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「ハウス・ジャック・ビルト」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ハウス・ジャック・ビルド.jpg
デンマークの怪人ラース・フォン・トリアー監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

色々と観たい映画があるのですが、
なかなか時間が合わずに観に行くことが出来ません。
少し時間が開いたので、
この時間で観られるものをと探したら、
こうした選択になりました。

トリアー監督は、
以前「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観て、
救いの欠片もない地獄のような物語なのに、
何故かミュージカルで脳天気な踊りと歌が入るという、
ミュージカルの理不尽で不条理な本質を、
容赦なくあらわにしたような怪作の印象が強く、
その後も一筋縄ではいかない、
ヘンな映画を作り続けています。

今回の作品も世界中で物議をかもしているという触れ込みで、
日本ではノーカット版が18禁で公開されている、
という説明になっています。
確かに2時間半を超える上映時間で、
かなり長いなあ、とい印象です。

作品としては1970年代のアメリカで、
マット・ディロン演じるシリアルキラーの生涯を、
地獄落ちした後に、
ダンテの「神曲」の地獄編になぞらえて、
導き役の古代ギリシャの詩人に、
自分の人生のあれこれを語る、
というオムニバスの形式で映像化したものです。

アメリカが舞台ですが、
デンマーク、フランスなどの合作のヨーロッパ映画で、
雰囲気も確かにヨーロッパ映画的です。
ラストまでシリアスな感じで物語は続きますが、
エピローグはCGなどを駆使した冥界の映像化で、
最後は地獄の穴の底に主人公が堕ちて終わります。

かなり背徳的でグロテスクで残酷で非倫理的ですが、
ホラーを目指したものではないので、
そうした怖さやサスペンスのような要素は希薄です。
咽喉をえぐったり乳房を切り取ったりというような残酷描写もありますが、
こうした残酷描写を売りにした映画と比べると、
かなり淡白でその点もやや拍子抜けという感じはあります。

全編70年代くらいのアメリカのアクション映画やサスペンス映画を、
なぞるような感じで展開されていて、
監督としてはアメリカ映画を存分にやりたいという気持ちと、
それをやることでアメリカという存在の暴力性と背徳性とを、
あぶりだしたいという思いがあったのかな、
というように感じました。

ただ、もしそうならもっと徹底した残酷さや背徳さが、
これまでの映画では見たことのないような地獄絵図が、
繰り広げられなければならないのですが、
この映画はそこまでは振り切れていないように感じました。
「どうだ、ひどいだろう!」
という感じは見えるのですが、
「いやいやもっとひどい映画は沢山あるじゃん」
というように思うからです。

あまりお勧めでも好きでもありませんが、
退屈はしませんし、
ヨーロッパの問題作として、
決して見て損はない映画だと思います。

大好きなユマ・サーマンが、
最初に殺される女性役で出演していて、
一撃で殺されて終わりなので、
大分お年をお召しになったなあ、
と思いましたし、
ちょっとガッカリでもありました。
これはね、最初にキル・ビルを血祭に、
ということだと思うので、
それならもっと大がかりにしてもらわないと、
せっかく出てもらった甲斐がないと思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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ヴェルディ「リゴレット」(2019年ボローニャ歌劇場来日公演) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は中村医師が外来を担当し、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
リゴレット.jpg
震災の2011年にドタキャン続出の中で公演が行われ、
それ以来8年ぶりにボローニャ歌劇場が来日公演を行いました。

今回の演目はヴェルディの「リゴレット」と、
ロッシーニの「セヴィリアの理髪師」で、
どちらも極めつきの名作ですが、
前回は3演目で舞台もとても豪華なものでしたから、
随分小粒になったなあ、というようには思いますが、
これも時代なのですから仕方がありません。

今回参加したソプラノのデジレ・ランカトーレと、
テノールのセルソ・アルベロは、
2011年の時にも「清教徒」で共演し、
凄味のある歌唱を披露してくれた名コンビで、
その時はファン・ディエゴ・フローレスがドタキャンしたことによる、
急遽の代打当番でした。

