「燃えよ剣」(2021年公開映画版) [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

司馬遼太郎さんの「燃えよ剣」を原作とした映画が、
今ロードショー公開されています。
新撰組副長、土方歳三が主人公で、
彼自身の語りにより、
その波乱に富んだ人生が俯瞰的に描かれます。
これはなかなか王道の歴史物で良かったですよ。
デビット・リーンとか、
かつての歴史大作みたいな作りなんですね。
主人公本人が五稜郭で、
死の突撃の寸前に語るというスタイルも、
昔の歴史物に良くあったものですし、
エピソードによって語り口を変えているのがいいんですね。
それから俯瞰の移動撮影で戦闘シーンを見せるでしょ。
尺は短いですが、
戊辰戦争のところとか、
なかなか頑張っているなあ、と思いました。
この間の「最後の決闘裁判」でも、
俯瞰は結局CG頼みで、
生身の群衆シーンはほぼなかったですよね。
アップから始まってゆっくりキャメラが引いてゆくと、
兵士がばあっと一方向に流れていって、
敵とぶつかるという雄大な移動撮影は、
かつてはシネスコの大作の代名詞のような場面でしたが、
今は殆どないですよね。
それを規模はそれほど大きくないですが、
しっかりやっている、というところに、
とても感銘を受けました。
結構やるじゃん、という感じです。
原田眞人監督は癖がありますよね。
変な踊りを必ず入れたり、
一部の登場人物を悪意を持ってデフォルメしたり。
今回も無意味に踊る場面はありますし、
徳川慶喜を無能と卑劣の極地のように描くところなどはあるのですが、
トータルにはそうした悪い癖はそれほど多くはなく、
まずは王道のタッチを楽しむことが出来たのは幸いでした。
キャストも岡田准一さんは、
土方を他にこれだけやれる人はまずいないな、
と思わせる熱演でしたし、
沖田総司の山田涼介さんが、
とても良かったですね。
一部にオヤオヤというキャストもいましたが、
トータルには良い座組だったと思います。
上映時間は2時間半で、駆け足という評が多いのですが、
個人的にはそうは思いませんでした。
これは3時間くらいの尺を、
頑張って30分縮めているんですね。
死の寸前からの語りという形式を巧みに利用して、
緩急を付けているんです。
それで作品としてはかなり引き締まったと思います。
後半主人公とお雪さんとの静かな生活を描いているのは、
おそらく「ドクトル・ジバゴ」がやりたかったんですね。
ちょっと微笑ましく感じました。
この内容としては予算も時間も少なかったのだと思いますし、
撮り切れていない感じのところもあるのですが、
それでも今の邦画の状況としては、
相当踏ん張って作られた歴史絵巻で、
これはもうデビット・リーンを観る気分で、
是非じっくり観て頂きたいと思います。
結構お勧めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

司馬遼太郎さんの「燃えよ剣」を原作とした映画が、
今ロードショー公開されています。
新撰組副長、土方歳三が主人公で、
彼自身の語りにより、
その波乱に富んだ人生が俯瞰的に描かれます。
これはなかなか王道の歴史物で良かったですよ。
デビット・リーンとか、
かつての歴史大作みたいな作りなんですね。
主人公本人が五稜郭で、
死の突撃の寸前に語るというスタイルも、
昔の歴史物に良くあったものですし、
エピソードによって語り口を変えているのがいいんですね。
それから俯瞰の移動撮影で戦闘シーンを見せるでしょ。
尺は短いですが、
戊辰戦争のところとか、
なかなか頑張っているなあ、と思いました。
この間の「最後の決闘裁判」でも、
俯瞰は結局CG頼みで、
生身の群衆シーンはほぼなかったですよね。
アップから始まってゆっくりキャメラが引いてゆくと、
兵士がばあっと一方向に流れていって、
敵とぶつかるという雄大な移動撮影は、
かつてはシネスコの大作の代名詞のような場面でしたが、
今は殆どないですよね。
それを規模はそれほど大きくないですが、
しっかりやっている、というところに、
とても感銘を受けました。
結構やるじゃん、という感じです。
原田眞人監督は癖がありますよね。
変な踊りを必ず入れたり、
一部の登場人物を悪意を持ってデフォルメしたり。
今回も無意味に踊る場面はありますし、
徳川慶喜を無能と卑劣の極地のように描くところなどはあるのですが、
トータルにはそうした悪い癖はそれほど多くはなく、
まずは王道のタッチを楽しむことが出来たのは幸いでした。
キャストも岡田准一さんは、
土方を他にこれだけやれる人はまずいないな、
と思わせる熱演でしたし、
沖田総司の山田涼介さんが、
とても良かったですね。
一部にオヤオヤというキャストもいましたが、
トータルには良い座組だったと思います。
上映時間は2時間半で、駆け足という評が多いのですが、
個人的にはそうは思いませんでした。
これは3時間くらいの尺を、
頑張って30分縮めているんですね。
死の寸前からの語りという形式を巧みに利用して、
緩急を付けているんです。
それで作品としてはかなり引き締まったと思います。
後半主人公とお雪さんとの静かな生活を描いているのは、
おそらく「ドクトル・ジバゴ」がやりたかったんですね。
ちょっと微笑ましく感じました。
この内容としては予算も時間も少なかったのだと思いますし、
撮り切れていない感じのところもあるのですが、
それでも今の邦画の状況としては、
相当踏ん張って作られた歴史絵巻で、
これはもうデビット・リーンを観る気分で、
是非じっくり観て頂きたいと思います。
結構お勧めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「最後の決闘裁判」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

14世紀のフランスを舞台にした、
リドリー・スコット監督の新作映画です。
これはまあ、失敗作ですね。
スタイリッシュで重厚な戦闘シーンや、
クライマックスの決闘シーンは、
かなり迫力がありますし、
さすがリドリー・スコットという、
美学と凄味があるんですね。
メインキャストの1人のマット・デイモンのキャラも、
なかなかいいんですね。
時代が違えば英雄とも言えた戦闘のプロなのですが、
生きることには不器用で、
上司の伯爵に疎まれて出世の道を閉ざされるんですね。
ヤマトタケルみたいでもありますし、
オデッセウスみたいでもありますね。
ただ、これだけ魅力的な人物が活躍するのに、
お話は骨太には進まないんですね。
物語は急に彼の美しい妻が友人に陵辱される、
