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コーヒーと不妊治療の成功率との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには出掛ける予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと不妊治療.jpg
2019年のFertility and Sterility誌に掲載された、
コーヒーと不妊治療の成功率との関係という、
ユニークなテーマを検証した論文です。

不妊治療の成功率が環境要因に左右される部分がある、
というのは比較的知られていることで、
ストレスとの関連なども指摘をされることがあります。

ただ、明確にどのような生活習慣が、
妊娠の成功率を上げるのか、
というような点については、
まだあまり明確なことが分かってはいないと思います。

コーヒーのようなカフェインを多く含む飲料は、
妊娠中にはあまり良い影響をもたらさないと考えられていますし、
カフェインの多量摂取は女性ホルモン濃度を下げ、
生理周期を短くするというような報告もあるので、
これまでの常識としては、
不妊治療中もあまり摂ることは望ましくない、
というのが一般的でした。

ただ、最近になってコーヒーに生命予後を改善し、
抗酸化作用や腎臓の血流増加作用などにより、
心血管疾患の予防効果もあることが、
次々と明らかになり、
それであればむしろコーヒーを適度に摂取した方が、
不妊治療にも良い影響を与えるのではないか、
という考え方も否定出来ないようになりました。

そこで今回の研究では、
デンマークの単独の専門施設において、
不妊治療を行ったトータル1708名の女性を対象として、
コーヒーの摂取量と治療の成功率との関連を比較検証しています。

内訳は人工授精(IUI)を施行した1511名と、
体外受精を(IVF)もしくは顕微授精(ICSI)を施行した2870名、
凍結胚移植周期を施行した1355名です。
(個人が複数の治療をしています)

その結果、
人口授精施行群においては、
コーヒーを殆ど飲まない場合と比較して、
コーヒーを1日1から5杯飲む習慣のある人は、
妊娠の成功率が1.49倍(95%CI: 1.05から2.11)、
出産の成功率が1.53倍(95%CI: 1.06から2.21)、
それぞれ有意に増加していました。
それ以外のより高度な不妊治療については、
コーヒーの摂取量との有意な関連は認められませんでした。

この結果をもって、
コーヒーが不妊治療に有効とは言えませんが、
1日5杯程度までの摂取については、
少なくとも明確に悪い影響を与える、
という可能性は否定的で、
適度な摂取は問題ないと考えても良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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トランスジェンダーと乳癌リスク(性転換後のリスクは?) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トランスジェンダーと乳癌リスク.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
性別を変更した場合の乳癌リスクの変化についての論文です。

性差というのは、
病気のリスクという点では、
医学で重要視されて来た分類です。

かなり多くの病気において、
その原因は分かっているものもあれば不明のものもありますが、
性別による発症率の差があることは、
間違いのない事実であるからです。

乳癌は性差のある病気の代表的なもので、
女性で発達した乳腺組織が、
女性ホルモンのよる長期の刺激を受けることにより、
発症することが分かっていて、
そのため女性に圧倒的に多く、
男性でも発症することはありますが、
極めて少ないというタイプの癌です。

従って、乳癌検診は女性にはありますが、
男性にはありません。

ただ、トランスジェンダーの方が増え、
女性から男性に、
また男性から女性に、
性別の転換が行われるようになると、
性別と病気との関係という概念も揺らいて来ます。

生物学的性別としては男性として生まれ、
後から獲得された性別に合わせて女性となり、
女性ホルモン剤を使用しているというようなトランスジェンダーの女性では、
乳癌のリスクは通常の女性とどのように違うのでしょうか?

今回のオランダの疫学研究では、
2260名のトランスジェンダーの女性(生物学的男性に生まれ女性に性転換)と、
1229名のトランスジェンダーの男性(生物学的女性に生まれ男性に性転換)を、
性別の変わらない女性や男性と比較して、
その乳癌リスクの違いを比較検証しています。

その結果、
2260名のトランスジェンダーの女性を、
長期間観察したところ15例の浸潤性乳癌が診断され、
女性ホルモン療法の継続期間の中央値は18年でした。

これをマッチングした性別の変わらない男性と比較すると、
乳癌のリスクは46.7倍(95%CI: 27.2から75.4)有意に増加していました。
ただ、これを性別の変わらない女性と比較すると、
0.3倍(95%CI:0.2から0.4)と有意に低値でした。
発生した乳癌の多くは乳管由来で、
女性ホルモンの受容体は83%で陽性でした。
またマーカーのHER2は8.3%で陽性でした。

