様枕症候群」 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
殿様枕症候群.jpg
European Stroke Journal誌に、
2024年1月29日付で掲載された、
枕の高さが脳卒中のリスクに与える影響についての論文です。

これは国立循環器病研究センターの研究者による研究です。

脳卒中の多くは50歳以上で発症しますが、
中にはより若年での発症があり、
概ね18歳から50歳までの間に起こる脳卒中を、
若年性脳卒中と呼んでいます。
ただ、これは必ずしも国際的な定義のようなものではなく、
文献によっては45歳までになっていたり、
40歳までになっていることもあります。

日本においてこの若年性脳卒中の原因として、
多いことが指摘されているのが、
脳動脈解離です。

脳動脈解離というのは、
脳に繋がる動脈や脳の中を走る動脈の、
内膜という内側の部分が部分的に剥がれることで、
そこに血の塊が出来て血管が詰まったり、
出血したりすることによって、
脳梗塞や脳出血が起こります。

この現象は勿論高齢者にも起こりますが、
比率から言うと若年性の脳卒中に多いのです。

何故脳の血管の膜が裂けるのでしょうか?

生まれつきの血管の脆弱性や外傷など、
幾つかの原因が指摘されていますが、
それだけでは説明の付かない事例が多いのが実際です。

今回の論文の執筆者らは、
椎骨動脈解離の患者さんで、
通常より高さの高い枕を常用し、
朝起きた時から症状が発現する事例の多いことに着目し、
高い枕により首が後方に進展することが、
解離のリスクになるという仮定のもとに、
単一の専門施設で、
椎骨動脈解離と診断された患者53名を、
同時期に脳卒中の疑いで病院を受診した、
年齢などをマッチングさせた椎骨動脈解離以外の患者53名と、
枕の高さと病気との関連を比較検証しています。
対象者の年齢の平均は49歳で、
若年性脳卒中の事例が多く含まれています。

その結果、
12センチ以上の高さの枕を使用することは、
使用しない場合と比較して、
椎骨動脈解離のリスクを2.89倍(95%CI:1.13から7.43)、
15センチ以上の高さの枕を使用することは、
10.6倍(95%CI:1.30から87.3)、
それぞれ有意に増加させていました。
この関連は柔らかい枕より硬い枕でより強く認められました。

論文ではこれを「殿様枕症候群(Shogun pillow syndrome)」と呼び、
硬い高さの高い枕の使用に警鐘を鳴らしています。

如何でしょうか?

これはBritish Medical Journal誌の、
クリスマス特集のような論文だと思います。

殿様枕症候群というのはユニークですが、
真面目に言っているのかどうか、
正直疑問にも感じます。

高さ15センチの硬い枕というのは、
実際に測定すると相当のもので、
果たしてそんな枕を誰が使用しているのだろう、
と素朴に疑問に思います。
すぐに思いつくのは、
病院のベッドの枕ですが、
それでも高さ15センチにはなりません。

またこうした比較をするには、
症例数は如何にも少なく、
予め想定された結果を検証するには、
もっと多い事例を集め、
より客観的な検証をする必要があると思います。
信頼区間の大きさも、
それを裏打ちしているように思います。

これでとても高い枕が椎骨動脈解離の原因とは、
言えないと思いますが、
こうしたちょっとした生活習慣が、
原因不明の脳卒中のリスクになっている、
という指摘は興味深いことは確かで、
今後のより厳密な検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カルシウムのサプリメントによる心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カルシウムのサプリメントと心血管疾患リスク.jpg
Diabetes Care誌に2024年2月付で掲載された、
カルシウムのサプリメントが、
糖尿病の患者さんに与える影響についての論文です。

カルシウムはサプリメントとして摂取される、
代表的なミネラルの1つで、
その使用は主に食事によるカルシウムの不足を補い、
骨粗鬆症の予防など骨の健康の維持にあると、
一般にはそう考えられています。

