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唾液のRT-PCRの感度と適応範囲 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
唾液のPCRの感度と適用範囲.jpg
JAMA誌に2021年9月21日掲載されたレターですが、
唾液のRT-PCR検査を、
鼻腔の検査と比較した内容です。

新型コロナウイルス感染症の診断において、
スタンダードな検査は、
RT-PCR検査によるウイルス遺伝子の検出であることは、
間違いがありません。

この検査は鼻咽腔から検体を採取することが、
世界的に標準的な手技ですが、
最近では唾液の検査が簡便で患者に負担が少ないことより、
日本では専ら行われています。

過去の検証において、
有症状の感染の発症から9日以内くらいの期間においては、
唾液による検査は鼻咽腔からの検体採取と、
ほぼ同等の感度があることが報告されています。

ただ、無症状の感染においても、
同様の有効性があるかどうかについては、
それほど明確な知見があるという訳ではありません。

今回の検証はアメリカにおいて、
濃厚接触者の検査を鼻咽腔と唾液の両方で複数回施行し、
その感度を比較したものです。

404名の対象者に、
889回鼻咽腔と唾液の両方のRT-PCR検査を施行し、
その比較を行なったところ、
有症状の感染の症状出現から1週間の期間においては、
鼻咽腔と比較した唾液の感度は、
88.2%(95%CI:77.6 から95.1)であったのに対して、
無症状の感染においては、
58.2%(95%CI:46.3から69.5)という低率でした。

これは無症状感染の場合に、
鼻咽腔の検査では陽性であっても、
唾液の検査ではそのうちの58.2%しか、
陽性ではなかった、ということを意味しています。

発症から2週間目の検査においても、
有症状感染での鼻咽腔の検査と比較しての唾液検査の感度は、
83.0%(95%CI:70.6から91.8)と高率でしたが、
無症状では52.6%(95%CI:42.6から62.5)と低率でした。

このように、
有症状の新型コロナウイルス感染症では、
発症後2週間くらいの時期において、
唾液の検査は鼻咽腔の検査とそれほど遜色のない精度を持っていますが、
無症状でウイルス量が少ないような場合には、
その信頼性はあまりなく、
唾液の検査で陰性であっても、
無症状の感染は否定出来ないということが分かります。

無症状の濃厚接触者のRT-PCR検査は、
原則唾液ではなく鼻咽腔から検体採取することが、
今回の結果からは妥当であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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抗菌剤の適正使用のための炎症反応と超音波検査の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
プロカルシトニンとエコーによる抗菌剤減量.png
British Medical Journal誌に、
2021年9月21日ウェブ掲載された、
抗菌剤の適正使用のための検査についての論文です。

抗菌剤の濫用が問題となり、
その適正使用が世界的に求められています。

不必要な抗菌剤は効果がないばかりか、
副作用や有害事象のみをもたらす点で有害であり、
抗菌剤の耐性菌を増やす結果にもなるからです。

抗菌剤の使用機会として多い病態の1つが、
咳や呼吸困難、発熱などの、
下気道感染症状です。

こうした症状は気管支炎や肺炎が疑われ、
抗菌剤の処方が行われることが多いのですが、
上記文献の記載によると、
そうした患者のうち抗菌剤の必要な肺炎患者は、
5から12%に過ぎないという報告もあるようです。

問題は症状と簡単な検査で肺炎患者を選択し、
そうした患者のみに必要な抗菌薬を使用するには、
どのようにすれば良いのか、
という点にあります。

ここで1つの考え方は、
一般のクリニックの外来においても、
簡単に使用可能な検査を行ない、
そこでふるいに掛けることによって、
適正な抗菌剤の使用に結び付けよう、
というものです。

今回の検証においては、
その簡便な検査として、
プロカルシトニンという血液の炎症反応と、
超音波検査が活用されています。

プロカルシトニンは敗血症など重症感染症で陽性になることが多い、
血液の炎症反応の一種です。
超音波検査は以前は肺炎など肺疾患の診断には、
不向きであると考えられていましたが、
最近では熟練した医師や技師が施行すれば、
レントゲン検査に匹敵する診断能があると報告されています。