トランスジェンダーの男性1229名の解析では、
男性ホルモン使用期間の中間値が15年で、
4名の浸潤性乳癌が診断され、
そのリスクは性別の変わらない女性と比較すると、
0.2倍(95%CI: 0.1から0.5)と有意に低値となっていました。

このように、
出生時の性別は男性のトランスジェンダーの女性で、
乳腺が存在していて女性ホルモンの使用が継続すると、
中間値で18年という比較的短期間でも乳癌が発症していて、
そのリスクは性転換していない女性と比較すれば少ないものの、
元の性別の男性と比較すれば46倍以上という高率になっています。

これは要するに、
乳癌というのは性別に特定の癌ではなくて、
女性ホルモンの影響がある程度の期間ありさえすれば、
発症する癌であるということになります。

上記文献の解説では、
乳癌検診の考え方としては、
その時点で女性ホルモンに曝露されていれば、
トランスジェンダーの女性であってもそうでなくても、
同じように乳癌検診を受けることが必要にして充分ではないか、
というように記載されています。

性別の転換や長期のホルモンの使用が、
格別特殊なことではなくなった現在、
性差のある病気のリスクについては、
色々と検証をし直す必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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COPDの急性増悪に対する抗菌剤使用の適応について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COPDの抗菌剤使用にCRPを利用する。.jpg
2019年のEuropean Respiratory Journal誌に掲載された、
最近問題になることの多い、
呼吸器疾患に対する抗菌剤の適応についての論文です。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、
喫煙による呼吸器の病気の代表で、
慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれていた病気を総称したものです。

この病気の進行予防としては、
禁煙が勿論必須ですが、
一旦進行した病気は禁煙だけで元に戻る訳ではなく、
それと共に病状の悪化を防ぐ治療が必要です。

その目的のために現行使用されているのが、
吸入の抗コリン剤や気管支拡張剤、吸入ステロイドなどの薬剤です。

COPDの予後において重要な役割を果たしているのが、
急性増悪と呼ばれる症状の急激な悪化です。

この急性増悪のきっかけとしては、
細菌やウイルスによる感染症が大きな役割を果たしています。

COPDの患者さんは平均で年間に1.5回の急性増悪を来たし、
その25%においてウイルスと細菌の混合感染が診断された、
というデータもあります。

もし感染の原因が細菌であれば、
抗菌剤を使用することにより急性増悪時の症状の改善に、
一定の有効性が期待出来ます。
一方でウイルス感染のみであれば、
抗菌剤は有効ではなく、
今問題とされている「抗菌剤の乱用」
ということになってしまいます。

それでは、患者さんの症状や簡単な検査によって、
細菌感染である可能性を診断することが出来るものでしょうか?

現在のCOPDのGOLDと呼ばれるガイドラインにおいては、
患者さんに感染症状があり、
急性増悪時に緑色などの膿のような痰(膿性痰)があれば、
細菌感染の可能性が高いので、
抗菌剤の使用を検討する、とされています。

ただ、ウイルス感染に伴い膿性痰の出ることもありますし、
患者さんが「緑色の汚い痰が出る」と言っても、
それが客観的な膿性痰ではないことも少なくはありません。

そこでもう1つ参考になる可能性があるのは、
血液の白血球の性状やCRPなどの炎症反応です。

今回の臨床研究では、
オランダの2カ所の医療機関において、
COPDの急性増悪で入院となった患者さんをくじ引きで2群に分け、
一方の群の101名は炎症反応のCRPを測定して、
その数値が5mg/dL以上の時のみ細菌感染と判断して抗菌剤を使用し、
他方の群の119名は膿性痰の有無で抗菌剤を使用して、
両群の経過を比較しています。

その結果、
CRPで抗菌剤の使用を判断した群では、
抗菌剤の使用比率は31.7%であったのに対して、
膿性痰での判断では46.2%と有意に高くなっていました。

その一方で治療後30日の時点での改善率や急性増悪の再発率には、
両群で有意な差は認められませんでした。

要するにCRPを指標にして抗菌剤の使用を判断した方が、
抗菌剤の使用は抑制され、
不適切な使用を減らす意味では一定の効果が期待されます。

ただ、予後には特に変化はなく、
平均では両群とも30日程度で次の急性増悪が見られていることから、
治療が奏功している率はそれほど高いものではなく、
予後の更なる改善のために、
より有効な治療の判断が求められるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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若年性脳卒中の長期予後(オランダの大規模データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
若年性脳卒中の予後.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
若年発症の脳卒中の予後を検証した論文です。

