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18 歳未満の新型コロナ感染の特徴とワクチンの効果(デンマークの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
18未満の新型コロナの特徴.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年4月11日ウェブ掲載された、
小児と思春期の新型コロナウイルス感染症の特徴についての論文です。

新型コロナウイルス感染症は、
成人と小児とではその症状に違いがあることが、
パンデミックの早期から指摘されていました。

小児は感染しても多くの場合症状は軽く、
無症状感染の比率も多いと報告されています。

ただ、一部で川崎病に似通った点のある、
全身の血管炎が発症することがあり、
心不全やショックを来すこともあります。
これは小児COVID-19関連多系統炎症性症候群と呼ばれています。

今回のデータはデンマークにおいて、
18歳未満の新型コロナウイルス感染症のRT-PCR検査を受けた、
991682名のデータを解析したもので、
そのうちの7.5%に当たる74611名が陽性となっています。
患者が入院となるリスクは0.49%(95%CI:0.44から0.54)、
集中治療室に入室するリスクは0.01%(95%CI:0.01から0.03)と低率でした。
診断されて2か月以内に小児COVID-19関連多系統炎症性症候群を発症するリスクは、
0.05%(95%CI:0.03から0.06)と算出されました。
感染確認後1から6か月後のクリニックの受診率は、
非感染者と比較して1.08倍高くなっていました。
12歳以上でファイザー・ビオンテック社の新型コロナワクチンを、
2回接種してから60日以上の有症状感染の有効率は、
93%(95%CI:92から94)と算出されました。

このように、
18歳未満の年齢層における新型コロナ感染は、
非常に軽症の事例が多く重症化は稀ですが、
成人には見られない小児COVID-19関連多系統炎症性症候群という病態が、
感染者の2200人に1人程度の比率で認められます。
またその後半年の医療機関受診率がやや高いことは、
持続的な症状が見られることを示唆しています。
ワクチンの有効性は2回目接種後には、
成人と同レベルで認められていました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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健康な生活習慣と認知症リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ライフスタイルと認知症.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年4月13日ウェブ掲載された、
健康な生活習慣と認知症との関連についての論文です。

バランスの良い食生活や運動習慣、禁煙などの、
健康的な生活習慣が、
多くの生活習慣病のリスクを減らし、
健康寿命を延長させることについては、
これまでに多くの疫学データや臨床研究が存在しています。

認知症についても、
アルツハイマー型認知症のリスクを、
60%低下させるというデータも報告されています。

ただ、ここで1つの疑問があります。

認知症は年齢と共に増加します。
健康な生活習慣で寿命が延長しても、
認知症のリスクは減少するのでしょうか?
寿命が延長することによって、
むしろ認知症は増加するという可能性もあるのではないでしょうか?

今回の研究ではアメリカで施行された、
高齢者の疫学研究のデータを活用して、
この疑問の検証を行っています。

65歳以上の2449名の男女を長期間観察し、
健康的な5つの健康習慣と、
認知症リスクとの関連を比較検証しています。

この場合の健康的な生活習慣というのは、
地中海ダイエットやDASH食に準じた食事、
適度な運動習慣、節酒、禁煙、
読書、美術鑑賞、ゲームなどの知的活動習慣の5つです。

観察の結果、
65歳の女性で4つ以上の健康な生活習慣を維持している人の平均余命は、
24.2年(95%CI:22.8から25.5)で、
1つ以下の生活習慣しか維持していない場合の平均余命より3.1年長くなっていました。
21.1年(95%CI:19.5から22.4)

この平均余命のうち、
4つ以上の健康習慣を維持している女性は、
10.8%に当たる2.6年間アルツハイマー型認知症に罹患すると推定されますが、
それが1つ以下の生活習慣しか維持していないと、
19.3%に当たる4.1年に延長していました。

65歳の女性が認知症に罹患することなく送れる平均余命は、
4つ以上の生活習慣を維持している場合には、
21.5年(95%CI:20.0から22.7)ですが、
1つ以下の生活習慣しか維持していない場合には、
17.0年(95%CI:15.5 から18.3)に減少していました。