スイスの60カ所のプライマリケアの医療機関において、
急性の咳症状の患者さん、
トータル469名をくじ引きで3つの群に分けると、
最初の群はプロカルシトニンの迅速検査と超音波検査を併用、
次の群はプロカルシトニンの検査のみを施行、
最後の群は通常の診察により医師の判断で抗菌剤を使用して、
その後の経過と抗菌剤の適正使用の有無を比較検証しています。

その結果、
登録後28日の時点で抗菌剤が処方されているリスクは、
プロカルシトニンのみ使用群で40%に対して、
通常治療群では70%で、
統計的にはプロカルシトニンの使用により、
抗菌剤の処方は26%(95%CI:-0.41から-0.10)
有意に抑制されていました。
一方で14日後までにADLが制限された日数は、
プロカルシトニン使用群で3日に対して、
通常治療群では4日で、
その差は統計的に有意ではありませんでした。
そして、プロカルシトニンと超音波を併用しても、
プロカルトニン単独と比較して、
有意な抗菌剤の処方には結び付いていませんでした。

このようにプロカルシトニンを臨床に使用することにより、
抗菌剤の処方を4分の1程度減らす効果が確認されました。
その全ての処方が不適切なもの、
というように断定は出来ないと思いますが、
少なくとも症状経過には大きな影響は与えていないと推測されます。
超音波検査をそこに併用しても、
明確な上乗せ効果は確認されませんでした。

今後こうした検証が多角的に行なわれることにより、
抗菌剤の適正使用に結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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末梢点滴ラインの交換時期と感染リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カテーテル交換のタイミングと感染リスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年9月17日ウェブ掲載された、
静脈のカテーテルの交換時期と、
それを介した感染リスクとの関連についての論文です。

静脈にカテーテルを挿入して、
そこから薬剤を注入したり、
水分や電解質を点滴するという医療行為は、
非常に一般的なものです。

短期的なものであれば、
一時的に血管を確保して、
薬液などを使用してからすぐに針を抜く、
抜き刺しのような方法が行われますが、
入院して継続的に点滴や注射が必要となる場合には、
留置針という維持可能なカテーテルを使用して、
それを持続的に静脈の中に維持します。

こうした医療行為は極めて一般的なもので、
その合併症や有害事象のリスクは少ないと考えられていますが、
カテーテルを介して細菌感染が起こり、
それが血液中に移行して、
敗血症のような重篤な感染を起こすことも、
皆無とは言えません。

こうしたカテーテルを介した感染の予防のためには、
定期的にカテーテルの交換を行うことが推奨されています。

しかし、それをどのくらいの間隔で行なうべきか、
というような点については、
あまり実証的なデータがある訳ではありません。

1つの考え方は、
たとえば3、4日に一度という決まったペースで、
静脈の穿刺部位を変え、カテーテルを交換する、
という方法を取ることで、
もう1つの考え方は、
特に交換の間隔は決めず、
点滴やカテーテルの状態をみて、
問題があればその都度交換する、
という方法を取ることです。

そのどちらが、
よりカテーテル感染の予防に繋がるかについては、
あまり実証的な研究がこれまで行われていませんでした。

今回の研究はスイスの10か所の専門施設において、
ある時期には96時間おきに、
末梢静脈カテーテルの交換を行い、
別の時期には今度は主治医や看護師の判断で交換を行い、
その後は再び96時間毎の定期的交換の方針に切り替えて、
どの時期にカテーテルを介した血液感染が多かったかを、
比較検証しているものです。

トータルで412631件の末梢静脈カテーテル事例を解析したところ、
医師や看護師の判断で交換を行なった時期には、
96時間毎に交換した時期と比較して、
血液の感染が7.20倍(95%CI:3.65から14.22)と有意に増加していました。
その後再び96時間毎の交換に切り替えると、
感染リスクの有意な増加はなくなりました。

このように、
医師や看護師の判断でカテーテル交換を行うと、
結果的にはより交換の間隔は伸び、
それに伴って明確にカテーテルを介した感染リスクは増加していました。

静脈カテーテルの交換は、
時期を決めて定期的に行うことが、
感染リスクを下げるためには必要な方法であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対する抗体療法や血清療法の有効性(2021年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ロナプリーブの有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年9月23日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
中和抗体をなどを利用した治療法の有効性についての
メタ解析の論文です。

