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新型コロナウイルスワクチン接種後のアナフィラキシー(ワクチン2種の比較データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アナフィラキシーとワクチン.jpg
JAMA誌に2021年2月12日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスワクチン接種後の、
アナフィラキシーの頻度を2種のワクチンで比較した報告です。

多くの新型コロナウイルスワクチンが開発されていますが、
先行して接種されているのは、
ファイザー/ビオンテック社とモデルナ社のワクチンです。
これはいずれもmRNAワクチンで、
ほぼ同等の高い有効性が、
臨床試験で示されています。

この2種のワクチンの副反応として、
現行一番問題とされているのは、
全身性のアレルギー症状であるアナフィラキシーです。

アメリカで2020年12月14日から2021年1月18日の間に、
トータルで9943247回のファイザー/ビオンテック社ワクチンと、
7581429回のモデルナ社ワクチンが接種されていて、
併せて66件のアナフィラキシーが報告されています。

その内訳がこちらです。
アナフィラキシーとワクチンの図.jpg
トータルなアナフィラキシーの発症率は、
ファイザー/ビオンテック社ワクチンが100万接種当たり4.7件に対して、
モデルナ社ワクチンは2.5件で、
以前ご紹介したファイザー/ビオンテック社ワクチン初回接種のみのデータでは、
その頻度はもっと高くなっていましたが、
これは初回接種時のアナフィラキシーの頻度が、
高いことが影響していると思われます。
つまり、初回接種時の発症率については、
概ね1万接種に1回程度、と想定した方が良いようです。
ただ、モデルナ社のワクチンの方が頻度が低いとは言い切れません。
モデルナ社のワクチンの方が後から接種が開始されたので、
アレルギー素因のある人が接種を控えることも、
多くなったと想定されるからです。

この表を見て頂くと分かるように、
症状の傾向自体は2種のワクチンでほぼ同一です。
興味深いのは殆どの事例が女性に発症していることで、
この事実の説明は上記文献では触れられていません。
女性の接種率が多いためだという説明がありましたが、
90%を超える女性比率は、
とてもそれで説明出来るとは思えません。

以前の報告と同じように、
接種後のアナフィラキシー事例の多くは、
アレルギー素因がある人に発症していて、
アナフィラキシーの既往も3割程度で認められていました。

いずれにしてもアメリカの報告を見る限りは、
ワクチン接種後のアナフィラキシーの発症率は、
概ね許容範囲のもので、
その発症を想定してエピネフリンの準備や、
入院ベッドを確保するなどの対策と共に、
アレルギー素因の有無のチェックが、
重要であると考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アストロゼネカ社ワクチンの南ア変異株への有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アストラゼネカワクチンの変異への効果.jpg
査読前の文献を公開しているサーバーであるmedRxivに、
2021年2月10日ウェブ掲載された、
アストロゼネカとオックスフォード大などによる、
新型コロナウイルスワクチンの、
南アフリカで報告された変異株ウイルスに対する、
有効性を検証した論文です。

これはまだ査読前のため注意が必要ですが、
かなり深刻で、
ワクチンの普及と共に新型コロナウイルス感染症が収束するという、
甘い期待に、
冷や水を投げかけるような結果です。

新型コロナウイルスに当初とは性質の異なる、
多くの変異株が検出されていることは、
皆さんもご存じの通りです。

最も有名なのは英国で見つかった、
「B.1.1.7」という変異ウイルスで、
ウイルスのACE2への結合を高めるN501Y点変異を含み、
従来のウイルスより感染力を高め、
重症化も多いと想定されています。

それとは異なり、南アフリカで発見され注目されているのが、
「B.1.351」という変異ウイルス株です。

この変異ウイルスは、
ウイルスの受容体結合部位(RBD)の3か所の変異と、
矢張りウイルスの突起(スパイク)を形成する、
NTDという別の部位の5か所の変異が集積しているもので、
単純に感染し易いとか重症化し易いというものではなく、
ウイルスに対する中和抗体が、
全く産生されないか非常に低力価でしか誘導されない、
というタイプの変異ウイルスです。

つまり、何度でも感染を繰り返し、
慢性感染や持続感染も起こし易い可能性があるという、
極めて深刻な変異株です。

イギリスは水際対策を強化し、
南アフリカなどからの入国を厳しく制限している、
というニュースが先日あり、
「自分の国でも変異ウイルスが流行しているのに、
何で今更…」と思われた方もいるかと思いますが、
これはそうした意味で、
英国の変異ウイルスとは、
問題の深刻さが全く異なっているからなのです。

それでは、現行開発されているワクチンは、
この南アの変異ウイルスに有効なのでしょうか?