同様に男性においても…

65歳の男性で4つ以上の健康な生活習慣を維持している人の平均余命は、
23.1年(95%CI:21.4から25.6)で、
1つ以下の生活習慣しか維持していない場合の平均余命より5.7年長くなっていました。
17.4年(95%CI:15.8から20.1)

この平均余命のうち、
4つ以上の健康習慣を維持している男性は、
6.1%に当たる1.4年間アルツハイマー型認知症に罹患すると推定されますが、
それが1つ以下の生活習慣しか維持していないと、
12.0%に当たる2.1年に延長していました。

65歳の男性が認知症に罹患することなく送れる平均余命は、
4つ以上の生活習慣を維持している場合には、
21.7年(95%CI:19.7から24.9)ですが、
1つ以下の生活習慣しか維持していない場合には、
15.3年(95%CI:13.4 から19.1)に減少していました。

このように、健康に良い生活習慣を多く維持していると、
平均余命が長くなるのみならず、
その間に認知症に罹患するリスクを抑制され、
結果として認知症なく送れる寿命が延長するということになります。

認知症予防に、
こうした生活習慣に勝る方法はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アキレス腱断裂の治療と予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アキレス腱断裂の治療.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年4月14日掲載された、
アキレス腱断裂の治療を比較した臨床試験の論文です。

アキレス腱断裂は、
俗に「アキレス腱が切れた」という状態のことで、
スポーツ外傷としては非常に一般的なものですし、
高齢になるとちょっとした動作で起こってしまうこともあります。

アキレス腱断裂の治療には、
患部を装具などで固定して、
自然に治るのを待つ保存的治療と、
受傷早期に手術をして、
直接アキレス腱の断裂部を縫合する、
という手術療法とがあります。

保存的治療と手術療法との間には予後の違いはないとする、
介入試験の結果が報告されています。
その一方でこれまでの多くの臨床研究をまとめて解析したメタ解析では、
保存的治療ではその後の再発が多かった、
という報告もあります。

短期的な予後は回復率には、
それほどの差はなさそうなのですが、
保存的治療では再発は多いと推定される一方、
手術治療では神経障害などの、
合併症が生じるリスクもあります。

つまり、両方の治療には一長一短がある、
というのが現状の認識であるのです。

今回の臨床試験は単独の介入試験によって、
この問題の再検証を試みたものです。

ノルウェーの複数施設において、
18から60歳でアキレス腱断裂を来して医療機関を受診した、
トータル554名の患者を、くじ引きで3つの群に分けると、
1つ目の群は装具を使用した保存的治療のみを行い、
2つ目の群は通常の手術療法で患部を縫合する手術を行い、
3つ目の群は小切開で侵襲のより少ない手術を施行して、
登録後12か月の時点での予後を比較検証しています。

その結果、
どの治療を選択しても、
12か月の時点の臨床的な予後には、
有意な差は認められませんでした。
その一方で経過中の再発は、
保存的治療群では6.2%に認められたのに対して、
手術治療群ではいずれも0.6%に留まっていました。
手術の合併症として多い神経障害については、
侵襲の少ない手術において5.2%に当たる9名、
通常の手術群で2.8%に当たる5例に認められ、
保存療法群では0.6%に当たる1例のみ報告されました。

このように、
その後の歩行状態などの臨床的予後については、
手術治療と保存的治療との間に明確な差はなく、
違いがあったのは、
再発率が保存的治療で多いという点と、
神経障害が手術の合併症として生じる場合がある、
という点のみでした。

この結果はほぼこれまでの知見を裏書きするものですが、
厳密な介入試験によって、
治療法による予後が確認された意義は大きく、
今後のガイドラインにおいても、
重要視される知見だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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加藤拓也「もはやしずか」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
もはやしずか.jpg
今注目の劇作家加藤拓也さんの新作が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。

