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ロッシーニ「チェネレントラ」(新国立劇場2021シーズンオープニング) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
レセプトももう出したので、
一時的ですが少しほっとしているところです。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
チェネレントラ.jpg
新国立劇場2021/22年のシーズンオープニングとして、
ロッシーニの傑作「チェネレントラ」が上演されています。

新国立劇場の「チェネレントラ」と言えば、
前回の2009年のシラグーザとカサロヴァによる舞台が、
演出は海外の歌劇場の借り物でしたが、
素晴らしい歌の競演で心に焼き付いています。
特にテノールのシラグーザはあの時は抜群に調子が良くて、
そのアリアの興奮は忘れることが出来ません。

この作品はともかく「歌」を聴くためのオペラで、
その意味では最初から最後まで、
素晴らしい聴き所が連続して息吐く暇のない傑作なのです。

ただ、実際の上演では、抜群の技量の歌手が揃わないと、
何じゃこりゃ、という結果に終わってしまいます。

今回の上演は「セビリアの理髪師」でも見事なコロラトゥーラを聴かせてくれた、
脇園彩さんのタイトルロールに、
アメリカのテノール、ルネ・バルベラさんのドン・ラミーロという組み合わせで、
結果的にはなかなか聴き応えのある舞台でした。

特に脇園さんは良かったですね。
堂々たる主役の歌唱で、
声量もありますし、装飾歌唱の技巧も確かで、
演技力もあります。
これはもう新国立劇場を代表するプリマドンナ、
という言い方をして良いのではないでしょうか?

ルネ・バルベラさんも実力のあるテノールで、
今回はメインのアリアでbis(アンコールの2回目)もやっていました。
ただ、ちょっと端正過ぎて熱狂を呼ぶという感じの歌唱ではないのですね。
でも良かったです。

問題はアンサンブルで、
この作品は3重唱や4重唱に聴き所が多いのですが、
そうした部分は音のバランスは今ひとつでしたね。
それでも悪くはなかったと思います。

演出は映画界に舞台を移した読み替え演出で、
冒頭などは「何じゃこりゃ」という感じだったのですが、
大半の舞台は「劇中劇」として、
それほどオリジナルと変わりない格好で進んだので、
そこまで酷い感じにはならなくて胸をなで下ろしました。

大道具はでかいポップな山車のような装置が移動するという、
新国立劇場の演出ではありがちなものでしたが、
色彩的には美しくてこれも作品の世界は壊していませんでした。

総じて今のコロナ禍の状況では、
これ以上は望み得ないような充実した舞台で、
それはもう15年くらい前のことを考えると、
レベルと華やかさの低下は明らかではあるのですが、
懐古趣味に浸っても仕方がないので、
今のオペラをそれなりに楽しみたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
プリズナーズ・オブ・ゴーストランド.jpg
園子温監督のアメリカ映画で、
主演はニコラス・ケイジの話題作です。
本来はもっと大々的なロードショーでも良いのですが、
実際に内容を見ると、
低予算のC級映画ですし、
とても万人向けの内容ではないので、
やや地味な公開となっています。

多分すぐに打ち切りになるのだろうな、
という予感がしたので、
初日に映画館に足を運んだのですが、
予想より更に「おやおや」という内容になっていて、
これなら配信で充分だったな、
という気がしました。

うーん。
「マッドマックス怒りのデスロード」を、
1000分の1では利かないくらいにスケールダウンした感じで、
一番似ているとすれば、
タランティーノが自分では監督せずに、
製作に関わったB級映画みたいな感じです。

本当に小劇場の野外劇みたいな、
セットと演出なんですよね。
維新派みたいなところもありますし、
水族館劇場みたいなところもあります。
確かにホロドフスキーもフェリーニも、
そうしたチープな舞台セットに演劇演出、
みたいな部分はあるので、
比較されるのも分からないことではありませんが、
クオリティやセンスはまるで違いますよね。

ストーリー自体は至って真面目で、
起承転結も明確ではあります。
ただ、語り口がともかくギクシャクしていて、
ディテールに膨らみがまるでないので、
とても映像世界に入り込む、
ということが出来ません。
「ああ、何かやってるな」という感じだけで、
ラストになってしまいました。

多分、即興でもっと膨らませられる、
という思いがあったのだと思うのですね。
それが結果的には殆ど機能しなくて、
空回りの極致のようになったのではないでしょうか?