という事件に収束してしまうからです。
これをまた「羅生門」でやるんですね。
登場人物3人の3通りの視点で同じ経過を振り返るのですが、
それが殆ど意味がないと言うか、
微妙に台詞が少し違ったりするだけで、
ほぼほぼ同じ場面を繰り返すだけなんですね。
思いつきだけで何の意味もない、
という感じでした。
トータルには、
男の視点を最後に女の視点でひっくり返す、
という構造なんですね。
でも、結局何がどうひっくり返されたのが、
よく分からないように終わりますし、
全体のトーンがそうした感じではないので、
後半の展開が浮いているように感じるのです。
2時間半の尺なのですが、
同じ場面を3回繰り返しているので、
結局それで時間が延びているだけで、
圧縮したら1時間半くらいで終わってしまいそうな内容なんですね。
これは駄目だな、と思いました。
リドリー・スコット監督がお好きな方であれば、
一応観ておいて悪くないかなと思いますが、
それ以外にはあまりお勧めは出来ない凡作でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

14世紀のフランスを舞台にした、
リドリー・スコット監督の新作映画です。
これはまあ、失敗作ですね。
スタイリッシュで重厚な戦闘シーンや、
クライマックスの決闘シーンは、
かなり迫力がありますし、
さすがリドリー・スコットという、
美学と凄味があるんですね。
メインキャストの1人のマット・デイモンのキャラも、
なかなかいいんですね。
時代が違えば英雄とも言えた戦闘のプロなのですが、
生きることには不器用で、
上司の伯爵に疎まれて出世の道を閉ざされるんですね。
ヤマトタケルみたいでもありますし、
オデッセウスみたいでもありますね。
ただ、これだけ魅力的な人物が活躍するのに、
お話は骨太には進まないんですね。
物語は急に彼の美しい妻が友人に陵辱される、
という事件に収束してしまうからです。
これをまた「羅生門」でやるんですね。
登場人物3人の3通りの視点で同じ経過を振り返るのですが、
それが殆ど意味がないと言うか、
微妙に台詞が少し違ったりするだけで、
ほぼほぼ同じ場面を繰り返すだけなんですね。
思いつきだけで何の意味もない、
という感じでした。
トータルには、
男の視点を最後に女の視点でひっくり返す、
という構造なんですね。
でも、結局何がどうひっくり返されたのが、
よく分からないように終わりますし、
全体のトーンがそうした感じではないので、
後半の展開が浮いているように感じるのです。
2時間半の尺なのですが、
同じ場面を3回繰り返しているので、
結局それで時間が延びているだけで、
圧縮したら1時間半くらいで終わってしまいそうな内容なんですね。
これは駄目だな、と思いました。
リドリー・スコット監督がお好きな方であれば、
一応観ておいて悪くないかなと思いますが、
それ以外にはあまりお勧めは出来ない凡作でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
院内心停止に対するバゾプレッシンとステロイドの有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医活動で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA誌に2021年9月29日ウェブ掲載された、
病院内での急な心停止の治療についての論文です。
病院には様々な病気の患者さんが入院していて、
そのため予期せぬ急変も稀ではありません。
病院で入院中に起こる心停止は、
デンマークでは年間2000例に、
アメリカでは年間30万例に起こっている、
というデータが上記文献には紹介されています。
心停止の予後は決して良いものではなく、
アメリカの2017年の統計では、
その救命率はおよそ25%と報告されています。
そこで通常の治療に加えて、
救命率を上げるための付加的な方法が模索されています。
心停止時には、
強心剤のエピネフリンが使用されますが、
それに加えて抗利尿ホルモンのバゾプレッシンと、
ステロイド剤を同時に使用することで、
救命率を上げられる可能性が以前から指摘されています。
抗利尿ホルモンのバゾプレッシンを注射することにより、
血管は強く収縮し、そのためショックの補助的な治療として、
その使用は行なわれている経緯があります。
ステロイドはストレスホルモンとも呼ばれ、
ショックなど身体に強いストレスが加えられた時には、
血液中のステロイド濃度は上昇し、
それが代謝の調節や炎症の抑制など、
ストレスからの回復に役立つと考えられています。
実際心停止時のステロイド濃度が高いほど、
救命率が高かった、というようなデータも存在しています。
ただ、これまでに行なわれた臨床試験において、
バゾプレッシンとステロイドの使用が、
明確に心停止の救命率を上昇させたとする、
実証的なデータは存在していません。
今回の研究はデンマークの10カ所の病院において、
院内で心停止を来した患者を登録し、
主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はエピネフリンの使用時に、
同時に20単位のバゾプレッシンと、
ステロイドのメチルプレドニゾロン40mgを、
静脈内に投与することを繰り返し、
もう一方は代わりに偽の注射薬を使用して、
その予後を比較検証しています。
トータルで501名の患者が登録され解析されました。
バゾプレッシンとステロイド使用群の42%、
偽注射群の33%が心拍を再開していて、
バゾプレッシンとステロイドの使用は、
短期的な心拍の再開を、
1.3倍(95%CI:1.03から1.63)有意に増加させていました。
一方でその後の後遺症の発症率や、
心停止後30日の時点での生命予後については、
両群で明確な差は認められませんでした。
このように、
今回の臨床試験では、
心停止後の心拍の再開に、
通常治療へのバゾプレッシンとステロイドの上乗せの、
一定の有効性が確認されました。
その一方で生命予後には明確な差はなく、
今後より多角的な検証が必要と考えられます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医活動で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA誌に2021年9月29日ウェブ掲載された、
病院内での急な心停止の治療についての論文です。
病院には様々な病気の患者さんが入院していて、
そのため予期せぬ急変も稀ではありません。