今回上演された「リゴレット」は、
ヴェルディ中期の名作で、
オープニングからエンディングまで、
1か所として音楽の緩みはなく、
全てが名曲の連続と言って過言ではない作品です。

内容は原作がユゴーの戯曲で、
せむし男の道化と傲慢で淫乱な国王との確執を描いた、
如何にもユゴーらしい物語です。
美と醜の対比に畸形を持ち出すところが、
「ノートルダム・ド・パリ」を彷彿とさせます。
全体にグロテスクでエロチックで危険な香りがしますし、
血みどろの復讐劇や倒錯的な部分も、
他のオペラ劇にはあまりない魅力です。

ただ、せむし男という設定が、
今ではあまり表現自体望ましくないものとされているので、
最近の上演では、
足や手が不自由というような設定にして、
せむしの演技はしないのが一般的です。

ただ、歌詞には「背中のこぶ」のような表現が複数ありますし、
そもそも身体的な障害をあざ笑って、
そうした人物を「道化」として娯楽の対象とする、
という行為のおぞましさ自体が、
作品のテーマの1つとなっているので、
それをやらないのでは、
この作品を「演劇として」上演することは、
放棄したと言って等しいようにも思います。

従って、通常で考えると、
現代の人権意識や倫理観からして、
容認できない性質の物語なので、
上演不可でも良いのですが、
それが今でも上演を重ねているのは、
その音楽があまりに素晴らしくて、
オペラ史上でも屈指の名作なので、
これを埋もれさせることは有り得ないからなのです。

勿論ユゴーは今の人権意識の元を作ったような作家なので、
「リゴレット」も決して身体障害者をあざ笑うような作品ではなく、
地位のある国王の方が、
人間としては下劣な存在として描かれているのですが、
現行は「せむし男」という設定自体が不可なので、
そこはいかんともしがたいところなのです。

リゴレットを手足の不自由なおじさん、
と表現する現行の演出では、
何故リゴレットがからかいの対象となっているのか、
「正常な人間」とリゴレットの違いが何なのか、
ということが分かりません。
リゴレットの娘が絶世の美少女で、
彼女を宝物のように家に閉じ込め秘匿している、
という倒錯的な設定も、
リゴレットの容貌があるからこそ意味を持つものです。

今回の演出は、
基本的には最近の流れを踏襲していて、
リゴレットは手足の少し不自由なおじさん、
のままなのですが、
全体的にはかなり倒錯的で退廃的な雰囲気が強く、
ゴスロリ風の衣装の美少女的ビジュアルのダンサーが複数登場して、
エロチックで倒錯的な雰囲気を盛り上げたり、
オープニングでは道化の珍妙な衣装で登場したリゴレットが、
畸形的な動きを少し見せて、
作品世界を可能な範囲で表現していました。

リゴレットの娘の美少女ジルダは、
コケティッシュなフランス人形の扮装をして、
本物の沢山の人形と共に、
化粧ダンスの中に棲んでいる、
という設定になっていて、
2幕では凌辱された下着姿で二重唱を歌い、
ラストはその姿のまま血みどろになって死んでゆきます。

ジルダ自身もまともなキャラではない、
ということをかなり明確に示している訳で、
あまりこれまでにない発想だと思いました。

2幕と3幕は幕間がなく、
2幕のラストでボロボロになったリゴレットとジルダが、
そのまま舞台に残ると、
背後から貨物船のようなボロ船が、
幽霊船のように現れて、
そこが3幕の売春宿になるという趣向です。
3幕において水が結構象徴的な意味を持つので、
それを船と海で表現しようという、
なかなか巧みな読み替え演出だと思いました。

全体に舞台装置はチープですが、
かなり考え抜かれた演出で、
B級怪奇映画的な趣向が、
全体の雰囲気に結構調和していました。
良い意味で上品さや気取ったところのない、
娯楽作風の「リゴレット」でした。