新型コロナウイルス感染症に対する治療薬は、
多くの候補薬が名乗りを挙げ、
臨床試験などが行われていますが、
今のところ決め手となるような治療薬は開発されていません。

重症肺炎を来したような事例においては、
対処療法に加えて、
デキサメサゾンなどのステロイド剤と、
抗ウイルス剤のレムデシビルが、
一定の予後改善効果が認められ、
日本でも標準治療として使用されています。

ただ、比較的軽症の事例において、
その予後を改善したり、
入院や集中治療を要するような、
重症化を阻止するような治療法は確立していません。

この軽症から中等症の患者への、
重症化予防の治療として、
最近日本でも使用が開始されているのが、
「抗体カクテル療法」です。

商品名がロナプリーブというこの治療薬は、
カシリビマブとイムベビマブという、
それぞれ異なる構造を持ち、
新型コロナウイルスの抗原蛋白に結合して、
その増殖を阻害する作用の抗体を、
2種類混合した薬剤です。

2種類混合して使用するのは、
1種類ではその結合部位に変異が起こり、
有効性がなくなる可能性があるからです。

こうした中和抗体製剤としては、
ロシュ社が開発したロナプリーブ以外に、
グラクソ社のソトロビマブという単独抗体製剤、
イーライリリー社のバムラニビマブという単独抗体製剤と、
バムラニビマブとエテセビマブという、
2種の抗体のカクテル製剤があります。

それ以外にもう少し原始的な方法ですが、
血清療法と言って、
新型コロナウイルス感染症から回復した患者の血清を、
そのまま投与する方法や、
そこから抽出したガンマグロブリンを使用する方法、
更には中和抗体のみを取り出して使用する方法、
なども行われています。

こうした方法は主に緊急的に使用されているもので、
その本質はそこに含まれている、
新型コロナウイルスに対する中和抗体を利用する、
というものですから、
その安定供給の面でも、
予期せぬ副反応や有害事象の予防という面でも、
先にご紹介した中和抗体製剤が優れていて、
その中でも2種類以上の抗体を混合した、
カクテル製剤の方が、
変異株などにも有効性が期待出来るのでは、
と想定はされます。

ただ、実際にはこうした治療を直接比較したようなデータは存在していません。

今回の研究では、
リビング・システマティックレビューとネットワークメタ解析、
という最新の手法を用いて、
抗体療法や血清療法の有効性を比較しています。

2021年7月21日までに発表された、
トータル47の臨床試験データをまとめて解析し比較した結果、
中和抗体のカシリビマブとイムデビマブの合剤(ロナプリーブ)は、
軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症の患者の入院リスクを、
71%(95%CI:0.17から0.47)有意に低下させていました。
これは中等度の信頼性を持つ結果です。
中和抗体単独製剤のバムラニビマブは、
同様のリスクを76%(95%CI:0.06から0.86)、
バムラニビマブとエテセビマブの合剤は、
同様のリスクを69%(95%CI:0.11から0.81)、
ソトロビマブの単独製剤は、
同様のリスクを83%(95%CI:0.04から0.57)、
それぞれ有意に低下されていましたが、
これはいずれも信頼性は低い結果です。

ロナプリーブのみが、
抗体陰性の感染者の死亡リスクを低下させる、
というデータを有していますが、
事例が少ないために実証されたとまでは言えないもので、
それ以外の抗体製剤は、
入院リスクの低減以外の有効性は確認されていません。

この中和抗体製剤の入院予防効果は、
最初から入院を要するような、
重症事例においては確認されていません。

また、中和抗体製剤以外の血清療法や免疫グロブリンなどの治療は、
入院予防効果を含めて、
明確な治療の有効性が確認されませんでした。

このように、
現状軽症から中等症で、
診断の時点で酸素療法や入院の必要性のない、
新型コロナウイルス感染症に対して有効な治療は、
中和抗体製剤のみで、
その中でも抗体カクテルのロナプリーブは、
限定的ながら死亡リスクの低減の可能性を示すデータがあります。

