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死前喘鳴に対するブチルスコポラミン臭化物の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療とレセプト作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
死前喘鳴.jpg
JAMA誌に2021年10月5日掲載された、
死の直前の呼吸症状に対する抗コリン剤の効果についての論文です。

老衰などによる自然の死の、
数日から数時間前くらいに起こる変化として、
呼吸に伴い、
咽喉がゼーゼー、ゴロゴロと音を立てる、
という症状が高率に起こります。

これを死前喘鳴(death rattle)と呼んでいます。

死前喘鳴は呼吸機能の低下に伴って、
気道に痰などが溜まり、
それが呼吸に伴って音を立てることにより生じる、
と考えられています。

こうした症状が起こる時には、
本人は意識がないか、
あってもかなり意識レベルは低下している状態なので、
実際にはそれほど苦しくはないのかも知れません。

しかし、ベッドサイドで見ている家族や知人などにとっては、
とても苦しそうで、
見ているのがつらい症状であることは間違いがありません。

従って、
勿論その患者さんの予後に、
大きな悪影響を与えるような方法ではいけませんが、
それほどの影響は与えずに、
その苦しそうな呼吸を緩和するような方法があるとすれば、
それは重要で有益な医療行為の1つであると、
そう言って間違いではないと思います。

吸引して痰と取るのは1つの方法ですが、
その症状に対する効果は、
あまり明確には証明されていませんし、
吸引自体が本人にとっては苦しい治療ですから、
本末転倒であるようにも思えます。

こうした場合に欧米で比較的広く行われているのが、
抗コリン剤と呼ばれる薬の使用です。

抗コリン剤は腹痛や痰がらみなどの時に、
広く使用されている薬で、
痰などの分泌物の産生を抑え、
鎮静的な作用もあるので、
その使用は理に適っているのですが、
その一方で心臓に負担を掛けたり、
排尿障害などの弊害も指摘されています。

この抗コリン剤の有効性についても、
これまであまり実証的なデータが存在していませんでした。

今回の研究はオランダの6か所の病院において、
終末期でホスピスに入院した162名の患者を登録し、
患者にも主治医にも分からないようにくじ引きで2つの群に分けると、
一方は抗コリン剤であるブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン)の、
20㎎の注射薬を皮下注射で1日4回定期使用し、
もう一方で偽薬を使用して、
死前喘鳴に対する有効性を比較したものです。

その結果、
中等度以上の死前喘鳴が4時間間隔で2回検出された頻度は、
偽薬群では27%であったのに対して、
抗コリン剤使用群では13%で、
注射は有意に14%死前喘鳴を低下させていました。
有害事象についても、
問題となるようなものは認められませんでした。

こうした研究は今はまだ軽視されがちですが、
高齢化社会の進行に伴い、
「安らかに死ぬための医療」の重要性は、
今後より高まることは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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