歌手陣は…凄かったですよ。

リゴレット役のアルベルト・カザーレと、
マントヴァ公爵役のセルソ・アルベロが抜群でした。

どちらもこれまでに聴いた、
最高の歌唱と言って大袈裟ではなく、
カザーレは迫力押しでありながら、
アジリタなどの精度も高く、
何より演技が説得力のあるものでした。
2幕の二重唱はアンコールに応えて、
ラストの部分を2回歌う大サービスでした。

セルソ・アルベロは、
伸びる高音と精度の高い端正な歌唱が素晴らしく、
今回はその演技においても、
退廃的な貴族の魅力を十全に表現していました。
楽譜にはないハイCを連発し、
それがバッチリ決まっていて、
極めて痛快で心浮き立つものがありました。

メインキャストの一角ソプラノのランカトーレは、
その未熟な感じを残したビジュアルが、
今回の演出のコケティッシュな感じに良く合っていました。
倒錯的でやや変態的で、これまでにないジルダ像です。
その歌唱も他の2人に負けずと、
とてもとても頑張っていました。

彼女が踏ん張ったからこそ、
この作品の眼目である多くの二重唱が、
高いレベルで実現されたのだと思います。

ただ、ジルダのアリアなどは、
正直そのアジリタなどの精度において、
不安定なところがあり、
以前と比べると高音も出ていませんでした。
それが一時的な調子の問題であったのかどうかは、
良く分かりません。

今回特に感銘を受けた歌唱は、
3幕の4重唱で、
通常は生で聴いてあまり良いと思ったことはないのですが、
今回はその精度の高いアンサンブルで、
とても素晴らしかったと感じました。

そんな訳で、
バブルの頃の引っ越し公演と比べると、
色々な部分でチープになったな、
というようには思うのですが、
密度と精度の高い「リゴレット」で、
久しぶりにオペラは良いな、
と思った舞台でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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日本人のアルツハイマー型認知症遺伝子素因 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルツハイマー型認知症の日本人特有変異.jpg
2019年のMolecular Medicine誌に掲載された、
アルツハイマー型認知症の発症に関わる、
遺伝子変異についての論文です。

老年期の認知症として最も多いアルツハイマー型認知症は、
複数の遺伝子変異などの体質と、
環境要因とが、
合わさって発病すると考えられています。

このうち、
人種によらずどの集団でも、
一定の関与が証明されているのは、
APOE遺伝子のε4という遺伝子多型のみで、
他に30種類以上の単塩基変異が、
関連する遺伝子座として報告されていますが、
人種差などが多く、普遍的なものではないのが実際です。

今回報告されたデータは日本の、
国立長寿医療研究センターなどの研究チームによるもので、
日本人において、APOE遺伝子以外のアルツハイマー型認知症の、
リスク遺伝子座を解析するために、
まずAPOEε4変異を持たないアルツハイマー型老年認知症の患者さん、
トータル202名の遺伝子解析を行い、
7つの遺伝子変異の候補を絞り込みます。
そして、今度はアルツハイマー型老年認知症の4563名と、
コントロールの16459名からなる疫学データを活用して、
絞り込んだ遺伝子変異と認知症発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
SHARPINと呼ばれる遺伝子のある多型により、
それがない人と比較してアルツハイマー型認知症のリスクが、
6.1倍有意に高いことが確認されました。
この変異はこれまでに認知症との関連が報告されているものではなく、
日本人に多いリスク因子として、
今回初めて報告されたものです。

このSHARPIN遺伝子は、
最近注目されている、
シナプス後肥厚部タンパク質と呼ばれるものの1つをコードしていて、
このタンパク質は脳の神経細胞の代謝に、
大きな関連を持っています。
今回培養細胞の実験でこの変異があると、
局所の免疫機能を低下させることが確認されていて、
頻度的には低くはあるものの、
日本人の認知症の発症において、
少なからず影響を与えている可能性があります。

