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パルスオキシメーターはどれだけ正確なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パルスオキシメーターの正確性.jpg
EUROPEAN RESPIRATORY JOURNAL誌に、
2022年掲載されたレターですが、
新型コロナ感染症の患者における、
パルスオキシメーターの数値の正確性を、
人種毎に検証した内容です。

パルスオキシメーターというのは、
指先に装着するクリップのような医療器具で、
指先の皮膚に特殊な光を当て、
その吸光度を測定することで、
動脈血の酸素飽和度を簡便に計測する器具です。

年齢によってもその基準値には差がありますが、
概ね96%を下回ると血液の酸素化が不十分、
つまり何らかの原因により、
身体に酸素が足りない状態にある、
ということを示しています。

元々は外来や入院の呼吸器疾患や心疾患の患者さんに対して、
その呼吸状態のモニターとして使用されるもので、
その数値に異常が疑われれば、
動脈の採血をして血液ガスの検査を行い、
実際にどの程度酸素が低下しているのかを測定します。

ただ、普通に市販もされていて、
それほど高価なものではないので、
最近は購入されて家庭で使用される方も多くなっています。

特に新型コロナの流行以降は、
パルスオキシメーターの数値が低下することが、
その重症化の早期発見に繋がる、という知見があるので、
急速にその使用が一般にも拡大した、
という側面があります。

皆さんの中にもお持ちの方は多いと思います。

実際に新型コロナの重症度判定として、
パルスオキシメーターで計測された酸素飽和度が、
96%を下回るかどうかが、
臨床においても活用されているので、
この検査の重要性は臨床的にも大きくなっています。

ただ、注意が必要なことは、
この検査は敢くまで簡易的なもので、
この検査値だけで酸素飽和度を判断してはいけない、
ということです。

原理的に光の吸光度から推測しているだけなので、
皮膚の状態や血行の状態により、
数値は変化してしまいます。

指先の血管が収縮して、
指先の血行だけが低下することは、
高齢者ではよくあることですが、
こうした場合にはパルスオキシメーターは計測不能となったり、
測定出来ても実際よりかなり低い数値を示すようになります。

マニキュアなどでも測定値は変動しますし、
皮膚の色素量が多いと、
それだけ光が吸収されてしまうので、
測定値は低下します。

上記文献においてはイギリスの単独医療施設において、
新型コロナ感染症の入院患者2997名の、
パルスオキシメーターの検査値を、
実際の動脈血で測定した酸素飽和度と、
人種毎に比較しています。

その結果白人種においては、
動脈血で測定した酸素飽和度より、
パルスオキシメーターで測定した数値は、
3.2%(95%CI:-22.8から+29.1)上昇していたのに対して、
その差は黒人種では5.4%(95%CI:-23.8から+34.0)、
アジア人種では5.1%(95%CI:-23.8から+34.0)、
とより違いが大きくなっていました。

これは、
酸素飽和度が正常範囲である場合には、
それほどの差が生じていないのですが、
病的に低下したような状態では、
その正確性はかなり落ちるという傾向が見られています。

つまり、何も症状のない状態での測定値には、
一定の信頼性はあるものの、
実際に呼吸困難があるような状況では、
パルスオキシメーターのみでは酸素の状態を、
判断することが危険であることを、
示しているように思います。

そもそもは臨床の補助診断の器具であり、
動脈血での測定もありきのものであったので、
大きな問題は生じていなかったのですが、
一般にこの器具が普及して、
それで病気の重症度を一般の方が判断するようになると、
深刻な問題に繋がる可能性のあることを、
もう一度医療者も一般の方も、
確認しておく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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