脳卒中というのは、
脳梗塞と脳出血とを併せた用語です。
脳内出血は高血圧によって起こることが多く、
脳梗塞は身体に血栓という血の塊が出来易い体質や、
心臓の病気、
動脈硬化の進行などによって起こります。

このため、
脳卒中の多くは50歳以上で発症しますが、
中にはより若年での発症があり、
概ね18歳から49歳までの間に起こる脳卒中を、
若年性脳卒中と呼んでいます。
ただ、これは必ずしも国際的な定義のようなものではなく、
文献によっては45歳までになっていたり、
40歳までになっていることもあります。

若年性の脳卒中では、
動脈硬化の進行による原因は、
当然少ないので、
高齢者の脳卒中とは別個に考える必要があります。

これまでにも何度か取り上げましたが、
身体に血栓の出来易い体質や、
心臓の中に小さな穴が開いていたり、
血管に出来た傷が原因になったりと、
その起こり方にも、
高齢者とは違いがあるのです。

高齢者の脳卒中は特に発症後数年の間は、
再発が多く、
そのため再発予防の治療が、
必要となることがしばしばです。
当然その長期予後も、
脳卒中を起こしていない方とは違います。

ただ、
その予後のデータが、
原因の異なる若年性脳卒中の患者さんにおいても、
そのまま当て嵌まるとは限りません。

たとえば30代の方が、
脳梗塞の発作を起こし、
後遺症なく回復をしたとします。

その後のその方の人生において、
どのようなリスクがあり、
どのような点に注意をすれば、
そのリスクを最小に出来るのか、
というようなデータは、
非常に重要なものになりますが、
実際には若年性脳卒中自体の頻度が少ないので、
これまでに、
まとまった長期予後のデータは、
殆ど存在しませんでした。

2013年のJAMA誌に、
オランダにおいて、
1980年から2010年に発症した、
発症当時18歳から50歳までの患者さん、
トータル959名のその後の経過を、
平均11.1年間観察したという、
これまでにない大規模な、
「若年性脳卒中の長期予後」の疫学研究が発表されました。

これはその時点でブログ記事としています。

脳卒中発症後30日間は生存した患者さんの、
その後20年間の累積の死亡のリスクが、
主なターゲットになっています。

結果として、
観察の終了時には全体の2割に当たる、
192名の患者さんが亡くなられています。

患者さんの発症時の年齢を考えると、
これはかなりの高率であることが、
お分かり頂けるかと思います。

ただ、この例数では脳卒中のタイプ毎のリスクの差など、
より詳細な検証をすることは出来ませんでした。

そこで今回の検証では、
同じオランダで18から49歳で初回の脳卒中を発症した、
トータル15527名に中間値で9.3年という経過観察を行って、
長期の生命予後を検証しています。

観察期間が終了した時点で、
トータルで3540名が死亡しており、
そのうちの1776名は発症から30日以内の死亡でした。
残りの1764名がその後の死亡です。

脳卒中発症後30日以降に生じた、
15年の累積死亡率は.17.0%(95%CI:16.2から17.9)
となっていました。
これは2013年論文とほぼ一致する結果です。

これをより詳細に見てみます。

虚血性脳梗塞を起こした場合の累積死亡リスクは、
一般住民と比較して5.1倍(95%CI:4.7から5.4)
有意に増加していました。
一般住民の死亡リスクが人口1000人当り年間2.4名であったのに対して、
虚血性脳梗塞後は12.0名となっていました。

同様に脳内出血を起こした場合の累積死亡リスクは、
一般住民と比較して8.4倍(95%CI: 7.4から9.3)
こちらも有意に増加していました。
一般住民の死亡リスクが人口1000人当り年間2.2名であったのに対して、
脳内出血は18.7名となっていました。

