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JAK阻害剤による円形脱毛症治療(第3相臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAK阻害剤による円形脱毛症治療.jpg

the New England Journal of Medicine誌に、
2022年3月26日掲載された、
円形脱毛症に対する、
関節リウマチ治療薬の有効性を検証した論文です。

円形脱毛症は、
その原因に自己免疫的機序が想定されている脱毛症で、
俗に5円玉禿げと呼ばれるような、
ストレスで一時的に起こる軽度のものから、
全身の体毛に病変が広がるような重症のものまで、
事例によりその状態は様々です。

男性ホルモンに影響される、
男性型の脱毛や加齢に伴う脱毛とは、
その性質が根本的に異なっているのです。

そのため円形脱毛症の治療には、
ステロイドなどの免疫や炎症を抑制する薬剤が、
使用されてきました。

最近円形脱毛症の治療にその有用性が期待されているのが、
JAK阻害剤です。

JAK阻害剤は細胞内の炎症経路を活性化させる、
JAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬剤で、
この経路を阻害することにより、
炎症性のサイトカインの作用が抑制され、
炎症が抑制されるという効果があります。

そのため、関節リウマチの治療薬として使用されていますが、
同様の自己免疫的機序が想定される円形脱毛症にも、
その有効性が期待されているのです。

今回の第三相臨床試験では、
SALTと呼ばれる臨床スコアで、
中等症から重症と診断された円形脱毛症に対して、
JAK阻害剤であるバリシチニブを、
1日2㎎と4㎎で使用し、
偽薬との3群に分けて、
臨床試験を施行しています。
勿論どの群が選択されたかは、
患者さんにも担当医師にも分からない形の試験です。

このバリシチニブの使用量は、
現行日本で関節リウマチの治療に施行されている量と同じです。

654名が登録されたBRAVE-AA1試験と、
546名が登録されたBRAVE-AA2試験が、
同時に解析されていますが、
いずれにおいてもバリシチニブは、
円形脱毛症の臨床スコアを有意に改善していて、
2㎎より4㎎でよりその効果は顕著に認められていました。

費用対効果や有害事象のリスクを考えると、
この薬剤を軽症の円形脱毛症に使用することは適切ではありませんが、
全身の脱毛を伴うような重症事例においては、
極めて有効性の高い治療の選択肢となった、
と言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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大腸癌検診の方法と効果比較(スウェーデンの臨床研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大腸癌検診の方法比較.jpg
the Lancet Gastroenterology & Hepatology誌に、
2022年3月24日ウェブ掲載された、
大腸癌検診の方法についての論文です。

大腸癌はスクリーニングの有効性が確認されている、
数少ない癌の1つです。
便の潜血反応の検査と、
大腸内視鏡検査(S状結腸までの検査を含む)の、
それぞれを単独で施行するか、
組み合わせて施行することで、
一定の有効性があることが、
これまでの多くの臨床試験において確認されています。

ただ、たとえば大腸内視鏡検査と便潜血検査を、
直接比較したようなデータは、
実際にはあまり存在していません。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
60歳の住民を1回のみの大腸内視鏡検査による検診と、
2年間隔での2回の便潜血検査による検診、
そしてコントロールの3群に分けて、
その後の経過を検証しています。

トータルで278280名のデータを解析したところ、
大腸ファイバーを施行した31140名のうち、
0.16%に当たる49名と、
便潜血を施行した60300名のうち、
0.20%に当たる121名に大腸癌が発見されていて、
その発見率には有意な差はありませんでした。
一方で前癌病変の高リスクの腺腫の発見率のみで比較すると、
その発見率は便潜血群より大腸ファイバー群において、
1.27倍(95%CI:1.15から1.41)有意に高くなっていました。
肛門から距離のある右側の大腸の癌については、
大腸ファイバー群でより多く診断されていました。

このように、
個別の特徴は勿論あるものの、
大腸内視鏡検査を1回のみ施行する方法と、
便潜血検査を期間をおいて2回施行し、
陽性の対象者で大腸内視鏡検査を施行する方法は、
どちらもほぼ同様の有効性があると、
そう考えて大きな誤りはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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糖尿病におけるスタチン治療の薬剤比較(2022年ネットワークメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コレステロールとスタチンの有用性メタ解析.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年3月24日ウェブ掲載された、
コレステロール降下剤の糖尿病患者における効果比較を行った、
メタ解析の論文です。