今回対象となっている、
ChAdOx nCoV-19と命名されたワクチンは、
アストロゼネカ社とオックスフォード大などによる共同開発で、
ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンとは異なる、
アデノウイルスベクターワクチンです。

ウイルスベクターワクチンというのは、
他の無害なウイルスの遺伝子の一部に、
目標とするウイルスの遺伝子を取り込ませて、
それを人間に感染させることにより、
免疫を誘導しよう、という手法のワクチンです。

今回のイギリスのワクチンは、
チンパンジー由来の人間には感染しないアデノウイルスを、
ベクターとして利用して、
そこに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、
突起(スパイク)部分の蛋白質の遺伝子を挿入し、
それを接種することで人間にこのアデノウイルスを感染させます。

このウイルスは人間の細胞に感染しますが、
そこで増殖はしないように調整されています。
結果としてウイルスに対して身体が免疫を誘導するので、
それが新型コロナウイルスにも有効に作用する、
という仕組みです。

生ワクチンや不活化ワクチンほど量産に時間が掛からず、
ウイルスを感染させるので、
不活化ワクチンより細胞性免疫の活性化も強く期待出来る、
という点が利点です。

中国で開発されている同種のワクチンは、
エボラ出血熱ワクチンで開発には成功しており、
イギリスの今回のワクチンはMERSワクチンとして開発した経緯があり、
いずれのワクチンも大規模な臨床応用、
というところには至っていない点に、
若干の不安はありますが、
比較的成功の可能性の高い技術ではあるのです。

その通常型の新型コロナウイルス感染症に対する有効性は、
70.4%と報告されています。
これは2回目のワクチン接種14日以降の、
検査により確認された有症状の新型コロナウイルス感染症の発症を、
どれだけ予防したかで算出されている数値で、
ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンが、
いずれも90%を超える有効性を示している点から見ると、
やや見劣りする効果ではあります。
英国の変異ウイルス「B.1.1.7」に対する解析では、
その有効率は74.6%という結果が報告されています。

今回の検証はそのワクチンが、
南アフリカの変異株「B.1.351」に対して、
どの程度の有効性を持つかを検証したもので、
南アフリカで2020年7月24日から11月9日に、
1010名の偽ワクチン接種群と、
1011名のアデノウイルスベクターワクチン接種群を登録し、
ワクチンの有効率を比較しているものです。
被験者の年齢の中央値は31歳と若く、
軽症から中等症の事例のみが発症しています。

発症した42例のうち、
遺伝子解析に成功した41例の95.1%に当たる39例が、
「B.1.351」変異株でした。
つまり、殆どが変異株の感染です。

結果として偽ワクチン接種群の3.2%に当たる23例と、
実ワクチンの群の2.5%に当たる19例が、
新型コロナウイルス感染症を発症していて、
その有効率は21.9%(95%CI:-49.9から59.8)という低率でした。
ここで変異株の感染に限定して有効率を計算すると、
10.4%(95%CI:-76.8から54.8)という更に低率となりました。
いずれも統計的には明確な有効性はない、
という判断です。

つまり、このアデノウイルスベクターワクチンは、
「B.1.351 」という変異株に対しては、
全く効果がなかった、ということになります。

これはかなり重い報告で、
今後この変異ウイルスをどのように封じ込めるかが、
新型コロナウイルス感染症の収束に向けての、
大きな課題となることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対するスタチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19へのスタチンの有効性.jpg
Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology誌に、
2021年掲載された、
新型コロナウイルス感染症の予後に対する、
スタチンの有効性についての論文です。

新型コロナウイルス感染症に対しては、
これまでに多くの薬剤が使用されていますが、
明確に予防効果や治療効果の確認されたものは、
殆どないのが実際です。

新型コロナウイルス感染症は糖尿病や心血管疾患など、
慢性の基礎疾患があると重症化しやすいことが知られています。
こうした病気の患者さんでは、
スタチンと呼ばれるコレステロール合成酵素の阻害剤を、
コレステロールを低下させる目的で使用していることが多く、
スタチンの使用の予後への影響が議論されています。

