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新型コロナウイルス感染症の再感染率 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の再感染.jpg
査読前の論文を公開しているmedRxivに、
2021年1月26日ウェブ掲載され29日アップデイトされた、
新型コロナウイルス感染症の再感染率を検証した論文です。

非常に興味深い内容で、
多くの方が今持っている疑問に答える内容ですが、
査読前であることには注意が必要です。

新型コロナウイルス感染症の免疫が、
どのくらいの期間持続され、
実際に既感染者は、
どのくらいの期間は再感染しないのか、
という疑問は誰でも持っていながら、
まだ明確な結論が出ていない問題です。

中和抗体を分析した研究では、
6か月くらいは持ちそうというのが、
一般的な見解かと思いますが、
無症状や軽症でも同程度の免疫が誘導されるのか、
それとも軽症や無症状では再感染率が高いのか、
というような点についてはデータは不足しています。

今回の研究では、
アメリカ海兵隊の新兵訓練基地において、
3249名の新兵の新型コロナウイルス抗体価とRT-PCR検査を施行。
2週間の隔離期間をもうけた後に、
訓練を行いつつ6週間の経過観察を行なっています。
抗体はウイルスのスパイク蛋白に対するIgG抗体価が、
一定レベルを超えたものを陽性と判定しています。
RT-PCR検査は1週間に1回継続されています。
この3249名中、登録時に28名はRT-PCR検査が陽性で、
2週間の隔離期間中に2度のRT-PCR検査を再施行し、
45名が陽性と確認されています。
結果として登録されたのは3076名で、
2週間における3回のRT‐PCR検査で、
連続して陰性の隊員のみが参加しています。

その結果、初回の検査で抗体陽性であった189名のうち、
6週間の間に10.1%に当たる19名が、
RT-PCR検査で陽性を確認。
その一方で初回の検査で抗体陰性であった2247名では、
6週間の間に48.0%に当たる1079名が、
RT-PCR検査で陽性と確認されました。

事前の研究の想定でどうであったかは分かりませんが、
結果的には訓練地でクラスターが発生したことになります。

上記の結果より、
抗体が陽性であると、陰性に比較して、
感染率は82%抑制された、
ということになります。
(95%CI:0.11から0.28)

この抗体陽性の被験者では、
抗体価が低いほど再感染は起こりやすく、
抗体陰性の被験者と比較して、
ウイルス量は10分の1と少なく、
ウイルス検出期間も短い傾向が認められました。
抗体陽性者の再感染では、
より無症状感染が多いという傾向も認められました。
中和抗体による検証では、
再感染した19名のうち中和抗体が陽性であったのは6名だったのに対して、
再感染しなかった54名のうち、
45名は中和抗体が陽性でした。

このように、
血液中の抗体価が陽性であると、
確かに再感染は起こり難いのですが、
10人に1人は今回のデータでは感染が確認されています。
更には、特に無症状や軽症の感染では、
抗体上昇は少なく、
中和抗体の上昇も伴わないことが多い、
と推測されました。

従って、無症状や軽症の感染では、
その後短期間に再感染する可能性も決して低くはなく、
何度も感染しなから周囲に感染を広げている、
という可能性も否定は出来ません。
これが新型コロナウイルス感染症の厄介な点の1つで、
既感染者であっても軽症や無症状であれば、
ワクチン接種を行なわないと、
集団免疫の確立には至らないという可能性があるのです。

こうしたデータの蓄積を元にして、
ワクチン接種者の選定を含め、
有効性の高い感染収束への道筋が、
作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
「5人に1人が再感染」など、
表記に明らかな誤りがあり、
ご指摘を受け修正しました。
(令和3年2月8日修正)
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「プラットフォーム」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
プラットフォーム.jpg
2019年製作のスペイン映画で、
所謂「ソリッド・シチュエーション・スリラー」です。