しかし、最近になってサプリメントでカルシウムを摂ることが、
心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化関連の病気のリスクを、
増加させるのではないかというデータが報告されて、
その安全性に疑問が投げかけられる事態となっています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3738985/

サプリメントでカルシウムを摂ることは、
通常の食事から摂る場合と比較して、
摂取後比較的急激に血液中のカルシウム濃度が上昇する可能性があり、
それが血管の石灰化などに繋がるのではないか、
という指摘もあります。

特に糖尿病の患者さんは、
動脈硬化進行のリスクが高く、
骨代謝の異常も指摘されていますから、
よりその影響を受けやすい可能性があるのです。

今回の研究はイギリスの有名な遺伝情報を含む大規模な医療データである、
UKバイオバンクのデータを活用して、
434374人の医療データを元に、
カルシウムのサプリメントの使用と心血管疾患リスクとの関連を、
糖尿病の有無によって比較検証しているものです。

その結果、
関連する因子を補正した結果として、
糖尿病の患者さんにおけるカルシウムサプリメントの使用は、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを34%(95%CI:1.14から1.57)、
心血管疾患による死亡のリスクを67%(95%CI:1.19から2.33)、
総死亡のリスクを44%(95%CI:1.20から1.72)、
それぞれ有意に増加させていました。

その一方で糖尿病のない人では、
そうしたカルシウムサプリメントによる、
心血管疾患リスクの増加や生命予後の悪化は認められませんでした。

どうやら全ての人にカルシウムのサプリメントが有害であるのではなく、
糖尿病に代表されるような、
心血管疾患のリスクが高い人では、
そのリスクを増加させる可能性があるようです。

これはまだ現時点では確定的な知見ではありませんが、
カルシウムのサプリメントの意義が低下し、
そのリスクの可能性が高くなってきていることは事実で、
特に心血管疾患のリスクが高いような人は、
カルシウムは食事から充分摂取して、
サプリメントは使用しない方が安全であるとは言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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植物性タンパク質の摂取と健康寿命との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
植物性蛋白摂取と健康.jpg
the American Journal of Clinical Nutrition誌に、
2024年1月17日付で掲載された、
タンパク質の摂取量と健康との関係についての論文です。

高齢になると、
筋肉が萎縮して細くなり、
筋力が低下して転倒などのリスクが高まります。
これをサルコペニアと呼んでいます。

タンパク質を多く摂ることで、
その予防に繋がり、
健康寿命が延びることを示唆するデータがあり、
良質のタンパク質を積極的に摂ることが、
高齢者において推奨されています。

ただ、たとえば牛肉のような赤身肉を多く摂ることは、
生活習慣病の増加に繋がることを示唆する報告もあります。
乳製品の摂取も議論のあるところです。

つまり、単純にタンパク質を多く摂れば良いのではなく、
その組成に配慮する必要がある訳です。

また、高齢者がタンパク質を多く摂っても、
それがそのまま筋肉になる訳ではありません。
高齢になればタンパク質を造る力や利用する力もまた、
低下することが想定されるからです。

その意味ではもう少し前の年代、
たとえば60歳未満くらいの時期にタンパク質を多く摂ること、
それも赤身肉のような動物性タンパク質に偏らない、
バランスの取れた摂取を行うことが、
その後の健康状態に、
最も有効に働くと想定されます。

しかし、実際にはそうした観点から、
タンパク質の摂取の与える影響を検証した疫学データは、
これまであまり存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカで女性看護師を対象とした、
有名な大規模疫学研究のデータを活用して、
60歳未満の時期におけるタンパク質の摂取量が、
その後の健康長寿に与える影響を、
タンパク質の組成を含めて比較検証しています。

1984年の登録時に60歳未満で、
糖尿病や癌、心筋梗塞などの慢性の病気の既往がない、
トータル48762名の女性を対象として、
その後2016年までの長期の健康観察を施行。
2016年の時点でも癌、糖尿病などの持病がなく、
生活を介助なく送れて、
認知症や精神疾患もない状態を健康な老化と定義しています。

