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尿酸降下療法の心血管疾患予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療と保育園の健診などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アロプリノールの心血管疾患予防効果.jpg
Lancet誌に2022年10月8日掲載された、
尿酸降下剤の心血管疾患予防効果を検証した論文です。

高尿酸血症は、
痛風と呼ばれる痛みを伴う関節炎や、
尿路結石の原因となります。
そのため関節炎や結石症の症状があって、
血液の尿酸値が高い場合には、
血液の尿酸を低下させるような薬剤を使用して、
治療を行うことが推奨されています。

尿酸値を充分に低下させて維持することにより、
痛風や結石の発作が予防されることが、
明確に示されているからです。

ここまでは問題はありません。

問題はこうした症状がなく、
尿酸値のみが上昇している場合にどうするか、
という点です。

現行の欧米のガイドラインの多くでは、
無症状の高尿酸血症は、
癌の化学療法などに伴う場合を除いて、
積極的に薬物治療を行う必要はない、
という記載がされています。

ただ、日本のガイドラインにおいては、
食事などの生活改善を行っても、
尿酸が9㎎/dL以上の高尿酸血症については、
薬物治療を推奨するような記載となっています。

この点は日本と欧米との治療方針に、
明確な差があるのです。

近年尿酸値が上昇することが、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクになる、
という知見が多く報告されるようになりました。

その一部では、
無症状であっても血液の尿酸値を低下させることにより、
心血管疾患のリスクが低下したとする結果も報告されています。

これが事実であるとすれば、
無症状の高尿酸血症についても、
積極的に尿酸降下療法を施行することが、
心血管疾患の予防のためには有用である、
ということになります。

日本のガイドラインの方が、
欧米のものより正しい、
ということになる訳です。

今回の研究はイギリスの複数施設において、
60歳以上で狭心症や心筋梗塞の既往があり、
痛風発作や中等度以上の腎機能低下のない、
トータル5937名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の治療のみを施行し、
もう一方はそれに加えて尿酸の産生を抑制する治療薬である、
アロプリノール(商品名ザイロリックなど)を追加して、
その後の経過を平均で4.8年観察しているものです。

血液の尿酸値は無視している点がポイントで、
勿論アルプリノール使用群では尿酸値は低下するので、
そのことの心臓疾患への影響を見ているのです。
アロプリノールは世界的には最も標準的に使用されている尿酸降下剤で、
過去にその使用により、
心血管疾患のリスク低下が見られたとするデータがあることより、
選択されています。

その結果、
アロプリノールを上乗せで使用しても、
急性心筋梗塞やの脳卒中、心血管疾患による死亡を併せたリスクには、
有意な差は認められませんでした。
総死亡のリスクについても、
明確な差は認められませんでした。

このように、
尿酸降下剤による単独の治療は、
今回のこれまでで最も規模が大きな検証においては、
心血管疾患の予防と生命予後改善において、
明確な有効性を示せませんでした。

従って現状無症候性の高尿酸血症において、
積極的に治療をすることの有効性は、
科学的には実証されていないというのが、
最新の知見と考えて間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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長期の食習慣が認知症リスクに与える影響(スウェーデンの大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
食生活と認知症リスク.jpg
Neurology誌に2022年10月12日掲載された、
認知症の発症に食生活が与える影響についての論文です。

認知症の発症には生活習慣が関与しており、
その予防のために食事が重要であるという考え方があります。
実際地中海ダイエットと呼ばれる、
魚とナッツやオリーブオイルを多く摂り、
赤身肉やバター、マーガリンなどの動物性脂肪を控える食事で、
認知症リスクが低下したとする臨床データが報告されていますが、
その研究の精度はそれほど高いものではありません。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
一般住民28025人に詳細な食事のアンケートを施行し、
その食事パターンを分析して、
その後中間値で19.8年という長期の経過観察を行い、
認知症リスクと食事パターンとの関連を検証しているものです。
これまでの同種の研究の中でも、
単独の研究としては対象者数も多く観察期間も長期で、
食事内容の分析も詳細であるという特徴があります。

食事パターンは、
スウェーデンにおいて健康な食事パターンとして、
推奨されているものと、
地中海ダイエットの食事パターンを、
どのくらい遵守しているのかを指標として分析されています。。

