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胸部痛の診断における冠動脈CTとカテーテル検査の比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
CTとカテーテル検査の優先度.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年4月28日ウェブ掲載された、
胸部痛の診断のための検査を比較した論文です。

僕は大学病院時代に、
一時期循環器の専門診療に従事していました。
心臓カテーテル検査やペースメーカーの植え込みなどを、
一通り研修して、
通常の診断カテなら一通りは出来、
ペースメーカーの植え込みも出来る、
というくらいまでのスキルには達していました。
考えるともう25年以上前のことですから、
時の流れには恐ろしいものを感じてしまいます。

当時の胸痛の診断は、
基本的には症状から狭心症が疑われれば、
速やかにカテーテル検査で確認する、
というのが普通でした。
大学病院ではその前に運動負荷検査や、
心筋シンチをすることもありましたが、
地域の基幹病院や総合病院クラスでは、
「まずは心カテ」というのが、
循環器の専門医のいる施設での合言葉でした。

それが大きく変わるきっかけとなったのが、
冠動脈CTの登場です。

CT検査の技術が格段に進歩し、
造影CT検査の画像を緻密に再構成することにより、
カテーテルで心臓の血管の造影検査をした画像と、
遜色のない画像が得られるようになったのです。

これは画期的なことでした。

心臓カテーテル検査は熟練した医師が施行すれば、
診断カテなら10分程度で終了します。
ただ、血管に針を刺してカテーテルを挿入するのですから、
出血などの合併症のリスクはありますし、
患者さんの負担も大きい検査ではあります。

それに比べて冠動脈CT検査は、
放射線の被曝はかなりありますが、
それ以外の合併症は、
心臓カテーテル検査と比較すれば格段に少なく、
患者さんへの負担自体も格段に少ないという特徴があります。

ただ、冠動脈CTの診断と、
心臓カテーテル検査による診断は、
完全に同じという訳ではないので、
患者さんの予後に与える影響については、
これまで実証的なデータが不足していました。

今回の研究では、
ヨーロッパの26か所の専門施設において、
虚血性心疾患の中等度の可能性が症状などから推測される、
3561名の患者をくじ引きで2つの群に分け、
一方は冠動脈CT検査を施行し、
もう一方は心臓カテーテル検査を施行して、
その経過を3.5年以上検証しています。

その結果、
経過中の心血管疾患による死亡、
心筋梗塞や脳卒中の発症を併せたリスクには、
初期診断を心臓カテーテル検査で行っても、
冠動脈CT検査で行っても有意な差はなく、
その一方で手技による合併症は、
明確に心臓カテーテル検査の方が多くなっていました。

このように、
比較的長期の経過を比較しても、
CTによる診断と心臓カテーテル検査による診断には差はなく、
その施行のリスクには明らかな差が確認されました。

勿論症状や心電図所見などから、
急性冠症候群が強く疑われる時には、
カテーテル検査で早期に診断して、
治療に結び付けることに変わりはありませんが、
緊急性のない胸部痛の診断には、
まずは冠動脈CT検査という考え方は、
より実証的なものになったと言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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低ナトリウム血症と気温との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診ですが、
あれこれ仕事は残っている状況です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
低ナトリウム血症と気温.jpg
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌に、
2022年2月22日ウェブ掲載された、
低ナトリウム血症と気温との関連についての論文です。

低ナトリウム血症は、
血液の水分に対するナトリウム量が低下して、
血液中のナトリウム濃度が低下する状態のことで、
ナトリウムに対して水分が過剰である場合にも、
水とナトリウムの両方が喪失していて、
比率的にナトリウム量の方がより失われている場合にも起こります。

この低ナトリウム血症は高齢者に多く、
特に気温の高い時期に多いと報告されています。

通常夏には脱水症状が起こりやすく、
典型的な脱水では血液のナトリウム濃度は上昇しますから、
それで低ナトリウムになると言うのは、
ちょっと奇異な感じがしますが、
発汗などにより水よりもナトリウムの喪失が多いことが、
この結果に繋がっていると想定されます。

