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尿酸降下療法の心血管疾患予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療と保育園の健診などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アロプリノールの心血管疾患予防効果.jpg
Lancet誌に2022年10月8日掲載された、
尿酸降下剤の心血管疾患予防効果を検証した論文です。

高尿酸血症は、
痛風と呼ばれる痛みを伴う関節炎や、
尿路結石の原因となります。
そのため関節炎や結石症の症状があって、
血液の尿酸値が高い場合には、
血液の尿酸を低下させるような薬剤を使用して、
治療を行うことが推奨されています。

尿酸値を充分に低下させて維持することにより、
痛風や結石の発作が予防されることが、
明確に示されているからです。

ここまでは問題はありません。

問題はこうした症状がなく、
尿酸値のみが上昇している場合にどうするか、
という点です。

現行の欧米のガイドラインの多くでは、
無症状の高尿酸血症は、
癌の化学療法などに伴う場合を除いて、
積極的に薬物治療を行う必要はない、
という記載がされています。

ただ、日本のガイドラインにおいては、
食事などの生活改善を行っても、
尿酸が9㎎/dL以上の高尿酸血症については、
薬物治療を推奨するような記載となっています。

この点は日本と欧米との治療方針に、
明確な差があるのです。

近年尿酸値が上昇することが、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクになる、
という知見が多く報告されるようになりました。

その一部では、
無症状であっても血液の尿酸値を低下させることにより、
心血管疾患のリスクが低下したとする結果も報告されています。

これが事実であるとすれば、
無症状の高尿酸血症についても、
積極的に尿酸降下療法を施行することが、
心血管疾患の予防のためには有用である、
ということになります。

日本のガイドラインの方が、
欧米のものより正しい、
ということになる訳です。

今回の研究はイギリスの複数施設において、
60歳以上で狭心症や心筋梗塞の既往があり、
痛風発作や中等度以上の腎機能低下のない、
トータル5937名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の治療のみを施行し、
もう一方はそれに加えて尿酸の産生を抑制する治療薬である、
アロプリノール(商品名ザイロリックなど)を追加して、
その後の経過を平均で4.8年観察しているものです。

血液の尿酸値は無視している点がポイントで、
勿論アルプリノール使用群では尿酸値は低下するので、
そのことの心臓疾患への影響を見ているのです。
アロプリノールは世界的には最も標準的に使用されている尿酸降下剤で、
過去にその使用により、
心血管疾患のリスク低下が見られたとするデータがあることより、
選択されています。

その結果、
アロプリノールを上乗せで使用しても、
急性心筋梗塞やの脳卒中、心血管疾患による死亡を併せたリスクには、
有意な差は認められませんでした。
総死亡のリスクについても、
明確な差は認められませんでした。

このように、
尿酸降下剤による単独の治療は、
今回のこれまでで最も規模が大きな検証においては、
心血管疾患の予防と生命予後改善において、
明確な有効性を示せませんでした。

従って現状無症候性の高尿酸血症において、
積極的に治療をすることの有効性は、
科学的には実証されていないというのが、
最新の知見と考えて間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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