もし見るかどうか迷われている方がいたら、
見るなら相当の覚悟を持って、
何があっても決して後悔はしません、
という強い意志が必要だとアドバイスしたいと思います。

個人的には、
いいな、と思う場面は、
1カットたりともありませんでした。

ある意味凄いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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死前喘鳴に対するブチルスコポラミン臭化物の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療とレセプト作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
死前喘鳴.jpg
JAMA誌に2021年10月5日掲載された、
死の直前の呼吸症状に対する抗コリン剤の効果についての論文です。

老衰などによる自然の死の、
数日から数時間前くらいに起こる変化として、
呼吸に伴い、
咽喉がゼーゼー、ゴロゴロと音を立てる、
という症状が高率に起こります。

これを死前喘鳴(death rattle)と呼んでいます。

死前喘鳴は呼吸機能の低下に伴って、
気道に痰などが溜まり、
それが呼吸に伴って音を立てることにより生じる、
と考えられています。

こうした症状が起こる時には、
本人は意識がないか、
あってもかなり意識レベルは低下している状態なので、
実際にはそれほど苦しくはないのかも知れません。

しかし、ベッドサイドで見ている家族や知人などにとっては、
とても苦しそうで、
見ているのがつらい症状であることは間違いがありません。

従って、
勿論その患者さんの予後に、
大きな悪影響を与えるような方法ではいけませんが、
それほどの影響は与えずに、
その苦しそうな呼吸を緩和するような方法があるとすれば、
それは重要で有益な医療行為の1つであると、
そう言って間違いではないと思います。

吸引して痰と取るのは1つの方法ですが、
その症状に対する効果は、
あまり明確には証明されていませんし、
吸引自体が本人にとっては苦しい治療ですから、
本末転倒であるようにも思えます。

こうした場合に欧米で比較的広く行われているのが、
抗コリン剤と呼ばれる薬の使用です。

抗コリン剤は腹痛や痰がらみなどの時に、
広く使用されている薬で、
痰などの分泌物の産生を抑え、
鎮静的な作用もあるので、
その使用は理に適っているのですが、
その一方で心臓に負担を掛けたり、
排尿障害などの弊害も指摘されています。

この抗コリン剤の有効性についても、
これまであまり実証的なデータが存在していませんでした。

今回の研究はオランダの6か所の病院において、
終末期でホスピスに入院した162名の患者を登録し、
患者にも主治医にも分からないようにくじ引きで2つの群に分けると、
一方は抗コリン剤であるブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン)の、
20㎎の注射薬を皮下注射で1日4回定期使用し、
もう一方で偽薬を使用して、
死前喘鳴に対する有効性を比較したものです。

その結果、
中等度以上の死前喘鳴が4時間間隔で2回検出された頻度は、
偽薬群では27%であったのに対して、
抗コリン剤使用群では13%で、
注射は有意に14%死前喘鳴を低下させていました。
有害事象についても、
問題となるようなものは認められませんでした。

こうした研究は今はまだ軽視されがちですが、
高齢化社会の進行に伴い、
「安らかに死ぬための医療」の重要性は、
今後より高まることは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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抗うつ剤の中止と再発リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
抗うつ剤の中止と再発リスク.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年9月30日掲載された、
抗うつ剤の中止と再発リスクについての論文です。

SSRIを始めとする抗うつ剤は、
特にストレスの多い今の社会においては、
非常に使用頻度の多い薬の1つです。

うつ病に対して適切に使用される範囲においては、
その有効性と安全性もほぼ確立されています。

ただ、その使用期間は長期化することが多く、
特に病状が安定してからの維持療法については、
その再発の懸念から数年以上に渡り、
持続されることが、
世界的にも稀ではありません。