ボストンマラソンでの意識障害の主体は、
高ナトリウムではなく低ナトリウム血症であった、
という有名な報告がありますが、
脱水の起こりやすい夏場や運動時には、
「水分を多く摂ることで脱水を予防しよう」
という考え方が一般にも浸透しているので、
ナトリウムの補充をせずに水分ばかりを補充すると、
スポーツドリンクでも塩分濃度は血液よりはずっと少ないですから、
高ナトリウムよりむしろ低ナトリウム血症のリスクの方が、
より高まるということかもしれません。

特に高齢者で降圧剤を使用していると、
利尿作用のある薬剤でなくても、
塩分の排泄を促進するような働きを持っていますから、
よりナトリウムの喪失に繋がり易い点にも注意が必要です。

高度の低ナトリウム血症はけいれんや意識障害などを伴い、
放置すれば致死率も高い病態ですから、
臨床的な意味は大きいのです。

さて、気温が上がることで、
どの程度低ナトリウム血症のリスクは高まるのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンにおいて、
病院の入院患者のデータを解析することにより、
低ナトリウム血症の罹患率と気温との関連を解析しているものです。

9年間にトータルで11213名の低ナトリウム血症による入院患者が登録され、
そのうちの72%は女性で年齢の中間値は76歳でした。
平均気温が-10度から10度の範囲では、
低ナトリウム血症の罹患率は1日100万人当たり0.3件でほぼ一定ですが、
24時間平均の気温が15℃を超えると急増し、
最高気温が25℃に達する日では1日100万人当たり2.26件と推計されています。
女性と高齢であることが発症リスクを高める主な因子です。
80歳以上の年齢で低ナトリウム血症で入院するリスクは、
10℃以下の涼しい日と比較して最高気温が25℃に達する日では、
15倍も高くなっていました。

今後温暖化などにより平均気温が1℃上昇すると6.3%、
2℃上昇すると13.9%、
低ナトリウム血症による入院のリスクは増加すると推定されました。

このように低ナトリウム血症と気温との間には、
意外に大きな関連があり、
気温の高い日にはそのリスクを充分に想定して、
対策を取る必要があると考えられます。

ただ、ボストンマラソンの事例が物語るように、
これは単純に水を飲めばよい、
塩分を補充すれば良い、というものではないので、
今後一般の方に分かり易くそのリスクを伝えるための、
臨床的検証が重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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抗凝固剤の種類と鼻血リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
鼻血のリスク.jpg
Journal of Internal Medicine誌に、
2022年4月12日ウェブ掲載された、
抗凝固剤の鼻血リスクについての論文です。

心房細動という不整脈における、
脳塞栓症などの予防や、
下肢静脈血栓塞栓症における、
肺血栓塞栓症の予防などには、
抗凝固剤という、
強力に血液の凝固を抑える薬が使用されます。

古くから使用されているのが、
注射薬のヘパリンと経口薬のワルファリンで、
最近その利便性からその利用が増えているのが、
直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる薬です。
ダビガトラン(プラザキサ)やリバロキサバン(イグザレルト)、
アピキサバン(エリキュース)、
などがそれに当たります。

この直接作用型経口抗凝固剤は、
これまでの臨床試験などの結果より、
ワルファリンに匹敵する塞栓症予防効果があり、
脳出血などの重篤な出血系の合併症は少なく、
他の薬や食品などにより、
その作用が変動することも少ないので、
現在ではワルファリンに替わって、
こうした抗凝固剤の主流となっています。

抗凝固剤の副作用として問題となるのは、
消化管出血や脳出血などの重症の出血系の合併症です。
しかし、実際には出血系の合併症で最も多いのは鼻血です。

抗凝固剤の臨床試験においては、
10から16%の使用者が、
鼻血のエピソードを報告しています。
ただ、鼻血は軽症の合併症と判断されることが殆どなので、
問題となるような有害事象としては、
カウントされていないことが多いのです。

鼻血は確かに一般的な症状ではありますが、
止血しにくいケースも多く、
救急で病院を受診することも少なからずあります。

従って、鼻血の発症率に、
ワルファリンと直接作用型経口抗凝固剤との間で、
明確な違いがあるかどうかは、
薬剤の選択においても重要な要素であると思いますが、
これまであまりそうしたデータはありませんでした。