病院で入院中に起こる心停止は、
デンマークでは年間2000例に、
アメリカでは年間30万例に起こっている、
というデータが上記文献には紹介されています。
心停止の予後は決して良いものではなく、
アメリカの2017年の統計では、
その救命率はおよそ25%と報告されています。
そこで通常の治療に加えて、
救命率を上げるための付加的な方法が模索されています。
心停止時には、
強心剤のエピネフリンが使用されますが、
それに加えて抗利尿ホルモンのバゾプレッシンと、
ステロイド剤を同時に使用することで、
救命率を上げられる可能性が以前から指摘されています。
抗利尿ホルモンのバゾプレッシンを注射することにより、
血管は強く収縮し、そのためショックの補助的な治療として、
その使用は行なわれている経緯があります。
ステロイドはストレスホルモンとも呼ばれ、
ショックなど身体に強いストレスが加えられた時には、
血液中のステロイド濃度は上昇し、
それが代謝の調節や炎症の抑制など、
ストレスからの回復に役立つと考えられています。
実際心停止時のステロイド濃度が高いほど、
救命率が高かった、というようなデータも存在しています。
ただ、これまでに行なわれた臨床試験において、
バゾプレッシンとステロイドの使用が、
明確に心停止の救命率を上昇させたとする、
実証的なデータは存在していません。
今回の研究はデンマークの10カ所の病院において、
院内で心停止を来した患者を登録し、
主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はエピネフリンの使用時に、
同時に20単位のバゾプレッシンと、
ステロイドのメチルプレドニゾロン40mgを、
静脈内に投与することを繰り返し、
もう一方は代わりに偽の注射薬を使用して、
その予後を比較検証しています。
トータルで501名の患者が登録され解析されました。
バゾプレッシンとステロイド使用群の42%、
偽注射群の33%が心拍を再開していて、
バゾプレッシンとステロイドの使用は、
短期的な心拍の再開を、
1.3倍(95%CI:1.03から1.63)有意に増加させていました。
一方でその後の後遺症の発症率や、
心停止後30日の時点での生命予後については、
両群で明確な差は認められませんでした。
このように、
今回の臨床試験では、
心停止後の心拍の再開に、
通常治療へのバゾプレッシンとステロイドの上乗せの、
一定の有効性が確認されました。
その一方で生命予後には明確な差はなく、
今後より多角的な検証が必要と考えられます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
認知症の問題行動に対するミルタザピンの有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Lancet誌に2021年10月23日掲載された、
認知症の問題行動に対する抗うつ剤の有効性を検証した論文です。
認知症においては、
物忘れなどと共に、
意味もなく悪態を吐くなどの攻撃的言動や、
じっとしていられない、何にでも反抗するなど、
社会的に不適切な言動がしばしば認められます。
これをAgitationと呼んでいます。
Agitationは、
その患者さんを介護する家族や介護職員などにとって、
非常なストレスになります。
現行このような問題行動に、
確実に有効とされる薬物療法はなく、
対処の基本は患者さんの緊張を和らげるような、
非薬物療法です。
ただ、それは手間と時間の掛かることですし、
その有効性も確実ではありません。
そこで様々の薬物療法が試みられていますが、
現状明確に有効性の確認された薬剤はありません。
今回の研究はイギリスの複数施設において、
ミルタザピン(商品名リフレックスなど)という、
鎮静作用の強い抗うつ剤の、
Agitationへの有効性を検証したものです。
対象者はアルツハイマー型認知症の確定もしくは疑い事例で、
Agitationの症状が認められ非薬物療法に奏功しないトータル204名の患者で、
患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方にはミルタザピンを1日45㎎使用し、
もう一方には偽薬を使用して、
12週間の経過観察を行なっています。
その結果、
CMAIという指標で比較されたAgitationの症状尺度には、
ミルタザピン群と偽薬群とで明確な差はなく、
ミルタザピンの有効性は確認されませんでした。
有害事象にも有意な差は認められませんでしたが、
偽薬群では1例に対して、ミルタザピン群では7例と、
16週までの観察ではミルタザピン群で死亡事例が多く確認されました。
その内訳は、認知症、心不全、肺炎など様々で、
薬の使用との明確な因果関係は確認されませんでした。
このように、
ミルタザピンは認知症の問題行動に、
今回の試験では有効ではなく、
むしろ生命予後に悪影響を与える可能性が示唆される、
という結果に終わりました。
認知症の問題行動への有効な薬物治療は、
まだ確立されたものはないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Lancet誌に2021年10月23日掲載された、
認知症の問題行動に対する抗うつ剤の有効性を検証した論文です。
認知症においては、
物忘れなどと共に、
意味もなく悪態を吐くなどの攻撃的言動や、
じっとしていられない、何にでも反抗するなど、
社会的に不適切な言動がしばしば認められます。
これをAgitationと呼んでいます。
Agitationは、
その患者さんを介護する家族や介護職員などにとって、
非常なストレスになります。
現行このような問題行動に、
確実に有効とされる薬物療法はなく、
対処の基本は患者さんの緊張を和らげるような、
非薬物療法です。
ただ、それは手間と時間の掛かることですし、
その有効性も確実ではありません。
そこで様々の薬物療法が試みられていますが、
現状明確に有効性の確認された薬剤はありません。
今回の研究はイギリスの複数施設において、
ミルタザピン(商品名リフレックスなど)という、
鎮静作用の強い抗うつ剤の、
Agitationへの有効性を検証したものです。
対象者はアルツハイマー型認知症の確定もしくは疑い事例で、
Agitationの症状が認められ非薬物療法に奏功しないトータル204名の患者で、
患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方にはミルタザピンを1日45㎎使用し、