その安全な中止のタイミングとその後のフォローのあり方については、
ある程度の指針はあるものの、
個々の医師の裁量に任せられている部分が多いのが実際です。

実際には、その裏打ちとなるような、
実証的かつ信頼性の高いデータは、
あまり存在していないからです。

今回の研究はイギリスのプライマリケアのクリニック150か所において、
年齢が18歳から74歳で、
2回以上のうつ病エピソードがあるか、
2年以上の治療歴のあるうつ病患者を登録、
抗うつ剤のミルタザピン(リフレックス)を1日30㎎、
セルトラリン(ジェイゾロフト)を1日100㎎、
シタロプラムを1日20㎎、
フルオキセチンを1日20㎎のいずれかを、
最低9か月以上持続して、
患者がもう終了して問題ないと感じている478名を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
本人にも主治医にも分からないように、
一方はそのまま実薬を継続し、
もう一方は偽薬に変更して、
52週の経過観察を行なっています。
パロキセチン(パキシル)とベンラファキシン(イフェクサー)は、
離脱症状が強いとの認識で対象薬から外されています。

その結果、
観察期間中に実薬群の39%と、
偽薬群の56%がうつ症状を再発し、
抗うつ剤の中止により、
再発リスクは2.06倍(95%CI:1.56から2.70)有意に増加していました。

このように、
本人が安定した状態と感じているうつ病患者においても、
機械的に抗うつ剤を中止することは、
明確にその後の再発リスクを高めることが、
今回の結果からは明確に示されていて、
今後その中止のあり方や経過観察の方法については、
より実証的な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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閉経後女性ホルモン療法と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
閉経後ホルモン療法と認知症リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年9月29日ウェブ掲載された、
閉経後の女性ホルモン療法と認知症リスクとの、
関連についての論文です。

女性における更年期は、
多くの症状の原因となり、
その中には睡眠障害や抑うつ状態、
認知機能の低下などの精神症状や神経症状が含まれています。
しかし、そうした症状が一時的なものであるのか、
それとも持続的な脳神経機能や認知機能の低下に、
結び付くのかといった点については、
それほど明確な事が分かっていません。

女性ホルモン特にエストロゲンには、
脳神経細胞を保護するような働きがあると報告されていて、
その低下は認知機能を低下させ、
認知症の発症に繋がるという可能性も否定は出来ません。

それでは、更年期症候群に対する女性ホルモン補充療法は、
高齢女性の認知症リスクに、
どのような影響を与えるのでしょうか?

今回の研究はイギリスのプライマリケアのデータを活用して、
118501名の55歳以上で新規に認知症と診断された女性と、
年齢などをマッチさせた497416名のコントロールを対象とし、
認知症リスクと女性ホルモン療法との関連を検証しています。

その結果、
認知症と診断された16291名と、
コントロール群の68726名が、
登録時点から3年以上の女性ホルモン療法を継続していました。
トータルな解析においては、
女性ホルモン療法と認知症リスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。

一方でエストロゲンのみのホルモン療法を、
10年以上継続していた80歳未満の女性では、
認知症の発症リスクが15%(95%CI:0.76から0.94)、
有意に低下していました。
それに反してエストロゲンとプロゲステロンの併用療法を行なっていた女性では、
特にアルツハイマー型認知症のリスクが高い傾向があり、
5から9年の治療では11%(95%CI:1.04から1.20)、
10年以上の治療では19%(95%CI:1.06から1.33)、
それぞれ有意にリスクは増加していました。

このように、
今回の大規模な検証では、
トータルには女性ホルモン療法と認知症リスクとの間には、
明確な関連は認められませんでしたが、
エストロゲン単独の治療では認知症リスクが低減し、
エストロゲンとプロゲステロンの併用では、
逆にそのリスクが増加するという傾向が認められました。

