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新型コロナウイルス感染症とその後の血栓症リスク(イギリスの大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

今日はお休みですが医学の話題です。

今日はこちら。
COVID-19とその後の血栓症リスク.jpg
Circulation誌に2022年9月20日掲載された、
新型コロナウイルス感染症罹患後の、
全身の血栓症リスクの増加を検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
心筋梗塞や脳卒中、深部静脈血栓症や肺塞栓症など、
全身の動脈系静脈系の血栓症のリスクが高まることは、
これまでに繰り返し指摘されている事実です。

ただ、個別の疾患の長期のリスクについて、
系統的に検証された大規模データは、
まだそれほどないのが実際です。

今回の研究ではイギリスにおいて、
4800万人の大規模な電子カルテデータを使用。
140万人以上の新型コロナウイルス感染症罹患者を対象として、
新型コロナウイルス感染症の診断時以降、
49週までの長期間の心血管疾患や血栓症のリスクを、
非感染者と比較検証しています。

間違いなくこれまでで最も大規模で、
かつ最も長期間検証されたデータです。

その結果、
多くの心血管疾患や血栓疾患において、
動脈系と静脈系の双方に、
49週までの長期間に渡って、
新型コロナイルス感染後のリスク増加が認められました。

心筋梗塞や脳卒中などの動脈系の血栓症については、
新型コロナ診断後1週目には非感染者の21.7倍(95%CI:21.0から22.4)と、
著明なリスク増加が認められ、
その後週数が経過する毎にリスクは減少しますが、
診断49週目においても、
1.34倍(95%CI:1.21から1.48)と有意なリスク増加は残存していました。

深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈系の血栓症については、
こちらも新型コロナ診断後1週目には、
非感染者の33.2倍(95%CI:31.3から35.2)と著明なリスク増加が認められ、
診断49週目においても、
1.80倍(95%CI:1.50から2.17)と有意なリスク増加は残存していました。

この血栓症リスクの増加は、
入院した重症患者が自宅療養よりも、
アフリカ系やアジア系人種が白人種よりも、
静脈血栓症の既往がない患者がある患者よりも、
より高くなる傾向が認められました。

推計すると、
この新型コロナ診断後49週までの累積の血栓症リスクにより、
一般人口の0.5%に動脈血栓症が、
0.25%に静脈血栓症が新たに生じたことになり、
これは140万人の新型コロナ感染者において、
動脈系血栓症が7200件、静脈系血栓症が3500件、
新たに発症したと計算されます。

このように、
新型コロナウイルス感染症は、
その感染自体による肺炎などの発症のみならず、
心筋梗塞や脳卒中、肺塞栓症など、
幅広い血栓症のリスク増加と関連していて、
そのリスクは感染直後にピークに達しますが、
ほぼ1年後においても残存しており、
その影響は公衆衛生的にも無視出来ないレベルのものです。

今後こうした感染後の血栓症の予防のために、
どのような対策が適切であるのか、
抗血小板剤や抗凝固剤を、
予防的に使用することに一定の意味があるのか、
あるとすれば何を指標として投与するべきなのか、
そうした点についての検証が早急に必要であるように思います。

行政はもうコロナ後を見据えて、
医療費も絞り込む方向に舵を切っていて、
療養期間後のケアには、
あまり対策が取られる見通しはなさそうですが、
末端の医療者の1人としては、
そうした側面にも注意を払いつつ、
日々の診療には当たろうと考えているところです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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