世界政府のようなものがある近未来が舞台のようですが、
特殊な監獄があって、
何百階という階層が上下に広がっていて、
1つの階の独房には2人の囚人が入れられ、
1か月毎に階が無作為(?)に入れ替わります。
一番上の0階には豪華なキッチンがあって、
そこで作られた豪華な料理が、
独房中央にある穴から、
時間毎に下に降りて来る、という仕掛けです。
上の方の階では食事が摂れますが、
下に行くにつれ上の囚人が食い散らかすことで食事は減り、
下の方の階では残飯しか残らない、
と言う結果になります。

主人公は囚人ではないのですが、
何かの権利を得るために取引として収監され、
幾つかの階の囚人や、
囚人ではない収監者と話すうちに、
このシステムを破壊しようと企てます。

食事の奪い合いの殺し合いやリンチがあったり、
カニバリズムがあったりと、
かなりグロテスクで残酷な場面もあり、
ホラー味も強い作品ですが、
基本的にはテーマは至ってまともで、
この社会をもっと良いものに変革しようという、
至極真面目なテーマが描かれています。

得体の知れない残酷過酷な状況に閉じ込められ、
そこで必死にサバイバルをするというお話は、
これまでにも沢山ありますし、
それをグロテスクに描写するという点では、
乙一さんなどを始めとして、
日本の小説でも得意な分野です。

内容的には状況を架空の一種のゲームとして楽しむ、
という趣向のものと、
社会の一種の縮図や比喩として、
それを変革するという意図を持っているものとで、
内容はどちらかに振れることが多いのですが、
この作品に関しては明らかに後者で、
この作品の世界はゲームではなく、
一部の金持ちや特権階級が、
世界の富や食料の多くを食い荒らし、
その不均衡から多くの弱者が貧しく飢えるしかない、
という世界の構造を比喩的に示したものです。

物語は定石通りに展開し、
最初は主人公がこの世界のルールを理解し、
生き残る術を学んでから、
悲惨な出来事が起こり、
最後は仲間と一緒に、
邪魔するものを蹴散らしながら、
最下層を目指します。

ラストは全ての謎が明かされる、
という感じにはなりませんが、
まあ納得のゆく「希望」が示されて終わります。

鑑賞後の感想としては、
思ったより悪くない、観られる映画だった、
という感じです。

ただ、色々な意味で中途半端で、
突き抜けたものはありませんでした。

物語の種明かしを何処までするかは、
それぞれに良し悪しのあるところで、
必ずしも全て絵解きする必要はないのですが、
状況のルールはもう少し明確になった方が良いかな、
という気はしました。

独房にトイレがなく、
排泄の描写もない、というのも、
意図的とは思いますがモヤモヤします。
1か月に一度入れ替わるのは無作為なのかしら?
それとも何かルールがあるのかしら?
この辺りも不鮮明でイライラします。
女殺し屋が囚人を殺しまくるのですが、
それだとすぐにお話が終わってしまいそうですよね。
食事の量は明らかに10階くらいで終わる量ですよね。
銃なども持ち込めるという設定ですが、
それなら力関係がすぐに変わってしまいそうですよね。
結局全ての階を移動して、
武器は刃物くらいでしたよね。
これ、持ち込めるものは限定しないと、
成立しないのじゃないかしら…
とちょっと考えるだけで色々と矛盾があり、
もう少し設定は練る必要があったのじゃないかしら、
というように思いました。

最後に穴をどんどん降りて、
かたっぱしから囚人をなぎ倒すのは面白いのですが、
ちょっとあっさり過ぎましたね。
ここはもっとしつこくやれば、
「マッドマックス」みたいになったのに、
とそれも残念に感じました。

総じてまっとうな社会派目線と、
何でもありの残酷見世物の世界が、
上手くかみ合わずに終わってしまった、
という感じの作品で、
それを両立させた「マッドマックス怒りのデスロード」は、
矢張り世紀の傑作だったのだな、と、
再確認したような気分で映画館を後にしました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「スワロウ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スワロウ.jpg
2019年のフランス・アメリカ合作で、
異食症を扱ったちょっと変わった映画です。