もう一方には偽薬を使用して、
12週間の経過観察を行なっています。
その結果、
CMAIという指標で比較されたAgitationの症状尺度には、
ミルタザピン群と偽薬群とで明確な差はなく、
ミルタザピンの有効性は確認されませんでした。
有害事象にも有意な差は認められませんでしたが、
偽薬群では1例に対して、ミルタザピン群では7例と、
16週までの観察ではミルタザピン群で死亡事例が多く確認されました。
その内訳は、認知症、心不全、肺炎など様々で、
薬の使用との明確な因果関係は確認されませんでした。
このように、
ミルタザピンは認知症の問題行動に、
今回の試験では有効ではなく、
むしろ生命予後に悪影響を与える可能性が示唆される、
という結果に終わりました。
認知症の問題行動への有効な薬物治療は、
まだ確立されたものはないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
急性尿閉とその後の関連癌リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2021年10月19日ウェブ掲載された、
急性尿閉と尿路や女性器の癌リスクとの関連についての論文です。
急性尿閉というのは、
何らかの原因によって、
急に苦痛を伴って尿が出なくなる症状のことで、
圧倒的に男性に多く、
その罹患率は上記文献記載の海外データでは、
年間男性1000人当たり2.2から8.8件で、
年齢と共に急速に増加します。
推計として、
70代の男性の10%、
80代の男性の30%がこの症状を経験するとされています。
その最も多い原因は、
男性では前立腺肥大による尿路の狭窄で,
女性では膀胱排尿筋の機能障害です。
急性尿閉の原因として、
それ以外に尿路や女性器、直腸の癌などが考えられますが、
実際に尿閉の患者さんにおいて、
どのくらいの癌のリスクを想定したら良いのかについての、
信頼のおけるようなデータは、
これまでにあまり存在していませんでした。
今回の研究は、
国民総背番号制のデンマークにおいて、
全ての病院で診断された、
50歳以上の初回の急性尿閉患者トータル75983名を登録し、
その後の尿路系や女性器関連の癌、
直腸や自律神経系由来の癌の発症リスクを、
一般人口の発症リスクと比較しているものです。
その結果、
最初に急性尿閉を起こしてから、
3か月以内に前立腺癌が診断される確率は5.1%で、
1年以内に診断される確率は6.7%、
5年以内に診断される確率は8.5%でした。
尿閉から3か月以内に、
年間1000人当たり218件の前立腺癌が、
一般の発症率と比較して過剰に発症し、
3か月から12か月未満では21件が過剰に発症していましたが、
1年以降での発症率は、
一般と比較して差はありませんでした。
尿路系の癌については、
尿閉発症3か月以内において、
一般の発症率と比較して、
年間1000人当たり56件が過剰に発症し、
女性の外陰部癌については同様に24件が、
直腸癌については同様に12件が、
神経系の癌については2件が、
過剰に発症していると計算されました。
このように、
多くの関連癌の発症リスクは、
初回の急性尿閉後3か月以内のみ増加していましたが、
前立腺と尿路系の癌については12か月未満まで、
女性の浸潤性膀胱癌については、
数年に渡りそのリスクの増加が認められていました。
50歳以上の年齢における初回の急性尿閉は、
その後3か月の尿路系や女性器系などの癌の強い予測因子で、
こうした症状が出現した際には、
癌の検索を積極的かつ慎重に行う必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2021年10月19日ウェブ掲載された、
急性尿閉と尿路や女性器の癌リスクとの関連についての論文です。
急性尿閉というのは、
何らかの原因によって、
急に苦痛を伴って尿が出なくなる症状のことで、
圧倒的に男性に多く、
その罹患率は上記文献記載の海外データでは、
年間男性1000人当たり2.2から8.8件で、
年齢と共に急速に増加します。
推計として、
70代の男性の10%、
80代の男性の30%がこの症状を経験するとされています。
その最も多い原因は、
男性では前立腺肥大による尿路の狭窄で,
女性では膀胱排尿筋の機能障害です。
急性尿閉の原因として、
それ以外に尿路や女性器、直腸の癌などが考えられますが、
実際に尿閉の患者さんにおいて、
どのくらいの癌のリスクを想定したら良いのかについての、
信頼のおけるようなデータは、
これまでにあまり存在していませんでした。
今回の研究は、
国民総背番号制のデンマークにおいて、
全ての病院で診断された、
50歳以上の初回の急性尿閉患者トータル75983名を登録し、
その後の尿路系や女性器関連の癌、
直腸や自律神経系由来の癌の発症リスクを、
一般人口の発症リスクと比較しているものです。
その結果、
最初に急性尿閉を起こしてから、
3か月以内に前立腺癌が診断される確率は5.1%で、
1年以内に診断される確率は6.7%、
5年以内に診断される確率は8.5%でした。
尿閉から3か月以内に、
年間1000人当たり218件の前立腺癌が、
一般の発症率と比較して過剰に発症し、
3か月から12か月未満では21件が過剰に発症していましたが、
1年以降での発症率は、
一般と比較して差はありませんでした。
尿路系の癌については、
尿閉発症3か月以内において、
一般の発症率と比較して、
年間1000人当たり56件が過剰に発症し、
女性の外陰部癌については同様に24件が、
直腸癌については同様に12件が、
神経系の癌については2件が、
過剰に発症していると計算されました。
このように、
多くの関連癌の発症リスクは、
初回の急性尿閉後3か月以内のみ増加していましたが、
前立腺と尿路系の癌については12か月未満まで、
女性の浸潤性膀胱癌については、
数年に渡りそのリスクの増加が認められていました。
50歳以上の年齢における初回の急性尿閉は、
その後3か月の尿路系や女性器系などの癌の強い予測因子で、
こうした症状が出現した際には、
癌の検索を積極的かつ慎重に行う必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
甲状腺眼症に対するスタチンの有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年9月27日ウェブ掲載された、
甲状腺眼症に対するコレステロール降下剤スタチンの、
有効性についての論文です。