新型コロナウイルスは、
ACE2受容体に結合して人間の細胞に感染しますが、
スタチンは基礎実験において、
心臓のACE2を増加させる作用が報告されています。
これを字義通りに考えると、
スタチンの使用は新型コロナウイルスの感染を、
促進する方向に働く可能性が考えられます。
スタチンは新型コロナウイルス感染症の予後を、
悪くするかも知れないという推測です。
その一方でスタチンには抗炎症作用など、
感染の予後を改善する可能性のある、
多くの作用を持つ薬剤でもあります。

それでは、実際にスタチンを使用することで、
新型コロナウイルス感染症の予後には、
差があるのでしょうか?

今回の研究では韓国において、
遺伝子検査で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された、
トータル10448名の患者を解析し、
スタチンの使用の有無と、
患者の予後との関連性を検証しています。

全患者の5.1%に当たる533名がスタチン使用者で、
これを他の条件をマッチさせた、
1066名のスタチン未使用患者と、
1対2でマッチングさせて比較を行なっています。

その結果、
登録後60日以内の死亡リスクは、
スタチンの使用により36%(0.637; 95%CI:0.425から0.953)
有意に低下していました。
また肺炎で入院した患者の解析でも、
スタチンは同様の死亡リスク低下を示していました。

今回のデータは、
最初から患者を登録して、
スタチンの使用と非使用とで比較した、
というようなものではないので、
その結果はスタチンの直接効果とは限らない、
という点には注意が必要ですが、
スタチンが新型コロナウイルス感染症の予後を改善する可能性を、
期待させるものであることは事実で、
今後の検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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卵とコレステロールの摂取量と心血管疾患リスク(2021年アメリカの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コレステロールと卵と健康.jpg
PLOS Medicine誌に2021年2月9日ウェブ掲載された、
コレステロールと卵の摂取量と、
心血管疾患リスクについての論文です。

血液中のコレステロール、特にLDLコレステロール値が高いと、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが高まり、
生命予後にも悪影響を与えるという知見は、
多くの精度の高い疫学データに裏打ちされた事実で、
スタチンに代表されるコレステロール降下剤により、
その数値を低下させることにより、
そのリスクの低減に繋がることもまた、
多くの精度の高い臨床試験で実証された事実です。

ただ、それでは食事のコレステロールを減らせば、
スタチンと同じような心血管疾患リスクの低減作用があるのかと言うと、
その点については明確な結論が得られていません。

以前は食事のコレステロールを、
1日300mg以下にすることが、
国内外のガイドラインにおいて推奨されていましたが、
最近のメタ解析において、
コレステロールの摂取量が、
必ずしも血液中のコレステロール濃度を反映していない、
という知見が明らかになり、
現行のアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールの摂取量の基準値は設定されていません。

卵の黄身には200mg近いコレステロールが含有されていて、
このためコレステロール制限食という観点からは、
卵を制限するかどうかが常に問題となります。

卵の摂取量と健康との関係についても同様の問題があり、
卵を多く食べると心血管疾患リスクが高くなるという報告がある一方、
比較的新しい報告の多くは、
1日1個程度の卵では、
健康面の悪影響はないとする結果になっています。

今回の疫学データはアメリカにおいて、
登録時50から71歳の521120名の一般住民を対象として、
中間値で16年という長期の経過観察を行っています。

その結果、
観察期間中に129328名が死亡し、
そのうち38747名は心血管疾患による死亡でした。

多変量解析の結果、
卵を2分の1個摂取する毎に、
総死亡のリスクが7%(95%CI: 1.06から1.08)、
心血管疾患による死亡のリスクが7%(95%CI:1.06から1.09)、
癌による死亡のリスクが7%(95%CI: 1.06から1.09)、
それぞれ有意に増加していました。

また、コレステロールの摂取量が300mg上乗せされる毎に、
総死亡のリスクは19%、心血管疾患による死亡リスクは16%、
癌による死亡リスクは24%、
こちらも有意に増加していました。