今後の研究の進捗に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺機能異常と大腸癌発症リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大腸癌と甲状腺機能異常.jpg
2019年のJAMA Network Open誌に掲載された、
甲状腺機能と大腸癌リスクとを比較したちょっと不思議な論文です。

大腸癌のリスクが、
色々な環境要因によって影響を受けることはよく知られています。

甲状腺ホルモンには細胞の増殖や分化に関わる、
多くの作用があり、
その一部は大腸癌の発症や増殖に関わる経路と、
関連を持っていることが分かっています。

そのため甲状腺機能と大腸癌との間に、
関連があるのではないか、という考えが以前からあり、
これまでにも甲状腺機能亢進症で大腸癌が増える、
というような報告がありますが、
いやいや関連はなかった、という報告もあり、
その真偽はまだ定かではありません。

そこで今回の研究では、
台湾の健康保険のデータベースを活用して、
大腸癌を発症した69713名を、
年齢などの条件を一致させて対照させた、
同じ69713名の大腸癌のないコントロールとを比較して、
甲状腺機能と大腸癌の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
甲状腺機能亢進症と診断された人は、
されていない人と比較して、
大腸癌の発症リスクが23%(95%CI: 0.69から0.86)、
甲状腺機能低下症と診断された人は、
されていない人と比較して、
大腸癌の発症リスクが22%(95%CI: 0.65から0.94)、
それぞれ有意に低下していました。

年齢を50歳以上か未満で2つに分けてみると、
甲状腺機能低下症の診断は、
50歳以上の年齢における直腸癌のリスクについては、
46%(95%CI: 0.39から0.74)有意に低下させていましたが、
50歳未満及び結腸癌については、
そうした有意なリスクの低下は見られませんでした。

甲状腺機能亢進症の診断は、
特に50歳未満の直腸癌のリスクを、
45%(95%CI: 0.36から0.85)有意に低下させていました。

このように、今回の大規模な住民データでは、
甲状腺機能低下症も甲状腺機能亢進症も、
いずれも大腸癌の発症リスクを低下させる、
というちょっと不思議な結果が得られています。

これは何らか甲状腺とは別個の因子が関連している可能性もあり、
今後また別個のデータが補完されるまでは、
まだその真偽は不明と考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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電子タバコによる火傷や爆発のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
e-シガレットとやけど.jpg
2019年のBurns誌に掲載された、
電子タバコ(E-シガレット)による火傷の事例を検証した論文です。

タバコの代替品として、
急速にその利用が広まっているのが、
非燃焼・加熱式タバコや電子タバコです。

非燃焼・加熱式タバコというのは、
葉タバコを燃焼させる代わりに、
加熱して吸引することにより、
その煙による害を和らげようという商品で、
基本的にはタバコとその性質は同じです。

一方で電子タバコは、
タバコに似た匂いのある液体を、
専用の器具で蒸気にして吸引するもので、
タバコとは基本的に別物です。
その液体には少量のニコチンが含まれている場合とない場合があり、
日本ではニコチンを含む商品は認められていません。

非燃焼・加熱式タバコに有害性のあることは、
間違いがありませんが、
電子タバコにどの程度の有害性があるのかについては、
まだ結論が出ていません。

2017年に日本呼吸器学会が発表した見解では、
非燃焼・加熱式タバコのみならず、
電子タバコも健康に悪影響がもたらされる可能性があり、
使用者から拡散するエアロゾルが、
周囲に悪影響を与える可能性があるので、
飲食店や公共の場所、公共交通機関での使用は認められない、
とされています。

現在一般に電子タバコが使用されるのは、
喫煙者が禁煙のために切り替えることが多いと思います。

しかし、国内外を問わず、
現状公的機関で推奨されている禁煙治療は、
カウンセリングなどの支持療法と、
ニコチンのガムやパッチなどのニコチン補充療法、
そしてバレニクリンや抗うつ剤のブプロピオン(日本未承認)などに限られ、
電子タバコは日本でもアメリカでも容認はされていません。