それ以外の治療については、
現時点で信頼の置ける有効性のデータはないと、
そう考えて大きな間違いはないようです。

今後はこの中和抗体療法を、
どのように効果的に活用するかが、
新型コロナウイルス感染症の治療において、
最も重要な論点の1つとなりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「スパイラル ソウ オールリセット」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スパイラル ソウ.jpg
ソリッド・シチュエーション・スリラーの、
先駆けで代表作とも言うべき「ソウ」シリーズの、
オリジナルの最新作が今ロードショー公開されています。

こうした映画は今はすぐに終わってしまうので、
慌てて映画館に足を運びました。

2017年に「ジグソウ:ソウ・レガシー」という作品が公開されて、
こちらは時間ネタのまずまずの力作で、
続編がありそうだったのですが、
今回の作品は前作の続編ではなく、
猟奇的でゲーム性のある殺人、
という設定のみに関連のある、
全くの新作となっています。

今回は過去の悪事に絡んで、
悪徳警官が次々と猟奇的な殺人鬼に殺される、
という典型的な猟奇的警察小説のパターンです。

全体が90分強と適度に短い点が好ましく、
映画ならではの過激な残酷描写もなかなかです。
一応意外な犯人が登場しますが、
テレビの刑事物にも、警察小説にも、
類似例が複数あるようなネタなので、
もう少し工夫が欲しいところではありました。

それほど現代的な素材ではありませんし、
あまり新味はないのですが、
こうしたホラー・ミステリーのお好きな方であれば、
まずは及第点と思えるレベルには、
仕上がっていたように思いました。
マニア向きです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「砂の女」(安部公房原作 ケラ演出版舞台) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石原が、
午後2時以降は須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
砂の女.jpg
ケラが奥さんの緒川たまきさんを主役にして、
上演する演劇シリーズの1作として、
安部公房の代表作の1つで、
勅使河原宏監督の映画も有名な「砂の女」を、
ほぼ原作通りに舞台化しました。

別役実さんの作品を思わせる寸劇的挿話や、
同じ場面を悪夢的に繰り返す、
天野天街演出的パートなどはオリジナルの入れ事ですが、
主役2人の場面はほぼ原作通りに再現されています。
オープニングとラストも原作通りです。

うーん、悪くはないのですが、
舞台にするにはちょっと地味な素材ですよね。
穴の中に閉じ込められた、という雰囲気は、
確かに良く出ているのですが、
暗くて動きのない話なので、
段々観ていてしんどくなってしまうのです。

それから「砂」を使っていないのですね。
シアタートラムのような劇場では、
おそらく無理であったのだと思うのですが、
この作品は「砂」が主役のようなものなので、
舞台上に「砂」があるべきではないかと感じました。
性的な雰囲気も、
女は妊娠する訳ですし、
もう少しリアルにないと、
作品として成立はしにくいかなと感じました。

そんな訳で、原作の雰囲気はそれなりに出ていたと思いますし、
主役2人の芝居も悪くなく、
いつもながら映像や音効の使い方も上手いなあ、
というようには思うのですが、
この原作を取り上げるのであれば、
もっと突っ込んだ男女の性の表現が必要であったと思いますし、
「砂」の感触もリアルにあるべきではなかったかと思います。
逆に言えばそうした要素なしにこの作品を演劇化するのは、
それほど意味のある試みではなかったように思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス肺炎の中期的な予後と肺機能 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナウイルス感染症の4か月後の肺機能.jpg
European Respiratory Journal誌に、
2021年9月16日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス肺炎の発症4か月後の肺機能を解析した論文です。

新型コロナウイルス感染症は、
その流行初期の段階では、
新型コロナウイルス肺炎と呼ばれていました。
つまり、重症のウイルス肺炎を起こすことが、
最大の特徴であると考えられていたのです。

その後肺炎以外に、
全身の血管病変など、
多くの病態が生じうることが明らかになり、
そうした呼び方自体はあまり使用されなくなりましたが、
重症肺炎が患者に最も深刻な影響を与える、
という事実には違いはありません。