血液中のLDLコレステロールの値が高いと、
動脈硬化進行のリスクとなり、
心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが高まります。
特にそのリスクが高いのは糖尿病の患者さんの場合です。

一方で善玉と呼ばれることのあるHDLコレステロールの値が低いことも、
同様に動脈硬化のリスクになります。

その2つのリスクを一体化した指標として、
non-HDLコレステロールという指標があります。
これは総コレステロールからHDLコレステロールの値を引き算したもので、
近年の検討では、
LDLコレステロール単独よりも、
non-HDLコレステロールを指標として治療をした方が、
より動脈硬化の施行予防になるという、
糖尿病の患者さんを用いたデータが発表されています。

コレステロール降下療法で主に使用されるのは、
スタチンと呼ばれる薬剤です。
アトルバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、
などが代表的なスタチン製剤です。

ただ、その治療効果の判定は、
主にLDLコレステロールの数値のみで行なわれているので、
non-HDLコレステロールへの有効性が、
同様に認められるとは限りません。

今回の検証は糖尿病(1型2型双方を含む)の患者さんに、
スタチンを使用してその有効性を検証した、
これまでの臨床データをまとめて解析することで、
どのスタチンがより効果的に、
non-HDLコレステロールを低下させるのかを比較検証しているものです。

これまでの42の介入試験に含まれる、
トータルで11698名のデータをまとめて解析したところ、
最も強くnon-HDLコレステロールを低下させていたのは、
ロスバスタチンを1日40から80mg使用した場合で、
それに次いで有効であったのは、
シンバスタチンを1日80mg以上、
アトルバスタチンを1日40mg以上使用した場合でした。

また一度心血管疾患に罹患後の再発予防の使用においては、
アトルバスタチンを1日40mg以上使用することが、
最も強くnon-HDLコレステロールを低下させていました。

今回の検証は実際の心血管疾患の予防効果を比較したものではないので、
その点は注意して判断する必要がありますが、
糖尿病の患者さんへの使用には、
これまでのエビデンスとして、
アトルバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンの使用が、
non-HDLコレステロールの低下のためには、
有用性が高いと考えて良いようです。

ただ、日本の添付文書においては、
シンバスタチンとロスバスタチンは1日20mgが最高用量で、
アトルバスタチンは40mgが最高用量ですから、
海外のガイドラインに沿って考えると、
有効な選択肢はアトルバスタチンの40mg使用以外にはないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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北村想「奇蹟 miracle one-way ticket」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
奇蹟.jpg
北村想さんの新作が、
今三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで上演されています、

北村想さんと演出の寺十吾さんのコラボは、
2013年の「グッドバイ」から中断はありながらも続いていて、
今回が多分8回目になるかど思います。
僕は初回の「グットバイ」にとても感銘を受けて、
そのうちの7作品は観ています。

当初は古典文学作品を、
北村さんの視点で読み直す、
という感じのシリーズだったのですが、
途中からはもうあまり原作とは関連がなくなり、
今回は純然たる新作のオリジナルになっています。

今回は井上芳雄さんが主演で、
ホームズばりの名探偵を演じ、
そのワトソン役に鈴木浩介さん、
井上小百合さん、瀧内公美さん、大谷亮介さんなどが脇を固めます。

これは昔の「碧い彗星の一夜」みたいな感じなんですね。

レトロな探偵物語がファンタジー的な色彩も加えて、
何処まで真面目で何処まで不真面目なのか、
俄に判断しがたいような展開になります。

登場人物は平気で楽屋落ちや、
勝手に作者や観客の立場に立ったような台詞を口にしますし、
探偵と犯人の対決になるのかと思いの外、
犯人が登場してものんびり話をするだけという脱力的な展開になります。
ラストには急に意外な設定が語られるものの、
すぐに「嘘です」とひっくり返されたりもします。

昔はこうした脱力系の展開に、
随分腹が立ったりもしたのですが、
今はそれこそが北村さんの個性だと思っているので、
決して面白いとは思えないのですが、
これはこれでありかな、というようには感じています。