今回の研究はアイスランドにおいて、
ワルファリンと、
直接作用型経口抗凝固剤である、
アピキサバン、ダビガトラン、リバロキサバンの、
5年以上の使用データを解析して、
その鼻血の発症リスクを比較しているものです。

2098名のアピキサバン使用者と、
474名のダビガトラン使用者、3106名のリバロキサバン使用者、
1403名のワルファリン使用者を解析した結果、
観察期間中に93名が臨床的に問題となるような鼻血を発症していて、
そのうちの11名が重症の事例でした。

ワルファリン使用患者の鼻血罹患率が、
年間100人当たり2.2件であったのに対して、
ダビガトラン使用患者は鼻血の報告はなく、
アピキサバン使用患者は0.6件、
リバロキサバン使用患者は1.0件でした。
ワルファリン使用者と比較して、
直接作用型経口抗凝固剤はいずれも鼻血リスクは、
明確に低くなっていました。
それを図示したものがこちらになります。
鼻血のリスクの図.jpg
ダビガトラン群は事例は少なく、
鼻血の事例も報告されていないので、
この図からは省かれています。

鼻血の多くは軽症で対応可能なものですが、
実際には不快でストレスに感じることも多く、
こうした情報は薬剤の選択において、
意外に重要なもののようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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家族性高コレステロール血症と認知症リスク(ノルウェーの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
家族性高コレステロール血症と認知症リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年4月19日ウェブ掲載された、
認知症リスクと家族性高コレステロール血症との、
関連を検証した論文です。

血液のLDLコレステロールが高いことが、
動脈硬化の進行のリスクとなり、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患のリスクとなることは、
多くの信頼のおける疫学データにより、
実証された事実です。

ただ、LDLコレステロールの高値と認知症との関連については、
必ずしも実証されている訳ではありません。

認知症の中で特に脳血管性認知症については、
脳の血管の動脈硬化性変化が、
その発症に大きな影響を与えていることは間違いがなく、
その点からはコレステロールの高値が、
認知症のリスクにもなることは、
当然推測がされるところです。

ただ、認知症の中で大きな比率を占める、
アルツハイマー型認知症については、
コレステロールの高値が影響しているという報告がある一方、
関連がないという報告もあって一定していません。

今回の研究はノルウェーにおいて、
遺伝子の変異のためにLDLコレステロールが生まれつき異常高値となり、
高率に心血管疾患を発症する、
家族性高コレステロール血症(FH)の患者さん、
トータル3520名を10年間観察し、
認知症の発症リスクとコレステロール値、
及びコレステロール降下剤のスタチン使用と、
認知症リスクとの関連を検証しています。

その結果家族性高コレステロール血症の患者においても、
認知症の多くは70歳以上で発症していて、
コントロール群と比較して認知症リスクは、
認知症のタイプに関わらす有意な増加は認められませんでした。
また、コレステロール降下剤のスタチンの累積使用量と認知症リスクとの間にも、
明確な関連は認められませんでした。

今回の検証では、
コレステロールの高値と認知症との間には、
そのタイプを問わず明確な関連はなく、
スタチンの使用も認知症リスクを低下させることはありませんでした。

この結果のみをもって、
コレステロール値と認知症が無関係とは言えませんが、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患のリスクと、
認知症のリスクは同一ではなく、
それぞれ別個に検証する必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オミクロン株の特徴(スコットランドの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オミクロン株の特徴スコットランド.jpg
The Lancet Infectious Diseases誌に、
2022年4月22日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス、オミクロン株の、
感染の特徴についての論文です。

オミクロン株の特徴については、
感染力の高さや軽症化はほぼ間違いのないことですが、
それ以外についてはまだ混沌としています。

その潜伏期の短さから、
行政では無症状感染や濃厚接触者の観察期間を、
どんどん短くしているのですが、
最近家族での初回の感染者から、
1週間以上経過してからの家族内感染の事例を、
経験することが多くなっているので、
本当にその方針が正しいのかについては、
正直懐疑的になっているのが実際です。