上演は本日までですが、かなり好評のようで、
僕が観劇した15日も当日券には長蛇の列が出来ていました。

これは凄いですよ。

すれ違いの「静かな」会話劇なので、
系統的には岩松了さんの劇作に近い感じなんですね。
ただ、もっと平明で分かり易いんですね。
岩松さんの台詞は、
日常の会話とは違いますよね。
もっと人工的な感じがあって、
すんなり耳に入ってくるという感じではないのです。
加藤さんの台詞は、
本当に日常会話のように耳に入って来るんですね。

たとえばコーヒーの話をしながら、
子供についての夫婦の意識の違いを語っているのですが、
それがとてもスムースに分かるんですね。
保育園の先生の台詞に、
差別意識が見え隠れするような感じも、
とてもリアルでかつ分かり易いですね。

小劇場演劇の台詞は、
分かり難い方がいい、という考え方も、
これはもう根強くあるのですが、
岩松さんと同じようなことをやっていながら、
ここまで観客に親切に、
丁寧にその意図を伝えることが出来る、
というのは、
今までにあまりなかったタイプの才能だと思います。

一番似ていると思ったのはイプセンで、
その人間の内面を容赦なく抉り出すような才気と、
台詞劇としての完成度の高さは、
質の高い座組によるイプセン劇を観ているような感銘がありました。

決して褒め過ぎではないと思います。

内容も物凄く衝撃的なんですね。
発達障害の弟を事故で失った主人公が、
ウェブデザイナーになって妻をもらい、
平穏な夫婦生活を営んでいるのですが、
妻が不妊治療を始めたところから、
封印していた弟の記憶がうずき始めるのですね。
そのトラウマが解放されると、
自分の人格は完全に崩壊することが、
主人公には分かっているんですね。

こういう人いるよね。
加藤さんが28歳ですから、
丁度同じくらいの年齢の、
1つの典型的な性格構造を描いているんですね。
表面的には社交的で、
妻とも友達としてならとても上手くいくんですね。
それが、それより心の奥に入ろうとする何かがあると、
必死で拒絶しようとするのです。

それで結局妻とも別れてしまって、
「これでもう大丈夫」と思うのですが、
その妻が「善意で」戻ってきてしまうのです。

「まずい。このまま心の中に踏み込まれたら、
自分が崩壊してしまう」

こういう感覚を、
ここまでリアルに描いたドラマというのは、
これまでにあまりなかったのではないかしら。

これ基本的には主人公の内面のみのドラマなんですね。

それを立体化するために、
友達の関係を踏み越えようとする妻を描き、
過去のトラウマを実体化するために両親を描き、
他者との表面的な関係を描くために、
デリヘル嬢を登場させているんですね。
この辺の配置と、
主人公が内に秘めたものを、
「他者」として表現して見せ場にする、
という戯曲構造が極めてクレヴァーだと思います。

これも岩松さんがやっているんですね。
主人公の内面の揺らぎを描くのに、
似たような状況の男女を外に登場させて、
それが主人公に影響を与えるというような描き方をするんですね。

それをまた、
岩松さんより数段分かり易くやっている、
というところが加藤さんの凄さです。

唯一「おやっ?」と思ったのがラストで、
「衝撃的なラスト」というような評もあったので、
「何が起こるのかしら」と期待していたのですが、
主人公の内面の独白の後で、
やや唐突に舞台が暗くなって、
白い壁に血が滴り落ちて、
それだけで終わってしまいました。

何か見落としたのかと思って、
鑑賞後モヤモヤしたのですが、
どうやら上演の途中で演出が変更となり、
もっとショッキングなラストが、
削除となってしまったようです。

ネットで内容など読む限り、
確かにちょっとやり過ぎ感もある演出だったようなので、
何かクレームが入るようなことがあったのかも知れません。

ただ、ここは主人公の内面の崩壊が、
示されればいいという場面なんですね。

こういう場合岩松さんであれば、
主人公は見かけ上は平然とした様子でいて、
内面の独白などはせず、
舞台上から姿を消してしまって、
ラストに突如衝撃的な事件を起こしたり、
命を絶とうとしたことが示唆されて終わる、
というような感じになりますよね。