このように、
脳卒中のタイプが違っても、
若年性の脳卒中を起こすと、
15年が経過してもその生命予後には、
起こさなかった場合と明確な差があり、
今後このリスクを如何にして下げるかを、
多角的に検証する必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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妊娠中と授乳期の甲状腺疾患治療ガイドライン(2017年ATA) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠中の甲状腺機能ガイドライン.jpg
2019 年のJAMA誌に掲載された、
2017版(最新)の妊娠中の甲状腺疾患治療ガイドラインについての解説記事です。

JAMAはアメリカの医師会雑誌で、
オリジナルの研究論文もありますし、
こうした主にアメリカの診療ガイドラインの解説記事も、
定期的に掲載されています。

妊娠中には甲状腺機能に変化が起こります。
妊娠初期には胎盤から分泌されるHCGが、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)様作用を持つことで、
甲状腺が刺激されホルモン値は少し上昇します。
これはまだ下垂体が形成されていない胎児に、
甲状腺ホルモンを与えるような働きがあるので、
理に適った変化なのです。

従って、妊娠初期には甲状腺機能は、
計測上はやや亢進しているのが正常で、
軽度の機能低下であっても、
胎児の健康に影響を与える可能性があります。
特に橋本病の抗体が陽性であると、
甲状腺ホルモンを効率的に作る力が弱いので、
その影響がより大きいと考えられています。
バセドウ病を合併して妊娠することもあり、
病状によっては抗甲状腺剤による治療が行われますが、
抗甲状腺剤により僅かながら胎児の先天性障害のリスクは増加するので、
妊娠初期の正常な機能亢進をバセドウ病と見誤らないことと、
より奇形などのリスクが少ない治療を、
選択することが必要となります。

こうした点を踏まえて、
2017年のアメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、
次のような提言がなされています。

①アメリカにおいては妊娠中に1日150μgのヨウ化カリウムのサプリメントを、ヨード欠乏の予防のために使用することが推奨される。(これはヨードの摂取量の多い日本においては、必要がありません)

②妊娠中にはTSHの基準値を妊娠時期に合わせて変更する必要がある。(これは妊娠7から12週の間においては、TSHの下限を40%上限を50%引き下げるのが妥当としています。ホルモン濃度は概ね1.5倍増加します)

③潜在性甲状腺機能低下症においては、TSHを指標としてホルモン補充療法を施行します。この場合の基準値は妊娠中のものを用い、橋本病の抗体が陽性の場合には、TSHが2.5を超えれば治療開始を検討します。(実際にはもう少し複雑です。下記の表をご覧下さい。
妊娠中の甲状腺機能ガイドラインの図.jpg

④甲状腺機能低下症で治療中の患者が妊娠した場合には、甲状腺ホルモンの補充量はT4の場合20から30%増やします。

⑤妊娠初期の甲状腺機能亢進症は、一時的な正常の妊娠に伴うものと、バセドウ病などによるものの両方の可能性があります。T4と比較して明らかにT3の上昇幅が大きく、バセドウ病の自己抗体(TSAb)が上昇していれば、バセドウ病の可能性が高くなります。抗甲状腺剤は妊娠16週までの間はチアマゾールではなくプロピルチオウラシルを使用します。

⑥授乳期の甲状腺機能低下症は軽症でも治療するべきとの意見があります。ただ、裏付けとなるデータは限られていて、強い推奨ではありません。

⑦妊娠時に甲状腺機能のチェックをルーチンで行うかどうかは、まだ異論があり現時点では推奨されていません。

以上です。

日本ではTSHが2.5を超えていれば、
甲状腺ホルモン剤が妊娠中は使用されることが多いと思いますが、
これはそもそもは橋本病の患者さんのみのデータで、
橋本病の抗体が陰性の場合に、
それが適切であるかどうかの根拠は乏しいのが実際です。
妊娠中の抗甲状腺剤の使用については、
これまで見解が二転三転していて、
一時はチアマゾールとプロピルチオウラシルのどちらを妊娠中に使用しても、
差はないというデータが日本発であり、
それが信用されていたのですが、
現在は妊娠初期ではプロピルチオウラシルの方が、
トータルな奇形の頻度がやや少なく、
重症の事例も少ないというデータが複数あることより、
上記のような方針となっています。
妊娠中期以降のリスクについては、
チアマゾールでも違いはないと考えられています。