今回のデータはスコットランドの疫学データで、
940か所の医療機関で診断された、
オミクロン株と想定される、
23840名の新型コロナ患者が対象となっています。

この時期のスコットランドではデルタ株とオミクロン株以外の感染は、
ほぼないと想定されるので、
RT-PCR検査における特徴的な所見から、
その2つの分類を行っています。

オミクロン株の患者の49.2%は20から39歳で、
若年層が主体の感染であることを示しています。
観察期間中に90日以内に再感染するリスクは、
オミクロン株がデルタ株の12倍の7.6%になっていました。

15か所の病院のデータで解析された、患者の入院リスクは、
デルタ株と比較して32%(95%CI:0.19から0.52)という低率でした。

2回目のワクチン接種から25週以上経過後の有症状感染リスクを、
3回目接種もしくはブースター接種は、
57%有意に低下させていました。

このように、
オミクロン株の感染はデルタ株と比較して、
重症化リスクは低く、
再感染率は高いという特徴があり、
ワクチンのブースター接種は、
そのリスクを低下させはしますが、
それは2回目接種後早期と比較すると、
劇的な低下とまでは言えないレベルであることが分かります。

現状は3回目接種より有効な予防法が、
ないことは事実なので、
それを進める一方で、
より有効性の高い予防法が、
早期に確立されることを待つしかないのかもしれません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COVID-19後遺症の特徴とその対策(イギリスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19後遺症の特徴と対策(イギリスの疫学データ).jpg
The Lancet Respiratory Medicine誌に、
2022年4月23日ウェブ掲載された、
新型コロナの後遺症についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
だるさや微熱などの症状が長期間持続することや、
肺疾患や生活習慣病などの全身疾患が、
新たに生じることも多いことは、
国内外を問わずこれまでに多くの報告があります。

主にヨーロッパでは、COVID-19罹患後症候群という概念で、
初発から12週間以上持続する症状を定義していましたが、
以前ご紹介したアメリカの研究では、
より広く発症から21日以上持続する体調不良を、
シンプルに後遺症と表現していました。
それ以外にロングCOVID(Long COVID)、
というような表現も使用されています。
要するに、まだ統一された概念ではないようです。
今回のイギリスの論文では、
ロングCOVIDという表現がされています。

日本でも罹患後症状、後遺症、後遺障害と、
多くの表現が使用されていて、あまり一貫性のない状態です。
保険病名としては、
COVID-19後遺症という記載も認められています。

いずれにしても、
概ね罹患後3ヶ月を過ぎても、
体調が罹患前と比べて悪い場合に、
そうした表現がされることが多いようです。

後遺症外来と称するものも複数開かれていて、
慢性疲労に使用されるような漢方薬やビタミン剤、
一部のアミノ酸製剤やその誘導体などが使用されているようですが、
明確にその効果が立証されているようなものは現時点ではありません。

今回の研究はイギリスにおいて、
18歳以上で新型コロナウイルス感染症のために入院していて退院し、
その後5ヶ月の時点での状態を診察した、
2320名の経過を1年間追ったものです。
実際には5ヶ月の時点で1965名が解析対象となり、
1年の経過を観察しえたのはそのうちの807名で、
804名が解析対象となっています。

退院後5ヶ月の時点で、
完全治癒つまり罹患前と同じ状態に戻っていたのは、
1965名のうち25.5%に当たる501名で、
1年後において完全治癒していたのは、
804名のうち28.9%に当たる232名でした。

つまり、5ヶ月の時点で後遺症状があった人は、
1年の時点でもあまり変わってはいない、
ということになります。

どういう人が持続的な症状のリスクがあるかで解析すると、
女性、肥満者、人口呼吸器を装着した重症の患者で、
より症状持続のリスクが高いと解析されました。

持続症状と関連のある検査値の解析では、
特に記憶障害や集中力低下などの認知機能低下の強い患者において、
血液中の炎症マーカーであるIL6濃度の上昇が認められました。