スウェーデンで推奨されているダイエットは、
食物繊維を多く摂り、砂糖を減らし、
魚や果物、野菜を多く摂り、
赤身肉や加工肉を減らすというもので、
地中海ダイエットもそこまでについては、
ほぼほぼ同一なのですが、
それに加えて赤ワインを飲み、
バターやマーガリンを減らし、
ナッツやオリーブオイルを沢山摂る、
という特徴を持っています。

観察の結果、
国で推奨されている食事パータンを遵守していても、
地中海ダイエットの食事パターンを遵守していても、
遵守していない場合と比較して、
トータルな認知症の発症リスクも、
認知症による死亡リスクも、
個々の認知症の発症リスクも、
いずれも有意な差は認められませんでした。
一部の事例では脳のアミロイドβ蛋白の蓄積が検査されていますが、
その蓄積の程度と食事パターンとの間にも、
明確な関連は認められませんでした。

このように、
今回の検証においては、
健康に良いとされる食事パターンを遵守していても、
認知症の明確な予防には結びついていませんでした。

これをもってこうした食事に意味がない、
というようには言えませんし、
心血管疾患などの予防においては、
明確な予防効果が確認されている点は強調するべきですが、
こと認知症の予防という点に限定すると、
食事に多くを期待することは、
現状は難しいと考えた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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モデルナ製オミクロン2価ワクチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談や保育園の健診で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
モデルナワクチン、オミクロン対応の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年10月6日掲載された、
モデルナ社製のオミクロン対応2価ワクチンの有効性についての論文です。

日本でも追加接種として、
オミクロン株由来の抗原を含む、
2価の新型コロナウイルスワクチン接種が、
開始されていますが、
今回の研究は日本でも使用されている、
モデルナ社の2価ワクチンの、
アメリカで施行された発売前の臨床試験の結果を解析したものです。

今回の臨床試験では、
モデルナワクチンの3回接種を終えた被験者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
そのうちの377名はこれまでと同じ従来型の抗原を50μg含むワクチンを接種し、
もう一方の437名は従来型の抗原25μgと、
オミクロンBA.1株由来の抗原25μgを含む2価ワクチンを接種して、
接種後28日の時点での抗体上昇などを比較しています。
今回の4回目接種は、
3回目から3か月以上の間隔を置いて施行されています。

その結果、
GMT(幾何平均抗体価)という指標で評価した、
オミクロンBA.1株のスパイク蛋白に対する抗体価は、
新型コロナに罹患していない対象のみで比較したところ、
従来型ワクチンでは1473.5(95%CI:1270.8から1708.4)であったのに対して、
オミクロン対応2価ワクチンでは2372.4(95%CI:2070.6から2718.2)で、
オミクロン対応ワクチンで有意な増加を示していました。

オミクロンBA.4とBA.5に対する抗体価で同様の検証を行うと、
従来型ワクチン接種後の抗体価は492.1(95%CI:431.1から561.9)であったのに対して、
オミクロン対応2価ワクチンでは727.4(95%CI:632.8から836.1)となっていて、
BA.1に対する免疫反応と比べると弱いものの、
矢張りオミクロン対応ワクチンで有意な増加が見られていました。
またα、β、γ、δのオミクロン株以前の変異株に対しての免疫反応についても、
従来ワクチンよりオミクロン対応ワクチンで、
より高い抗体上昇が認められました。

このようにオミクロン対応ワクチンは、
オミクロン株を含めたそれ以前の変異株についても、
従来ワクチンに勝る有効性が期待され、
その安全性や実際の感染予防効果については、
今後の検証を待つ必要がありますが、
取り敢えずは従来型ワクチンを、
オミクロン対応ワクチンに置き換えるという方針で、
問題はないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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左室機能低下事例における心臓カテーテル治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カテーテル治療の心不全に対する効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年10月13日掲載された、
心機能が低下した事例における、
心臓カテーテル治療の有効性を検証した論文です。

心臓を栄養する血管である冠動脈に、
動脈硬化性の変化による血行障害が起こり、
血管が高度に狭窄したり閉塞すると、
心臓の筋肉は虚血状態となり、
胸の痛みなどの症状が起こって、
不安定狭心症や急性心筋梗塞と呼ばれる状態になります。

その急性期にカテーテル治療やバイパス手術によって、
血行を再建すると、
心筋の虚血も改善することが多く、
そのため早期に治療を施行することが推奨されています。

しかし、慢性の虚血により、
左室機能が高度に低下しているような場合、
通常の薬物療法に加えて心臓カテーテル治療をすることで、
果たして患者さんの予後の改善に結び付くのか、
という点についてはまだあまり明確なことが分かっていません。

