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認知症の問題行動に対するミルタザピンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ミルタザピンの認知症への効果.jpg
Lancet誌に2021年10月23日掲載された、
認知症の問題行動に対する抗うつ剤の有効性を検証した論文です。

認知症においては、
物忘れなどと共に、
意味もなく悪態を吐くなどの攻撃的言動や、
じっとしていられない、何にでも反抗するなど、
社会的に不適切な言動がしばしば認められます。
これをAgitationと呼んでいます。

Agitationは、
その患者さんを介護する家族や介護職員などにとって、
非常なストレスになります。

現行このような問題行動に、
確実に有効とされる薬物療法はなく、
対処の基本は患者さんの緊張を和らげるような、
非薬物療法です。
ただ、それは手間と時間の掛かることですし、
その有効性も確実ではありません。

そこで様々の薬物療法が試みられていますが、
現状明確に有効性の確認された薬剤はありません。

今回の研究はイギリスの複数施設において、
ミルタザピン(商品名リフレックスなど)という、
鎮静作用の強い抗うつ剤の、
Agitationへの有効性を検証したものです。

対象者はアルツハイマー型認知症の確定もしくは疑い事例で、
Agitationの症状が認められ非薬物療法に奏功しないトータル204名の患者で、
患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方にはミルタザピンを1日45㎎使用し、
もう一方には偽薬を使用して、
12週間の経過観察を行なっています。

その結果、
CMAIという指標で比較されたAgitationの症状尺度には、
ミルタザピン群と偽薬群とで明確な差はなく、
ミルタザピンの有効性は確認されませんでした。
有害事象にも有意な差は認められませんでしたが、
偽薬群では1例に対して、ミルタザピン群では7例と、
16週までの観察ではミルタザピン群で死亡事例が多く確認されました。
その内訳は、認知症、心不全、肺炎など様々で、
薬の使用との明確な因果関係は確認されませんでした。

このように、
ミルタザピンは認知症の問題行動に、
今回の試験では有効ではなく、
むしろ生命予後に悪影響を与える可能性が示唆される、
という結果に終わりました。

認知症の問題行動への有効な薬物治療は、
まだ確立されたものはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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