タンパク質は魚や肉などの動物性タンパク質と、
豆類や野菜、穀類など由来の植物性タンパク質、
そして牛乳やチーズなどの乳製品に分けて検証しています。

その結果、
タンパク質の摂取量が多いほど、
健康な老化を獲得する可能性が高まっていました。
具体的にはカロリーの3%、
摂取する総タンパク量が増加すると、
健康な老化の確率は5%(95%CI:1.01から1.10)、
それが動物性タンパク質の場合は7%(95%CI:1.02から1.11)、
乳製品のタンパク質の場合は14%(95%CI:1.06から1.23)、
植物性タンパク質の場合は38%(95%CI:1.24から1.54)、
それぞれ有意に高くなっていました。

つまり、中年期にタンパク質、特に植物性タンパク質を多く摂ることが、
その後の健康長寿に大きな影響を与える、
という結果です。

寝たきりにも認知症にもなりたくないなら、
植物性タンパク質を多く摂る食生活を継続することが、
科学的には最も効率的な予防法、
という言い方が出来そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤の腎結石予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
親族に不幸がありまして、
急遽早朝から出掛けています。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤の尿路結石予防効果.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2024年1月29日付で掲載された、
糖尿病治療薬の腎結石予防効果についての論文です。

SGLT2阻害剤は最近最も注目されている、
2型糖尿病の治療薬です。

この薬は尿へのブドウ糖の排泄を増加させる作用の薬です。

それにより確かに血糖値は低下しますが、
尿糖が増加することは尿路や陰部の感染のリスクを高めますし、
尿量が増加して脱水のリスクも高めますから、
使用開始当初は、
あまり良い薬のようには思えませんでした。

この薬が注目されたのは、
心血管疾患による死亡や総死亡のリスクを、
有意に30%以上低下させるという画期的なデータが、
エンパグリフロジンというSGLT2阻害剤で、
報告されたからです。

その後この心血管疾患の生命予後改善効果の多くは、
心不全の予後改善による部分が大きいことが解析され、
SGLT2阻害剤は心不全の治療薬としても、
有効な可能性が開かれたのです。

最近ではそれ以外に、
慢性腎臓病に対する進行予防効果も、
複数の臨床データで実証されています。

さて、2型糖尿病では腎結石や尿路結石のリスクが、
増加することも知られています。

そして最近SGLT2阻害剤の使用が、
糖尿病の患者さんにおける腎結石のリスクを、
低下させるのではないかというデータが報告されて、
注目を集めています。

その代表的なものの1つはこちらですが、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35290464/
これまでの臨床試験のデータを解析した結果として、
エンパグリフロジンの使用により、
腎結石の発症は40%有意に低下していました。

今回の研究はアメリカにおいて、
保険加入時のデータを活用することで、
2型糖尿病で新規にSGLT2阻害剤を開始した患者さんの、
その後の腎結石罹患率を、
GLP-1アナログもしくはDPP4阻害剤という、
いずれも広く使用されている糖尿病治療薬を開始した患者さんと、
比較検証しているものです。

358203名のSGLT2阻害剤新規使用者を、
年齢などをマッチングさせた、
同数のGLP-1アナログ新規使用者と比較し、
更に331028名のSGLT2阻害剤新規使用者を、
こちらも同数のDPP4阻害剤の新規使用者と、
腎結石のリスクについて比較検証したところ、
観察期間の中間値は192日で、
SGLT2阻害剤使用者は、
GLP-1アナログ使用者と比較して31%(95%CI:0.67から0.72)、
DPP4阻害剤使用者と比較して26%(95%CI:0.71から0.77)、
腎結石のリスクがそれぞれ有意に低下していました。

このように、
今回の大規模な疫学データにおいても、
他のインクレチン関連の治療薬と比較して、
SGLT2阻害剤の使用は、
比較的短期で腎結石のリスクを明確に低下させていました。