2019年のNew England…誌に掲載されたイギリスでの臨床研究によると、
電子タバコは禁煙法として一定の有効性が確認されましたが、
その一方で禁煙後も電子タバコの離脱率は低く、
その依存性が危惧されるという結果でした。

電子タバコの使用において、
もう1つ問題となっているのが、
突然の加熱や発火、爆発による事故の増加です。

上記にご紹介した文献は、
これまでに報告された電子タバコの使用に伴う火傷の、
90事例をまとめたものですが、
その多くは温熱による火傷であったものの、
中には化学熱傷による事例も認められました。

2019年のTob Control誌には、
アメリカにおけるサーベイランスのデータが報告されています。

これによると、
2015年から2017年に報告された、
電子タバコによる爆発や火傷のために、
救急病院を受診した事例は2035例に上っています。

それでは、一体何がこうした事故の原因となっているのでしょうか?

一番の原因と考えられているのは、
使用されている小型のリチウムイオンバッテリーの不具合で、
これはスマホなどの爆発や異常な加熱と同様のものです。
無理に小型化した構造上の問題と、
落下などによる衝撃を受けることによる損傷などが関与していると考えられ、
顔に近づけて使用するものなので、
より重症な外傷に発展するリスクが高いのです。

最後に電子タバコの爆発により重症を負った、
17歳の少年の事例をご紹介します。
2019年のNew England…に掲載されたものです。
彼は電子タバコを吸っている最中に爆発が起こり、
救急外来を受診しました。
口に広範囲の裂傷があり、
下顎の歯は粉砕し、下顎骨も骨折していました。
その3次元CT画像がこちらです。
e-シガレットの外傷画像.jpg

それでは日本の電子タバコには、
どの程度の危険があるのでしょうか?

今のところまとまった報告はないようですが、
同様の爆発の事例自体は複数報告はされています。

電子タバコを使用される際は適正な取り扱いを守り、
異常に熱くなっていると感じるような時には、
使用を控えることが、
現状は最低限必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺機能の検査値と治療のジレンマ [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺機能の検査値と治療とのジレンマ.jpg
2019年のLancet Diabetes & Endocrinology誌のレビューですが、
現状の甲状腺機能の検査の基準値と、
その問題点をまとめたものです。

甲状腺機能のスクリーニングは、
通常は最も簡便にはTSH(甲状腺刺激ホルモン)と、
F-T4(遊離T4濃度)を同時測定することによって行われます。

TSHの基準値は、
概ね0.5から5.0mIU/Lに設定されています。

この上限を超えてTSHが上昇すれば、
甲状腺機能低下症の可能性が高くなり。
この下限値を超えてTSHが低下すれば、
甲状腺機能亢進症の可能性が高くなります。

いずれの場合においても、
TSHの軽度の変化ではF-T4は基準値内で変化せず、
より強い変化が生じた時に変化が見られます。
具体的にはTSHが10を超えて上昇すると、
F-T4は低下することが多く、
TSHが0.05未満に低下すると、
F-T4は増加することが多いのです。
この時機能低下ではまずF-T4が下がってから、
進行するとF-T3が低下しますが、
機能亢進の場合には、
先に上昇するのはF-T3の方である、
という違いがあります。

原発性甲状腺機能低下症の場合、
TSHの基準値の上限は5くらいですが、
実際に治療が必要とされるのは、
10を超えるくらいとするのが一般的です。

これは2010年に発表されたメタ解析において、
TSHが10を超えた場合のみ、
心血管疾患のリスクが有意に増加した、
というデータをその根拠としています。

2012年にプライマリケアのデータを解析した研究が発表され、
40から70歳の年齢層においては、
TSHが5から10という軽度甲状腺機能低下の状態では、
むしろ心血管疾患の予後や生命予後は良かった、
という結果が報告されています。