IL6は臨床的にも測定はし易い検査値で、
実際にIL6の抗体を治療に使用するような試みも、
研究レベルでは行なわれています。

今回のデータは今後のCOVID-19後遺症の治療の端緒となるもので、
今後のより詳細な検証と、
治療の開発に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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影向寺薬師如来座像 [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日羽日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日は久しぶりに仏像の話題です。

神奈川県川崎市の影向寺(ようごうじ)は、
神奈川県でも有数の古刹で、
その創建は奈良時代に遡り、
重要文化財のご本尊は、
平安時代後期の名品として知られています。
こちらも関東地方では有数の古仏です。

年に数回はご開帳があるのですが、
タイミングが合わなかったことと、
ガラス戸越しの拝観になる、
ということを聞いていたので、
「それじゃああな」と思ってこれまで足を向けませんでした。

今回寅年の七薬師ご開帳という、
12年に一度の機会があり、
これは行かなくてとレセプト期間中でしたが、
無理に足を運びました。

住宅地ではあるんですが、
とても不便なところにあるんですね。
行きはタクシーを使ったのですが、
帰りはもよりの駅まで、
30分くらい掛けて迷いながら歩きました。

でね、素晴らしかったですよ。
もっと早くにお逢いすれば良かったと後悔しました。

まずこちらをご覧下さい。
影向寺本堂遠景.jpg
薬師堂という本堂です。
江戸時代の建築でなかなかの風格がありますよね。

少し近寄りましょう。
影向寺本堂近接.jpg

それほど大きなお寺ではないのですが、
開発は進んでいるものの周辺の田園を含めて、
奈良や京都の古寺に引けを取らない風格と趣きがあります。

控えめに言って最高です。

薬師如来はこの薬師堂のご本尊だったのですが、
文化財として貴重なものなので、
現在は本堂の裏手の収蔵庫に安置されています。
今の薬師堂にはお前立ち的な新しいお像が安置されています。

それでは裏手に廻ります。
こちらです。
影向寺収蔵庫位置.jpg
画面の右が本堂の裏手で、
左にあるのが収蔵庫なんですね。
丁度元のご本尊の位置をそのまま後ろにずらすと、
今のご本尊のいらっしゃる位置になるんですね。

本堂の正面で手を合わせれば、
自然と本当のご本尊に向かい合うようになる訳です。
とても良く考えられていると感心しました。

それでは収蔵庫の仏様にお逢いします。

収蔵庫のガラス戸を開き、
その入り口から拝観するという形式です。
収蔵庫の中にはその日の檀家の当番の方が立ち会います。
お写真は撮って頂いて構わないと許可を頂きましたので、
大変失礼ではありますが撮影させて頂きました。
ご本尊のお姿がこちらです。
影向寺本尊全景.jpg
素晴らしいですね。
平安時代後期の特徴を強く持っている端正なお姿なのですが、
木彫りのままで金箔などはまとっていないのですね。
地方仏の素朴さも併せ持っているのがこの仏様の魅力です。

ちょっと平安時代初期の幽玄な力強さも感じられます。
素敵です。
もう一枚近接でお撮りしました。
影向寺本尊近景.jpg
うん。素晴らしいですね。

何度も何度も目に焼き付けるようにして、
その場を後にしました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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シベリア少女鉄道「どうやらこれ、恋が始まっている」(ネタバレ注意) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
シベリア少女鉄道.jpg
オタク嗜好と演劇実験融合のパイオニア、
シベリア少女鉄道の本公演が先日まで、
六本木の俳優座劇場で上演されました。

いつも観てすぐに感想を書くことが多いのですが、
シベリア少女鉄道は基本ネタバレ厳禁なので、
上演は終了した後で公開しています。

僕は最初に観た作品は、
確かシアタートップスだったと思いますが、
何処が面白いのか分からない、という感じでした。
次の作品も、「何なのこれは」という感じだったのですが、
吉祥寺で上演された「残酷な神が支配する」を観て、
初めてその壮大なオチに驚嘆し、
ラストに虚無的に高速回転する無人の廻り舞台に、
これまでの演劇にない奇妙な悦楽を感じて、
それ以降はほぼ全ての公演に足を運んでいます。
途中で活動休止となった時は大いに落胆しましたが、
ほどなく活動再開して今に至っています。