そのメカニズムはまだ不明の点もありますが、
尿量の増加による影響に加えて、
尿のPHなどの性質の変化が影響している、
というデータも蓄積されつつあります。

いずれにしても、
これまであまり有効な予防法のなかった、
腎結石の予防に関して、
明確な有効性のある薬剤が確認された意義は大きく、
今後これが2型糖尿病の患者に限った現象なのかを含めて、
知見が蓄積され実証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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0期乳癌の長期予後(検診以外で診断された事例の解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
0期乳がんの長期予後.jpg
British Medical Journal誌に2024年1月24日付で掲載された、
非浸潤性乳管癌(0期乳癌)の長期予後についての論文です。

非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ)というのは、
乳癌の細胞が乳管の中に留まっていて、
その周囲には広がっていない(浸潤していない)状態のことで、
臨床的な分類では0期という最も初期の乳癌です。

この非浸潤性乳管癌は、
以前は発見されることが少なかったのですが、
乳癌検診の導入後、
微細石灰化などの所見をきっかけとして、
診断される機会が増え、
その対応が問題となっています。

現状非浸潤性乳管癌に対しては、
手術治療が行われることが一般的です。
それは乳癌検診で見つかった非浸潤性乳管癌の長期予後を検証すると、
浸潤性乳癌に進行するリスクが、
一般住民の2倍以上に増加していた、
というデータが存在しているからです。
https://www.bmj.com/content/384/bmj-2023-075498

ただ、実際には乳癌検診以外で、
非浸潤性乳管癌が診断されるケースもしばしばあり、
上記のデータにはそうした事例が含まれていない、
という欠点がありました。

そこで今回の研究ではイギリスにおいて、
国レベルの癌登録のデータを活用し、
1990年から2018年の間に乳癌検診以外で診断された、
非浸潤性乳管癌の事例、
トータル27549例の予後を検証しています。

事例によっては20年を超える、
2018年末までの観察期間において、
検診以外で診断された非浸潤性乳管癌が、
その後に浸潤性乳癌に進行するリスクは、
一般住民の浸潤性乳管癌発症リスクと比較して、
4.21倍(95%CI:4.07から4.35)有意に増加していました。
また累積の乳癌による死亡のリスクも、
一般住民の平均的死亡リスクと比較して、
3.83倍(95%CI:3.59から4.09)有意に増加していました。
この非浸潤性乳管癌の浸潤性乳癌と乳癌による死亡リスクの増加は、
少なくとも診断後25年に渡り認められました。

乳房の部分切除は放射線治療の併用の有無に関わらず、
乳房の全切除と比較すると、
その後の浸潤性乳癌のリスクを高めていました。
ただ、累積の死亡リスクに関して比較すると、
両者の治療法の有意な差は認められませんでした。

このように今回の大規模な検証において、
非浸潤性乳管癌と検診以外で診断された事例は、
検診で診断された事例と比較しても、
その後の浸潤性乳癌のリスクや、
乳癌による死亡リスクが高くなっていました。

その長期予後を考えると、
診断の時点では最も早期の癌であっても、
積極的に治療することが重要と考えられます。
その治療の選択肢としては、
現時点では乳房全切除の方が、
浸潤性乳癌の予防のためには有効性が高そうですが、
より保存的な治療と比較して、
長期の生命予後には差がない点から考えると、
保存的治療も検討には値すると思われます。
今後こうしたデータにより、
その治療ガイドラインが、
よりアップデートされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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腰痛症の自然経過(2024年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
腰痛症の自然経過(2024年メタ解析).jpg
Canadian Medical Association Journal誌に、
2024年1月21日付で掲載された、
腰痛の自然経過についての論文です。

所謂「ぎっくり腰」と呼ばれるような腰の痛みは、
誰でも経験すると言っても良いくらい、
非常に一般的な症状です。

しかし、これほど身近で一般的な症状でありながら、
その原因やメカニズムなどは、
科学がこれだけ進歩していても、
あまり明らかにはなっていません。

腰の痛みの中には、骨折や骨や造血系の悪性腫瘍など、
すぐに治療を要するものもありますが、
大多数の腰痛の原因は検査をしても不明で、
痛み止めや湿布、理学療法、温熱療法などで経過をみる以外に、
有効な治療も確立していません。