従って、積極的にTSHが10未満の甲状腺機能低下症を、
薬で治療する根拠は乏しく、
むしろ逆効果になる可能性もある、
ということになる訳です。

ただ、現状のデータはかなり大雑把なものしかなく、
特に甲状腺ホルモン製剤を偽薬と比較して長期観察するような、
精度の高い検査はなされていないので、
軽症の甲状腺機能低下症をホルモン剤で治療して、
TSHを基準値に誘導することが、
本当に意味がないのか、という点については、
まだ確かなことは言えないのが実際です。

甲状腺ホルモンの補充療法としては、
通常T4製剤が単独で使用されますが、
症状の改善のないケースが1割程度は認められます。
この場合にT3との併用療法が、
一部では有効な可能性があり、
日本のガイドラインでは明確に否定されていますが、
欧米のガイドラインにおいては、
限定されてはいるものの、
症例を選んで慎重に行うことは否定はされていません。

甲状腺機能亢進症においては、
TSHが0.5から0.05くらいはグレイゾーンで、
1年くらいの経過で正常化することが多いのですが、
0.05未満は明確な異常値で、
通常は軽度の甲状腺機能亢進症の可能性が高いと考えられます。
この場合原因はバセドウ病もしくは結節性甲状腺腫です。

機能亢進症は潜在性であっても、
心血管疾患のリスクを増加させます。

その観点から言えば、
治療により甲状腺機能を正常化することが望ましいのですが、
実際には軽症の甲状腺機能亢進症を、
正常化する良い治療法がありません。

抗甲状腺剤による治療は、
概ねF-T4が正常上限の1.5から2倍くらいはないと、
実際には機能低下にすぐなったりして、
上手くはゆきません。
副作用や有害事象のリスクと天秤に掛けても、
施行することの方が良いとは言えません。
無機ヨードによる治療も安定さに欠けます。
手術や放射線治療は侵襲が大きいので、
これも軽症の機能亢進症に対して、
安易に適応することは出来ません。

心血管疾患のリスクはあっても、
現状は経過をみるしかないのです。

甲状腺機能低下症をホルモン剤で治療すると、
報告にもよりますが10から30%の患者さんは、
潜在性の甲状腺機能亢進症になります。
このように微調整が効きにくいのが機能低下症の治療の問題点です。

このように甲状腺機能の検査値の評価と、
治療の適応については多くの問題があり、
それがなかなか解決しない最も大きな原因は、
この分野では精度の高い介入試験のような臨床データが、
ほとんど存在していないという点にあります。

今後世界規模での大規模臨床試験が不可欠だと思いますし、
そのデータを元にして、
もっと科学的根拠のある治療ガイドラインの作成が、
急務であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心臓突然死の予防ガイドライン [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心臓突然死の予防ガイドライン.jpg
2019年のJAMA誌に掲載されたものですが、
心臓突然死の予防のためのアメリカのガイドラインの解説記事です。

心臓突然死というのは、
主に重症の不整脈の発作が突然に起こって、
それにより死に至ることですが、
アメリカにおいては心血管疾患による死亡のうち、
ほぼ半数を占めると報告されています。

要するに心臓に何らかの病気を持っていると、
不整脈で心臓がいきなり停止する危険性が、
決して低くはないのです。

この場合その不整脈の多くは、
心室細動や粗動と呼ばれる心臓の筋肉の一種の痙攣で、
これが起こると心臓は十分な血液を流せなくなり、
血圧は保てなくなって死に至るのです。

それでは、この不整脈による死亡を阻止するためには、
一体どうすればよいのでしょうか?

近年、こうした場合の切り札的に考えられているのが、
植込み式除細動器(ICD)です。
これはペースメーカーによく似た機械を身体に植込んで、
危険な不整脈を感知し、
仮にそれが起こった時には、
電気ショックを身体の中で起こして、
止めてしまおうという装置です。

今使用されているものには、
不整脈を感知する機能や記録する機能、
電気ショックを起こす機能と共に、
ペースメーカーの機能も付いていて、
心臓が停止するようなほぼ全ての場合において、
対応可能な機器に進歩しています。

従って、多くの心臓突然死は、
このICDで予防可能です。

それでは全員がICDの植込みをすれば、
心臓で死ぬ人はいなくなるではないか、
と思われるかも知れません。
しかし、実際にはそれは効率的な考えではありません。

それほどリスクはないとは言え、
植込みの処置は手術の一種で合併症もありますし、
その医療費も高額になります。

実際に不整脈死のリスクが高い人に限って、
その使用を行わなければ、
有効な治療とは言えないのです。

一度でも重症不整脈の発作を起こした人であれば、
再発予防のために植込みをすることは理に適っています。

それでは、まだ起こしていない場合にはどうでしょうか?