今回はただ、テーマになっている「バチカンの女」という蘊蓄と、
奇蹟の裏で悲劇的な運命を辿る女性の話が、
少し弱いという感じはありました。
大好きな瀧内公美さんの出番も、
かなり少ないのが残念でした。

そんな訳でこのシリーズとしては、
少し落ちる出来かなというようには思うのですが、
寺十さんの演出は円熟味を増して素晴らしいですし、
北村さんの牧歌的な世界に、
自然に身を委ねることが出来る人には、
他の芝居では得難い経験を与えてくれる作品だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「余命10年」(藤井道人監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
余命10年.jpg
藤井道人監督の新作映画が今ロードショー公開されています。

実話に基づくフィクションが原作で、
難病もので純愛ものというかなり手垢の付いた素材です。

どんなものかなあ、と思って観に行ったのですが、
さすがのクオリティなんですよね。
感心しました。

藤井監督は生粋の映画マニア(シネフィル)なんだと思うのですね。

恋愛映画も社会派映画もヤクザ映画も、
みんな好きなんですね。
それで、そのジャンルの映画の依頼が来れば、
そのジャンルの過去の名作を下敷きにしながら、
そのジャンルにおける一番を作ろうとして、
自分なりの完璧を目指すのだと思います。

今回は最高に美しい純愛物を作ろう、
最高の泣かせの場面を作ろう、
最高の縁切り場面を作ろう、
桜の花を一番綺麗に撮ってやろう、
という感じだと思うのですね。
それに加えてメインの小松菜奈さんと坂口健太郎さんの、
代表作を作ってやろう、
という意気込みも感じられます。
そしてその大それた目標に、
ほぼ達していると思えるのが監督の凄さだと思います。

掴みが上手いよね。
最初の数分で所謂難病もののクライマックスを、
あらすじみたいにやってしまうんですね。
それから徐に導入に入るでしょ。
桜の美しさは絶品ですよね。
主人公の撮るムービーの画像が、
主観ショットを不自然でないものにして、
ナレーションと融合させているのも技巧的ですよね。
内容が共感を呼ぶかどうかはともかくとして、
映像のクオリティは充分世界水準だと思います。

これ2011年から2017年という時間を明記していて、
その辺りは「花束みたいな恋をした」と一緒なんですね。
日本がおそらく最大の混迷と絶望の中にある、
破滅の岸にあるようなこの時間を、
どうフィクションとして描こうかと思った時に、
「それはもう無理だよ、今やるとすれば、
そんな時間の中で必死にいつも通りに生きている、
ささやかな生きざまを切り取るしかない」
ということなのだと思います。

物語の裏に覚悟があるんですね。
それがこの映画を、
1段格調高く見せている理由だと思います。

小松菜奈さんと坂口健太郎さんは抜群ですね。
絵空事なのに血が通っていて、
リアルな質感がありますもんね。

唯一音楽はちょっと違うかな、という気はしました。
アニメなら全然これでいいと思うんですけどね。
映像をやや殺しているような気がしました。
ただ、これはもう好みの問題で、
これを良いと感じる人も勿論いるのだと思います。

いずれにしても、
物凄くベタな純愛映画で難病ものなのですが、
それでいて間違いなく藤井監督の映画にもなっている力作で、
映像の美しさだけでも一見の価値は充分にあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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左房機能と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療は産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
左房機能と認知症.jpg
JAMA誌に2022年3月22日掲載された、
心房機能と認知症リスクについての論文です。

心臓には左心房、左心室、右心房、右心室の4つの部屋があり、
心臓の機能に関わる重篤な異常は、
主に左心室の肥大や機能の低下による、
というのが従来の定説でした。

実際左心室の肥大や機能の低下は、
心臓そのものの機能低下に直結しますし、
心臓の超音波などの検査においても、
左心室の異常は簡単に検出出来るので、
それ以外の部位の異常は、
あまり注意が払われない傾向があったのです。

心房細動という不整脈があります。

これは心臓の心房という部分が、
けいれんのような不規則な動きをする病気ですが、
弁膜症や高血圧、糖尿病などが誘因として想定され、
心房そのものの異常としては、
捉えられないきらいがありました。

ただ、その考え方も近年変わりつつあるようです。

心房ミオパチー(atrial myopathy)という病名があります。

これは心房を構成する筋肉の障害ですが、
心房の筋肉に何らかの原因により炎症が起こり、
それが筋肉の障害から線維化を起こして、
心房機能が低下するという経過を辿ります。

心房機能が低下すれば、
当然心房細動の原因となります。

実は心房細動の主な原因は高血圧などではなく、
この心房ミオパチーではないか、という考え方があるのです。

心房細動があると、
血栓による脳梗塞が起こりやすくなります。

それでは、心房機能の低下と認知症のような脳の病気との間には、
何らかの関連があるのでしょうか?

