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アストロゼネカ社ワクチンの南ア変異株への有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アストラゼネカワクチンの変異への効果.jpg
査読前の文献を公開しているサーバーであるmedRxivに、
2021年2月10日ウェブ掲載された、
アストロゼネカとオックスフォード大などによる、
新型コロナウイルスワクチンの、
南アフリカで報告された変異株ウイルスに対する、
有効性を検証した論文です。

これはまだ査読前のため注意が必要ですが、
かなり深刻で、
ワクチンの普及と共に新型コロナウイルス感染症が収束するという、
甘い期待に、
冷や水を投げかけるような結果です。

新型コロナウイルスに当初とは性質の異なる、
多くの変異株が検出されていることは、
皆さんもご存じの通りです。

最も有名なのは英国で見つかった、
「B.1.1.7」という変異ウイルスで、
ウイルスのACE2への結合を高めるN501Y点変異を含み、
従来のウイルスより感染力を高め、
重症化も多いと想定されています。

それとは異なり、南アフリカで発見され注目されているのが、
「B.1.351」という変異ウイルス株です。

この変異ウイルスは、
ウイルスの受容体結合部位(RBD)の3か所の変異と、
矢張りウイルスの突起(スパイク)を形成する、
NTDという別の部位の5か所の変異が集積しているもので、
単純に感染し易いとか重症化し易いというものではなく、
ウイルスに対する中和抗体が、
全く産生されないか非常に低力価でしか誘導されない、
というタイプの変異ウイルスです。

つまり、何度でも感染を繰り返し、
慢性感染や持続感染も起こし易い可能性があるという、
極めて深刻な変異株です。

イギリスは水際対策を強化し、
南アフリカなどからの入国を厳しく制限している、
というニュースが先日あり、
「自分の国でも変異ウイルスが流行しているのに、
何で今更…」と思われた方もいるかと思いますが、
これはそうした意味で、
英国の変異ウイルスとは、
問題の深刻さが全く異なっているからなのです。

それでは、現行開発されているワクチンは、
この南アの変異ウイルスに有効なのでしょうか?

今回対象となっている、
ChAdOx nCoV-19と命名されたワクチンは、
アストロゼネカ社とオックスフォード大などによる共同開発で、
ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンとは異なる、
アデノウイルスベクターワクチンです。

ウイルスベクターワクチンというのは、
他の無害なウイルスの遺伝子の一部に、
目標とするウイルスの遺伝子を取り込ませて、
それを人間に感染させることにより、
免疫を誘導しよう、という手法のワクチンです。

今回のイギリスのワクチンは、
チンパンジー由来の人間には感染しないアデノウイルスを、
ベクターとして利用して、
そこに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、
突起(スパイク)部分の蛋白質の遺伝子を挿入し、
それを接種することで人間にこのアデノウイルスを感染させます。

このウイルスは人間の細胞に感染しますが、
そこで増殖はしないように調整されています。
結果としてウイルスに対して身体が免疫を誘導するので、
それが新型コロナウイルスにも有効に作用する、
という仕組みです。

生ワクチンや不活化ワクチンほど量産に時間が掛からず、
ウイルスを感染させるので、
不活化ワクチンより細胞性免疫の活性化も強く期待出来る、
という点が利点です。

中国で開発されている同種のワクチンは、
エボラ出血熱ワクチンで開発には成功しており、
イギリスの今回のワクチンはMERSワクチンとして開発した経緯があり、
いずれのワクチンも大規模な臨床応用、
というところには至っていない点に、
若干の不安はありますが、
比較的成功の可能性の高い技術ではあるのです。

その通常型の新型コロナウイルス感染症に対する有効性は、
70.4%と報告されています。
これは2回目のワクチン接種14日以降の、
検査により確認された有症状の新型コロナウイルス感染症の発症を、
どれだけ予防したかで算出されている数値で、
ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンが、
いずれも90%を超える有効性を示している点から見ると、
やや見劣りする効果ではあります。
英国の変異ウイルス「B.1.1.7」に対する解析では、
その有効率は74.6%という結果が報告されています。

今回の検証はそのワクチンが、
南アフリカの変異株「B.1.351」に対して、
どの程度の有効性を持つかを検証したもので、
南アフリカで2020年7月24日から11月9日に、
1010名の偽ワクチン接種群と、
1011名のアデノウイルスベクターワクチン接種群を登録し、
ワクチンの有効率を比較しているものです。
被験者の年齢の中央値は31歳と若く、
軽症から中等症の事例のみが発症しています。

発症した42例のうち、
遺伝子解析に成功した41例の95.1%に当たる39例が、
「B.1.351」変異株でした。
つまり、殆どが変異株の感染です。

結果として偽ワクチン接種群の3.2%に当たる23例と、
実ワクチンの群の2.5%に当たる19例が、
新型コロナウイルス感染症を発症していて、
その有効率は21.9%(95%CI:-49.9から59.8)という低率でした。
ここで変異株の感染に限定して有効率を計算すると、
10.4%(95%CI:-76.8から54.8)という更に低率となりました。
いずれも統計的には明確な有効性はない、
という判断です。

つまり、このアデノウイルスベクターワクチンは、
「B.1.351 」という変異株に対しては、
全く効果がなかった、ということになります。

これはかなり重い報告で、
今後この変異ウイルスをどのように封じ込めるかが、
新型コロナウイルス感染症の収束に向けての、
大きな課題となることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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