現行のガイドラインにおいては、
心臓の超音波検査で計測可能な、
左室の駆出率という指標が、
そのリスク判定に重要な役割を果たしています。

この数値は55%以上が正常で、
40%未満が中等症の心不全、
30%未満は重症の心不全ということになります。

駆出率が40%未満という中等度の心機能低下の状態では、
まず心不全の治療薬である、
ACE阻害剤やβ遮断剤、アンジオテンシン受容体拮抗薬や、
抗アルドステロン薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤、
などの使用が心臓突然死の予防のためにも重要です。

急性心筋梗塞後40日以上、
もしくはステントなどの再灌流治療後90日以上経過していて、
駆出率が35%以下で、薬物治療を継続していても、
心不全がNYHA分類のⅡ度もしくはⅢ度
(安静時は症状はないが日常動作やそれ以下の動作で息切れなどの症状あり)
の心不全症状がある虚血性心疾患の患者さんには、
1年以上の余命が期待できることを条件に、
ICDの植込みが推奨されます。

同じく虚血性心疾患の患者さんで、
急性心筋梗塞から40日以上、
もしくはステントなどの再灌流療法から90日以上経過していて、
薬物療法を継続していても、駆出率が30%以下で、
心不全がNYHA分類のⅠ度(日常生活では症状はない)の状態では、
1年以上の余命が期待できることを条件に、
ICDの植込みが推奨されます。

虚血性心疾患ではない心筋症の患者さんで、
薬物治療を継続していても、駆出率が35%以下で、
心不全がNYHA分類のⅡ度もしくはⅢ度
(安静時は症状はないが日常動作やそれ以下の動作で息切れなどの症状あり)
の状態である場合には、
1年以上の余命が期待できることを条件に、
ICDの植込みが推奨されます。

以上がアメリカの現行のガイドラインの内容です。

内容は新規の心不全治療薬である、
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤が薬物治療に加わった以外は、
ほぼ以前のものを踏襲する内容となっています。

心臓突然死の予防のためには、
心不全の状態を評価して、
ICDの適応を決めることが有益であるという考え方になっています。

日本の現行のガイドラインは、
内容的にはアメリカのものと大きな違いはありませんが、
アメリカと比べて虚血性心疾患の頻度が低いので、
別個の不整脈のリスクなどについて、
より多くの取り決めのある点が異なっています。

現行多くの心臓突然死が、
予防可能となりつつあることは確かで、
その治療の適応を含めて、
より詳細な検証が積み重ねられることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「旅のおわり世界のはじまり」 [映画]

こんにちは。
北品川藤jクリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
旅のおわり世界のはじまり.jpg
大好きな黒沢清監督の新作は、
日本とウズベキスタンの合作で、
全編ウズベキスタンロケという異色作です。

これは一言で言えば「変な映画」です。

物凄い駄作にもなりそうなところを、
スレスレのところで踏みとどまっていると思うのですが、
物凄く良いところと、かなり凡庸なところと、
それはないでしょう、というところが、
モザイクのように複雑にミックスされていて、
結果として「褒めるのもけなすのも難しい」という、
黒沢清監督作品としては、
通常運転のレベルに仕上がっています。