甲状腺機能亢進症を来す、
甲状腺の自己免疫疾患の代表であるバセドウ病では、
その自己抗体の働きによって、
眼球の後方の脂肪や繊維組織が肥厚し、
眼球が前方に突出する甲状腺眼症と呼ばれる症状が合併します。
これは全てのバセドウ病に起こる現象ではありませんが、
一旦症状が出現すると完治することは非常に困難で、
重症化すると目を閉じられない状態となって、
ADLにも大きな影響を与えます。
この病気の国際的ガイドラインで推奨されている治療は、
高用量のステロイド(糖質コルチコイド)を静脈内投与することですが、
その有効性は35から80%と報告されています。
つまり、単独で必ずしも満足のゆく有効性があるとは言えません。
そこでステロイド治療に加えて、
付加的な治療として注目されているのが、
スタチンの使用です。
スタチンは言うまでもなく、
ステロイド降下剤で脂質異常症の治療薬ですが、
スタチンを使用しているバセドウ病患者は、
未使用の患者と比較して、
甲状腺眼症の発症率が低い、
という疫学データが存在しています。
スタチンに抗炎症作用があることを考えると、
スタチンが甲状腺眼症の抑止に、
一定の効果があってもおかしくはないのです。
今回の研究はイタリアにおいて、
血液中のLDLコレステロールが114.8から188.7mg/dLで、
中等度から重度の甲状腺眼症の患者88名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はステロイド治療のみを12週継続し、
もう一方はそれに加えて24週スタチンを使用して、
どちらも24週の経過観察を行なっているものです。
ステロイド治療は、
メチルプレドニゾロンを500mgを週に1回、
静脈内投与することを6週間繰り返して、
その後は250mgを6週間施行し、
スタチンはアトルバスタチンを1日20mg経口投与しています。
その結果、
症状の改善や眼突の2mm以上の改善などの指標で評価された、
24週の時点での眼症治療の有効率は、
スタチン治療群で51%であったのに対して、
スタチン未使用群では28%で、
スタチンの上乗せ治療は、
眼症治療の有効率を有意に改善していました。
これはまだ少数例での解析に過ぎませんが、
難治性の甲状腺眼症において、
スタチンの上乗せ治療に明確な有効性があったという、
今回の結果は非常に興味深く、
今後より大規模で精度の高い検証に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年9月27日ウェブ掲載された、
甲状腺眼症に対するコレステロール降下剤スタチンの、
有効性についての論文です。
甲状腺機能亢進症を来す、
甲状腺の自己免疫疾患の代表であるバセドウ病では、
その自己抗体の働きによって、
眼球の後方の脂肪や繊維組織が肥厚し、
眼球が前方に突出する甲状腺眼症と呼ばれる症状が合併します。
これは全てのバセドウ病に起こる現象ではありませんが、
一旦症状が出現すると完治することは非常に困難で、
重症化すると目を閉じられない状態となって、
ADLにも大きな影響を与えます。
この病気の国際的ガイドラインで推奨されている治療は、
高用量のステロイド(糖質コルチコイド)を静脈内投与することですが、
その有効性は35から80%と報告されています。
つまり、単独で必ずしも満足のゆく有効性があるとは言えません。
そこでステロイド治療に加えて、
付加的な治療として注目されているのが、
スタチンの使用です。
スタチンは言うまでもなく、
ステロイド降下剤で脂質異常症の治療薬ですが、
スタチンを使用しているバセドウ病患者は、
未使用の患者と比較して、
甲状腺眼症の発症率が低い、
という疫学データが存在しています。
スタチンに抗炎症作用があることを考えると、
スタチンが甲状腺眼症の抑止に、
一定の効果があってもおかしくはないのです。
今回の研究はイタリアにおいて、
血液中のLDLコレステロールが114.8から188.7mg/dLで、
中等度から重度の甲状腺眼症の患者88名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はステロイド治療のみを12週継続し、
もう一方はそれに加えて24週スタチンを使用して、
どちらも24週の経過観察を行なっているものです。
ステロイド治療は、
メチルプレドニゾロンを500mgを週に1回、
静脈内投与することを6週間繰り返して、
その後は250mgを6週間施行し、
スタチンはアトルバスタチンを1日20mg経口投与しています。
その結果、
症状の改善や眼突の2mm以上の改善などの指標で評価された、
24週の時点での眼症治療の有効率は、
スタチン治療群で51%であったのに対して、
スタチン未使用群では28%で、
スタチンの上乗せ治療は、
眼症治療の有効率を有意に改善していました。
これはまだ少数例での解析に過ぎませんが、
難治性の甲状腺眼症において、
スタチンの上乗せ治療に明確な有効性があったという、
今回の結果は非常に興味深く、
今後より大規模で精度の高い検証に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「いのち知らず」(岩松了新作) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

岩松了さんの新作が、
今下北沢の本多劇場で上演されています。
これはキャストは男性5人だけで、
休憩はないトータル2時間10分ほどのお芝居です。
ラス前から始まり、
過去に戻るとほぼ時系列で進み、
最後にオープニングの少し後に達する、
という構成です。
それを故障したテープレコーダーが修復される、
というディテールで示すのがクレヴァーな仕掛けです。
岩松さんのお芝居も色々な傾向のものがあるのですが、
今回は特定の人間関係の力学を掘り下げてゆくうちに、
次第に生と死との境界が不鮮明になっていって、
最終的には誰が生きていて誰が死んでいるのか、
良く分からない感じになってゆく、
という最近割合多いテーマの作品です。
それから男2人の友情と、
それがもう1人の男によって亀裂を生じ、
結果的にそのうちの1人が死なないといけなくなる、
という構図が今回は反復されてゆきます。
男5人のお芝居というと、
ベケットの「ゴドーを待ちながら」があって、
それが1つのベースになっていることは間違いがなさそうです。
勝地涼さんと仲野太賀さんが中学の同級生で、
一緒にガソリンスタンドを経営したいという夢を持っていて、
それである施設の守衛をしているという設定なのですが、