今回の研究はイギリスの複数施設において、
駆出率という指標で35%以下という、
高度の左室機能の低下があり、
急性心筋梗塞の急性期ではなく、
心臓カテーテル治療の適応となるような病変を持つ、
トータル700名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は心臓カテーテル検査を施行し、
もう一方はスタチンや抗血小板剤、ACE阻害剤などの、
ガイドラインに則った薬物治療のみを施行して、
1年以上の経過観察を施行しています。

その結果、中間値で41か月の経過観察期間において、
薬物治療にカテーテル治療を上乗せしても、
患者さんの全ての原因による死亡と心不全による入院のリスクに、
有意な改善は認められませんでした。
また左室機能の指標である駆出率についても、
両群で差は認められませんでした。
患者さんのQOLについては1年以内では、
カテーテル治療併用群で改善傾向が認められましたが、
2年後の検証ではその違いは有意ではなくなっていました。

このように、
心機能が高度に低下した慢性心不全の患者さんにおいて、
適応となる病変に対して、
心臓カテーテル治療を施行しても、
患者さんの生命予後や心機能の明確な改善は認められませんでした。

心機能が高度に低下した患者さんのカテーテル治療の適応については、
今後より慎重な検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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髄液のアミロイドβ蛋白濃度とアルツハイマー病の進行リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルツハイマー病と髄液アミロイドβ.jpg
Journal of Alzheimer's Disease誌に、
2022年掲載予定として公開された、
アルツハイマー型認知症における髄液アミロイドβの意義についての論文です。

老年期認知症の代表と言えばアルツハイマー型認知症です。

この病気は物忘れで始まり、
脳の海馬という部分が萎縮することが特徴です。
進行すれば、全ての認知機能が低下します。
アルツハイマー病の脳では、
老人斑という変化と神経原繊維変化という変化が認められます。
老人斑の主成分はアミロイドβ蛋白で、
神経原繊維変化の主成分はタウ蛋白です。

アルツハイマー病で起こる最も初期の変化は、
アミロイドβ蛋白の蓄積です。
このアミロイドβ蛋白は、
正常の神経細胞からも分泌される物質で、
神経の保護やその成長の促進などに、
一定の役割を持っていると考えられています。
つまり、それがあること自体は害ではないのです。

ところが、
この蛋白が重合し凝集することで、
組織に蓄積し、老人斑を形成します。

最近の研究により、
通常のアミロイドβより2個アミノ酸の多い、
アミロイドβ42という変性アミロイドβ蛋白質が、
互いにくっつきやすい性質を持ち、
それが固まることで排泄されずに、
組織に沈着することが分かりました。

アミロイドβ42が凝集し蓄積すると、
髄液のアミロイドβは減少します。
このため現時点で最も早くアルツハイマー病の始まりを診断する検査は、
髄液検査で髄液中のアミロイドβ42の減少を確認することです。

アミロイドβ42の蓄積から10年から15年が経過してから、
今度はリン酸化したタウ蛋白の蓄積が起こります。
(20年とする記載もあります)
異常にリン酸化したタウ蛋白が、
神経細胞内に蓄積し、
それに伴って神経細胞が死滅してゆきます。

アミロイドβ42の蓄積が始まってから、
最短で10年でタウ蛋白の蓄積が始まり、
それから更に15年くらいでようやく物忘れなどの症状が出現します。

つまり、
70歳で発症したアルツハイマー病の最初の変化は、
45歳くらいから既に始まっている、
ということが言えます。

このように、
認知症の症状があって、
アミロイドβの沈着を伴うような脳の変化があれば、
ほぼアルツハイマー型認知症として考えるのが現状の認識です。

タウ蛋白の蓄積自体は、
アルツハイマー型認知症以外でも、
高齢になれば生じることは知られていて、
高齢でゆっくり進行する物忘れなどの症状は、
アルツハイマー型認知症とは別個に、
高齢者タウオパチーと呼ばれていて、
神経原繊維変化型老年期認知症や、
嗜銀顆粒性認知症と病名が付けられています。

アミロイドβ蛋白の沈着が、
アルツハイマー型認知症の原因であるとすれば、
それを抑制したり減少するような薬を使用することにより、
認知機能の改善も見込める筈です。