これも新型コロナ禍でなければ、
日本で劇場公開はされなかったのではないかしら、
という感じの地味な映画で、
ハリウッド製ではなく、
アメリカが舞台のフランス映画、
というニュアンスの作品です。

妊娠したヒロインが、
「あるべき妻」「あるべき嫁」を求める周囲へのストレスから、
最初は氷から始まって、
次第にピンや紙、土やビー玉など、
色々な物を飲み込むことで、
心の落ち着きを得ることを繰り返してゆきます。

色彩は美しく、
意味ありげな場面や音楽に満ちていて、
「氷の微笑」のようでもあり、
その元ネタのヒッチコックの「めまい」のようでもあります。
なので、何となくサイコスリラーのようなものを期待するのですが、
実際にはそうしたフィクション的なひねりはなく、
「ヒロインのトラウマからの解放と個の自立」
というような真っ当なテーマが真面目に描かれます。

ここでちょっと引っ掛かるのは、
「人形の家」みたいなものがやりたいのであれば、
わざわざ異食症みたいな病態を、
持ち出さなくても良いのではないかしら、
という気がするからです。

たとえばアリ・アスター監督がこのテーマを取り上げれば、
もっとどんどんエスカレートして、
「うげっ!」と言うような展開になりそうでしょ。
勿論そうなって欲しい、という訳ではないのですが、
さんざん病気の症状を興味本位な感じで演出しておいて、
それで全くそうした飛躍はないのであれば、
何のためにそんな思わせぶりなことをしたの、
と聞きたくなってしまいます。

この映画の「異食症」は、
ただ観客の興味を繋ぐための仕掛けとして、
使われているのに過ぎないという点が、
僕の一番納得のゆかない点です。

実際にある病気を、
あまりそうした「仕掛け」として使うのは、
趣味の良いあり方ではないと思います。

その点を除けば物語は至ってまっとうに展開し、
ラストの主人公のトラウマ解決法の是非については、
観客によって評価は異なる点があると思いますが、
その心の旅路は結構説得力を持って描かれています。

そんな訳でまあ、あまり観る価値はなかったかな、
という感じの映画ですが、
意外にウィークデイの映画館は満員に近い盛況で、
何か複雑な思いも感じつつ映画館を後にしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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風邪を引くと眠くなるのは何故か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
IL1と睡眠と免疫の関連.jpg
Brain Behav Immun. 誌に2015年に発表された論文です。

少し古いものなのですが、
最近読む機会があって、
なかなか面白かったので今日ご紹介をさせて頂きます。

風邪を引くと普段より眠くなり、
グッタリして長く眠ってしまいますね。
ただ、その一方で高熱が出ていたりして、
本当に体調の悪い時には、
却って寝ることも出来ない、
と言うような状態になることもあります。

この事実は、
風邪のような感染が身体に起こるということと、
眠りの状態とは密接に結びついている、
ということを示しています。

しかし、それを結び付けているものは何でしょうか?

最近の多くの研究により、
それがインターロイキン1という炎症性サイトカインであることが、
ほぼ明らかになっています。

インターロイキン1は代表的な炎症性物質で、
身体が風邪ウイルスのような病原体に感染されると、
それを感知して免疫細胞から産生され、
炎症を起こすことによって、
免疫力を高め病原体の侵入を撃退しようとします。
その副産物が発熱や痛みなどの、
所謂「風邪症状」です。

実はこのインターロイキン1は、
脳細胞にある受容体にも結合し、
睡眠をコントロールするような働きを持っています。

インターロイキン1を投与することにより、
それが低用量であればノンレム睡眠が増加します。
低用量であればレム睡眠にはあまり影響を与えません。
一方で高用量のインターロイキン1を投与すると、
ノンレム睡眠とレム睡眠の両者が減少し、
発熱が起こります。

