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低ナトリウム血症と気温との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診ですが、
あれこれ仕事は残っている状況です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
低ナトリウム血症と気温.jpg
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌に、
2022年2月22日ウェブ掲載された、
低ナトリウム血症と気温との関連についての論文です。

低ナトリウム血症は、
血液の水分に対するナトリウム量が低下して、
血液中のナトリウム濃度が低下する状態のことで、
ナトリウムに対して水分が過剰である場合にも、
水とナトリウムの両方が喪失していて、
比率的にナトリウム量の方がより失われている場合にも起こります。

この低ナトリウム血症は高齢者に多く、
特に気温の高い時期に多いと報告されています。

通常夏には脱水症状が起こりやすく、
典型的な脱水では血液のナトリウム濃度は上昇しますから、
それで低ナトリウムになると言うのは、
ちょっと奇異な感じがしますが、
発汗などにより水よりもナトリウムの喪失が多いことが、
この結果に繋がっていると想定されます。

ボストンマラソンでの意識障害の主体は、
高ナトリウムではなく低ナトリウム血症であった、
という有名な報告がありますが、
脱水の起こりやすい夏場や運動時には、
「水分を多く摂ることで脱水を予防しよう」
という考え方が一般にも浸透しているので、
ナトリウムの補充をせずに水分ばかりを補充すると、
スポーツドリンクでも塩分濃度は血液よりはずっと少ないですから、
高ナトリウムよりむしろ低ナトリウム血症のリスクの方が、
より高まるということかもしれません。

特に高齢者で降圧剤を使用していると、
利尿作用のある薬剤でなくても、
塩分の排泄を促進するような働きを持っていますから、
よりナトリウムの喪失に繋がり易い点にも注意が必要です。

高度の低ナトリウム血症はけいれんや意識障害などを伴い、
放置すれば致死率も高い病態ですから、
臨床的な意味は大きいのです。

さて、気温が上がることで、
どの程度低ナトリウム血症のリスクは高まるのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンにおいて、
病院の入院患者のデータを解析することにより、
低ナトリウム血症の罹患率と気温との関連を解析しているものです。

9年間にトータルで11213名の低ナトリウム血症による入院患者が登録され、
そのうちの72%は女性で年齢の中間値は76歳でした。
平均気温が-10度から10度の範囲では、
低ナトリウム血症の罹患率は1日100万人当たり0.3件でほぼ一定ですが、
24時間平均の気温が15℃を超えると急増し、
最高気温が25℃に達する日では1日100万人当たり2.26件と推計されています。
女性と高齢であることが発症リスクを高める主な因子です。
80歳以上の年齢で低ナトリウム血症で入院するリスクは、
10℃以下の涼しい日と比較して最高気温が25℃に達する日では、
15倍も高くなっていました。

今後温暖化などにより平均気温が1℃上昇すると6.3%、
2℃上昇すると13.9%、
低ナトリウム血症による入院のリスクは増加すると推定されました。

このように低ナトリウム血症と気温との間には、
意外に大きな関連があり、
気温の高い日にはそのリスクを充分に想定して、
対策を取る必要があると考えられます。

ただ、ボストンマラソンの事例が物語るように、
これは単純に水を飲めばよい、
塩分を補充すれば良い、というものではないので、
今後一般の方に分かり易くそのリスクを伝えるための、
臨床的検証が重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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