エストロゲンとプロゲステロンの併用は、
子宮体癌のリスクを低減するために使用されますが、
相反する作用を一部持っているため、
エストロゲンの持つ神経保護作用を、
弱めるのではないかという意見もあります。
そうした影響が今回の結果に結び付いている、
という考え方もありますが、
今のところは推測の域を出ないものだと思います。

この問題は今後も検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2021年劇団☆新感線41周年興行秋公演 いのうえ歌舞伎「狐晴明九尾狩」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
狐晴明九尾狩.jpg
劇団☆新感線の本公演が、
今赤坂ACTシアターで上演されています。

これは東京では久しぶりの大掛かりな新感線の公演、
という感じです。
昨年も公演はありましたが、
新型コロナ流行期ということで、
時間も短くキャストも少ないという、
縮小版のような舞台でした。

今回は安倍晴明と中国から渡って来た九尾の狐が戦うという、
かなりステレオタイプな感じはありますが、
如何にも王道の「いのうえ歌舞伎」という内容です。
キャストも人気者を揃えていますし、
古田新太さんも橋本じゅんさんも参加しないというのは、
少し寂しい感じはありますが、
長さも3時間を超える、
堂々たる演劇大作です。

演出は非常に洗練されていますよね。
歌舞伎役者とのコラボも多かったですし、
歌舞伎の演出技法を、
しっかり自家薬籠中の物にしている、
という感じがします。
ラストで九尾の狐がバーンと出て来るでしょ。
あれはもう海老蔵の新作歌舞伎のテイストですよね。
それから映像のクオリティも抜群だと思います。
これはIHIシアターでの経験が活きているという気がします。

内容は…
今回はちょっと物足りなさはありました。

メインが中村倫也さんと向井理さんなのですが、
2人とも舞台上で殆ど動かないんですね。
激突するという筈なのですが、
殺陣らしい殺陣もありませんし、
中村さんはゆっくり回転するだけくらいの動きですし、
向井さんも動かないで術を掛けるようなところだけなんですね。
お2人ともお忙しいですし、
練習時間もあまり取れなかったのかも知れません。
多分あまりアクションが得意というタイプでもないんですね。

これでは幾ら特殊効果が充実していても、
肉体の競演としてのお芝居としては、
盛り上がらないな、と感じました。

作品自体としても、
かなり予定調和的で平板な感じで、
「これを今是非作りたい」というようなパッションは、
あまり感じられませんでした。

まあ、今回は新感線としてはコロナ禍からの肩慣らし、
という感じかも知れませんし、
今後の作品での復調を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「空白」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
空白.jpg
骨太の映画に定評のある吉田恵輔監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

予告編を見ると、
古田新太さんが怪物化して襲い掛かるような、
サイコスリラーのような印象で、
ハリウッド製のスリラーでは、
こういうのが割と良くありますよね。
最初はちょっと社会派の振りをした物語なのですが、
途中からは完全なスリラーになる、
というような感じの映画です。

でも、実際にはそんな映画ではないんですね。

今の絶望的に寛容さがなく、
冷酷無比で生き辛い世界が、
誇張はありながらもリアルに描かれていて、
ある少女の死をきっかけにして、
その世界の残酷さの餌食になった主人公達が、
その世界を少し客観的に見られるようになるまでの物語です。

今の社会と真摯に向き合って格闘している、
という意味では、
今年一番の邦画の力作であると感じました。

最初が抒情的なカットバックから始まるんですね。
これがまずちょっと意表を突きますし、
母親以外の全ての人に、
軽視され無視されている目立たない少女を演じた、
伊東蒼さんがとてもいいですよね。
その少女が小さな万引きをして逃げて、
即物的に車に轢かれて死んでしまうんですね。
最近珍しくはない表現ですが、
それでも事故の場面は衝撃的ですね。

父親の古田新太さんは粗暴な漁師で、
娘も虐待しているのに近いような有様なんですね。
それが娘を殺されたと怒り狂って、
その矛先を、
少女を追いかけたスーパーの店長に向けるのです。