今回の研究はその点を検証したものです。

アメリカで登録時点で45から64歳の一般住民、
トータル4096人を中間値で6年以上観察し、
その間の認知症の発症と心臓超音波検査における左房機能の指標との関連を、
比較検証しています。

その結果、
左房のリザーバー機能の指標が低いと、
認知症リスクが1.98倍(95%CI:1.42から2.75)有意に増加しており、
それ以外にもポンプ機能など多くの左房機能の指標と、
認知症リスクとの間に有意な関連が認められました。
この関連は心房細動や脳梗塞を発症した事例を除外しても認められ、
左房の大きさのみとの比較では認められませんでした。

つまり、心房細動まで至らないような、
軽度の心房ミオパチーの変化においても、
認知症リスクは増加することを示唆する結果です。

心臓と認知症とのこの関連は非常に興味深く、
そのメカニズムの解明を含めて、
今後より詳細な検証がなされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナオミクロン株、BA.1とBA2の違い(中和抗体価の比較) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オミクロン株1と2の違い.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年3月16日ウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナウイルス、オミクロン株の、
BA.1とBA.2の2つの変異の違いについての内容です。

オミクロン株の流行が、
ピークは越えた可能性はあるものの、
まだまだ  高いレベルで持続しています。
現行日本で流行しているBA.1という亜種以外に、
別個の変異を持つBA.2という亜種がヨーロッパなどで流行しており、
その亜種が日本でも報告されるようになって、
今後その増加が危惧されています。

実際にはオミクロン株には、
BA.1、BA.2、BA.3の3つの主な亜種があって、
BA.1が急速に優勢となった、という経緯があります。
このBA.1には現行のワクチンによる中和抗体を、
回避するという可能性が指摘されています。
その一方で最近世界各地域でBA.2が増加し、
BA.1に置き換わっているという事実は、
BA.2に何らかのアドバンテージがあることを示しています。

今回の検証では、
3回のワクチンを受けた24名の中和抗体価を、
時期に応じて変異株毎に測定し、
亜種による違いを比較しています。

こちらをご覧下さい。
オミクロン株1と2の違いの図.jpg
一番左がファイザー・ビオンテック社ワクチン初回接種後、
2週間での中和抗体価で、
WAというのが元の新型コロナウイルス株、
オミクロン株のBA.1とBA.2と並んでいます。

抗体の上昇は元のウイルスと比べて、
BA.1が23分の1、BA.2が27分の1と、
かなり低いことが分かります。
真ん中の図は3回目接種直前のもので、
抗体価はより減少し、
オミクロン株では殆ど機能していないレベルです。
それが右の3回目接種後には、
著明に上昇していることが分かります。
ただ、元のウイルスと比較すると、
オミクロン株での反応は弱く、
BA.1よりもBA.2では更に低いということが分かります。

更にオミクロン株のBA.1流行時期に感染した、
8名の検体を解析したところ、
元のウイルスに対しても、
BA.1とBA.2の2種類の変異株に対しても、
ほぼ同等の中和抗体の上昇が見られました。
ただ、BA.1の抗体価はBA.2の1.4倍となっていて、
BA.2の反応はやや低い傾向は確認されました。

このように、
現行のワクチンに対するオミクロン株の、
中和抗体上昇率は低く、
2回のワクチン接種のみでは無効に近い状態となりますが、
3回目接種を施行すると、
一定の抗体価上昇が認められ、
一定の有効性はあると言って良いようです。
オミクロン株のBA.1に感染すると、
BA.2に対してもやや低いもののほぼ同レベルの中和抗体活性が、
その後には認められるので、
一定の交差免疫は成立しており、
BA.1感染後すぐにBA.2に感染するという可能性は、
現状は低いと考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチン3回目接種後の心筋炎リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナ3回目接種後の心筋炎.jpg