しかし、これまでの多くの臨床試験において、
薬剤による認知機能の改善は確認されていません。
以前ご紹介した最近のメタ解析の論文でも、
薬剤によって脳内のアミロイドβの蓄積が減少しても、
それは認知機能の有意な改善には結びついていませんでした。

家族性のアルツハイマー病では、
遺伝子変異により脳内でのアミロイドβの沈着が増加することが分かっています。
一方で髄液中のアミロイドβ濃度は、当初の予想に反して、
そうした遺伝子変異のない場合よりむしろ減少していると報告されています。

それでは家族性アルツハイマー病で、
脳内へのアミロイドβの沈着が確認されている場合、
髄液中のアミロイドβ濃度と認知機能との間には、
どのような関連があるのでしょうか?

今回の研究ではまず232名の、
家族性アルツハイマー病の遺伝子変異を持つキャリアに、
脳へのアミロイドβの沈着を確認出来る、
アミロイドPET検査を施行。
沈着があると判断された108名に3年以上の経過観察を行い、
認知機能の低下と髄液のアミロイドβ濃度との関連を検証しています。

その結果、
髄液のアミロイドβ濃度が高いほど、
つまり脳でのアミロイドβの産生が多いほど、
認知機能の低下は抑制されていました。
アミロイドPET検査ではSUVR(平均標準化取り込み比)という指標を用いて、
脳へのアミロイドβの沈着の程度を評価していますが、
そのSUVRよりも髄液のアミロイドβが高いことの方が、
患者さんの予後が良好であり、
認知機能の低下が見られないことの、
より正確な予測因子となっていたのです。

この事実をどう考えれば良いのでしょうか?

これまで脳でアミロイドβが過剰に産生されること自体が、
アルツハイマー病の病因であり、
沈着の主因でもあるという考え方がありましたが、
実際にはアミロイドβが多いこと自体は、
むしろ認知症に対して予防的に働いている可能性が高いのでは、
という可能性を今回の結果は示唆しています。

問題はアミロイドβの産生以降に、
脳に起こる変化の方にあって、
そのメカニズムが正確に解明されて初めて、
その抜本的な治療の可能性が見えて来るのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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宅間孝行「ぴえろ」(タクフェス第10弾) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ぴえろ.jpg
才人の宅間孝行さんが主宰し、
作・演出を担当して多くの作品で主演を務める、
タクフェスの第10弾として、
東京セレソン時代のヒット作の1つ「ぴえろ」が、
リニューアルして再演されました。

宅間さんのお芝居は、
東京セレソンデラックスの後半の時期から観るようになって、
劇団が解散してタクフェスになってからは、
第5弾くらいまでは毎回通っていました。
その後は何となく遠ざかっていたのですが、
今回は久しぶりにサンシャイン劇場に足を運びました。

宅間さんのお芝居は、
その根っ子にはかなり、
重くシビアなもの、
暗い情念のようなものを秘めているのですが、
笑って泣ける人情喜劇的なものに拘っていて、
表面的には常にそうした仕上がりになっています。

大衆演劇の劇団スタイルのようなものを、
継承しているような雰囲気もあって、
地方公演が必ずありますし、
上演前の前説や物販やゲームやサイン会、
カーテンコールで観客と一緒に踊ったり、
お見送りをしたりのサービス、
何より最後に宅間さんが必ず観客に告げる、
「私達役者は皆さんがいるから芝居を続けることが出来ます」
という熱いメッセージが、
僕達の心に忘れがたい印象を残すのです。

今回の作品はセレソン時代に何度か上演され、
テレビの連続ドラマにもなったヒット作で、
下町のお寿司屋さんを舞台に
大将が急死した直後、
昔その店を去った職人に瓜二つの、
泥棒が店に忍び込むところから物語は始まります。

たまたま瓜二つの男が訪れる、
というところがちょっと無理筋な感じはするのですね。

大衆演劇ならありの設定なのですが、
もう少しリアルな人情ドラマのスタイルなので、
その設定だけが随分強引だな、
という気がするのです。

これは宅間さんの他のお芝居にも共通する特徴で、
大抵1つは無理か強引な設定があるのですが、
それが作品のスタイルに、
上手く溶け合っていないというきらいあります。