その医療施設では死者を蘇らせるという怪しい実験をしていて、
先輩の守衛である光石研さんがそのことを勝地さんに吹き込むので、
それをきっかけにして仲野さんと勝地さんとの仲に亀裂が入り、
一方で仲野さんは施設の経営陣と交流を持つようになります。
誰かが死ななければ終わらない、
という不穏な空気が流れ、緊張が高まりますが、
作品の世界では、
誰がか舞台上ではない何処かで死んでも、
施設によって甦らされて帰って来る、
という可能性があるので、
台詞の中にもあるように、
こちら側で生きていると思っているのに、
実はあちら側に行ってしまっている、
という可能性もあるので、
話がややこしいのです。
如何にも岩松さんらしい、
とても観客には意地悪な設定です。
最初に太賀さんがカセットレコーダーに、
勝地さんへのメッセージを吹き込み、
ラストでそれが再生されないのと、
その前に意味ありげに太賀さんの後を追って、
勝地さんが外に出る場面があるので、
ははあ、ここで勝地さんが太賀さんを殺したのね、
というようには推察はされるのですが、
光石さんも同じではない可能性もありますし、
勝地さんと太賀さんが高校生の時に、
もう1人の中学の同級生が自殺して、
自分達も死んだと想定して、
人生を振り返るゲームをした、
というようなエピソードがあるので、
これは結局死人が過去を回想して、
未来を夢想しているだけではないのかしら、
と疑えば切りのない感じになっています。
岩松さんの劇作の中でも、
死のムードがかなり濃厚な作品の1つだと思います。
キャストは5人ともとても安定感があり、
それぞれにきちんと演技の見せ場があり、
それなりに熱量を持って芝居の出来る余地があるので、
内容のわからなさと居心地の悪さはありますが、
演劇の興趣を味合わせてはくれます。
岩松さんの作品としては、
入門編としてはややハードルが高いのですが、
それほどストレスなく完走出来るタイプの作品だと思います。
感性を研ぎ澄ませて鑑賞し、
自分なりの解釈をすればいいのだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

岩松了さんの新作が、
今下北沢の本多劇場で上演されています。
これはキャストは男性5人だけで、
休憩はないトータル2時間10分ほどのお芝居です。
ラス前から始まり、
過去に戻るとほぼ時系列で進み、
最後にオープニングの少し後に達する、
という構成です。
それを故障したテープレコーダーが修復される、
というディテールで示すのがクレヴァーな仕掛けです。
岩松さんのお芝居も色々な傾向のものがあるのですが、
今回は特定の人間関係の力学を掘り下げてゆくうちに、
次第に生と死との境界が不鮮明になっていって、
最終的には誰が生きていて誰が死んでいるのか、
良く分からない感じになってゆく、
という最近割合多いテーマの作品です。
それから男2人の友情と、
それがもう1人の男によって亀裂を生じ、
結果的にそのうちの1人が死なないといけなくなる、
という構図が今回は反復されてゆきます。
男5人のお芝居というと、
ベケットの「ゴドーを待ちながら」があって、
それが1つのベースになっていることは間違いがなさそうです。
勝地涼さんと仲野太賀さんが中学の同級生で、
一緒にガソリンスタンドを経営したいという夢を持っていて、
それである施設の守衛をしているという設定なのですが、
その医療施設では死者を蘇らせるという怪しい実験をしていて、
先輩の守衛である光石研さんがそのことを勝地さんに吹き込むので、
それをきっかけにして仲野さんと勝地さんとの仲に亀裂が入り、
一方で仲野さんは施設の経営陣と交流を持つようになります。
誰かが死ななければ終わらない、
という不穏な空気が流れ、緊張が高まりますが、
作品の世界では、
誰がか舞台上ではない何処かで死んでも、
施設によって甦らされて帰って来る、
という可能性があるので、
台詞の中にもあるように、
こちら側で生きていると思っているのに、
実はあちら側に行ってしまっている、
という可能性もあるので、
話がややこしいのです。
如何にも岩松さんらしい、
とても観客には意地悪な設定です。
最初に太賀さんがカセットレコーダーに、
勝地さんへのメッセージを吹き込み、
ラストでそれが再生されないのと、
その前に意味ありげに太賀さんの後を追って、
勝地さんが外に出る場面があるので、
ははあ、ここで勝地さんが太賀さんを殺したのね、
というようには推察はされるのですが、
光石さんも同じではない可能性もありますし、
勝地さんと太賀さんが高校生の時に、
もう1人の中学の同級生が自殺して、
自分達も死んだと想定して、
人生を振り返るゲームをした、
というようなエピソードがあるので、
これは結局死人が過去を回想して、
未来を夢想しているだけではないのかしら、
と疑えば切りのない感じになっています。
岩松さんの劇作の中でも、
死のムードがかなり濃厚な作品の1つだと思います。
キャストは5人ともとても安定感があり、
それぞれにきちんと演技の見せ場があり、
それなりに熱量を持って芝居の出来る余地があるので、
内容のわからなさと居心地の悪さはありますが、
演劇の興趣を味合わせてはくれます。
岩松さんの作品としては、
入門編としてはややハードルが高いのですが、
それほどストレスなく完走出来るタイプの作品だと思います。
感性を研ぎ澄ませて鑑賞し、
自分なりの解釈をすればいいのだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「ONODA 一万夜を越えて」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

1974年までフィリピンのルバング島のジャングルで、
最後の日本兵としてゲリラ戦を展開し、
その後日本に戻って当時大きな話題となった、
小野田寛郎さんの1974年までの生涯を描いた作品ですが、
フランスのアルチュール・アラリ監督がメガホンを取り、
フランス、ドイツ、日本などの合作となっています。
これは3時間弱と長いですし、
どんなものかなあと思っていたのですが、
観て良かったと思いました。
あまり小野田さんのことを知らなかったので、
その人生に魅せられましたし、
終戦後の経過も、
戦争の混乱から1つの部隊のみが残り、
それがまた4人だけに減って、
最後は1人になるという段取りが、
とても丁寧に描かれていて説得力がありました。
最後かつての上官と対峙するところでは、
掛け値なしに心が震えました。
素晴らしい場面だったと思います。
勿論かなり脚色はありそうで、
事実そのままという内容ではないのですが、