JAMA誌に2022年3月17日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスワクチン3回目接種後の、
副反応の心筋炎の発症リスクについてのレターです。

新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン)の、
3回目接種(ブースター接種)が今日本でも施行されています。

現行使用されているファイザー・ビオンテック社及びモデルナ社のワクチンについては、
その短期の有効性と安全性はほぼ確立されていますが、
少数ながら副反応や有害事象の報告も見られます。

その中で、特に10代くらいの若年男性において、
そのリスク増加が指摘されているのが、
ワクチン接種後の急性心筋炎です。

統計により差があるので何とも言えないところがありますが、
その発症率はワクチン2万接種に1件程度と想定されています。

今回の検証はイスラエルにおいて、
軍隊でのファイザー・ビオンテック社ワクチンの、
3回目接種を受けたトータル126029名を対象として、
接種後1週目と2週目における、
急性心筋炎の発症率をみたものです。

その結果対象者全体での発症リスクは、
接種後1週目で10万接種当たり3.17件(95%CI:0.64から6.28)、
2週目で5.55件(95%CI:1.44から9.67)でした。

これを心筋炎の発症の多い18から24歳の男性に限ってみると、
接種後1週目の発症リスクは、
10万接種当たり6.43件(95%CI:0.13から12.73)、
2週目では11.25件(95%CI:2.92から19.59)となっていました。

これは確かに年齢性別を限ると、
多い副反応ではあると言えるのですが、
たとえば同じイスラエルの軍隊のデータで、
2回目の接種後の発症リスクは、
10万接種当たり5.07件なので、
ブースター接種においてより増加しているとは言えません。

矢張り接種回数に関わらず、
若年男性への接種においては、
急性心筋炎のリスクがやや高まることは念頭において、
症状出現時は迅速かつ適切な対応を取ることが、
重要であると考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マーティン・マクドナー「ピローマン」(2022年演劇集団円上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ピローマン.jpg
僕の大好きなアイルランド出身の劇作家で映画監督、
マーティン・マクドナーの「ピローマン」が、
本日まで演劇集団円の公演として、
六本木の俳優座劇場で上演されています。

マクドナーは現役の劇作家としては最も好きな1人で、
その作風は日本で言えば松尾スズキさんや赤堀雅秋さん、
長塚圭史さんなどに近いのですが、
その完成度は数段上で、
その衝撃性も際だっています。

最初に観たのは、
長塚圭史さん演出による「ウィー・トーマス」で、
あれは凄かったよね。
その後も長塚さんの演出作品は全て観ています。
それ以外に「イニシュマン島のビリー」も凄い芝居でしたし、
「スポケーンの左手」もさすがの手触りでした。

「ピローマン」は2003年の作品ですが、
パルコ劇場で長塚圭史さんが翻訳上演していて、
その時の舞台は観ているのですが、
その時の体調が万全でないこともあって、
集中力も切れ気味になり、
その真価が分からないままになっていました。

この円の舞台は寺十吾さんの演出で、
僕は寺十さんのアングラ演出が大好きなので、
これは期待出来ると思い昨年の5月に予約したのですが、
昨年の舞台は緊急事態宣言で流れてしまいました。
今回は満を持しての再上演で、
なんとか予定をやりくりして、
滑り込んだという感じで、
俳優座劇場に足を運びました。

これは中島らもさんに似た話がありましたよね。
子供が虐待されるような残酷な童話を書いている中年男がいて、
その筋の通りに子供が殺されるという事件が起こるので、
警察に捕まって尋問を受けるのです。
彼には学習障害の兄がいて、
その兄にも同時に殺人の疑いが掛かっています。
果たして連続小児殺人事件と兄弟との間には、
どんな関係があるのでしょうか?