上記のガイドラインはヨードのサプリメントのことを除けば、
日本でも全て当て嵌まるものと考えて良く、
現時点での世界標準的な考え方として、
もう一度しっかり押さえておきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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イキウメ「獣の柱」(2019年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
イキウメ 獣の柱.jpg
哲学的で観念的な劇作と、
シャープで鋭利な演出で人気の劇団イキウメが、
2013年に図書館的人生のシリーズとして上演した作品を、
かなり内容に手を入れて、
装いを新たに再演しています。

これは非常に良かったです。

ある事件をきっかけにした架空年代記もので、
「散歩する侵略者」と「太陽」と並んで、
前川知大さんの現在までのベストと言って良いものだと思います。
「散歩する侵略者」は何度かヴァージョンが変わっていて、
最初のものはホラーミステリーに近いものでしたが、
最近のものは大分架空年代記ものに寄せていると思います。

個人的には初期のホラーミステリー的なもの、
特にひねりのある「関数ドミノ」や、
「プランクトンの踊り場」(後に「聖地X」に書き換え)辺りが、
他にないスタイルで好きだったのですが、
前川さんご本人はあまりこうしたどんでん返しのあるような、
ミステリータッチの作品は好みではないようで、
最初は僕もホラーミステリーを求めていたので、
年代記ものにはかなり違和感があったのですが、
最近は「これもありだな」と思えるようになっています。
そのきっかけになったのは「太陽」の再演で、
これは非常に充実した舞台でした。
今回の「獣の柱」の再演はそれに迫るものだと思います。

これは2003年にまず「快楽を与える隕石」という、
導入部のみが短編として創作され、
2013年にその後巨大な快楽を与える柱が、
地球全土に振り注いで、
それをきっかけに人間の社会が大きな変革を求められる、
という長編にブローアップされました。

2013年版は観ているのですが、
正直あまり良い印象は残っていません。
どうしても2011年の震災と重ねて考えてしまう、
というところがありましたし、
宗教が絡んだりして、内容にやや散漫な印象がありました。
池田成志さんが客演でしたが、
イキウメのスタイルに、
合わなかったように思います。

今回のバージョンは、
基本的には2013年版を踏襲しているのですが、
2000年と2051年を主な舞台としていて、
年代記としての性質がより明確になり、
震災とは無関係の創作であることも明確化されています。

オープニングに客席に向かって浜田信也さんが話し始めるので、
ちょっと危うい感じがしたのですが、
その後は2000年の災厄が、
比較的リアルに活写されていて時代の変化も分かりやすく、
話が膨らんでゆく辺りも自然でした。
ラストは最初に戻るのですが、
オープニングの意味が腑に落ちる感じになっていて、
それでいて種明かしはしないというか、
異常な現象の意味を、
語ることなく終わるというオープンエンドも好印象でした。

これは「太陽」と同じく、
今の社会と対比するような感覚で、
味わうべき物語ではないと思うのです。
純然たるイマジネーションの産物として、
かつてのSFのように、
架空の年代記として味わうべき物語です。
それをここまでの精度で舞台化することは、
現行前川さん以外では到底実現出来ない力業です。

今回はまたキャストが良かったですね。

これはキャスト全員に、
「快楽の魔力に囚われる」という場面があって、
それを各々の演技力で形にする訳です。
男優陣は皆充実していて、
いい塩梅に熟成感があるので、
その競演を見るだけでも演劇の楽しみがあります。

女優陣は今は毎回定まらないのですが、
今回は核になる村川絵梨さんがとても良くて、
さすが朝ドラのヒロインもやっただけあって華があり、
作品がぐっと締まった感じです。
また是非出てほしいな。
初演の池田成志さんの役は市川しんぺーさんで、
イキウメの出演経験もありますし、
こなれた芝居でうさん臭さもあるので、
なかなかの好演だったと思います。

そんな訳でイキウメの良さが十全に発揮された快作で、
2時間15分が決して長く感じられませんでした、
とんでもないほら話を、
とてもリアルに切実に感じさせた、
見事なお芝居だったと思います。

お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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少年王者舘「1001」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも代診となります。
受診予定の方はご注意下さい。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1001.jpg
天野天街さんの映像で舞台を塗りつぶしたり、
巨大な文字が登場したりする演出と、
夕沈さんを中心とする独特の群舞が特徴的な、
名古屋の人気劇団少年王者舘が、
初めて新国立劇場のレパートリーとして、
小劇場で公演を行いました。

