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甲状腺眼症に対するスタチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バセドウ病に対するスタチンの効果.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年9月27日ウェブ掲載された、
甲状腺眼症に対するコレステロール降下剤スタチンの、
有効性についての論文です。

甲状腺機能亢進症を来す、
甲状腺の自己免疫疾患の代表であるバセドウ病では、
その自己抗体の働きによって、
眼球の後方の脂肪や繊維組織が肥厚し、
眼球が前方に突出する甲状腺眼症と呼ばれる症状が合併します。

これは全てのバセドウ病に起こる現象ではありませんが、
一旦症状が出現すると完治することは非常に困難で、
重症化すると目を閉じられない状態となって、
ADLにも大きな影響を与えます。

この病気の国際的ガイドラインで推奨されている治療は、
高用量のステロイド(糖質コルチコイド)を静脈内投与することですが、
その有効性は35から80%と報告されています。

つまり、単独で必ずしも満足のゆく有効性があるとは言えません。

そこでステロイド治療に加えて、
付加的な治療として注目されているのが、
スタチンの使用です。

スタチンは言うまでもなく、
ステロイド降下剤で脂質異常症の治療薬ですが、
スタチンを使用しているバセドウ病患者は、
未使用の患者と比較して、
甲状腺眼症の発症率が低い、
という疫学データが存在しています。
スタチンに抗炎症作用があることを考えると、
スタチンが甲状腺眼症の抑止に、
一定の効果があってもおかしくはないのです。

今回の研究はイタリアにおいて、
血液中のLDLコレステロールが114.8から188.7mg/dLで、
中等度から重度の甲状腺眼症の患者88名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はステロイド治療のみを12週継続し、
もう一方はそれに加えて24週スタチンを使用して、
どちらも24週の経過観察を行なっているものです。

ステロイド治療は、
メチルプレドニゾロンを500mgを週に1回、
静脈内投与することを6週間繰り返して、
その後は250mgを6週間施行し、
スタチンはアトルバスタチンを1日20mg経口投与しています。

その結果、
症状の改善や眼突の2mm以上の改善などの指標で評価された、
24週の時点での眼症治療の有効率は、
スタチン治療群で51%であったのに対して、
スタチン未使用群では28%で、
スタチンの上乗せ治療は、
眼症治療の有効率を有意に改善していました。

これはまだ少数例での解析に過ぎませんが、
難治性の甲状腺眼症において、
スタチンの上乗せ治療に明確な有効性があったという、
今回の結果は非常に興味深く、
今後より大規模で精度の高い検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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