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「脳梗塞は自分で診断しないといけない…場合もある」という話 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。

今日は最近一番考えさせられた事例をご紹介します。

基本的に事実ですが、
守秘義務及び患者さんの特定を避ける観点から、
一部事実を敢えて変更したり、
省略して記載していることをご了承下さい。

患者さんはBさん。
60代の女性で、
軽度の高血圧症とHbA1cが6%台後半から7%くらいの、
比較的軽症の糖尿病で通院中の方でした。

クリニックが休診の金曜日に、
突然の体調不良がBさんを襲います。

頭が急に「ぐわんと」揺すられたような感じになり、
上手く表現が難しいのですが、
ともかく居たたまれないような感じの具合の悪さが続きます。
脳が揺すられているようなふらつきが続き、
歩いていると身体が左に傾いてしまいます。
血圧は自己測定で上が190以上に上昇していました。
普段の外来血圧は130台くらいでしたから、
明らかな上昇です。

これはおかしいと思いクリニックを受診しましたが、
休診日であったため、
当日は様子をみることにしました。

翌日は土曜日でクリニックも診療していましたから、
可能であれば連絡か受診をして頂きたかったのですが、
症状に悪化はなかったので、Bさんは様子をみようと決め、
受診も連絡もしませんでした。
そして日曜日になりました。
その日から左目の周りに違和感があり、
それから右足の感覚が鈍いのを自覚するようになりました。
身体のふらつきはまだそのまま続いています。

症状に変化も見られたので不安になり、
近隣の救急病院を受診しました。
脳神経外科の医師が対応しました。

脳外科医は症状を聞き、簡単な診察をしてから、
血液検査と頭部CT検査を施行しました。

検査はいずれも異常はなかったので、
脳外科医は「問題はありませんね」と言いました。

それでも脳梗塞が心配であったBさんは、
「でも、CTでは発見出来ない脳梗塞もあるのでしょう?」
とテレビの健康番組で耳学問の情報を尋ねました。

脳外科医はBさんの言葉尻を遮るように、
「それはそうですが、あなたの症状は脳ではないですよ」
と言いました。そして、
「足のしびれは腰からの可能性が高いと思います。
明日月曜日に整形外科の外来を受診して下さい。予約をしておきますよ」
と言いました。

Bさんは釈然としませんでしたが、
根が真面目な性質なので、
翌日同じ病院の整形外科を受診しました。
整形外科では簡単な診察の後で腰のレントゲンを撮り、
「整形外科的には問題はありませんね。痛み止めと湿布をだしますから、
それで様子をみて下さい」
と言いました。
特に「もう一度脳外科でも診てもらいましょう」
というような話はありませんでした。

それでBさんはまた釈然としないながらも帰宅し、
湿布を貼り、痛み止めを飲ました。
しかし、症状は改善はしません。

翌日左目の周囲に違和感があり、
目が開けづらいような感じがしたので、
今度は眼科を受診しました。
眼科医は目の周辺のしびれ感から、
典型的な湿疹はないものの帯状疱疹を疑い、
抗ウイルス剤が処方されました。

Bさんはまた真面目に薬を飲みましたが、
あまり症状の改善はありません。

同日から右の下半身だけだった感覚の鈍い感じは、
腕の方まで広がって来ました。
水で手を洗っても冷たくなく、
関節に痛みがあったのですが、
それも鈍くしか感じられません。

「これは絶対におかしい」と思いましたが、
2つの科の専門医が揃って「何もありません」と言っているのだから、
というように躊躇する思いがあり、
結局木曜日の午後にBさんはクリニックを受診されました。

ここまで読まれた皆さんはお分かりのように、
ほぼ脳梗塞で間違いないと考えました。
意識レベルを含めバイタルは安定していたので、
画像診断専門のクリニックですぐにMRIを撮影し、
そこで診断は判明しました。

脳幹という脳の下の部分の脳梗塞でした。

より正確には左延髄外側の脳梗塞です。

これは特徴的な多彩な症状が見られることから、
延髄外側症候群、またはワレンベルグ(Wallenburg)症候群と呼ばれています。

そう思ってみると症状は全て特徴的です。
延髄の外側の部位には多くの脳神経が分布しているので、
その障害により多彩な症状が出現します。

ふらつきのようなめまいと、
病側へ倒れそうになる歩行障害。
健側顔面と病側四肢の感覚障害。
嗄声や嚥下障害はありませんでしたが、
それ以外はほぼ兆候が揃っています。

それから病院に連絡を取り、
複数の病院に当たりましたが、当日の受け入れは不可、
ということであったので、
Bさんの状態も見て、
翌日の脳神経内科受診の段取りを組みました。

今回のケースでは、
Bさんは最初から脳梗塞を疑っていたのですね。
それで脳外科でも整形外科でもその話をしたのですが、
脳外科医はおそらく休日でもありましたし、
なるべく面倒はことはしたくなかったと思うのですね。
「今日は入院は絶対駄目ですよ」
くらいのことを言われていたのかも知れません。
せめて、翌日もう一度脳外科か神経内科の受診を…
とは思いますが、
何故脊柱由来と思ったのかは良く分かりません。
「脊柱病変の疑いのある患者がいたら紹介してね」
と言われていたのかも知れません。

これ、AIの診断なら、
初期の段階でほぼ診断確定しそうですよね。

そう考えると切なくなりますし、
医者の1人1人が勿論僕自身も含めて、
もっと頑張ってこうしたことを減らさないと、
「医者に診断させるのは駄目」というような、
ドラマには良くあるような時代が、
もうすぐそこまで来ているような気もします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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