こうしたプロローグからは、
どんでん返しのあるサイコスリラーのようなものを、
僕としてはどうしても想定してしまいますし、
パルコ劇場の上演の時も、
そうしたものを期待していたので、
落胆してしまったという部分があったのですが、
この作品は全くそうしたものではないのですね。

現実とフィクション、創作との関わりのようなものを、
根源的な意味で追求している作品なのです。
残酷な物語というのは世の中には沢山あって、
その評価も様々ですよね。
実際に創作に影響されて犯罪を犯すということもありますし、
現実の残酷さに対抗するために、
創作の力を信じるという立場もあります。
この物語においては、
両親のある種の実験的な子育てによって、
兄が虐待を受けることを見続けて来た弟が、
兄に対してなすべきことは何なのかを、
童話を書くという形で追求し続け、
最後には物凄く残酷で刹那的な形で、
物語の奇蹟が起こる、
という壮絶なプロローグに至ります。

舞台には動きが少なく、
童話を原則語りで見せるという様式なので、
鑑賞にはかなりきつい部分はある芝居なのですが、
色々な解釈な可能な力作で、
傑作であることは間違いがありません。

寺十さんの演出は、
さすがのアングラ演出が冴えていて、
もう少し遊びがあっても良いかな、
という感じはしましたが、
まずは安定した仕上がりでした。
戯曲で気になったのは、
パルコ劇場版では見せ場の1つになっていた、
刑事が語る寓話の部分が、
バッサリカットされていたことで、
色々なバージョンがあるのかも知れませんが、
少し釈然としませんでした。

キャストも概ね好演でしたが、
主人公の渡辺譲さんはガナる場面で台詞が聞き取り難く、
弟役の玉置祐也さんは、
時々素に戻るような感じがあるところが気に掛かりました。

いずれにしてもマクドナー作品を、
上質な演技と演出で観ることが出来るのは至福の時間で、
これからも是非是非マクドナー作品の上演をお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「THE BATMAN ザ・バットマン」(2022年公開版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
夜はいつものようにRT-PCR検査の結果説明と、
保健所への届け出の予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ザバットマン.jpg
バットマンの新作が今公開されています。
アイ・マックスの上映に足を運びました。
ただ、画格は常時シネスコサイズで、
アイ・マックス専用の映像ではないようです。

バットマンは小さい頃にテレビシリーズが放送されていて、
そのポップな色調と軽いタッチが、
如何にも「アメコミ」という感じで印象に残っています。
あの能天気な楽しさは、
今はもう存在しない世界ですね。

その後ティム・バートンのリターンズは、
彼の真骨頂で楽しかったですし、
ノーランの暴力の黙示録的世界も、
1つの時代を画したという感はありました。
その後DCコミックスはアベンジャーズの向こうを張って、
スーパーマンとバットマンが一緒に敵と戦ったりもしましたが、
「ジョーカー」では、
アメリカンニューシネマの読み直しから、
コミックスの悪党を、
現実のサイコパスやテロリストに読み替えする、
という試みに切り替わり、
それが今回のバットマン新シリーズに繋がっているようです。

この作品の主な悪役はリドラーですが、
ペンギンとキャットウーマンも登場し、
ラストにはジョーカーも…
という感じになって、
過去のバットマンの主な悪役達が、
サイコパスやテロリストに読み替えられて集結、
という感じの枠組みになっています。
当然次作はジョーカーも本格的に参集、
という流れになるのだと思います。

作品のタッチはもう、
殆ど刑事アクションなんですね。
ほぼ「ダーティーハリー」という感じです。
オープニングが「ダーーティーハリー」の1作目と、
同じアングルで始まるのは、
多分意図的なのだと思います。

「ジョーカー」は「タクシードライバー」の読み替えで、
この「ザ・バットマン」は「ダーティーハリー」の読み替え、
ということでそう間違ってはいない感じです。

僕は70年代くらいのアメリカ映画は大好きなので、
今回の作品もとても楽しめました。
本来はバットマンというキャラのみが、
作品世界から浮いている筈なのですが、
観ていてそう違和感はありません。
これはサイコパスとコスプレお兄さんが対決して、
そうおかしくない世界に、
今はなっているからかも知れません。

ダークな彩の刑事アクションとして観ると、
テンポも良いですし、
クライマックスも水害を絡めたりして、
スケール感の出し方もなかなか良いと思います。
キャストも皆好演で、
特にキャットウーマンのゾーイ・クラビッツが良いですね。
今回のキャットウーマンは、
完全なヒロインで、
バットマンの相棒的存在に描かれています。

バットマンをどう扱うかについては、
これまで試行錯誤があったのだと思うのですが、
もうダーティーハリーにしてしまおうと開き直って、
もう1つの架空のニューヨークでの活劇が、
今回は結構上手く着地していたように思います。

次回作もとても楽しみです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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