卵の摂取増加による死亡リスクの増加は、
総死亡のリスクの63.2%、心血管疾患による死亡リスクの62.3%、
癌による死亡リスクの49.6%が、
コレステロールの摂取によるものと推測されました。

更にはこの卵の摂取を、
コレステロールを低減した代用卵や、
卵の白身、他の魚やナッツなどの蛋白源に変更することで、
死亡リスクはそれぞれ低減されることも推測されました。

このように、
今回の最新の疫学データにおいては、
明確にコレステロールの摂取と卵の摂取が、
心血管疾患などの死亡リスクの増加と結び付いていて、
最近のメタ解析とはまた異なる結果となっています。

この問題はまだ解決しているとは言えませんが、
コレステロールも卵の摂取も、
どの程度の制限が適切かはともかくとして、
取りすぎは健康に禁物と、
そう捉えておくのが現時点ではバランスの取れた考え方であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「1986年:メビウスの輪」(福島三部作第二部 TPAM2021年再演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

日曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
福島三部作.jpg
谷賢一さんが綿密な取材を元に、
福島原発事故に至る福島の軌跡を、
三部作としてそれぞれ2時間ほどの3本の芝居にまとめ、
2018年に第一作が発表され、
2019年には東京でも3部作の一挙上演が行われました。

僕は第一部はアゴラ劇場での初演を観て、
第三部は池袋芸術劇場での公演を観ましたが、
第二部のみは観ることが出来ませんでした。

特に第三部には非常な感銘を受けたので、
第二部を観られていないことが悔やまれてなりませんでした。

今回国際舞台芸術ミーティング in 横浜2021の一環として、
再演が行われたので、
これは是非、と思い劇場に駆けつけました。

この三部作は、
第一部が原発誘致を決めた1961年を、
第二部がチェルノブイリの事故が起きた1986年を、
そして第三部が福島原発事故の2011年を舞台にしています。
それを双葉町の町長を務めた人物の一家の、
年代記的に構成した構成がなかなかユニークで、
3作とも異なったスタイルが取られています。

このうち第三部は敢えて事故が少し落ち着いた、
2011年の暮れ頃を舞台にして、
双葉町周辺の多くの生の「声」を、
詩集のようにまとめた最もシリアスな作風で、
第一部は犬が喋ったりダンスを踊るような、
児童劇的手法も取りながら、
まだ原発が「科学の夢」であった時代の、
牧歌的な世界と将来の悲劇の落差を描いています。
そして、この第二部は、
RCサクセションの「サマータイム・ブルース」をテーマ曲として、
そこで揶揄された「原発は安全だ」の発言をした町長の、
そこに至った道程を、
やや戯画的に描いています。

これはテーマ的には一番重いもので、
原発反対の活動家であった主人公が、
町長選挙に「原発賛成派」として立候補して当選する、
という「変節」の奥にあるものを描いています。
その後すぐにチェルノブイリの事故が起こるので、
自分が最もそれまで軽蔑していた筈の行為を、
「原発は安全だ」と旗振りをする行為をするに至るのです。

日本の演劇史上を振り返っても、
これ以上に興味深く魅力的な人物像はなく、
そこには人間の持つ業のようなものが、
刻印されているように思えます。

特にラストで主人公が語ることの出来なかった思いを、
妻を前にして語ろうとする瞬間に、
孫が出来たという知らせが届いて、
その「家族の幸せ」の前に、
「福島の将来」が葬り去られてしまうという苦さは、
この三部作の中で最も深く心を抉る場面です。

このように非常に深く魅力的なテーマを持つ本作ですが、
その演劇としての見せ方というか、演出方針というか、
その点についてはかなり疑問を持ちます。

演技はかなりカリカチュアされていて、
リアルさは乏しく、
死んだ犬が語り手になって、
ダンスを踊ったりするのは、
個人的にはあまり作品の内容に合った演出とは思えません。

「サマータイム・ブルース」は、
確かに内容を象徴するような楽曲ではありますが、
音楽としての力が強すぎるので、
それが大音響で流れた瞬間に、
主人公の心理のような繊細な描写は、
全て観客の頭からは消えてしまいます。

記者会見の前に主人公が隈取りの化粧をする、
という趣向はどうでしょうか?
意図は勿論分かりますが、
これも内容の繊細さを、
大雑把な演出で消してしまう行為であったように、
個人的には思いました。

