SSブログ

「ファーストラヴ」(堤幸彦監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ファーストラヴ.jpg
島本理生さんのベストセラーで直木賞受賞作を、
堤幸彦監督が映画化しました。
2020年にはNHKでドラマ化もされています。
ヒロインの臨床心理士に北川景子さん、
かつての恋人の弁護士に中村倫也さん、
父親殺しの容疑者の少女に芳根京子さん、
ヒロインの夫に窪塚洋介さんという、
イメージ通りと言って良い豪華なキャストです。

島本さんの原作は読んでいます。
語り口の心地よさが独特で、
会話も読んでいる分にはとても自然でリズミカルなのですが、
いざ映像化すると、
何か不自然で人工的できれい事の感じに思えるのが不思議で、
これまでに「ナラタージュ」と「RED」の映画版を観ましたが、
どちらも原作の魅力を十全に伝えているとは、
言い難いような作品でした。

出来不出来が激しいのが難点ですが、
技巧派で職人肌でもある堤監督が、
この島本ワールドをどのように映像化するのかに興味がありました。

結果としてはとてもシンプルでオーソドックス、
物語をそのまま伝えることに力点を置いた、
とても穏当な仕上がりでした。
ほぼほぼ趣味的な遊びもありません。

内容もほぼ原作通りですが、
原作では子供のいるヒロインに子供がいない設定になっていて、
これはNHKのドラマでもそうでしたから、
原作者の希望だったのかな、とも思いました。
また、ヒロインの母親との断絶が、
1つの大きなテーマでもあったのですが、
その点はあまり映画では踏み込んで描かれていません。

これね、映画を観てから原作を読み返してみると、
相当怖い話なんですよね。
これまであった、なあなあの人間関係や家族関係を、
全て否定しているんですね。
ヒロインは母親にも父親にも一点の愛情すら持っていなくて、
自分の夫との信頼だけで生きているんですね。
でもそういうあり方の方が、
共感されるのが今の世の中なんですね。
だから、他人のちょっとした過ちにも、
徹底して糾弾するんですね。
特に古い価値観に基づいた行動や言動を、
絶対に許さないんですね。
でももしそうだと、
上下の世代の交流というのは、
基本的はもうなくなりますよね。
価値観の違うものを強引に結びつけるのが、
それこそ家族でそれが集合したものが社会でしょ。
それはもう存在しなくなる、ということですよね。

怖いですね。

それともう1つ、この作品は性的虐待の問題を扱っているんですが、
2人のお互いの考えと意識とが、
深い部分で完全に一致した時のみが許される状態で、
1人が「いいよ」と言っていても、
実際には「嫌だな」と思っていれば、
それはもう全て虐待だ、という考え方なんですね。
要するにこの基準だと性交渉は殆どが虐待なんですね。
これも怖いですよね。
島本さんは人間同士の交流と言えるものを、
徹底して追求して、
その殆どは「虐待」だと断罪しているんですね。

そこには寛容とか「大目に見る」という感覚が一切なくて、
全てが後戻りは出来ないものなのです。

怖いなあ、と思うのですが、
でも今の若い人の感覚は多分そうしたものなのだと思いますし、
社会ももうそうした方向に向かっているのですね。
それはそうしたものとして、
どうにかこうにか必死で生きていかないと、
いけないのだと思います。

さて、そうした問題作のこの作品ですが、
体裁はミステリーの雰囲気があり、
法廷で父親殺しの真相が明らかになる、という展開になります。
ただ、その真相は結構脱力しますね。
ミステリー畑の作者ではないので仕方がないのだと思いますが、
もう少しミステリー的仕掛けが、
若干でもあると良かった、というようには感じました。

キャストは概ね熱演で、
特に中村倫也さんは良かったと思います。
北川景子さんは前半は徹底した「棒読み」の芝居で、
それが徐々に変貌して、
感情を爆発させる部分では、
あまりこれまで見たことのなかった表情を見せます。
これはもう監督の演出であり狙いだと感じました。
ただ、正直もう少し上手い人の方が、
この役には良かったかな、と思うのと、
大学生の場面はかなり厳しい感じがありました。

総じて問題作を無難に仕上げた、
という感じの映画版で、
映画を観られて興味の沸いた方には、
是非原作も一読をお勧めします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0)