加藤さんはもっと観客に親切なので、
主人公の独白もあるし、
その後にビジュアルに精神の崩壊を見せよう、
ということだったのだと思いますが、
そのバランスに問題があった、
ということなのかも知れません。

おそらく加藤さんも現在のラストには、
納得はされていないのではと思いますし、
この作品はこれからも長く上演される値打ちのあるものだと思うので、
是非再度練り上げて、
決定版を作って欲しいと思いました。

キャストは勿論鉄板で最高でした。
久しぶりの舞台の黒木華さんも堪能しましたし、
安達祐実さんがまた素晴らしい芝居でした。
プロだよね。

いずれにしても今年一番の衝撃的傑作で、
今後も加藤さんのお芝居からは目が離せません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「広島ジャンゴ2022」(蓬莱竜太) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
広島ジャンゴ.jpg
シアターコクーンのレパートリーとして、
蓬莱竜太さんが旧作をアレンジして演出にも当たり、
天海祐希さんと鈴木亮平さんがダブル主演した舞台に足を運びました。

蓬莱竜太さんは多彩な作品を発表されていて、
素晴らしい作品のある一方、
オヤオヤという感じの作品も結構ある、
という印象です。

最近では「ビューティフルワールド」は素晴らしい傑作でしたが、
「首切り王子と愚かな女」は、
何がしたいのか分からない凡作でした。

今回の作品はかなり微妙なところでしたが、
小劇場演劇の古典的なスタイルの1つが、
結構シンプルに活かされているのが好感が持て、
天海祐希さんという希代のカリスマ女優の魅力が、
十全に発揮されている点も良かったと思います。

ただ、如何にも小劇場スタイルの、
基本的にはかなり小粒の感じの作品なので、
天海祐希さんと鈴木亮平さんという2大スターを揃えて、
これが本当にそれに見合った作品であるのか、
と言う点を考えると疑問にも感じるところです。

広島にある牡蠣の加工工場が舞台で、
父親の虐待から娘と一緒に逃げている中年女性と、
自殺した姉を持つ内気で引っ込み思案な青年が、
前時代的な家族経営を目指す工場長に、
切なく儚いささやかな抵抗をして、
現実にわずかなさざ波が立つというお話に、
青年が夢想する勧善懲悪の西部劇の世界を絡め、
その幼児的な活劇の世界と現実とが重層的に展開される、
というお話です。

これはかつての渡辺えり子さんの劇作に、
非常に近い構造ですよね。
主人公の青年が幻想世界に入るきっかけが、
死んだ姉という死者の力だ、
と言う点も渡辺さんの作品構造に似ています。

海外でも「ラ・マンチャの男」はこれに良く似た構造のお芝居で、
現実世界と物語の世界が並行して進み、
互いに影響し合って最後には1つになります。
途中にとても似通ったセリフがあって、
少し影響を受けているな、という感じもありました。

本当はもっと根暗でウジウジしたお話だと思うのですね。

それが主人公の青年を鈴木亮平さんが演じ、
逃げている主婦を天海祐希さんが演じることで、
非常に陽性の仕上がりになっているのが面白いところです。

幻想世界はマカロニウェスタンになるのですが、
保安官の夫を殺した凄腕の御尋ね者女ガンマンを、
天海祐希さんが演じると、
これはもう見惚れるしかないという感じになります。
クライマックスは蓬莱竜太さんのつかこうへい好きが出たという感じで、
鈴木亮平さんがマイクパフォーマンスを演じる中、
天海さんが荒くれ男どもを相手に、
立ち回りを演じるのです。

これはとても良かったですね。
眼福という感じです。

難を言えば幻想世界の構成が少し甘くて、
マカロニウェスタン的な部分も薄味だったですよね。
最後の活劇でどうにか帳尻を合わせた、という感じはありましたが、
もう少しウェスタン的な派手な見せ場が、
欲しかったと感じました。