この作品はシリアスな会話劇としても、
充分そのままで成立する芝居だと思うので、
これはこれとして、
また別個の演出とキャストで、
是非上演を続けて欲しいと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「すばらしき世界」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
すばらしき世界.jpg
西川美和監督の新作は、
佐木隆三さんの「身分帳」を元にして、
人生の大半を刑務所で過ごした初老の元ヤクザが、
今の生きづらい社会で奮闘する様を、
悲喜こもごもに描いた力作です。

これは前半は素晴らしかったですね。
今村昌平監督の映画を観ているみたい。
話自体も「うなぎ」に似ていますしね。
と言うか、まあ同じですね。
意図的なのでしょうが、
昔の骨太日本映画のタッチなんですね。
映像も凝りに凝っていて、
主人公の生い立ちを8ミリっぽい映像で見せるのですが、
物凄いリアルですよね。
最初の音効が入るきっかけもゾクゾクしますし、
主人公が安アパートの部屋からぼんやり外を見ているカット、
奥の家の緑の壁面が素敵でしょ。
ちょっとしたところに、
物凄い拘っていることが分かります。

原作は読んでブログ記事にもしたのですが、
しっかり完結しているという内容ではなくて、
主人公の人生が、
少し前向きになって来たかな、
というところで終わるんですね。

それで終わってもそれはそれで良かったのじゃないかな、
というようには思うのですが、
映画としては確かに弱いですよね。
また、原作は昭和61年が舞台なのですが、
それを映画は2019年にしているんですね。
これはまあ、「身分帳」の主人公を、
現代にタイムスリップしてもらって、
今の社会と格闘してもらう、
という作品であると思うので、
その部分はオリジナルでないとまずいのですね。

それで、映画は途中で、
山田洋次的ハッピーエンドが描かれて、
「これでまさか終わりじゃないよね」
という気分にさせるのですが、
そこからちょっとタッチが変わって、
原作を離れて、
主人公が「現代」に立ち向かい、
ある意味無残に敗北する姿が描かれて、
複雑な余白を残しながら、
主人公の死まで描いて映画は終わります。

西川監督、かなり悩み抜き、
考え抜いたのだろうな、
という気はするのですね。
空気を読まずに、自分の倫理観で、
全てを割り切り暴力も辞さないという主人公が、
自分の意見を最後は押しとどめ、
結局その後には死しか残らないのですね。
どうなのかしら。
ちょっとモヤモヤするラストですよね。
黒澤明監督の後期の映画に出て来る、
ちょっとくどくて中途半端なヒューマニズムと、
同じような欲求不満の感じがありますね。
矢張り迷わず、
スパッと何かを断ち切るようなラストにして欲しかったな、
というように個人的には思いました。

原作はノンフィクション的なフィクションなので、
主人公はその性格を変えることは一切ありませんし、
補足的なエッセイを読んでも、
結局はトラブルを起こして周囲を困らせながら、
そのまま死んでいったようです。
西川監督がそれを変えたかった、という意図は分かるのですが、
作品を観た感想としては、
そのままの方が良かったのに、
とどうしてもそう思ってしまいました。

また、
原作の主人公は、ばりばりの活動家で、
刑務所でも待遇改善の訴訟を起こしたり、
どちらかと言えば保守寄りの過激派なんですね。
ヤクザで活動家というのがあの時代ならではで、
それが彼の倫理観の根っこにあるのですが、
映画は時代を現代にしてしまったので、
その設定自体がなくなってしまい、
主人公の思想的なこだわりが見えにくい、
という欠点はあったように思います。

他にも昭和61年の話を現代にしているので、
主人公の生い立ちの部分とか、
ヤクザの兄貴分に会いに行くところとか、
ちょっと違和感がありますね。
現代でやるには、
綻びと無理があったようにも感じました。
後主人公が心電図を撮る場面があるのですが、
電極を付ける位置が違いますよね。
「ディアドクター」の時も思いましたが、
西川監督は、
あまり医療考証みたいなものには関心がないようです。

そんな訳で西川監督らしい骨太の意欲作で、
非常に面白い映画ですし、
前半だけなら全ての方にお勧めしたい傑作なのですが、
ラストは監督の迷いも感じられ、
少しモヤモヤする気分が残りました。

