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院内心停止に対するバゾプレッシンとステロイドの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医活動で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バゾプレッシンとステロイドの心停止への有効性.jpg
JAMA誌に2021年9月29日ウェブ掲載された、
病院内での急な心停止の治療についての論文です。

病院には様々な病気の患者さんが入院していて、
そのため予期せぬ急変も稀ではありません。

病院で入院中に起こる心停止は、
デンマークでは年間2000例に、
アメリカでは年間30万例に起こっている、
というデータが上記文献には紹介されています。
心停止の予後は決して良いものではなく、
アメリカの2017年の統計では、
その救命率はおよそ25%と報告されています。

そこで通常の治療に加えて、
救命率を上げるための付加的な方法が模索されています。

心停止時には、
強心剤のエピネフリンが使用されますが、
それに加えて抗利尿ホルモンのバゾプレッシンと、
ステロイド剤を同時に使用することで、
救命率を上げられる可能性が以前から指摘されています。

抗利尿ホルモンのバゾプレッシンを注射することにより、
血管は強く収縮し、そのためショックの補助的な治療として、
その使用は行なわれている経緯があります。
ステロイドはストレスホルモンとも呼ばれ、
ショックなど身体に強いストレスが加えられた時には、
血液中のステロイド濃度は上昇し、
それが代謝の調節や炎症の抑制など、
ストレスからの回復に役立つと考えられています。
実際心停止時のステロイド濃度が高いほど、
救命率が高かった、というようなデータも存在しています。

ただ、これまでに行なわれた臨床試験において、
バゾプレッシンとステロイドの使用が、
明確に心停止の救命率を上昇させたとする、
実証的なデータは存在していません。

今回の研究はデンマークの10カ所の病院において、
院内で心停止を来した患者を登録し、
主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はエピネフリンの使用時に、
同時に20単位のバゾプレッシンと、
ステロイドのメチルプレドニゾロン40mgを、
静脈内に投与することを繰り返し、
もう一方は代わりに偽の注射薬を使用して、
その予後を比較検証しています。

トータルで501名の患者が登録され解析されました。
バゾプレッシンとステロイド使用群の42%、
偽注射群の33%が心拍を再開していて、
バゾプレッシンとステロイドの使用は、
短期的な心拍の再開を、
1.3倍(95%CI:1.03から1.63)有意に増加させていました。
一方でその後の後遺症の発症率や、
心停止後30日の時点での生命予後については、
両群で明確な差は認められませんでした。

このように、
今回の臨床試験では、
心停止後の心拍の再開に、
通常治療へのバゾプレッシンとステロイドの上乗せの、
一定の有効性が確認されました。
その一方で生命予後には明確な差はなく、
今後より多角的な検証が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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