いずれにしても観て損はないと思える娯楽作で、
完成度はそれほど高いとは思えませんが、
主役2人のファンの方にも、
まずは納得のゆく仕上がりになったようには感じました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチン4回目接種に必要性と抗原原罪説 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
朝から小学校の健診があって、
それから老人ホームの診療に廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
免疫原罪説.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年4月13日ウェブ掲載された解説記事ですが、
今後の新型コロナワクチン接種のあり方についての論説です。

日本では今新型コロナワクチンの3回目接種が施行され、
4回目接種についても実施の方向で動いているようです。

ただ、その有効性については、
まだあまり明確なことが分かっていません。

上記記事と同じ紙面に掲載された、
イスラエルでの4回目接種の有効性データでは、
3回目接種から4か月以上の間隔を置いて、
60歳以上の年齢層に接種した結果として、
接種後14日から30日の有症状感染の予防効果が52%、
入院の予防効果が61%、
重症感染の予防効果が72%、
感染による死亡の抑制効果が76%となっていました。

一定の有効性は確認されるものの、
当初2回接種後の有症状感染予防効果が95%を超えていたことを思えば、
感染そのものを抑止する効果はあまり期待は出来ず、
死亡を含めた重症化予防においてのみ、
一定の有効性が確認されるという結果です。

従って、今後4回目接種を施行するとすれば、
力点は感染そのものの抑制ということではなく、
重症化の抑止効果を期待する点にある、
ということが出来ます。

つまり、全ての住民が追加接種をするのではなく、
重症化リスクの高い、持病のある方や高齢者に限って、
接種をすることが効率的だという結論になる訳です。

そして、追加接種を先行的に実施にしている多くの国においても、
現状はそうした対象を絞った接種が、
施行されているようです。

それでは、
何故回数を重ねる毎に、
ワクチンの有効性は減弱しているのでしょうか?

現在使用されているワクチンは、
2019年に中国で流行した時点のウイルス抗原を、
基本的に使用して作られています。

従って、抗原に変異が蓄積され、
当初の抗原とは異なる性質を持つようになっているので、
そのために有効性が低下している、
という考え方が可能です。

もう1つ最近言及されることが多いのが、
「抗原原罪説(original antigenic sin)」と呼ばれる考え方です。

これはある抗原の刺激を繰り返し受け、
それに対する免疫応答を繰り返していると、
抗原が変異した時に、
それに対する免疫応答が弱くなる、
という現象のことです。

これは厳密には人間では確認されている現象ではなく、
猿での実験の結果ですが、
現行の中国株に対するワクチンを接種していると、
オミクロン株に対する免疫応答が、
ワクチン未接種の場合より弱くなったという結果が報告されています。

つまり、あまり同じワクチンによる免疫刺激を繰り返していると、
免疫細胞がロックをされたような状態になり、
変異株に対して臨機応変に対応する力を、
失ってしまうのではないか、という理屈です。

仮にこれが事実であるとすれば、
現行のワクチンで4回目接種をするのは得策ではなく、
現在流行している変異株に合わせたワクチンに、
早急に切り替えるべきだ、ということになる訳です。

いずれにしても新型コロナ感染症の流行も2年を過ぎ、
その対策とその目的については、
今まさに切り替えの時期に至っていることは、
間違いのないことのようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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パルスオキシメーターはどれだけ正確なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パルスオキシメーターの正確性.jpg
EUROPEAN RESPIRATORY JOURNAL誌に、
2022年掲載されたレターですが、
新型コロナ感染症の患者における、
パルスオキシメーターの数値の正確性を、
人種毎に検証した内容です。

パルスオキシメーターというのは、
指先に装着するクリップのような医療器具で、
指先の皮膚に特殊な光を当て、
その吸光度を測定することで、
動脈血の酸素飽和度を簡便に計測する器具です。

年齢によってもその基準値には差がありますが、
概ね96%を下回ると血液の酸素化が不十分、
つまり何らかの原因により、
身体に酸素が足りない状態にある、
ということを示しています。