1つの物語としての完成度は高く、
それでいてフィクションを超えて、
強く心に訴え掛け、考えさせる部分のある映画でした。
これはヨーロッパ映画で良かったと思うのですね。
日本映画としては映画化は無理な素材なんですね。
小野田さん自体の評価に議論がありますし、
何よりフィリピンで住民を何人も殺しているんですね。
その生い立ちや性格にも特異な部分がありますし、
それをそのまま日本で映画化は出来ないですよね。
それを隠して綺麗事にすれば、
それはもう嘘だらけのゴミ映画になってしまいます。
外国映画でフランス人の監督であったからこそ、
現実にかなり寄せた物語が、
実現出来たのです。
ほぼ全員日本人キャストですが、
人気ではなく役柄優先でオーディションされたことの分かる、
とても説得力のあるメンバーで、
しっかり丸坊主にもしていますし、
演技の質感もとてもリアルです。
ジャングルの自然描写は、
これはもうヨーロッパ映画なんですね。
「アギーレ神の怒り」を思い浮かべましたが、
その光と闇の感じや空気感が、
日本映画のそれとはまるで違うのです。
これもフィリピンのジャングルという異国の感じを、
醸し出すのに大きな影響を与えていたと思います。
主役は青年期を遠藤雄弥さんが、
後半を津田寛治さんが演じたのですが、
お2人ともこの映画に出演したことが、
そのキャリアの中でも勲章になったことが間違いがない、
という熱演です。
上官を演じたイッセー尾形さんがまた良かったですよね。
ちょっと1974年の場面は高齢を演じて欲しかった、
という気はするのですが、
陸軍中野学校の教官での、
話を続けるうちに狂気が籠もるような部分は、
イッセーさんならではの凄味がありました。
あの歌の場面、抜群でしたね。
日本映画はフランス人との仕事は、
比較的相性がいいですね。
これがハリウッド製だと、
今でもヘンチクリンな映画にしかならないんですね。
そうは見せなくても、結局差別意識はありますしね。
フランス人が差別しない訳では勿論ないと思うのですが、
これはもう相性なのかな、と思います。
日本人監督のフランス映画も、
意外に良いことが多いのです。
そんな訳でとても面白くて、
とても感動的で考えさせる、
素晴らしいヨーロッパ製日本映画で、
映画ファンには是非観て頂きたい今年必見の1本だと思います。
多分皆さんの予想より数段面白いですよ。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

1974年までフィリピンのルバング島のジャングルで、
最後の日本兵としてゲリラ戦を展開し、
その後日本に戻って当時大きな話題となった、
小野田寛郎さんの1974年までの生涯を描いた作品ですが、
フランスのアルチュール・アラリ監督がメガホンを取り、
フランス、ドイツ、日本などの合作となっています。
これは3時間弱と長いですし、
どんなものかなあと思っていたのですが、
観て良かったと思いました。
あまり小野田さんのことを知らなかったので、
その人生に魅せられましたし、
終戦後の経過も、
戦争の混乱から1つの部隊のみが残り、
それがまた4人だけに減って、
最後は1人になるという段取りが、
とても丁寧に描かれていて説得力がありました。
最後かつての上官と対峙するところでは、
掛け値なしに心が震えました。
素晴らしい場面だったと思います。
勿論かなり脚色はありそうで、
事実そのままという内容ではないのですが、
1つの物語としての完成度は高く、
それでいてフィクションを超えて、
強く心に訴え掛け、考えさせる部分のある映画でした。
これはヨーロッパ映画で良かったと思うのですね。
日本映画としては映画化は無理な素材なんですね。
小野田さん自体の評価に議論がありますし、
何よりフィリピンで住民を何人も殺しているんですね。
その生い立ちや性格にも特異な部分がありますし、
それをそのまま日本で映画化は出来ないですよね。
それを隠して綺麗事にすれば、
それはもう嘘だらけのゴミ映画になってしまいます。
外国映画でフランス人の監督であったからこそ、
現実にかなり寄せた物語が、
実現出来たのです。
ほぼ全員日本人キャストですが、
人気ではなく役柄優先でオーディションされたことの分かる、
とても説得力のあるメンバーで、
しっかり丸坊主にもしていますし、
演技の質感もとてもリアルです。
ジャングルの自然描写は、
これはもうヨーロッパ映画なんですね。
「アギーレ神の怒り」を思い浮かべましたが、
その光と闇の感じや空気感が、
日本映画のそれとはまるで違うのです。
これもフィリピンのジャングルという異国の感じを、
醸し出すのに大きな影響を与えていたと思います。
主役は青年期を遠藤雄弥さんが、
後半を津田寛治さんが演じたのですが、
お2人ともこの映画に出演したことが、
そのキャリアの中でも勲章になったことが間違いがない、
という熱演です。
上官を演じたイッセー尾形さんがまた良かったですよね。
ちょっと1974年の場面は高齢を演じて欲しかった、
という気はするのですが、
陸軍中野学校の教官での、
話を続けるうちに狂気が籠もるような部分は、
イッセーさんならではの凄味がありました。
あの歌の場面、抜群でしたね。
日本映画はフランス人との仕事は、
比較的相性がいいですね。
これがハリウッド製だと、
今でもヘンチクリンな映画にしかならないんですね。
そうは見せなくても、結局差別意識はありますしね。
フランス人が差別しない訳では勿論ないと思うのですが、
これはもう相性なのかな、と思います。
日本人監督のフランス映画も、
意外に良いことが多いのです。
そんな訳でとても面白くて、
とても感動的で考えさせる、
素晴らしいヨーロッパ製日本映画で、
映画ファンには是非観て頂きたい今年必見の1本だと思います。
多分皆さんの予想より数段面白いですよ。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
乳製品の補充の高齢者骨折予防効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2021年10月20日ウェブ掲載された、
乳製品の使用による高齢者の転倒骨折予防効果についての論文です。
高齢者の転倒による骨折は、
寝たきりへの移行の大きな要因で、
その多くは大腿骨頸部骨折によるものです。
骨量が低下し骨が脆弱になっている高齢者では、
躓いて足を踏ん張っただけでも、
そうした骨折が簡単に起こってしまうのです。
この転倒や骨折の予防として、
これまで主に試みられてきたのがカルシウムの補充です。
ただ、カルシウムのみの補充は、