でも、一見の価値は充分にあります。
お勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスmRNAワクチンの全身性アレルギー症状(ファイザー/ビオンテック) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ファイザーワクチンのアナフィラキシー.jpg
JAMA誌に2021年1月21日ウェブ掲載された、
ファイザーなどによるmRNAワクチンの、
アナフィラキシーの報告についての短報です。

複数の新型コロナウイルス感染症のワクチンが、
既に国外では接種が進んでいますが、
その一番手と言って良く、
日本でもおそらく最初に集団接種に使われると思われるのが、
ファイザー社とビオンテック社によるmRNAワクチンです。

2020年12月14日から23日の間にアメリカで施行された、
このワクチンの1893360回の初回接種において、
全身性アレルギー症状であるアナフィラキシーが、
21例報告されています。

これは100万回の接種当たり11.1件、
という頻度になります。

このうち4人は重症で入院となり、
3人は集中治療室に入っています。
81%に当たる17名は救急外来での治療を受け、
20名は上記報告の時点で回復しています。
死亡者は出ていません。

ワクチン接種から症状出現までの時間は、
中間値で13分(2から150分)で、
71%に当たる15人は15分以内に、
86%に当たる18人は30分以内に発症しています。
典型的な症状は蕁麻疹、血管性浮腫、発赤、
のどの閉塞感などです。

81%に当たる17名には、
何らかのアレルギーの既往があり、
33%に当たる7名にはアナフィラキシーの既往がありました。

このように、
ファイザー/ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチンの、
主な副反応であるアナフィラキシーは、
頻度的には10万接種に1例程度で、
アレルギー素因のある接種者に多く発症しています。

この頻度は現時点では、
基本的には安全な基準を満たしたものだと言えますが、
アレルギー素因のある人に多く発症していて、
接種の際には問診が重要であると共に、
接種後30分の観察は必須であると考えられます。

こうした点を踏まえて、
日本においても慎重に接種が施行され、
副反応のデータも収集分析されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「さんかく窓の外側は夜」(2020年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
さんかく窓.jpg
ヤマシタトモコさんの漫画を原作に、
森ガキ侑大監督が独特のセンスで、
スタイリッシュなスリラー映画に仕立てています。

これは前半は結構良かったんですよね。
人物紹介などなく、
いきなり本題に入る感じも良いですし、
幽霊というのか生き霊というのか、
そのビジュアルもなかなか不気味で良いですし、
岡田将生さんと平手友梨奈さんがどちらも謎めいていて、
正体不明な2人に志尊淳さんが、
翻弄されるのも悪くないと思います。

ただ、原作がまだ完結していないということもあって、
後半はかなりやっつけ仕事、という感じになります。

予算もなかったのだとは思いますが、
クライマックスが廃屋の地下の変な部屋で、
主人公達がじたばたするだけ、
というのは如何にもひどいでしょ。

ラスボスの筈の新興宗教の教祖が、
殆ど活躍しないままに、
警察に捕まってお終い、というのも酷いと思います。

これ、新興宗教の出て来るところで、
お話のスケールがグッと広がらないといけないんですよね。
それが逆にしぼんでしまっているでしょ。
このくらいなら話を膨らまさない方が良かったですよね。
全くもって、後半は画が撮れていません。

そんな訳で堤幸彦さんが一時連発したような、
宣伝先行のガッカリ超大作に近い雰囲気で、
とてもとても空しい気分で映画館を後にしました。

映像センスはあるのでとても残念です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症へのアジスロマイシンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19へのアジスロマイシンの効果.jpg
Lancet誌に2021年2月2日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
アジスロマイシンの有効性についての論文です。

新型コロナウイルス感染症に対しては、
多くの治療薬が試みられていますが、
現行国際的なガイドラインにおいて、
その有効性が確認されているのはステロイドのみで、
それに次いでガイドラインにより推奨されているのが、
レムデシビルという注射薬です。
軽症や中等症から使用可能な薬はなく、
この病気の大きな問題点の1つです。

アジスロマイシンはマクロライド系の抗菌薬で、
新型コロナウイルス感染症流行の初期から、
臨床においては使用されることの多い薬です。
マクロライド系の抗菌薬には免疫の調整作用があり、
それが新型コロナウイルス感染症の予後改善に、
一定の有効性のあることが期待されているからです。