元々は外来や入院の呼吸器疾患や心疾患の患者さんに対して、
その呼吸状態のモニターとして使用されるもので、
その数値に異常が疑われれば、
動脈の採血をして血液ガスの検査を行い、
実際にどの程度酸素が低下しているのかを測定します。

ただ、普通に市販もされていて、
それほど高価なものではないので、
最近は購入されて家庭で使用される方も多くなっています。

特に新型コロナの流行以降は、
パルスオキシメーターの数値が低下することが、
その重症化の早期発見に繋がる、という知見があるので、
急速にその使用が一般にも拡大した、
という側面があります。

皆さんの中にもお持ちの方は多いと思います。

実際に新型コロナの重症度判定として、
パルスオキシメーターで計測された酸素飽和度が、
96%を下回るかどうかが、
臨床においても活用されているので、
この検査の重要性は臨床的にも大きくなっています。

ただ、注意が必要なことは、
この検査は敢くまで簡易的なもので、
この検査値だけで酸素飽和度を判断してはいけない、
ということです。

原理的に光の吸光度から推測しているだけなので、
皮膚の状態や血行の状態により、
数値は変化してしまいます。

指先の血管が収縮して、
指先の血行だけが低下することは、
高齢者ではよくあることですが、
こうした場合にはパルスオキシメーターは計測不能となったり、
測定出来ても実際よりかなり低い数値を示すようになります。

マニキュアなどでも測定値は変動しますし、
皮膚の色素量が多いと、
それだけ光が吸収されてしまうので、
測定値は低下します。

上記文献においてはイギリスの単独医療施設において、
新型コロナ感染症の入院患者2997名の、
パルスオキシメーターの検査値を、
実際の動脈血で測定した酸素飽和度と、
人種毎に比較しています。

その結果白人種においては、
動脈血で測定した酸素飽和度より、
パルスオキシメーターで測定した数値は、
3.2%(95%CI:-22.8から+29.1)上昇していたのに対して、
その差は黒人種では5.4%(95%CI:-23.8から+34.0)、
アジア人種では5.1%(95%CI:-23.8から+34.0)、
とより違いが大きくなっていました。

これは、
酸素飽和度が正常範囲である場合には、
それほどの差が生じていないのですが、
病的に低下したような状態では、
その正確性はかなり落ちるという傾向が見られています。

つまり、何も症状のない状態での測定値には、
一定の信頼性はあるものの、
実際に呼吸困難があるような状況では、
パルスオキシメーターのみでは酸素の状態を、
判断することが危険であることを、
示しているように思います。

そもそもは臨床の補助診断の器具であり、
動脈血での測定もありきのものであったので、
大きな問題は生じていなかったのですが、
一般にこの器具が普及して、
それで病気の重症度を一般の方が判断するようになると、
深刻な問題に繋がる可能性のあることを、
もう一度医療者も一般の方も、
確認しておく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスDNAワクチンの有効性(インドの臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナに対するDNAワクチンの有効性.jpg
The Lancet誌に2022年4月2日ウェブ掲載された、
新型コロナのインド製DNAワクチンの有効性についての臨床試験の論文です。

新型コロナワクチンとしては、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社の、
mRNAワクチンが日本を始め欧米の多くの国で使用されていますが、
同じ遺伝利用のワクチンとして、
以前から開発が進められているのがDNAワクチンです。

mRNAワクチンは遺伝子としてRNAを利用していますが、
その代わりにDNAを利用するのがDNAワクチンです。
そのウイルス遺伝子の断片が人間の免疫細胞などに取り込まれて、
抗原が作られ免疫反応が起こるという仕組みについては、
両者のワクチンとも共通しています。
しかし、RNAは蛋白を合成すればそれで役割を終えるので、
その寿命は短く身体の遺伝子に影響を与える、
という危険はないのですが、
DNAはRNAより安定しているので、
それが身体の正常な細胞に取り込まれて、
遺伝子を改変し、
予期せぬ結果に繋がる可能性は否定出来ません。
その一方でDNAは安定しているので、
その感染予防としての有効性も、
RNAワクチンより高いという可能性もあります。