新型コロナウイルス感染症は、
また治癒後にも後遺症と呼ばれるような、
多くの症状が持続することが知られています。

この後遺症も多岐に渡りますが、
その中には肺炎による肺の器質性変化が、
その原因となっていることが、
少なからず認められています。

しかし、実際には新型コロナウイルスに起因する肺炎が、
その後中長期的にどのような影響を残すのかについては、
少数例の検証が行われているに過ぎません。

今回の検証はイタリアにおいて、
379名の新型コロナウイルス感染症の患者を、
その診断から4か月という時点で、
中期的な肺機能の予後を評価したものです。

379名の患者中、222名が肺炎を罹患し、
そのうちの60.8%に当たる135名が酸素療法を必要としていました。
診断から4か月の時点で、
肺炎を発症した患者は発症しなかった患者と比較して、
安静時の動脈血酸素飽和度が有意に低く、
歩行試験時の酸素飽和度も、
肺活量も有意な低下が認められていました。

このように新型コロナウイルス感染症に罹患して、
肺炎を発症した患者では、
発症から4か月が経過した段階においても、
肺機能の低下が一定程度は残存していることが確認されました。

これがどの程度長期持続するものなのか、
リハビリテーションを含め、
どのような対応を取ればこうした低下を食い止められるのか、
今後より詳細な検証の結果を待ちたいと思います。

東京のような日本の流行地域においては、
現状酸素の低下が認められるような患者でも、
肺炎の診断は自宅療養であれば明確には施行されず、
その予後についてもあまり科学的な検証や、
治療の評価が行われているとは思えません。

中長期的にも肺炎患者では肺に後遺症が残るものだとすれば、
たとえ症状が軽症で自宅療養で改善したとしても、
CTなどによる肺炎像の確認や、
肺機能検査の経過観察などは必須であると思います。

重症事例を救命することと、
隔離により感染拡大を防ぐことが、
医療の2本柱として機能しているのが現状ですが、
今後はこの病気の性質をより把握した上で、
中等症から軽症事例の評価や経過観察のあり方など、
科学的検証の元に、
しっかりとした指針が作成されるべき時期に、
来ているのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「マスカレード・ナイト」(鈴木雅之監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マスカレード・ナイト.jpg
東野圭吾さんのホテルを舞台にしたミステリー、
「マスカレード・ナイト」が、
前作「マスカレード・ホテル」に引き続き、
メインキャストはそのままに映画化され、
ロードショー公開されています。

これは東野圭吾さんとしては軽いタッチの、
風俗娯楽小説的なシリーズですが、
ともかく軽くあっと言う間に読めてしまう、
そのリーダビリティの高さには感心します。

「マスカレード・ホテル」では、
犯人の設定が映像化は難しい性質のものだったのですが、
2019年公開の映画版は、
それをかなり忠実に映像化して、
なかなかのレベルに仕立て上げた、
その手際の見事さには結構感心しました。

今回の作品も先に原作を読んだのですが、
前作と比べるとかなりミステリー的な構成に凝っていて、
「あっ、結構力が入ってるじゃん」と思いました。
猟奇的な殺人鬼の犯人がいて、
それを脅そうと考える密告者がいて、
そこに利用された警察も三つ巴になって、
知能ゲームを繰り広げるという構成がとても複雑ですし、
新本格以降よくある技巧ですが、
その計画がまた途中から変更されることで、
状況がより複雑になるという仕掛けになっています。

間違いなくミステリーとしての純度は、
「マスカレード・ホテル」より上ですし、
最後に露わになる犯人の人格設定も魅力的です。

今回も犯人の設定の肝となる部分は、
映像化には不向きなものなので、
これをどう映像化するのかに最も興味がありました。

実際に観てみると、
その部分は今回は設定を変えて逃げていましたね。
まあ、仕方がないのかな、とは思いましたが、
せっかく前作ではあれだけ原作に寄せたのですから、
今回も踏ん張って欲しかったと、
その点は少し残念です。
それも半端に設定を残しているので、
何ですかね、
昔の天知茂の明智小五郎シリーズみたいな感じになって、
ラストはちょっと恥ずかしい感じもありました。