ただ、その点を除けば非常に巧みに組み上げられている台本で、
キャラも皆立っていて面白いですし、
宅間さんの演じる二役も魅力的です。

今回も宅間さんの笑いと涙と切なさの世界に、
2時間強たっぷりとひたることが出来ました。

正直、作品を包むウェルメイドな雰囲気には、
個人的に馴染めない部分があるので、
通い詰めるという感じではないのですが、
これからも時々は足を運びたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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唐十郎「秘密の花園」(唐組・第69回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
秘密の花園.jpg
唐組の第69回公演として、
もう唐組としては4回目の上演となる、
「秘密の花園」が上演されています。

猿楽町の明大校舎脇にある紅テントに足を運びました。

この作品は1982年に下北沢の本多劇場のこけら落としとして初演され、
ヒロインは緑魔子さんで石橋蓮司さんは出演せず、
唐先生は戯曲のみで演出は文学座の小林勝也さんが手掛けた、
という状況劇場でも第七病棟でもない、
混成チームという感じの公演でした。
ただ、演出の小林さんは当時はアングラどっぷりで、
状況劇場への出演もあり、
前年にはパルコで「少女仮面」を手掛けていて、
これはかなり唐演出に寄せた感じの作品でしたから、
唐先生としても、安心して任せられた、
という感じであったのかも知れません。

初演は観ていて収録の画像も残されていますが、
当時の感想としては「まあまあ」という感じ。
「ふたりの女」を彷彿とさせる第七病棟風の戯曲なのですが、
それにしては場の作り込みが甘いという感じなので、
当時の観客の多くは、
やや物足りなく感じたのではないかと思います。

それが唐組時代になって1998年に改訂の巻と題されて再演され、
好評のため1999年にキャストを替えて再度上演されました。
この時は1幕は初演通りでしたが、
2幕に野口医師という悪魔的人物が追加で登場し、
後半の展開が一部改変されていました。
その後の上演は全てこの時の改訂版で、
初演版の上演はおそらくないと思います。
2016年には久保井研さんの演出で、
より繊細なタッチの上演が重ねられています。

それ以外に企画公演として、
三田佳子さんが主役を演じた舞台があり、
この時にも戯曲が書き換えられていましたが、
このヴァージョンはこの時限りであったように思います。

今回の上演は基本的にはこれまでの唐組上演版に依拠したもので、
アキヨシを今回は稲荷卓央さんが演じ、
藤井由紀さんと久保井研さんという、
唐組のゴールデントリオで、
この作品の現時点での決定版を作ろう、
という公演であったように思います。

毎回思うことですが、
1幕は本当に素晴らしいと思います。
浄瑠璃歌舞伎のような古典劇を観ているような味わいがありました。
後半はもっと強烈なメリハリが、
要所の台詞ではあった方がいいかな、
というようには感じましたが、
エピローグからラストの詩情が絶妙で、
この部分については初演を含めて、
今回が最も情感に溢れた名シーンになっていたと感じました。

多分高齢者主体の観客に配慮したのか、
嵐で本水は使用するものの、
主に舞台後方に水を出して、
防水シートばなくても観客は濡れないように工夫されていました。
それでしょうがないかな、
と思う反面、
もっと荒っぽく過激にやってよ、
という思いもありました。

今回の会場の猿楽町は、
辺りの雰囲気も悪くないし、
最後に見える舞台後方が、
色々な仕掛けが組めて、
人物も上手く消えるようになっているので、
今は一番お気に入りです。
今回もう一か所の鬼子母神は、
僕には足場的に悪すぎて、
今はやや敬遠している感じです。
ただ、明大校舎からベース音などが響いて来て、
それが興趣を削ぐ時間があるのは残念に感じました。

唐先生の芝居が格調のある古典劇にように観られる、
というのは以前はとても想像出来なかったことですし、
それで良いのか、という葛藤も一方にはあるのですが、
唐先生と長い時間を共にして来た唐組のゴールデントリオが、
幾多の過去の名作を、
再構築しつつより繊細かつ精緻に再現しているのは、
演劇好きとしてはこれ以上はない至福の時間で、
今後も上演がある限りは通い続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COVID-19後遺症の長期予後(ドイツの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診や老人ホームの診療で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ後遺症の解析ドイツ.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年10月13日掲載された、
所謂「コロナ後遺症」の長期予後についての疫学データです。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
だるさや微熱などの症状が長期間持続することや、
肺疾患や生活習慣病などの全身疾患が、
新たに生じることも多いことは、
国内外を問わずこれまでに多くの報告があります。

