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メラノーマの増加とその原因 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

11月1日(火)と2日(水)の診療は、
石田医師による代診となりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メラノーマの増加.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年10月3日ウェブ掲載された、
皮膚癌の増加の原因について検証した論文です。

メラノーマ(悪性黒色腫)は悪性度の高い皮膚癌の一種で、
初期には黒子のように見えます。

このメラノーマは非常に稀な癌とされて来ましたが、
近年世界的にその罹患率が増加していることが指摘されています。

その原因には幾つかの可能性が指摘されています。
その1つは紫外線の影響です。
メラノーマは白人種に多いことから、
以前より紫外線が誘因となるのではという指摘があります。
最近皮膚が暴露する紫外線量が増加しているので、
メラノーマが増えているのではないか、
と言うのです。

もう1つはスクリーニングや精密検査の普及です。
特殊な拡大鏡によるメラノーマの診断の進歩や、
日本ではそのリスクからあまり行われていませんが、
海外では積極的に施行されている生検の増加などにより、
メラノーマが初期に診断される事例が増えています。
また、「こうした黒子には気を付けろ」のような、
報道や情報発信も多く行われるようになり、
一般の方でも自分から積極的に、
皮膚科などを受診して診断を希望されることも増えたのです。

スクリーニングが増えると罹患率が増えるというのは、
これまでにマンモグラフィーの導入による、
乳癌の増加や、
PSA検診の導入による前立腺癌の増加、
超音波検診による甲状腺癌の増加などで、
広く知られている現象です。
特に予後の悪くない前立腺癌や甲状腺癌では、
罹患率の増加が予後の改善に結び付かず、
不必要な医療費や患者負担を増やしている、
という側面も指摘されています。

今回の研究では、
近年のメラノーマのアメリカにおける罹患率増加が、
どのような原因で起こっているのかを検証する目的で、
アメリカの地方単位である郡のうち、
727か所の疫学データを抽出し、
その地域特性とメラノーマ罹患率との関連を検証しています。

その結果、
紫外線の曝露量とメラノーマの罹患率との間には、
明確な関連は認められませんでした。
その一方でその地域の皮膚科医が多く、
プライマリケアの医療機関を、
受診しやすい環境が整っている地域では、
紫外線曝露量が少なくても、
メラノーマの罹患率は高くなっていました。
またその家庭の収入が多いほど、
メラノーマの罹患率は高くなっていました。

つまり、
アメリカにおける最近のメラノーマの増加は、
紫外線が原因なのではなく、
メラノーマを疑いスクリーニングが可能な環境が整ったことが、
その原因であることが今回のデータからは示唆されたのです。

ただ、現状その罹患率の増加は、
患者の生命予後の改善と明確な関連は認められませんでした。
これは同じように検証された肺癌の死亡率が、
罹患率の増加に伴って改善していることと、
明瞭な対比を示していました。

今後こうしたデータを基礎として、
どのようなメラノーマのスクリーニングとその後の治療が、
メラノーマの予後改善に結び付くのか、
その検証が重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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