それから、
原作では5日くらいの話を、
映画は1日の話に圧縮していて、
確かにその方が緊迫感は増すのですが、
個々の人物の行動の不自然さが、
原作では数日掛けて気が付くので自然なのですが、
映画では1時間くらいで進行させるので、
ちょっと不自然になったという感はありました。

それでも、ミステリー映画としてはかなり頑張っていましたよね。

特にクライマックスの仮面舞踏会の場面は、
複雑な構成を極めて緻密に交通整理して、
かなりワクワクする場面になっていたと思います。

ところどころに、物凄くやぼったい設定があって、
「何じゃこりゃ、リアルじゃないな」と思った方も多いと思いますが、
その多くは原作通りなんですよね。
東野さんとしては、
多分読者サービスとしてのディテールだと思うのですが、
それが微妙にお間抜けな感じと古めかしい感じがあって、
映像化すると余計に微妙な感じになるのだと思います。
それはもう、映画の罪ではないのです。

キャストはなかなか豪華で、
もともとお正月映画だったのだと思うのですが、
そうした祝祭的な雰囲気はしっかり味わえます。

そんな訳で、
職人芸的なミステリー映画としては、
まずは楽しめる仕上がりになっていたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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低ナトリウム塩の心血管疾患予防効果(中国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
低ナトリウム塩の心血管疾患予防効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年9月14日掲載された、
低ナトリウム塩の心血管疾患予防効果についての論文です。

過度な塩分制限には異論もありますが、
現代人が塩分を必要以上に多く摂っていることは事実で、
1日10グラムを超えるような塩分の摂取が、
高血圧や脳卒中、虚血性心疾患、慢性腎臓病、
胃がんなどの病気のリスクを増加させることは、
多くの精度の高い疫学データや臨床データによって、
実証された事実です。

健康な食生活として、
そのため適度な減塩が重要であることは、
これも間違いがありません。

ただ、味覚というのは習慣的な部分が大きく、
また文化的な側面もあります。
昔の人間は今より運動量が多く、
塩分も多く喪失していました。
食事も保存の利くものが重宝されたので、
自ずと塩分濃度の高いものが好まれたのです。

それを変えることはなかなか困難です。

最近無理なく減塩を達成するための方法として、
注目されているのが「低ナトリウム塩」です。

これはどういうものかと言うと、
塩化ナトリウムが主体の通常の塩の、
一部を塩化カリウムに変えてしまいます。

そうすると、
通常の塩より、
ナトリウムは大きく減少して、
カリウムが増加する、
ということになります。

実は塩化カリウムも味としては塩辛く感じるので、
それほど違和感なく、
普通の食塩の代わりに使用することが出来るのですね。

カリウムはナトリウムの排泄を促すので、
ナトリウム自体の含有量が少ないことと、
ナトリウムの排泄が促されることの相乗効果で、
減塩効果がもたらされるということになります。

日本においても複数のメーカーから、
この低ナトリウム塩が販売されています。

それでは、通常の食塩をこの低ナトリウム塩にすることで、
どのくらいの健康効果が期待されるのでしょうか?

1つ危惧されるのは腎機能低下がある場合で、
進行した腎機能低下があるとカリウムの排泄が低下するので、
高カリウム血症になりやすく、
その段階では低ナトリウム塩を使用することで、
むしろ高カリウム血症が増悪する、
という可能性も否定出来ません。

今回の研究は中国の600の町において、
脳卒中の既往があるか、
60歳以上で高血圧のある、
20995名を登録し、
600の町をくじ引きで2つの群に振り分けると、
一方は通常の食塩を使用し、
もう一方は25%を塩化カリウムに置換した、
低ナトリウム塩を使用して、
平均で4.74年の経過観察を施行しています。
食事の塩分を切り替えて長期間の観察を行なうというのですから、
中国でないとちょっと無理、
という感じの研究デザインです。

その結果、
観察期間中の脳卒中の発症リスクは、
通常塩使用群では年間1000人当たり33.65件であったのに対して、
低ナトリウム塩使用群では29.14件で、
低ナトリウム塩使用により、
脳卒中の発症リスクは14%(95%CI:0.77から0.96)有意に低下していました。

