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高齢者の糖尿病予備群の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
前糖尿病と糖尿病への進展.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年2月8日ウェブ掲載された、
高齢者の糖尿病予備群の予後についての論文です。

糖尿病の診断基準は、
空腹時血糖が126mg/dL以上かHbA1cが6.5%以上が、
複数回認められることとされていますが、
これはある意味人間が勝手に作った線引きで、
正常と糖尿病との間に、
グレーゾーンとも言える領域があります。
これは血糖を正常に保つ身体の仕組みには異常があるものの、
糖尿病の基準は満たしていない、
という領域のことを示しています。

このグレーゾーンを境界型糖尿病とか糖尿病予備群、
前糖尿病などと呼んでいます。
このグレーゾーンの定義については複数の基準があり、
必ずしも1つに定まっていませんが、
上記文献においては、
空腹時血糖値が100から125mg/dL、
HbA1cが5.7から6.4%をその指標としています。

糖尿病予備群は糖尿病の危険因子と考えられています。
そのため糖尿病予備群と健診などで診断されれば、
その後は定期的な検査を行うとともに、
生活改善などの指導が必要だと考えられています。

しかし、これは全ての年齢で成立することでしょうか?

年齢と共に、特に病気のない人でも血糖値は上昇します。

上記文献の記載によると、
アメリカでは65才以上の25%が糖尿病で、
50%以上が予備群であるという推計もあるようです。

この50%の全てが糖尿病になる訳ではありません。
しかし、経過の中でそのうちのどのくらいの人数が、
治療を要する糖尿病に進行するのかは、
これまでに精度の高いデータが存在していませんでした。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
動脈硬化の進行についての疫学研究のデータを活用し、
登録の時点で糖尿病のない一般住民、
3412名を71歳以上の時点から、
6.5年に渡る経過観察を行っています。

その結果、
観察期間中にそのうちの156名が、
新規に糖尿病を診断されています。
HbA1cが5.7から6.4%という基準を用いると、
糖尿病予備群は1490名(44%)認められていて、
そのうちの9%に当たる97名が糖尿病を発症し、
13%に当たる148名は正常レベルに低下し、
19%に当たる207名は死亡していました。

一方で空腹時血糖が100から125mg/dLという基準を用いると、
糖尿病予備群は1996名(59%)に認められていて、
そのうちの8%に当たる112名が糖尿病を発症し、
44%に当たる647名は正常レベルに低下し、
16%に当たる236名が死亡していました。

このように基準を何にするかによっても、
糖尿病予備群の比率には違いが生じ、
いずれの指標を用いるにしても、
糖尿病に経過の中で進行する事例はそれほど多くはなく、
むしろ耐糖能は正常化する可能性の方が高い、
ということが分かりました。
また、少なからずの人数が、
観察期間中に死亡していることも併せて考えると、
少なくとも70歳以上の高齢者の糖尿病予備群を、
糖尿病のリスクが高いとして診断し観察する必要性は、
あまり高いものではない、
とそう考えることが適切であるようです。

この結果は肥満の多いアメリカのもので、
そのまま日本に適応可能とは言えませんが、
日本においてもこうした調査が行われることによって、
高齢者の耐糖能異常の位置づけが、
より科学的に明確になることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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