僕自身はそれほどコアなファンではなく、
時々足を運ぶという感じですが、
天野さんが天才的なクリエーターであることは間違いがありません。

ただ、天才肌故かかなり作品の出来にはムラがあり、
素晴らしいなあ、と思う舞台がある反面、
なんじゃこりゃ、ちゃんと練習したの?
と問い掛けたくなるような舞台も何度か観ています。

今回は雰囲気はあってもストーリーはなく、
断片的なイメージと、
ややアジテーション的なものが、
執拗に繰り返されて展開し、
途中で主人公が「世界が終わってしまえ」みたいなことを言うと、
舞台セットが取り払われて、
そこでいつもの群舞をかなり長く踊って、
それで終了となるお芝居です。

架空の世界のお話しのような解説になっていますが、
雰囲気は戦中戦後の日本という感じで、
途中で終戦の日のお言葉が流れると、
日の丸の中央を切り取った旗を振り、
中央に昭和天皇の映像が流れたリします。
「令和」を茶化したりするような言葉遊びもあって、
基本的に天皇制に批判的であるということは分かります。

ただ、それが何となくそんな風に感じさせる、
というようなモヤモヤした表現になっていて、
何かをはっきり言うということはありません。

それで観ているこちらも、
何となくイライラします。

言いたいことがあるなら、もっとはっきり言えばいいのに。

こういう何か腰の引けたような表現が、
僕は嫌いです。

総じてこの集団のこれまでの創作にもありがちなことですが、
内容があまり煮詰まっていなかったのかな、
というように感じました。
舞台もね、いつもより大仕掛けにはなっているのですが、
セットの作り込みもスカスカで、
あまり密度の濃い感じになっていません。

昔の佐藤信のお芝居のようでもあるし、
維新派みたいなところもあるし、
寺山修司を彷彿とさせるところもあるのですが、
どの方向にも突き詰めていないというか、
中途半端な感じがぬぐえません。

それでストーリーもなく2時間15分の上演時間というのは、
如何にも長過ぎるように感じました。

今回はちょっと失敗の部類ですね。

でも少年王者舘がムラッ気なのは、
もう良く分かっていることなので、
今回は失敗でしたが、次は抜群ということもありますし、
次回に期待をしたいと思います。

矢張り、新国立にはちょっと合わなかったようですね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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軽症喘息への吸入療法 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ステロイド吸入の軽症喘息への使用.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
軽症の気管支喘息に対する治療を比較した論文です。

気管支喘息には軽症から重症まで、
非常に幅広い状態があります。

最も軽い喘息では、
風邪をひいた時などに軽い発作があるものの、
それ以外の時は特に症状はなく、
運動を含めて日常生活にも特に制限が生じることはありません。
医学的な定義では軽症間欠型と呼んでいて、
発作の回数が週1回未満で軽いことなどで定義されています。

それより少し症状が進んだものが、
軽症持続型の喘息で、
こちらは発作が毎日ではないものの週に1回以上はあり、
月に2回以上は夜の発作や症状のあるというものです。

現行のガイドラインにおいては、
軽症間欠型の喘息に対しては、
発作の時のみ短期作用型の気管支拡張剤を吸入するというのが、
スタンダードな治療です。

そして軽症持続型の状態になると、
気道の炎症を抑える目的で低用量の吸入ステロイドを開始し、
発作時のみは気管支拡張剤を吸入する、
という治療に変更されます。

しかし、
実際には軽症の喘息で、
真面目に吸入ステロイドを継続している患者さんは、
それほど多くはありません。

発作の時に使用する気管支拡張剤には、
速やかに呼吸困難が改善するという実感があるので、
その都度使用することをためらいませんが、
同じ感覚で吸入ステロイドを使用しても、
そうした実感はないからです。

実際には吸入ステロイドを持続的に使用していれば、
気道の炎症が治まって、
発作自体が減るのですが、
軽症喘息の患者さんは、
発作の時だけ吸入することに慣れているので、
時間が掛かる治療をなかなか信じることが出来ないのです。