最近の臨床データではあまり良い結果がなく、
むしろ高齢者のトータルな予後に、
悪影響を与えたという報告もあります。
そこで栄養学的観点から検証されているのが、
カルシウムとタンパク質を、
同時に補充するという考え方です。
今回の研究はオーストラリアにおいて、
60の高齢者施設を登録して、
それをくじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日700㎎のカルシウムと体重1キロ当たり0.9グラムのタンパク質を含む、
通常の食事を継続し、
もう一方はそれに加えて、
牛乳、チーズ、ヨーグルトの乳製品を強化して、
カルシウムは1日1142㎎、タンパク質は体重1キロ当たり1.1グラムを維持し、
2年間の経過観察を施行しています。
その結果、
カルシウムとタンパク質を強化した施設は、
通常の施設と比較して、
トータルな骨折のリスクが33%(95%CI:0.48から0.93)、
大腿骨頸部骨折のリスクが46%(95%CI:0.35から0.83)、
転倒のリスクが11%(95%CI:0.78から0.98)、
それぞれ有意に低下していました。
このリスクの低下は試験開始後3か月で認められ、
死亡リスクについては有意な差はありませんでした。
このように、
施設間の比較で個々の入居者の比較ではなく、
その点のバイアスは否定できないのですが、
栄養療法のみで、
かなり明確な転倒骨折リスクの差が見られたことは、
とても興味深い結果で、
今後より詳細な検証に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2021年10月20日ウェブ掲載された、
乳製品の使用による高齢者の転倒骨折予防効果についての論文です。
高齢者の転倒による骨折は、
寝たきりへの移行の大きな要因で、
その多くは大腿骨頸部骨折によるものです。
骨量が低下し骨が脆弱になっている高齢者では、
躓いて足を踏ん張っただけでも、
そうした骨折が簡単に起こってしまうのです。
この転倒や骨折の予防として、
これまで主に試みられてきたのがカルシウムの補充です。
ただ、カルシウムのみの補充は、
最近の臨床データではあまり良い結果がなく、
むしろ高齢者のトータルな予後に、
悪影響を与えたという報告もあります。
そこで栄養学的観点から検証されているのが、
カルシウムとタンパク質を、
同時に補充するという考え方です。
今回の研究はオーストラリアにおいて、
60の高齢者施設を登録して、
それをくじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日700㎎のカルシウムと体重1キロ当たり0.9グラムのタンパク質を含む、
通常の食事を継続し、
もう一方はそれに加えて、
牛乳、チーズ、ヨーグルトの乳製品を強化して、
カルシウムは1日1142㎎、タンパク質は体重1キロ当たり1.1グラムを維持し、
2年間の経過観察を施行しています。
その結果、
カルシウムとタンパク質を強化した施設は、
通常の施設と比較して、
トータルな骨折のリスクが33%(95%CI:0.48から0.93)、
大腿骨頸部骨折のリスクが46%(95%CI:0.35から0.83)、
転倒のリスクが11%(95%CI:0.78から0.98)、
それぞれ有意に低下していました。
このリスクの低下は試験開始後3か月で認められ、
死亡リスクについては有意な差はありませんでした。
このように、
施設間の比較で個々の入居者の比較ではなく、
その点のバイアスは否定できないのですが、
栄養療法のみで、
かなり明確な転倒骨折リスクの差が見られたことは、
とても興味深い結果で、
今後より詳細な検証に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
禁煙治療の併用と期間延長の効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA誌に2021年10月19日ウェブ掲載された、
禁煙治療のバリエーションを検証した論文です。
禁煙の薬物治療としては、
バレニクリン(チャンピックス)と、
ニコチンパッチが保険適応となっています。
その使用期間は12週間と定められています。
ただ、この治療では禁煙に成功しなかったり、
すぐに喫煙が再開されるような事例も、
少なからず存在しているのが実際です。
そのためにバレニクリンとニコチンパッチを併用したり、
処方の使用期間をより延長するような試みが、
臨床試験として行なわれています。
ただ、その結果はまちまちで一定はしていません。
今回の臨床試験はアメリカにおいて、
バレニクリン単独の12週間の通常治療と、
治療期間の24週間への延長、
及びニコチンパッチの併用療法とを比較検証しています。
対象は1日5本以上の喫煙をしている、
トータル1251名です。
その結果、
通常治療と比較して、
ニコチンパッチとの併用も、
治療期間の24週への延長も、
開始52週の時点での禁煙成功率に、
有意な変化をもたらしませんでした。
禁煙治療の成功率を高めるための試行錯誤は、
今のところ目立った成果には、
結び付いていないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA誌に2021年10月19日ウェブ掲載された、
禁煙治療のバリエーションを検証した論文です。
禁煙の薬物治療としては、
バレニクリン(チャンピックス)と、
ニコチンパッチが保険適応となっています。
その使用期間は12週間と定められています。
ただ、この治療では禁煙に成功しなかったり、
すぐに喫煙が再開されるような事例も、
少なからず存在しているのが実際です。
そのためにバレニクリンとニコチンパッチを併用したり、
処方の使用期間をより延長するような試みが、
臨床試験として行なわれています。
ただ、その結果はまちまちで一定はしていません。
今回の臨床試験はアメリカにおいて、
バレニクリン単独の12週間の通常治療と、
治療期間の24週間への延長、
及びニコチンパッチの併用療法とを比較検証しています。
対象は1日5本以上の喫煙をしている、
トータル1251名です。
その結果、
通常治療と比較して、
ニコチンパッチとの併用も、
治療期間の24週への延長も、
開始52週の時点での禁煙成功率に、
有意な変化をもたらしませんでした。
禁煙治療の成功率を高めるための試行錯誤は、
今のところ目立った成果には、
結び付いていないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。