この現象は、
風邪をひくと眠くなり深い眠りに落ちるけれど、
高熱が出ているような重症では、
逆に眠れなくなる、
という実際の症状と合致しています。

脳へのインターロイキン1の刺激は、
睡眠をコントロールすると共に、
免疫を活性化させて感染を抑え込みます。

上記論文では脳でのインターロイキン1の作用発現に、
重要な働きをしている、
神経特異的インターロイキン1受容体アクセサリータンパク質
(the neuron-specific interleukin-1 receptor accessory protein)
に着目し、
その遺伝子発現を出来なくしたネズミを利用して、
その働きを検証しています。

脳におけるインターロイキン1の働きは、
この受容体アクセサリータンパク質に依存していて、
その発現を出来なくしたネズミの脳に、
インフルエンザウイルスを感染させると、
通常起こる睡眠の反応や発熱の反応が起こらず、
そのネズミの生命予後は低下しました。

「よく眠れば風邪は早く治る」というのは、
広く使用されている月並みな言説ですが、
それはどうやら科学的事実でもあるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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運動とBMIと心血管疾患リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMIと心血管疾患リスク.jpg
European Journal of Preventive Cardiology誌に、
2021年1月22日ウェブ掲載された、
内臓脂肪と運動習慣と心血管疾患リスクについての論文です。

心血管疾患のリスクとして、
肥満が重要視され、
体重が多い(概ねBMIが25.0以上)人は、
生活改善により体重を適正に低下させることが、
健康のために必要であると指導されます。

この場合の生活改善の柱は、
食事と運動です。

ただ、食事療養と比較すると、
ダイエットのための運動指導というのは、
こうした生活習慣病の予防という観点では、
かなりざっくりとしたもので、
「1日8000歩以上歩きましょう」とか、
週に何回か運動する習慣を持ちましょう、
という程度のものであることが殆どです。

一方でプロの運動選手はBMIのみで言うと、
種目にもよりますがパワーを要するものでは、
25を超えるような選手は多く存在しています。
こうしたプロのスポーツ選手も、
健康という観点からはダイエットするべきなのでしょうか?

常識的にはそうするべきではない、
と誰でも思いますが、
そこにどれだけの根拠があるのかと考えると、
考えは袋小路に迷い込んでしまいます。

要するにBMIでは肥満の基準に該当していても、
「健康な体重の多い人」も存在していて、
そうした人では心血管疾患のリスクは低いのではないか、
という推測はありますが、
それを証明するような信頼のおけるデータは、
あまりないというのが実際なのです。

運動の指針については、
最近心肺フィットネス(cardiorespiratory fitness)、
という考え方が注目されています。
これは体力の1つの指標で、
心肺持久力とも言われ、
最大酸素摂取量を増加させることを目標にして、
科学的トレーニングを行うという方法です。

今回の研究では、
18歳から64歳の一般住民トータル527662名を解析し、
体格を正常範囲(BMIが20.0から24.9)、
過体重(BMIが25.0から29.9)、
肥満(BMIが30.0以上)の3群に分けて、
心肺フィットネスの観点からの運動習慣を、
運動習慣なし、運動習慣不充分、充分な運動習慣に分け、
それぞれの関係を心血管疾患リスクの観点から比較検証しています。

その結果、
充分な運動習慣を有していても、
過体重や肥満があると、
通常の体重で運動習慣のない人と比較しても、
糖尿病などのリスクは高くなる、
という結果が得られました。

つまり、運動習慣のみでは心血管疾患リスクを下げるには不充分で、
肥満の補正は必須である可能性が高い、
という結果です。

ただ、これは敢くまでトータルに見て、
という話で、
個別には勿論過体重でも健康、
という人も多いのが実際であることは、
一般的な感覚としては事実と思われるので、
個々に若い頃からの体重増加量などから、
判断するのが妥当ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の神経系病変(ニューヨークの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の神経系症状.jpg
Neurology誌に、
2021年1月26日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に合併する、
神経系症状についての論文です。