店長を演じた松坂桃李さんが、
これまた上手いですよね。
全てを自分の中に覆い隠して、
卑下して謙遜しているようで、
何かふてぶてしくもあって、
その人生を投げているような感じが、
今の社会における1つの生のあり方を、
とても生々しく表現しています。

自分の中の正義にしがみつく、
おせっかいなおばさんを演じた寺島しのぶさんも凄いですし、
短い出番でその凛とした佇まいで全てをさらったような、
片岡礼子さんも抜群でしたよね。
1人1人がこの残忍で冷酷無比な世界の構成要素を、
極めて巧みに演じています。

掘り下げればそれぞれ1本の映画が出来てしまいそうなキャラを、
映画界きっての演技派が演じています。
非常に贅沢な演技の競演でしたし、
監督のバランス感覚も素晴らしいと感じました。

映画としてはラストは少し物足りなくは感じます。
その弱さは1つは古田新太さんの芝居にあるという気がしますね。
古田さんは非常に熱演だったと思いますし、
その迫力も抜群ではあったと思うのですが、
後半の心の変化のようなものは、
表現として伝わり難かったように感じました。

台本的にも唐突に絵を描き始めるというのは、
如何にも北野武映画みたいな感じでしょ。
ちょっとリアリティがなくなるんですね。
それからラス前で松坂桃李と対峙して、
映画のテーマと言っても良い大事な台詞をしゃべるんですが、
ちょっと説得力に欠けましたよね。
急にお説教を始めたような違和感がありました。
多分監督はもっと上のものを、
あの場面には期待をしていたと思うのですが、
古田さんはちょっとそこには達しなかった、
というように感じました。
(古田さん、偉そうな発言をお許し下さい)

それでも傑出した社会派の力作であることは間違いがなく、
今の社会との向き合い方を確認する意味でも、
全ての皆さんに強くお勧めしたい映画でした。

是非気合を入れて御覧下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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人工甘味料と砂糖の食欲への影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診です。
台風のため予定は取りやめましたが、
終日レセプトなど事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
人工甘味料と砂糖の差.jpg
JAMA Network Open誌に、
2021年9月28日ウェブ掲載された、
人工甘味料と砂糖のジュースを飲んだ時の、
脳や食欲への影響を比較した論文です。

糖質は身体にとって必要な栄養素ですが、
ブドウ糖や果糖、およびそれが結合した糖質は、
甘くてどうしても摂取過多になりやすく、
その過剰摂取は肥満の原因となって、
健康に悪影響を来すことが指摘されています。

その代わりに最近多用されているのが、
0カロリーの人工甘味料ですが、
こちらも過食の原因となったり、
インスリン分泌を刺激して高インスリン血症を惹起するなどの、
別個のリスクが危惧されるという側面があります。

ただ、この人工甘味料の健康リスクについては、
研究方法によっても違いがあるなど、
あまり実証的なことが分かっているとは言えません。

今回の研究はアメリカにおいて、
18歳から35歳の病気のない一般住民76名を対象にしたもので、
水と人工甘味料のスクラロース、
ショ糖(スクロース)をそれぞれ一定量飲んだ後の、
機能性MRIによる脳の変化と、
食事量への影響を比較検証したものです。

その結果、特に肥満した女性においては、
ショ糖よりむしろ人工甘味料を飲んだ後で、
脳の食欲に関連する部位の神経機能が活性化され、
その後の食事量も増加する、
という変化が認められました。
こうした変化は男性や肥満のない女性では、
明確には認められませんでした。
人工甘味料を飲んだ後で、
インスリンなど代謝関係のホルモンなどの濃度には、
明確な変化は認められず、
こうした人工甘味料の食欲増進作用は、
代謝を介したものではない、
という可能性が示唆されました。

今回の研究では、
肥満した女性に限っては、
人工甘味料は砂糖よりむしろ強力に、
過食を刺激するという結果が得られました。

今後より詳細な検証が必要な知見ですが、
人工甘味料が場合によってはダイエットに逆効果である、
というデータは非常に興味深く、
今後の研究の蓄積に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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