実感を伴わない治療は、
定着しにくいのです。

このジレンマを解決する1つの方法として、
吸入ステロイドと気管支拡張剤の合剤を、
発作時に吸入するという考え方があります。

この方法の利点は、
気管支拡張剤の効果によって、
発作が改善したという実感が得られやすいので、
治療の継続が達成し易いという点にあります。

軽症持続型の喘息の患者さんの多くは、
発作の時だけ吸入することに慣れていて、
はっきりした発作でなくても、
その予兆を感じるという段階で吸入をしてしまうことが多いので、
結果として定期的に吸入ステロイドを使用しているのと、
それほど変わらない効果があるからです。

ただ、定期的にステロイドの吸入をしているのと比較すれば、
行き当たりばったりの感じは否めません。

今回の研究はその点を検証したもので、
675名の軽症喘息の患者さんをくじ引きで3つの群に分けると、
第1群は発作時のみ気管支拡張剤のアルブテロールを使用し、
第2群は吸入ステロイドのブデソニドを1日400μgで定期的に吸入し、
発作時にはアルブテロールを第1群と同様に吸入します。
第3群はブデソニド200μgと、
長時間作用型気管支拡張剤であるフォルモテロール6μgの合剤を、
発作時のみ吸入してもらいます。

52週間の治療を継続した時点で、
喘息の急性増悪のリスクは、
ステロイドと気管支拡張剤の合剤を発作時のみ使用した場合、
気管支拡張剤の単独と比較して、
51%(95%CI: 0.33から0.72)有意に低下していました。
そして、このリスクに関しては、
ステロイドの吸入を持続した場合と、
ステロイドと気管支拡張剤の合剤を発作時のみ使用した場合とで、
有意な差は認められませんでした。

喘息のコントロール指標でみると、
確かに毎日吸入ステロイドを継続した方が、
改善が認められているのですが、
最も重要な予後の指標である急性増悪のリスクに関しては、
ステロイドと気管支拡張剤の合剤を発作時のみ使用しても、
遜色のない結果が得られたのです。

この合剤は用量は少し少ないのですが、
今使用されているシムビコートとほぼ同等のものです。

軽症喘息に対しては、
今後治療の選択肢として、
シムビコートの発作時のみの使用が、
検討される流れになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーとお茶の健康効果の差(イランの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーとお茶の比較.jpg
2019年のNutrition & Metabolism誌に掲載された、
コーヒーとお茶の健康効果を比較したイラン発の論文です。

コーヒーを1日3から4杯くらいまでの範囲で飲む習慣が、
健康に概ね良い影響をもたらし、
生命予後や心血管疾患リスクにも良い影響を与えることは、
多くの国内外の疫学データにより、
ほぼ確定した事実です。

ただ、その原因が何であるかについては、
明確な結論が得られていません。

コーヒーに含まれている生理活性物質では、
カフェインがその代表です。

従って、1つの仮説としては、
適度にカフェインを摂取するという習慣が、
メタボなどを予防して生命予後にも良い影響を与える、
という推測が可能です。

仮にそうであるとすると、
同じようにカフェインを多く含む飲み物である、
緑茶や紅茶などのお茶でも、
同じような健康効果があっておかしくはありません。

実際お茶の摂取量が多いことも、
コーヒーと同じような健康効果があっておかしくはありません。

実際にお茶の摂取量が多いことで、
同様の健康効果が見られたとする報告は複数存在しています。
しかし、コーヒーと比較するとそのデータの精度にはやや問題があり、
関連がないという報告もあってその評価はまだ一定していません。

今回の研究は、
概ねコーヒーよりお茶を多く飲む地域であるイランのもので、
心血管疾患に関わる別個の疫学データを解析することにより、
お茶とコーヒーの摂取量と心血管疾患リスクとの関連を検証しています。

15000人余りの住民を中間値で6年観察した結果として、
お茶の摂取量が1日250ミリリットル未満と比較して、
1日750ミリリットルを超えて飲んでいると、
心血管疾患のリスクは2.45倍(95%CI: 1.40から4.29)、
有意に増加していました。

これをカフェインの摂取量で見てみると、
1日60.25ミリグラム未満(コーヒー1杯分くらい)と比較して、
1日1514ミリグラムを超える摂取量では、
心血管疾患のリスクは2.22倍(95%CI: 1.23から4.01)と、
有意に増加していました。

その一方でコーヒーの摂取量においては、
飲まない場合と比較して飲む習慣のある人は、
心血管疾患のリスクが43%(95%CI: 0.36から0.91)、
こちらは有意に低下していました。