今回のワクチンはインドのジェネリックメーカーである、
カディラ・ヘルスケア(Cadila Healthcare)が開発したもので、
おそらく世界で初めて臨床的に使用された、
新型コロナのDNAワクチンです。

今回の論文ではインドの複数施設で行われた、
第三相の臨床試験の中間解析結果が報告されています。
12歳以上の27703名をくじ引きで2つの群に分け、
本人にも担当者にも分からないように、
一方はDNAワクチンを3回接種し、
もう一方は偽ワクチンを接種して、
3回目接種後28日以降の有症状の感染事例の比較から、
ワクチンの有効率を算出しています。

その結果ワクチンの有効率は、
66.6%(95%CI:47.6から80.7)でした。

この数値はいずれも95%を超えていた、
mRNAワクチンの臨床試験の有効率と比較すると、
かなり見劣りのするものです。

今回の臨床試験においては、
ワクチンに固有の有害事象は認められていませんが、
より安全性は高いと想定されるmRNAワクチンと比較して、
その有効性も見劣りがするのですから、
現状ではDNAワクチンが、
新型コロナワクチンの主流となる可能性は、
あまり高くはないとそう考えて、
大きな間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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低線量CTによる肺癌検診の有効性(2022年アメリカの住民データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
肺がん検診の有効性.jpg

British Medical Journal誌に2022年3月30日ウェブ掲載された、
肺癌検診の実際の有効性を検証した論文です。

肺癌のCT検診については、
これまでにも何度も記事にしています。

肺癌は早期発見が予後に直結するタイプの癌で、
そのため喫煙者などそのリスクの高い集団では、
肺癌検診のような仕組みが、
その早期発見のためには不可欠と考えられます。

肺癌検診は胸のレントゲン撮影と、
痰の細胞の検査との組み合わせが、
これまで長く施行されて来て、
未だに市町村の検診の主体はそのパターンですが、
こうした方法の検診により、
未施行の場合と比較して、
少なくとも肺癌による死亡リスクが低下した、
というようなデータは存在していません。

肺のCT検査はレントゲンよりもその精度に優れ、
より小さな病変も死角なく検出が可能なので、
10年以上前から、
CTによる肺癌検診の導入を、
求める意見がありました。

しかし、CTは精度の高い反面、
癌ではないのに異常とされるような病変を、
沢山検出してしまうという偽陽性の問題や、
過剰診断やそれに伴う過剰治療の問題、
レントゲンより遥かに大きな放射線被ばくが、
生じてしまうなどの欠点がありました。
コストも勿論レントゲンよりずっと高額になります。

近年CTが高性能になり、
スクリーニングの検査としては、
非常に少ない被ばく量で、
肺癌検診が可能となりました。
(もっともそれでもレントゲン写真の数十枚分にはなります)

そこでこの低線量CTを用いて、
対象者をリスクの高い集団に絞り込むことにより、
レントゲン撮影と比較して、
明確に肺癌による死亡リスクの低下を目指した、
大規模な臨床試験がアメリカで行なわれました。

これがNLSTと呼ばれる臨床試験です。

この試験においては、
その生涯において1日20本のタバコを30年以上吸っていたことに相当する、
喫煙歴があり、
禁煙後の人では禁煙後15年以内に限り、
年齢は55歳から74歳までの集団において、
3年間毎年低線量の肺CTを施行した癌検診を受けた場合と、
通常のレントゲン検査による癌検診を受けた場合とを、
くじ引きで分けて、
5年間の経過観察を行ないました。

トータルな対象者は5万人を越えるという大規模なもので、
その結果は2010年に発表され、
2011年にNew England…紙上で論文化されました。

その結果によると、
低線量CTによる検診はレントゲンによる検診と比較して、
肺癌による死亡リスクを20%、
総死亡のリスクを7%、
有意に低下させていました。

つまり、このデータによって初めて、
低線量CT検診の肺癌検診としての有効性が、
明確に確認されたのです。

その後ヨーロッパにおいての結果も報告され、
ヘビースモーカーなど高リスクの対象者に行う低線量CT検査は、
有効性が期待出来ることが確認されました。

それでは、実際に住民検査として施行した場合の、
有効性はどの程度のものなのでしょうか?