新型コロナウイルス感染症は、
当初は呼吸不全を来す重症肺炎がその典型とされましたが、
その後多くの全身臓器に影響を及ぼし、
多くの合併症を引き起こすことが明らかになりました。

その1つが神経系の合併症です。
新型コロナウイルスの入院中に、
脳症による意識障害や低酸素性脳障害、
けいれんや頭痛、脳卒中、髄膜脳炎などが、
合併することが報告されています。

ただ、それが新型コロナウイルス感染に、
直接的に起因するものなのか、
全身状態の悪化やショックなどに起因するものなのか、
といった点については必ずしも明確ではありません。

今回の検証ではニューヨークの複数の病院において、
遺伝子検査で新型コロナウイルス感染症と診断されて入院した、
トータル4491名の患者を検証したところ、
入院の経過中にそのうちの13.5%に当たる606名が、
神経内科の専門医によって、
神経系疾患を診断されていました。

内訳では、
最も多かったのが中毒性・代謝性脳症で6.8%、
脳卒中が1.9%、けいれん発作が1.6%、
低酸素性・虚血性脳障害が1.4%となっています。

脳炎や髄膜炎などが、
新型コロナウイルスの直接浸潤によるものと、
証明された事例はなく、
18例で施行された脳脊髄液の検査では、
ウイルス遺伝子は全例で検出はされませんでした。

感染の予後に関わる因子を補正した結果として、
合併する神経疾患の存在は、
新型コロナウイルス感染症の入院中の死亡リスクを38%
(95%CI: 1.17から1.62)、
有意に増加させ、
退院して自宅に戻れる頻度を28%
(95%CI: 0.63から0.85)、
こちらは有意に低下させていました。

このように新型コロナウイルス感染症の入院時には、
神経系病変の合併が少なからず見られることは事実で、
その多くは全身状態の悪化に伴うものと思われますが、
ウイルス感染との直接的関連も否定は出来ず、
今後のより精度の高い検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の疼痛症状(総説) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の疼痛症状頻度.jpg
Journal of Pain Research誌に、
2021年1月26日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の疼痛症状についての総説です。

新型コロナウイルスに感染すると、
概ね2から14日の間に、
発熱や咳などの症状で発症する、
というのが一般的な経過です。

ある統計によると、
初発症状としては発熱が98%、咳が76%、
呼吸困難が55%、筋肉痛や全身倦怠感が44%、
喀痰の排出が28%、頭痛8%、喀血5%、下痢3%となっています。
ただ、これは肺炎が主な症状として認識されていた、
流行が初期の段階のデータで、
その後軽症事例も多いことが認識されるようになると、
筋肉痛や関節痛が14.9%、咽頭痛が13.9%、
頭痛が13.6%、というようなデータもあります。
これまでに新型コロナウイルス感染症の症状として、
頭痛、咽頭痛、筋肉痛、関節痛、腹痛、胸痛が、
報告をされています。
その一覧がこちら。
COVID-19の疼痛症状頻度の図.jpg
これまでの臨床データをまとめたものですが、
新型コロナウイルス感染症に伴う各種疼痛の発症率は、
頭痛が1.7から33.9%、咽頭痛が0.7から47.1%、
筋肉痛と関節痛が1.5から61.0%、
胸部痛が1.6から17.7%、腹痛が1.9から14.5%となっています。
大きな幅があるのは、
前述のように対象となる事例が、
入院する肺炎事例なのか、
軽症を含むRT-PCR陽性が確認された有症状全事例なのか、
という点による違いであると思われます。

このように全身の疼痛が多いのは、
この感染症の比較的特徴である、
というように思われます。

また疼痛の強い事例は重症化しやすく、
その予後も悪いことが多い、
と言う点でも報告はほぼ一致しています。
ただ、たとえば頭痛の原因が、
神経系の炎症やウイルスの侵入によるものなのか、
単純に炎症物質の増加によるものなのか、
それとも別個のメカニズムが存在するのか、
というような点については、
現時点であまり明瞭ではないようです。

