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アキレス腱断裂の治療と予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アキレス腱断裂の治療.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年4月14日掲載された、
アキレス腱断裂の治療を比較した臨床試験の論文です。

アキレス腱断裂は、
俗に「アキレス腱が切れた」という状態のことで、
スポーツ外傷としては非常に一般的なものですし、
高齢になるとちょっとした動作で起こってしまうこともあります。

アキレス腱断裂の治療には、
患部を装具などで固定して、
自然に治るのを待つ保存的治療と、
受傷早期に手術をして、
直接アキレス腱の断裂部を縫合する、
という手術療法とがあります。

保存的治療と手術療法との間には予後の違いはないとする、
介入試験の結果が報告されています。
その一方でこれまでの多くの臨床研究をまとめて解析したメタ解析では、
保存的治療ではその後の再発が多かった、
という報告もあります。

短期的な予後は回復率には、
それほどの差はなさそうなのですが、
保存的治療では再発は多いと推定される一方、
手術治療では神経障害などの、
合併症が生じるリスクもあります。

つまり、両方の治療には一長一短がある、
というのが現状の認識であるのです。

今回の臨床試験は単独の介入試験によって、
この問題の再検証を試みたものです。

ノルウェーの複数施設において、
18から60歳でアキレス腱断裂を来して医療機関を受診した、
トータル554名の患者を、くじ引きで3つの群に分けると、
1つ目の群は装具を使用した保存的治療のみを行い、
2つ目の群は通常の手術療法で患部を縫合する手術を行い、
3つ目の群は小切開で侵襲のより少ない手術を施行して、
登録後12か月の時点での予後を比較検証しています。

その結果、
どの治療を選択しても、
12か月の時点の臨床的な予後には、
有意な差は認められませんでした。
その一方で経過中の再発は、
保存的治療群では6.2%に認められたのに対して、
手術治療群ではいずれも0.6%に留まっていました。
手術の合併症として多い神経障害については、
侵襲の少ない手術において5.2%に当たる9名、
通常の手術群で2.8%に当たる5例に認められ、
保存療法群では0.6%に当たる1例のみ報告されました。

このように、
その後の歩行状態などの臨床的予後については、
手術治療と保存的治療との間に明確な差はなく、
違いがあったのは、
再発率が保存的治療で多いという点と、
神経障害が手術の合併症として生じる場合がある、
という点のみでした。

この結果はほぼこれまでの知見を裏書きするものですが、
厳密な介入試験によって、
治療法による予後が確認された意義は大きく、
今後のガイドラインにおいても、
重要視される知見だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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