コーヒーは心血管疾患のリスクを低下させるものの、
お茶はむしろ増加させ、
それはカフェインの増加とほぼ一致している、
という意外な結果です。

この現象をどう考えるかは難しいところで、
イランでのお茶は紅茶が主で、
そこに砂糖や香辛料、乳製品などを入れて飲むことが多いので、
それが影響している可能性は否定出来ません。

ここでリスクが高くなっているカフェインの摂取量は、
通常のコーヒーであれば20杯分以上ですからかなり多く、
このデータはかなり過量にカフェインを摂取した、
特殊な状況を反映しているようにも思われます。

いずれにしてもカフェインの1日の上限は、
矢張り500ミリグラム程度と考えるのが現状では適切であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーによる脈拍低下作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと脈拍.jpg
2019年のHeart and Vessels誌に掲載された、
コーヒーの脈拍への影響についての論文です。

コーヒーの健康効果については、
世界中の大規模疫学データにおいて、
総死亡のリスクや心血管疾患のリスクを低下させる、
と言う点においてはその結果はほぼ一致しています。

この意味ではコーヒーの健康効果は、
ほぼ実証されたと言って良いのです。

ただ、それではコーヒーのどの成分が、
その健康効果の原因になっているのか、
という点についてはまだ明確な結論が出ていません。

その候補の1つはカフェインですが、
カフェインやコーヒー以外にも、
緑茶や紅茶などにも含まれているの対して、
同じ量のカフェインの摂取で比較しても、
コーヒーと同じような効果が、
お茶では得られていないと言う点が、
疑問として残るのです。

心血管疾患のリスクの1つとして脈拍数があります。

これまでにも何度かご紹介しているように、
安静時の脈拍数が早い(概ね1分間に75回以上)と、
高血圧や心血管疾患のリスクが高まることが報告されています。

それでは、コーヒーは脈拍にどのような影響を与えるのでしょうか?

今回の研究は久留米大学医学部の研究グループによるもので、
世界7カ国共同研究という疫学研究の日本での対象地である、
久留米市田主丸町(たぬしまるまち)の住民データを活用して、
コーヒーの摂取量と生命予後、そして脈拍数との関連を検証しています。

筆頭筆者の方の名前が、
Yume Nohara-Shitamaと書かれているので、
「ゆめ、のはら、したま?」
これは何かペンネームのようなものなのかしら、
とても人の名前のようにも思えないぞ、
と思ったのですが、
ちゃんとした人の名前でした。
ご興味のある方はお調べ下さい。

検診を受けた40歳以上の町民1902人(町の人口が3463人)
を対象として15年の経過観察を行った結果、
観察期間中に343名が死亡をされました。
ここでコーヒーの1日摂取量を、
1日0から10ミリリットルから1日151ミリリットル以上の4群に分けて比較したところ、
総死亡のリスクはコーヒーの摂取量が最も少ない群と比較して、
多い群では有意に低下していました。

コーヒーの生命予後改善効果が、
ここでも確認されたことになります。

ここでのコーヒーの摂取量と安静時脈拍数との関係をみてみると、
コーヒーの摂取量が多いほど脈拍数は低下していました。

そして、
コーヒーの摂取量が最も少ない群では、
脈拍が70回を超える群では55以下の群と比較して、
総死亡のリスクは2倍以上となっていましたが、
コーヒーの摂取量の多い群では、
脈拍と死亡リスクとのそうした関連は認められませんでした。

要するにコーヒーによる脈拍数の低下が、
高血圧や心血管疾患のリスクを下げ、
そのことによって死亡リスクの低下に繋がっていることを、
想定させる結果です。

それでは、何故コーヒーで脈拍数が低下するのでしょうか?

コーヒーはカフェインを含んでいて、
カフェインには交感神経の刺激作用がありますから、
その点だけを考えると、
脈拍はむしろ多くなっておかしくはありません。

ただ、これは敢くまで短期の効果で、
長期間カフェインを持続的に摂取すると、
むしろ脈拍は低下するという可能性があります。
また、コーヒーに含まれるポリフェノールの代表であるクロロゲン酸が、
脈拍の低下に結び付いているという可能性も、
上記文献の考察には記載されています。

このように、
意外にもコーヒーを飲んだ方が脈拍は低下しており、
それがコーヒーの健康効果にも、
関連している可能性がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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