ちょっと興味深い報告としては、
間欠的にしかRT-PCR検査が陽性にならない、
というような事例で、
検査が陰性の時期に頭痛が強い、
というものがありました。

論文においては新型コロナウイルス感染症の初期診断において、
疼痛の有無が役立つ上昇になる、という記載がありますが、
実際には多くの他の感染症においても、
全身症状としての疼痛は一般的な症状であるので、
あまりそうした役には立たないように思います。

いずれにしても新型コロナウイルス感染症の患者さんを診る時には、
肺炎などの呼吸器疾患と共に、
疼痛などの別個の症状にも、
留意しつつ診療に当たる必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2021年2月1日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日はいつもの新型コロナウイルス感染症の話です。

クリニックのある品川区においても、
新型コロナウイルスの市中感染が減少していることは、
トレンドとしてはほぼ間違いがないようです。

ただ、おそらく2月中は緊急事態宣言は延長されるでしょうが、
それで一定レベル患者数が減少しても、
解除になればまたすぐに増えることはもう、
火を見るより明らかなことですから、
現行の対策を継続している限り、
そのイタチごっこからすぐに解放されることはないようです。

現状市中感染の拡大から、
多くの高齢者施設や医療機関でクラスターが起こっていて、
こちらが収束するにはもう少し時間は掛かることになりそうです。

それでは幾つかクリニック周辺の話題から、
「今」を見てゆきたいと思います。

➀濃厚接触の調査を縮小、の意味について
クリニックへは1月27日くらいに、
品川区保健所から封書が届いていて、
そこには、「COVID-19行政検査の対象について」という題名がありました。

内容は煎じ詰めれば、
これまで保健所が認定していた濃厚接触者認定の業務を、
一時的に医療機関や検査機関などに移管する、
という趣旨のものです。

1月22日には下記のような報道がありました。

東京都、濃厚接触の調査を縮小 保健所が逼迫、高齢者らを重点 2021年1月22日 22時04分 (共同通信)  東京都は22日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、濃厚接触者などを調べる「積極的疫学調査」の規模を縮小する方針を都内の各保健所に通知した。高齢者など重症化リスクが高い人との関わりを重点的に調査し、全体の規模を縮小。逼迫する保健所の負担を軽減させ、効率的な入院や療養先の調整につなげる狙い。  都によると、調査は医療機関や高齢者施設、障害者施設などが中心となる。飲食店や職場、学校などでの感染は原則として詳しく調べず、各保健所が状況に応じて判断するとしている。

これだけ読んでも何を言っているのかよく分かりませんよね。

少し説明を追加したいと思います。

医療機関から新型コロナウイルス患者の発生届けが出されますよね。
そうすると、保健所は感染の拡大を抑止する目的で、
感染のリスクが高いと想定される「濃厚接触者」を認定し、
14日間の経過観察を指示するとともに、
適宜遺伝子検査の施行を検査センターや医療機関に依頼します。

この場合濃厚接触者の認定は、
保健所によって行われます。

つまり、僕が患者さんの診察をして、
この人は濃厚接触者として検査をしても良いのではないか、
と思っても、
保健所の認定がなければ、
保険を利用しての行政検査の対象にはならない、
自費でなければ検査は出来ない、
ということになるのです。

これが今までのあり方です。

それが年末年始に感染者が急増し、
保健所の業務が逼迫します。

そうなると、
とても全ての事例で濃厚接触者の認定をする、
というような作業が出来なくなるので、
クラスターの発生しているような施設や病院については、
重点的に認定し調査しますが、
一般の住民の市中感染の様なケースでは、
家族くらいは濃厚接触者として認定しますが、
それ以外で職場やプライベートでの接触については、
個々の僕達のような末端の医療機関に任せます、
というのが1月22日の通達の主な意味合いです。

