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吐き気止めの使用と脳梗塞リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
吐き気止めの脳梗塞リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年3月23日ウェブ掲載された、
頻用されている吐き気止めの飲み薬と、
脳梗塞発症リスクとの関連についての論文です。

特に高齢者や認知症の患者において、
抗精神病薬の使用がその後の脳梗塞(虚血性梗塞)の発症リスクになる、
という知見が、多くの観察研究で確認されています。

このリスクは特にそうした薬剤の使用開始早期に多く、
1か月以内の発症リスクは未使用の12倍になると報告されています。
そのリスクは使用継続により低下します。

そのメカニズムの詳細は不明ですが、
特にドーパミン系の神経伝達が強く抑制されることと、
関連が深いと推測されています。

そこで1つ問題になるのが、
抗精神病薬以外にドーパミン受容体をブロックする働きのある、
吐き気止めの使用にも同様の影響がないのか、
ということです。

抗精神病薬は使用のリスクも高く、
治療に必須の場合に限って処方される性質の薬ですが、
吐き気止めの飲み薬はそうではなく、
一時的な胃腸炎などの吐き気に対しても、
気軽に使用される性質の薬であるからです。

具体的にはドンペリドン(商品名ナウゼリンなど)や、
メトクロプラミド(商品名プリンペランなど)は、
そうした目的に非常に使用頻度の高い薬剤です。

今回の研究はフランスにおいて、
18歳以上で初回の虚血性梗塞を発症し、
いずれかの時期に吐き気止めの処方を受けていた、
トータル2612名を薬剤の使用時期で比較し、
更に21859名のコントロールと比較したものですが、
ドンペリドン、メトピマジン(日本未発売)、メトクロプラミドの、
3種類の吐き気止めのいずれかを内服することは、
その後2週間の虚血性梗塞の新規発症リスクを、
3.12倍(95%CI:2.85から3.42)有意に増加させていました。

個別の薬剤毎の比較では、
ドンペリドンが2.51倍(95%CI:2.18から2.88)、
メトピマジンが3.62倍(95%CI:3.11から4.23)、
メトクロプラミドが3.53倍(95%CI:2.62から4.76)、
それぞれ有意に虚血性梗塞のリスクを増加させていました。

このリスク増加は、
こうした薬剤の投与初日に、
最も高くなっていました。

ドンペリドンは他の2種の薬剤と比較すると、
薬剤の脳内移行が少ないので、
薬剤が脳に移行しやすいほど、
このリスクは増加すると想定されます。

この結果は嘔吐自体が脳梗塞の症状であった可能性を、
完全には否定できないという気がするので、
どのような状況によって吐き気止めが投与されたかが、
重要ではないかという気がします。
ただ、これまでの研究は今回も含めて、
全て後からデータを解析しただけのものなので、
本当に吐き気止めが発作の引き金であったのかどうかは、
まだ慎重に検証する必要があると思います。

ただ、いずれにしてもドーパミン抑制作用のある薬剤で、
虚血性梗塞のリスクが、
短期間の使用でも増加するということの意味は臨床的には重いもので、
特に脳梗塞のリスクが高いと想定される患者さんに対する、
特に中枢移行の高い吐き気止めの使用は、
慎重に考えるべきなのは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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