昔は役者さんの演技レベルが物凄く低くて、
それで前半を耐えるのがキツイ、
という感じがありました。

ザックリでいつも1時間半の上演時間のうち、
前振りのシリアスなドラマ部分が1時間から1時間10分くらいあり、
後半の30分未満が壮大なオチになります。
一番技巧的に凝っていた時期には、
2つの仕掛けのあるダブルクライマックス仕様のものや、
「永遠かも知れない」のように、
コントを執拗に繰り出し続ける、
というような変化球もありましたが、
最近の作品はほぼほぼ、通常運転です。

以下少しネタバレがあります。

今回は近未来を舞台にしたシリアスなSFスリラー的ドラマがあり、
それが1時間くらい振りとして続いて、
そのあとで現代の古い日本家屋のアパートの一室に舞台は移り、
同じ「画面」に2つの世界がリンクして現れ、
最後は2つの世界が融合するように終わります。

これ、以前にサイコスリラーが、
後半になると格闘型ゲームに変化して、
サイコスリラーも同時進行するものの、
観客にはそのラストは理解出来ない、
というような作品があって、
その変奏曲というような感じでした。

ただ、以前の同様の作品と比較すると、
その演劇としてのクオリティは遥かに高くなっています。

前半のドラマ部分も、
真面目にスリラーとして観られるレベルですし、
後半への舞台転換の鮮やかさも特筆ものです。
その後は加工された映像のように、
部分的に別世界の話が進行するのですが、
2つの世界が次第に入り混じって来る辺りは、
シベリア少女鉄道以外では、
到底体感することの出来ない愉楽があります。

ネタの前半部分では、
舞台をテレビやスマホのモニターに見立てて、
臨時ニュースや天気、試合結果などの、
文字情報が入るというパートが用意されています。
ただ、あまりに情報量が多いので、
実際の舞台では捕捉は困難です。
それで配信も見たのですが、
それで漸く話が繋がった、
という感じでした。
各キャラの点数が試合のように表示されるというのは、
これも過去作を思い出させる趣向ですが、
後半に繋がるという訳ではないので、
やや肩透かしの感じはありました。

そうじて今回は完成度に力点を置いた、
シベリア少女鉄道としては水準作という感じでした。
面白いけれどちょっと小粒で焼き直し感はありますね。

でもいつもながらの唯一無二の世界はとても楽しく、
また次回の公演を心待ちにしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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吐き気止めの使用と脳梗塞リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
吐き気止めの脳梗塞リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年3月23日ウェブ掲載された、
頻用されている吐き気止めの飲み薬と、
脳梗塞発症リスクとの関連についての論文です。

特に高齢者や認知症の患者において、
抗精神病薬の使用がその後の脳梗塞(虚血性梗塞)の発症リスクになる、
という知見が、多くの観察研究で確認されています。

このリスクは特にそうした薬剤の使用開始早期に多く、
1か月以内の発症リスクは未使用の12倍になると報告されています。
そのリスクは使用継続により低下します。

そのメカニズムの詳細は不明ですが、
特にドーパミン系の神経伝達が強く抑制されることと、
関連が深いと推測されています。

そこで1つ問題になるのが、
抗精神病薬以外にドーパミン受容体をブロックする働きのある、
吐き気止めの使用にも同様の影響がないのか、
ということです。

抗精神病薬は使用のリスクも高く、
治療に必須の場合に限って処方される性質の薬ですが、
吐き気止めの飲み薬はそうではなく、
一時的な胃腸炎などの吐き気に対しても、
気軽に使用される性質の薬であるからです。