ややこしいのはですね、
都の通達は細かいことを決めている訳ではなく、
大筋の方針を決めているだけで、
どのような範囲で保健所が濃厚接触者の認定をするかは、
個々の地区の保健所がそれぞれに決めなさい、
ということを言っているんですね。

従って、それが地区の保健所に下りて来て、
そこでまた議論をして、
それが品川区の場合には、
1月24日と25日付の通知になって、
27日にクリニックに送られて来た、
というのが最初にお話した封書の正体なのです。

従って、今の状況としては、
保健所が認定していない濃厚接触者は、
個々の医療機関の責任で決定して、
行政検査を行って良いのですね。

ただ、
多分この内容はまだしっかりと周知されていないので、
医療機関によっては、
「濃厚接触者は保健所が認定しないと検査は出来ません」
という回答をしてしまうところもあると思いますし、
一般の方も、
「感染者と会食はしたけれど、保健所からは何も連絡はないので、
検査をする必要はなさそうだ」
というような理解をしてしまいがちだと思います。

保健所の判断を待つと共に、
心配であれば行政検査に対応している医療機関に相談する、
というのが現状の正しいあり方であると思います。

②職場復帰目的の遺伝子検査の弊害について
最近経験した事例をご紹介します。
事実を元にしていますが、
守秘義務及び患者の特定を避ける観点から、
細部は事実を変えて記載している部分があることをご了承下さい。

Aさんは30代の会社員で発熱と頭痛で発症。
同日発熱外来を経由してクリニックを受診し、
唾液のRT-PCR検査を施行。
新型コロナウイルス感染症と診断して保健所に届け出をしました。
数日の自宅待機の後に宿泊療養に移行。
発症から10日で隔離期間は終了となりました。

これで職場復帰して何ら問題はなかったのですが、
会社からは規定によって再度RT-PCR検査を受けるように、
という指示が出ます。

それで会社指定の自費検査を受けると、
結果は「感染している疑いがあります」という結果が出ます。

それを会社の産業医をしているクリニックに相談すると、
「これは再び陽性が確認されたのだから、もう一度保健所に届け出をだすべきだ」
と言われ、もう一度保健所に届けが出されたのです。

クリニックに本人から連絡があり、
「この場合また10日間隔離になるんでしょうか?」
と聞かれました。

皆さんはどうお考えになりますか?

勿論そんなことはないのです。

新型コロナウイルス感染症の隔離期間というのは、
敢くまで周囲に感染する可能性のある期間、
ということなので、
隔離期間が終わった後も、
遺伝子検査自体は陽性になる可能性があるのです。

感染拡大の当初は、
そのことがまだ分かっていなかったので、
退院の条件に2回の遺伝子検査をして陰性、
ということを決めていたのですが、
今はそれがナンセンスであることが分かったので、
一定期間が過ぎて症状が改善していれば、
それでOKというように改められたのですね。

Aさんはもう周囲に感染を拡大するリスクはないので、
遺伝子検査が陽性であろうが陰性であろうが、
それが就労に影響することはないのです。
従ってすること自体が無意味なので、
やらないのが正しい判断なのですが、
特に大手企業などの一部で、
以前の退院基準と同じ2回の遺伝子検査を義務化するような、
そうした決まりを作っているところがあるので、
こうしたトラブルが起こるのです。

それで、Aさんには心配は要らないし隔離も不要と説明し、
保健所にも連絡をして、
届け出は出されてしまったけれど、
意味のないものなので然るべく対処してほしい、
というようにお話をしました。

結果として、
無駄な検査で自費検査の会社が潤い、
保健所にも無駄な業務が追加されただけに終わりました。

勿論過剰防衛のような企業の規定が悪いのですが、
退院基準や隔離終了の基準などが頻繁に変更され、
それがしっかりと周知されていない、
という点にも問題があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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