アメリカにおいてはこうした肺癌検診が、
2013年より施行されています。

今回の研究はその有効性を検証したものです。

2010年1月から2018年12月に非小細胞肺癌に罹患した、
45から80歳の763474名が対象となり、
肺癌検診実施の有無とその時期が、
肺癌の状態像に与えた影響を分析しています。

その結果、
診断の時点でステージ1と、
早期の段階で見つかった非小細胞肺癌は、
2010年から2013年の間には有意な変化はありませんでしたが、
2014年から2018年の間には30.2%から35.5%に増加していました。
これは肺癌検診の開始によって、
それまでより早期に発見される肺癌が増えたことを示唆しています。

診断された患者の余命の中間値も、
2010年から2013年の間には有意な変化はありませんでしたが、
2014年から2018年の間には、
19.7か月から28.2か月の延長していました。
これは肺癌検診の継続によって、
早期の肺癌発見が増えたために、
その生命予後も改善していることを示唆しています。

このように、
ヘビースモーカーなど肺癌リスクの高い対象者に絞って、
低線量CTによる肺癌検診を行うと、
肺癌の早期発見が進み、
それが実際に患者の生命予後改善に、
結びついている可能性が確認されたのです。

今後日本においてもこうした検証が進むことにより、
肺癌検診の国の指針にも、
変化が見られることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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妊娠中の高血圧の治療目標値と予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠高血圧の目標値.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年4月2日掲載された、
妊娠中の高血圧の治療目標値についての論文です。

高血圧の治療目標値は、
最近ではより低くなる傾向にあります。

ただ、幾つかの例外はあり、
そのうちの1つは妊娠中の場合です。

通常妊娠中の高血圧で積極的治療の適応となるのは、
血圧が収縮期160mmHg以上もしくは拡張期100mmHg以上の場合です。

それより低い目標値で降圧治療を施行すると、
胎児への血流量が減り、
それが通常の月齢の標準より小さな、
SGA児(在胎不当過小児)の原因になるとする知見があるからです。

ただ、そうしたことはないとする報告もあり、
まだ結論には至っていません。

そこで今回の研究はアメリカの複数施設において、
妊娠20週以前に収縮期血圧が140mmHg以上か、
拡張期血圧が90mmHg以上のどちらかかもしくは両方を、
2回以上確認した比較的軽症の高血圧症の妊婦、
トータル2408名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は140/90未満にすることを目標として、
降圧剤を使用する積極的治療を行い、
もう一方は収縮期が160以上もしくは拡張期が105以上になるまで、
薬物治療は行わずに様子をみる通常治療を施行して、
その後の妊娠経過と胎児の予後を比較しています。
使用された降圧剤は、
αβブロッカーのラベタゾールと、
カルシウム拮抗薬のニフェジピンERです。

その結果、
早産や胎児死亡、重度の妊娠高血圧腎症、胎盤早期剥離を併せたリスクは、
通常降圧目標で37.0%に対して、
積極治療群では30.2%で、
積極的降圧治療によりそのリスクは18%(95%CI:0.74から0.92)有意に低下していました。

一方で危惧されたSGA児のリスクには、
両群で有意な差は認められませんでした。

合併症毎のリスクをみると、
重度の妊娠高血圧腎症のリスクは21%(95%CI:0.69から0.89)、
早産のリスクは13%(95%CI:0.77から0.99)、
それぞれ有意に低下していました。

このように今回の検証においては、
通常の血圧コントロールに対して、
妊娠中に140/90 未満を目指して血圧コントロールを施行すると、
母体と胎児の予後の改善に、
繋がる可能性が高いと考えられました。

今後ガイドラインなどにも、
大きな影響を与える知見であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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