急性の腰痛の多くは、
概ね6週間くらいの経過で自然に改善することが多く、
そのため予後の良好な症状と考えられています。
ただ、その一方で一度腰痛を経験すると、
そのうちの69%は1年以内に再発を起こす、
というような報告もあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31208917/
その中には痛みが長期間持続する、
慢性疼痛と呼ばれる状態に移行することもあります。

問題は同じように見える腰痛のうち、
どのようなケースが慢性化し易いのか、
という点にあります。

つまり、雑多に見える腰痛症の自然経過を観察する必要があるのです。

今回の研究は、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析するメタ解析という手法で、
腰痛症の自然経過を解析しているものです。

この研究では、
原因不明の腰痛症を、
6週間未満で症状が改善する急性腰痛と、
6から12週間未満までで改善する亜急性腰痛、
12週以上持続する慢性腰痛に分けて、
その経過を検証しています。

これまでの95の臨床研究をまとめて解析したところ、
急性腰痛と亜急性腰痛の患者のうち、
大多数は発症6週間の時点で、
痛みの状態が大きく改善していましたが、
慢性腰痛の患者では、
発症6週の時点でそれほどの改善が認められていませんでした。

つまり、その腰痛が長引く性質のものであるかどうかは、
最初は見極めが付かないものの、
発症6週の時点での症状を見ることにより、
かなり推測することが可能だ、という結果です。

こうしたデータは、
一見大したことがないもののように思われますが、
臨床的には結構重要なもので、
腰痛の患者さんを診察する上では、
非常に意義のある知見であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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市中肺炎に対するマクロライド系抗菌剤上乗せ治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
市中肺炎に対するマクロライド追加の有効性.jpg
Lancet Respiratory Medicine誌に、
2024年1月3日付で掲載された、
市中肺炎の治療におけるマクロライド系抗菌剤の、
上乗せ使用の有効性についての論文です。

マクロライド系の抗菌剤には、
エリスロマイシンやアジスロマイシン(ジスロマック)、
クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)などがあり、
マイコプラズマやクラミジアなどの病原体にも抗菌力を持つことから、
主に気道感染症などの治療に幅広く使用されています。

マクロライド系の抗菌剤はそればかりでなく、
びまん性汎細気管支炎や慢性閉塞性肺疾患など、
気道の慢性の炎症が持続するような病気の、
長期のコントロール薬としても応用されていて、
この場合は比較的少量を長期間継続する、
というような、
抗菌剤としてはやや特殊な治療が行われています。

こうした治療は疾患と病態を選べば大きな効果があるのですが、
単純に抗菌剤としての効果とは考えられません。

そこで、マクロライド系抗菌剤には、
過剰な免疫反応を抑制するような、
免疫の調整作用があるのではないか、
という仮説が提唱されるようになりました。

そのメカニズムの詳細は明らかではない点もあるのですが、
動物実験などを主体として、
クラリスロマイシンの使用により、
骨髄球系の免疫抑制細胞群が誘導され、
それが過剰な免疫の調整に働いて、
細菌性ショックなどの改善に、
結び付いている可能性を示唆するようなデータもあり、
そうした免疫調整作用のあること自体は、
ほぼ間違いないことであるようです。

そこでたとえば市中肺炎などの治療において、
通常使用されるペニシリン系などの、
βラクタム系と呼ばれる抗菌剤に加えて、
マクロライド系抗菌剤を併用することで、
肺炎の重症化を予防し、
その治癒を促すような効果があるのではないか、
という考え方が生まれました。

実際欧米の2019年以降の呼吸器疾患のガイドラインにおいては、
入院を要する市中肺炎の治療において、
βラクタムとマクロライド系抗菌剤の併用が、
治療の選択肢の1つとして推奨されています。