具体的にはドンペリドン(商品名ナウゼリンなど)や、
メトクロプラミド(商品名プリンペランなど)は、
そうした目的に非常に使用頻度の高い薬剤です。

今回の研究はフランスにおいて、
18歳以上で初回の虚血性梗塞を発症し、
いずれかの時期に吐き気止めの処方を受けていた、
トータル2612名を薬剤の使用時期で比較し、
更に21859名のコントロールと比較したものですが、
ドンペリドン、メトピマジン(日本未発売)、メトクロプラミドの、
3種類の吐き気止めのいずれかを内服することは、
その後2週間の虚血性梗塞の新規発症リスクを、
3.12倍(95%CI:2.85から3.42)有意に増加させていました。

個別の薬剤毎の比較では、
ドンペリドンが2.51倍(95%CI:2.18から2.88)、
メトピマジンが3.62倍(95%CI:3.11から4.23)、
メトクロプラミドが3.53倍(95%CI:2.62から4.76)、
それぞれ有意に虚血性梗塞のリスクを増加させていました。

このリスク増加は、
こうした薬剤の投与初日に、
最も高くなっていました。

ドンペリドンは他の2種の薬剤と比較すると、
薬剤の脳内移行が少ないので、
薬剤が脳に移行しやすいほど、
このリスクは増加すると想定されます。

この結果は嘔吐自体が脳梗塞の症状であった可能性を、
完全には否定できないという気がするので、
どのような状況によって吐き気止めが投与されたかが、
重要ではないかという気がします。
ただ、これまでの研究は今回も含めて、
全て後からデータを解析しただけのものなので、
本当に吐き気止めが発作の引き金であったのかどうかは、
まだ慎重に検証する必要があると思います。

ただ、いずれにしてもドーパミン抑制作用のある薬剤で、
虚血性梗塞のリスクが、
短期間の使用でも増加するということの意味は臨床的には重いもので、
特に脳梗塞のリスクが高いと想定される患者さんに対する、
特に中枢移行の高い吐き気止めの使用は、
慎重に考えるべきなのは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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パルスオキシメーターの利用は新型コロナ感染の予後を改善するのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パルスオキシメーターの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年4月6日ウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナの自宅療養における、
パルスオキシメーターの有効性を検証した内容です。

パルスオキシメーターは指先の先端を挟む、
大き目のクリップのような医療器具で、
身体の酸素の状態を示す、
動脈血酸素飽和度という指標を、
皮膚に当てた光の吸収率から簡便に推測することが出来ます。

その数値が概ね96%を超えていれば正常で、
それを下回ると何らかの原因により、
低酸素の状態になっていると判断します。

元々は医療機関で使用する医療器具でしたが、
新型コロナの流行以降、
自宅で酸素飽和度を測定して、
新型コロナの重症化や肺炎に備えよう、
という考えが広まり、
個人的に購入される方も増えましたし、
行政も自宅療養中の患者に対して、
パルスオキシメーターの借与や使用を、
積極的に行っています。

それでは、通常の健康観察と比較して、
パルスオキシメーターの自宅での使用は、
新型コロナの患者の予後を改善するのでしょうか?

その点については実はあまり正確なことが分かっていません。

自宅療養の患者に対して、
日々の症状や体調などを報告してもらい、
重症化の早期判断に繋げるようなリモートモニタリングについては、
その有効性が臨床試験において確認されています。
しかし、そこにパルスオキシメーターの使用を付加した時に、
より効果が高まるかについての実証的なデータは乏しいのが実際なのです。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
1041名の新型コロナの患者を通常のリモートモニタリングによる症状観察に、
1056名の患者をそれに加えてパルスオキシメーターによる自己測定を付加して、
その予後を比較検証しています。

その結果、
患者の生命予後や入院のリスクに、
両群で明確な差は認められませんでした。
パルスオキシメーターを使用すると、
「数値が低いので心配」というような、
電話での連絡は増えるのですが、
それが患者の予後に、
明確な影響を与えるということはなかったのです。

先日の記事でも説明したように、
パルスオキシメーターの数値は実際には、
それほど安定しているものではなく、
症状がなくて数値が低い場合の多くは測定の状況によるもので、
実際の病状の悪化とは無関係のことが多いことが、
こうした結果に繋がっているように思われます。

自宅療養でのパルスオキシメーターの効果的な活用については、
再度冷静で科学的な検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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