主にヨーロッパでは、COVID-19罹患後症候群という概念で、
初発から12週間以上持続する症状を定義していましたが、
以前ご紹介したアメリカの研究では、
より広く発症から21日以上持続する体調不良を、
シンプルに後遺症と表現していました。
それ以外にロングCOVID(Long COVID)、
というような表現も使用されています。
要するに、まだ統一された概念ではないようです。
今回のイギリスの論文では、
ロングCOVIDという表現がされています。

日本でも罹患後症状、後遺症、後遺障害と、
多くの表現が使用されていて、あまり一貫性のない状態です。
保険病名としては、
COVID-19後遺症という記載も認められています。
一般向けには「コロナ後遺症」という、
やや曖昧で不正確な表現が使用されています。

いずれにしても、
概ね罹患後3ヶ月を過ぎても、
体調が罹患前と比べて悪い場合に、
そうした表現がされることが多いようです。

後遺症外来と称するものも複数開かれていて、
慢性疲労に使用されるような漢方薬やビタミン剤、
一部のアミノ酸製剤やその誘導体などが使用されているようですが、
明確にその効果が立証されているようなものは現時点ではありません。

今回の研究はドイツにおいて、
年齢が18から65歳で、
2020年10月から2021年3月に掛けて、
新型コロナウイルス感染症と診断された、
トータル50457名を対象とし、
そのうちの24%に当たる12053名がアンケート調査に協力して、
平均で8.5か月の経過観察が施行されています。

その結果、
診断から6か月以降12か月までの間においても、
全身倦怠感に関わる症状が37.2%(95%CI:36.4から38.1)、
集中力低下など認知神経機能に関わる症状が31.3%(95%CI:30.5から32.2)に認められ、
その多くが当人の回復の障害となり、
就労などの社会復帰を妨げていました。
また息切れなどの胸部症状、不安や抑うつ状態、頭痛やめまい、疼痛などの症状も、
同様に持続して回復の障害となっていました。
この後遺障害を生活レベルに中等症以上の影響を与え、
健康状態や仕事の能力を以前の8割以下に低下させるものとすると、
そのトータルな比率は感染者の28.5%(95%CI:27.7から29.3)に及び、
これは新型コロナウイルス感染症に罹患した成人の、
少なくとも6.5%に生じると推定されました。
味覚嗅覚障害もしばしば6か月を超えて持続していましたが、
他の後遺症とは独立して認められていました。

このように、
今回の大規模な検証においても、
多くの感染者が治癒後も持続的な倦怠感などの症状に苦しめられていて、
それが社会生活にも少なからず影響を与えている実態が確認されました。

今後こうした事例をどのように治療し、
かつ社会的な救済に繋げてゆくのか、
早急な検討が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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毎日の歩数と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
歩数と認知症リスク.jpg
JAMA Neurology誌に2022年9月6日掲載された、
毎日の歩数と認知症リスクについての論文です。

健康のためにはよく歩くのが良い、
というのは健康の専門家かそうでないかに関わらず、
多くの人が言っていることです。

最近ではスマホやアップルウォッチなどの、
所謂ウェアラブル端末が普及して、
簡単に毎日の歩数が計れるようになり、
よりその健康効果が一般に広まりを見せています。

そこで問題となるのは目標とするべき歩数です。

馴染みのあるのが1日1万歩歩きましょう、という基準で、
皆さんも何度もお聞きになったことがあると思います。

海外たとえばアメリカにおいても同様の基準がポピュラーで、
意外にもその元になっているのは、
日本の万歩計の会社の宣伝にあったようです。

ただ、実際にはその根拠は、
あまり精度の高い研究に裏付けられたものではありません。

最近の研究結果は2019年に海外で発表されたものでも、
日本の中之条研究の報告においても、
もう少し少ない1日7000から8000歩程度が、
最も健康への有効性が高い、
という結果になっています。
更に最近指摘されることが多いのが歩行の速度で、
日本の研究では20分程度の「早歩き」を入れると、
より効果が高いというデータが得られていました。
より新しい2021年9月に発表されたアメリカの疫学データでは、
中年期に1日7000歩から10000歩の歩行を習慣化することで、
その後の超過死亡のリスクが低下する、
という内容になっていました。

ただ、他の病気と比較して認知症のリスクと歩数との関連については、
認知症の予防ガイドラインにおいて歩行などの運動習慣の重要性が、
記載されてはいるものの、
どのくらいの歩数や歩行速度が、
認知症の予防に有効であるのかという点については、
これまでにあまり精度の高いデータが存在していませんでした。