また、心血管疾患の発症リスクは。
通常塩使用群では年間1000人当たり56.29件に対して、
低ナトリウム塩使用群では49.09件で、
低ナトリウム塩使用により、
心血管疾患の発症リスクは13%(95%CI:0.80から0.94)、
こちらも有意に低下していました。

更に、総死亡のリスクについても、
通常塩使用群では年間1000人当たり44.61件に対して、
低ナトリウム塩使用群では39.28件で、
低ナトリウム塩使用により、
総死亡のリスクも12%(95%CI:0.82から0.95)有意に低下していました。

一方で低ナトリウム塩による高カリウム血症の発症リスクについては、
両群で有意な違いは認められませんでした。

今回の検証では、
かなり明確に低ナトリウム塩の健康効果が実証されていると思います。
特にアジアで多い脳卒中の予防効果が、
明確に示されている点は注目すべき点だと思います。

ただ、個別の住民を振り分けている訳ではなく、
町自体を振り分けているという点がやや弱く、
町毎の他の環境や特性が、
結果に影響している可能性も否定は出来ません。

今後他の国は地域においても、
同様の研究が行なわれ、
明確な結果が出ることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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医師の働き方と入院患者の予後 [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パートタイムの医師のリスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年9月13日ウェブ公開された、
医師の働き方と患者の予後との関連についての論文です。

こうした論文は欧米では結構あるのですが、
いたって通常通りの分析が行われている一方で、
その題材自体はユーモアを感じるもので、
何処まで真面目なのか分からないような、
「ゆるい」印象もある内容です。

医者の働き方はブラックで、
無給で残業をさせるのも当たり前、
徹夜の当直の次の日も朝から通常に勤務するのが当たり前、
というようなところがありました。

ただ、最近では働き方改革というようなことが、
医療の世界でも言われるようになり、
こうした法律無視のような働き方を改善しよう、
というような動きもあり、
医師の方でも医局や病院に縛られず、
フリーで自由に働きたい、
というような考え方も多くなっているのが現状です。

そうした流れを受けて、
パートタイムの医者が増えており、
上記文献の記載では、
アメリカでも病院の勤務医の4分の1は、
パートタイムの医師で占められているようです。

医師がパートタイムであること自体は、
悪いことではありません。
ただ、たとえば救急患者を受け入れているような病院で、
臨床に携わっている時間の短い医師が、
患者を受け持つことが適切であるのかどうか、
というような点については、
色々な考え方がありそうです。

今回の研究はアメリカの高齢者医療保険のデータを活用して、
救急で病院を受診した患者の生命予後が、
主治医の1年間の臨床受け持ち時間により、
どのような影響を受けるのかを比較検証しているものです。

臨床に従事している時間が短いということは、
その医師が臨床はパートタイムで行なっている、
ということと、ほぼ同義になるという理屈です。

19170人の医師の治療を受けた、
392797件の入院事例を解析したところ、
4群に分けた年間臨床勤務時間が最も少ない、
つまりパートタイムの医師が治療した場合の、
30日の時点の死亡率が10.5%であったのに対して、
最も勤務時間が長い、すなわち臨床を専ら行なっている医師の、
30日の時点の死亡率は9.6%で、
この差は0.9%で統計的に有意なものでした。

この結果だけで、
パートタイムの医師の治療は死亡リスクを上昇させる、
という結論に至るのはかなり乱暴ですが、
実際に救急で治療に当たる医師の技量には差があり、
それを測る1つの物差しが、
その医師の臨床勤務時間だというのは、
1つの妥当な考え方ではあります。

上記文献の考察においても、
殊更そうした医師の働き方を批判するということではなく、
パートタイムの医師が診療に当たる場合には、
他の常勤の医師や看護師などの医療スタッフが、
より緊密な連携を取って、
患者に不利益が生じないようにチーム医療として取り組むべきだ、
というような考え方が述べられていて、
医師の働き方の多様化を受けて、
今後適切な医療レベルを、
どのように保つのかが重要となることは、
間違いのないことのように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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