今回の研究はイギリスにおいて、
大規模に行われた臨床試験で、
新型コロナウイルス感染症に対する、
アジスロマイシンの有用性を検証したものです。

イギリスの176カ所の病院に入院した、
16442名の新型コロナウイルス感染症患者が登録され、
くじ引きで通常治療とアジスロマイシン上乗せ治療群に分け、
28日間の予後を比較検証しています。
アジスロマイシンは1日500mgを10日間、もしくは退院まで継続する、
という方法が取られています。

その結果、
アジスロマイシンの使用の有無で、
患者の生命予後には差はなく、
入院期間や退院後の生存率、
重症化率にも差は認められませんでした。

今回の検証ではアジスロマイシンの使用は、
治療経過に有害ではありませんでしたが、
その予後に明確に良い影響は認められませんでした。

この病気の有効な治療薬の開発は、
まだまだ紆余曲折が予想されるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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頸動脈エコーによる検診の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
頸動脈エコーの有効性.jpg
JAMA誌の2021年2月2日号に掲載された、
無症状の頸動脈狭窄のスクリーニングの意義についての、
アメリカ予防医学作業部会(USPSTF)がまとめた、
ガイドラインの解説記事です。

頸動脈の狭窄というのは、
主に動脈硬化が原因となって、
脳に血液を運ぶ血管である頸動脈が、
狭くなるという病態のことです。

このうち無症状性頸動脈狭窄は、
虚血性梗塞や一過性脳虚血発作、
それ以外の頸動脈狭窄に由来するような神経症状を、
伴わない頸動脈狭窄症のことです。

以前は頸動脈の狭窄を発見するには、
聴診器で頚部に雑音を聴取することが、
重要な所見であると教科書に記載されていました。
その確定診断には血管造影という検査が必須でした。
しかし、超音波検査が進歩し、
ドップラーによる血流測定も、
クリニックレベルで気軽に施行可能となって、
その発見頻度は急速に増加しました。

日本では人間ドックなどの詳細な健診において、
この頚部の超音波検査が、
動脈硬化の診断のための検査として行われています。

しかし、こうした検査にはどの程度の健康上の意義があるのでしょうか?

実はUSPSTFは2014年に既に、
この問題についての提言をまとめていて、
その結果は「推奨度D」、
つまり明確に推奨しない、というものになっています。

それは何故なのでしょうか?

頸動脈に有意な狭窄があるということは、
全身的な動脈硬化の1つの現れ、
というようには考えることが出来ます。
ただ、それは高血圧や脂質異常症、肥満など、
他の危険因子と比較してより有用、
というものではありません。

実際に頸動脈に有意な狭窄があっても、
脳への血管は4本ありますから、
すぐに脳への血流が減るという訳ではありません。
最も危険なのは頸動脈に不安定な血栓があって、
それが脳に飛ぶというリスクですが、
そうした事例がそれほど多いということはありません。

つまり、症状のない不特定多数の人に検診として超音波検査をすることが、
余り効率的な検査であるとは言えないのです。

一方で頸動脈の検査をして狭窄が見付かった場合には、
その程度によって血管造影などの精査を行い、
頸動脈の動脈硬化巣を切除したり、
バルーンで膨らませて拡張したり、
ステントを挿入するような治療が行われることがあります。
ただ、その有効性については、
心臓の冠動脈のような精度の高い臨床データはなく、
むしろ術前術後の合併症や後遺症などのリスクが、
少なからず認められる、
というような報告すらあります。

この両者を天秤に掛けた時、
無症状性頸動脈狭窄のスクリーニング検査は、
現時点ではそのデメリットの方が、
明確にメリットより大きい、
というのが今回再検証された提言においても、
USPSTFのこの問題に対する結論となっていました。

勿論、現行人間ドックなどで行われている頸動脈エコーが、
全て有害だ、ということではありません。
症状が疑われる時に行われる検査は、
有用性のあることは間違いありませんし、
他の検査と併せて検証されることで、
全身的な動脈硬化の進行予防のために、
節度を持って使用されるのであれば、
これも一定の有効性があると思われます。

問題は検査自体よりもその使用法であって、
この検査に脳卒中自体の予防効果はなく、
それが過剰診断や過剰治療に結び付き易いという事実は、
知っておく必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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