今回のデータはイギリスの、
最近言及されることの多いUKバイオバンクのデータを元に解析されたもので、
登録時点で40から79歳の一般住民78430名を、
中間値で6.9年経過観察し、
認知症の発症リスクと歩数との関連を検証しています。

その結果、
観察期間中に866名が認知症を発症していて、
発症年齢の平均値は68.3歳でした。
毎日の歩数と認知症との関連を検証したところ、
歩数と認知症リスクとの間には明確な関係が認められ、
最もリスクが低下していたのは、
1日の歩数が9826歩の時で、
歩行習慣がないと仮定した場合と比較して、
認知症発症リスクは51%(95%CI:0.39から0.62)、
有意に低下していました。
明確に有効性が期待出来る下限は、
1日の歩数が3826歩の時で、
認知症発症リスクは25%(95%CI:0.67から0.83)、
有意に低下していました。
今回のデータでは、歩数が9826歩を超えると、
歩数が多いほどリスクは上昇に転じていました。

歩行速度との関連でみると、
1分に40歩未満のぶらぶら歩き程度のゆっくりした歩行では、
1日の歩数が3677歩の時が最も認知症リスクは低く、
42%(95%CI:0.44から0.72)の低下となっていました。
一方で1分に40歩以上の通常の歩行で解析すると、
1日の歩数が6315歩の時が最も認知症リスクは低く、
57%(95%CI:0.44から0.72)の低下となっていました。
30分の計測で最も早かった歩行スピードと、
認知症リスクとの関連をみてみると、
1分に112歩というかなり速足の時点で、
認知症リスクは62%(95%CI:0.24から0.60)と最も低くなっていました。

このように、
概ね1万歩は越えないくらいの歩行を継続することが、
最も認知症リスクを低下させるには有効で、
早歩きやジョギングを組み合わせることは、
その有効性を高める可能性が示唆されました。

ただ、このデータは認知症の解析をするには年齢が若く、
若年発症の認知症に、
偏った解析となっている可能性があります。
1万歩を超えるような歩行はむしろリスクを増加させる、
というデータになっていますが、
実際には1万歩を超える歩行習慣のある人は少なく、
正確な傾向を反映していない可能性もあります。

従って、
高齢者の認知症の予防という点を考えるには、
もう少し高い年齢層での、
同様の解析結果を待つ必要がありそうですが、
6000歩から1万歩くらいまでの歩行習慣は、
通常の内臓疾患のみならず、
認知症の予防においても、
一定の有効性はあると、
そう考えて大きな問題はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大腸ファイバーによる大腸癌スクリーニングの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診察は午前中で終わり、
午後は介護保険の会議などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大腸ファイバーによる大腸癌スクリーニングの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年10月9日掲載された、
大腸ファイバーによる大腸癌検診の有効性についての論文です。

大腸癌はスクリーニングの有効性が確認されている、
数少ない癌の1つです。
便の潜血反応の検査と、
大腸内視鏡検査(S状結腸までの検査を含む)の、
それぞれを単独で施行するか、
組み合わせて施行することで、
一定の有効性があることが、
これまでの多くの臨床試験において確認されています。

ただ、たとえば単独の大腸内視鏡検査による検診に、
どの程度の有効性があるかについての、
精度の高いデータはあまり存在していません。

今回の検証はポーランド、ノルウェー、スウェーデンにおいて、
55から64歳の一般住民84585名を登録し、
くじ引きで1対2に分けると、
28220名は1回の大腸内視鏡検査施行を推奨し、
56365名はそうした推奨はせず、
その後10年のリスクを比較検証しています。
実際には推奨された対象者のうち、
内視鏡検査は42%に当たる11843名で施行されています。

中央値で10年の観察期間においての大腸癌リスクは、
コントロールと比較して大腸内視鏡検査推奨群では、
18%(95%CI:0.70から0.93)有意に低下していました。
一方で大腸癌による死亡リスクや総死亡のリスクについては、
両群で有意な差は認められませんでした。

このように今回の大規模な検証において、
大腸内視鏡検査を1回のみ推奨するスクリーニングは、
10年の大腸癌リスクを一定レベル低下させる効果が確認されました。

こうしたデータの蓄積により、
今後どのような大腸癌スクリーニングが、
大腸癌のトータルな抑制と予後改善に結び付くのか、
実証的なガイドラインに結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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