しかし、その根拠となったデータはメタ解析によるもので、
より精度の高い介入試験の結果のみで検証すると、
その効果は明らかではないという指摘もあります。

そこで今回の研究はギリシャにおいて、
市中肺炎で入院加療となった278名を、
本人にも主治医にも分からないようにくじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常のβラクタム系抗菌剤の使用に加えて、
マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンを、
1日1000㎎追加で使用し、
もう一方は偽薬を追加使用して、
その治療を1週間施行して、
肺炎の早期の臨床的な改善の指標を比較検証しています。

その結果、
肺炎の早期の改善の指標を、
治療開始後4日の時点で示していたのは、
クラリスロマイシン上乗せ群で68%であったのに対して、
偽薬群では38%で、
クラリスロマイシンの上乗せは、
早期改善に明確な有効性を示していました。
また、感染症の重症の状態である敗血症のリスクを、
クラリスロマイシンの上乗せは、
48%(95%CI:0.29から0.93)有意に低下させていました。

今回のデータはかなり明確に、
通常の抗菌剤にマクロライドを上乗せすることの、
肺炎改善と重症化予防効果を示していて、
やや出来過ぎの感じもしなくはありませんが、
今後のガイドラインなどにも、
大きなインパクトを与える結果であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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体重減少と癌リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
体重減少と癌リスク.jpg
JAMA誌に2024年1月23/30日付で掲載された、
体重減少と癌リスクについての論文です。

急に心当たりがないのに体重が減ると、
何か悪い病気が隠れているのではないか、
と心配をされる方は多いと思います。

その場合の「悪い病気」というのは、
通常は癌のことです。

テレビやネットなどで、
有名人が急に痩せたのを見ると、
「あの人は癌なんじゃないか」
というような噂が広がることが多いのも、
そうした考え方が一般に広がっていることを、
示しているように思います。

ただ、実際には体重減少の原因は癌だけではなく、
たとえばストレスや糖尿病、甲状腺機能亢進症などでも、
比較的急激な体重減少が起こることがあります。

実際に予期せぬ体重減少が見られた場合、
それが癌である可能性はどの程度のものなのでしょうか?

これまでに体重減少が癌の症状として見られた、
というような報告は勿論多数ありますが、
実際に体重減少そのものが、
どの程度その後の癌リスクに結びついていたのかを、
多数の事例で検証した報告は、
実際にはこれまであまりありませんでした。

今回の研究はアメリカにおいて、
有名な医療従事者を対象とした疫学研究のデータを活用して、
2年間における体重減少が、
その後12か月の癌の診断に与える影響を、
体重減少がない場合と比較して検証しているものです。

対象は年齢の中間値が62歳の医療従事者、
トータル15474名です。
平均で28年という長期の経過観察が施行されています。

その結果、
それ以前の2年間に10%を超える体重減少があると、
その後12か月に癌と診断されたのは、
年間10万人当たり1362件であったのに対して、
体重減少のない場合は869件で、
体重減少があると癌の事例は、
年間10万人当たり493件増加していました
(95%CI:391から594)

特にダイエットや運動習慣がないのに体重減少のあったケースに限ると、
2年に10%を超える体重減少後に癌と診断されたのは、
年間10万人当たり2687名であったのに対して、
体重減少のないコントロール群では、
年間10万人当たり1220件で、
体重減少があるとこうした運動習慣などのないケースでは、
癌の事例は年間10万人当たり1467件増加していました。
(95%CI:799から2135)

こうした体重減少後に診断される癌で、
最も多かったのは上部消化管由来の癌(食道、胃、胆道、肝臓、膵臓癌)で、
2年に10%を超える体重減少のあった場合、
こうした癌は年間10万人当たり173件報告されているのに対して、
体重減少のない場合の報告は36件で、
その差は年間10万人当たり137件でした。
(95%CI:101から172)

このように、
特に2年で10%を超えるような体重減少は、
その後の癌診断のリスクを高めていて、
癌の種類としては上部消化管由来の癌が多く、
特にダイエットを目標とした生活をしていないのに、
体重減少が見られた場合には、
より注意を要すると考えておいた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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