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閉経後女性ホルモン療法と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
閉経後ホルモン療法と認知症リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年9月29日ウェブ掲載された、
閉経後の女性ホルモン療法と認知症リスクとの、
関連についての論文です。

女性における更年期は、
多くの症状の原因となり、
その中には睡眠障害や抑うつ状態、
認知機能の低下などの精神症状や神経症状が含まれています。
しかし、そうした症状が一時的なものであるのか、
それとも持続的な脳神経機能や認知機能の低下に、
結び付くのかといった点については、
それほど明確な事が分かっていません。

女性ホルモン特にエストロゲンには、
脳神経細胞を保護するような働きがあると報告されていて、
その低下は認知機能を低下させ、
認知症の発症に繋がるという可能性も否定は出来ません。

それでは、更年期症候群に対する女性ホルモン補充療法は、
高齢女性の認知症リスクに、
どのような影響を与えるのでしょうか?

今回の研究はイギリスのプライマリケアのデータを活用して、
118501名の55歳以上で新規に認知症と診断された女性と、
年齢などをマッチさせた497416名のコントロールを対象とし、
認知症リスクと女性ホルモン療法との関連を検証しています。

その結果、
認知症と診断された16291名と、
コントロール群の68726名が、
登録時点から3年以上の女性ホルモン療法を継続していました。
トータルな解析においては、
女性ホルモン療法と認知症リスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。

一方でエストロゲンのみのホルモン療法を、
10年以上継続していた80歳未満の女性では、
認知症の発症リスクが15%(95%CI:0.76から0.94)、
有意に低下していました。
それに反してエストロゲンとプロゲステロンの併用療法を行なっていた女性では、
特にアルツハイマー型認知症のリスクが高い傾向があり、
5から9年の治療では11%(95%CI:1.04から1.20)、
10年以上の治療では19%(95%CI:1.06から1.33)、
それぞれ有意にリスクは増加していました。

このように、
今回の大規模な検証では、
トータルには女性ホルモン療法と認知症リスクとの間には、
明確な関連は認められませんでしたが、
エストロゲン単独の治療では認知症リスクが低減し、
エストロゲンとプロゲステロンの併用では、
逆にそのリスクが増加するという傾向が認められました。

エストロゲンとプロゲステロンの併用は、
子宮体癌のリスクを低減するために使用されますが、
相反する作用を一部持っているため、
エストロゲンの持つ神経保護作用を、
弱めるのではないかという意見もあります。
そうした影響が今回の結果に結び付いている、
という考え方もありますが、
今のところは推測の域を出ないものだと思います。

この問題は今後も検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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