黒沢監督の実質的な出世作は、
「ドレミファ娘の血が騒ぐ」ですが、
この映画はヒロイン映画で、
主人公が急に歌いだすという点や、
シネマスコープの画面でヒロインの正面のアップが多い、
という点で、
「ドレミファ娘の血が騒ぐ」に似ています。
ヒロイン1人をメインに据えたインチキミュージカル映画を、
黒沢監督はそれ以降1本も撮っていないので、
この映画は確かに「初心に帰った」黒沢映画と言えなくもありません。

ただ、それ以外の部分については、
海外でテレビのニュース映像を見た時に、
2つの世界が結びつくという発想や、
異世界での孤独が人生の次のステップへの足掛かりになる点、
面白い動きをするものを、
行き当たりばったりでも貪欲に物語に取り込む発想など、
これまで積み上げて来た黒沢映画に、
共通する要素も多く見られます。

今回抜群に個性的なのはラストで、
一皮剥けた主人公がずんずん丘を登ってゆくと、
そこで「サウンドオブミュージック」が降臨するというのは、
唖然呆然とする一方で、
こんなラストをある種の説得力を持って実現させてしまうのは、
まあ世界広しと言えど黒沢清監督しか、
存在しないよなあ、という気分にもなるのです。

それ以外の部分については、
正直玉石混淆という感じがあって、
外国で分からない言葉で質問されて逃げてしまったり、
食べるものを買いに行こうとしてバスの乗り方に困ったりと、
今時、こんなエピソードが要る?
猿岩石の電波少年の頃のセンスじゃん、
と問いかけたくなるような凡庸さでガッカリしますし、
撮影クルーの感じもとてもステレオタイプで萎えてしまいます。
その一方でヘンテコで原始的な絶叫マシーンに、
乗り込んで回転させられる前田敦子さんの姿など、
偶然とは言え抜群の面白さでワクワクします。
ヤギのエピソードは微妙なところで、
悪くはないけれど、もう少し気の利いたものがあってもいいのに、
という感じがしましたし、
シベリア抑留の日本人が劇場の装飾を作ったという話は、
ウズベキスタン側からの要請で入れたようですが、
これもさんざんあちこちで聞いた話で、
何度も日本の番組でも取り上げられていますし、
何を今更、という感じがありました。

主人公の前田敦子さんは、
今演技者として乗ってきているという感じがあって、
「町田くんの世界」でも彼女のみ抜群でしたし、
今回もさすがの存在感でした。
ただ、何があっても動じない、という感じなので、
異邦人として、
もっと怯えたり怖がったりしてほしかったし、
それが監督の意図でもあったのではないかしら、
というようには感じました。

要するにもっと薄っぺらな存在感であった方が、
この作品の役柄には合っていたので、
この作品の魅力は多くが前田敦子さんに負っているのですが、
それは監督の意図したものとは違うのでは、
というように感じたのです。
ただ、ラストの歌のある種の不安定な質感だけは、
映画の基調音にフィットするもので、
それがラストが良かった大きな要因でもあるように感じました。

前田敦子さんと黒沢清監督のどちらかのファンにとっては、
必見と言って良い映画、
それ以外の方にとっては、
「なんじゃこりゃ!」と言われても仕方のない映画、
それがこの作品であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「町田くんの世界」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
町田くんの世界.jpg
安藤ゆきさんの人気コミックを、
石井裕也監督が実写化した映画を観て来ました。

高校を舞台にした学園ものですが、
主人公の少年少女2人は、
それほど年齢の変わらない新人が演じ、
同級生などの脇キャラは、
主に30代くらいのスター俳優達が演じるという、
かなり特殊なキャスティングの映画です。

それほど観たいと思うジャンルではないのですが、
早朝にやっている作品ということで、
時間が合ったので観て来たというのが実際です。
朝一の映画館の客席は、
僕以外には60代以上の男性が2人だけでした。
意外に若者層は興味がないのかしら、
というようにも思いました。

これは発想もテーマもなかなか面白いのです。

主人公の高校生の町田くんは、
誰かが困っているのを見ると、
助けないではいられないという他者優先の少年なのですが、
同級生の少女を好きになってしまいます。
好きだという気持ちは独占的なものなので、
少女は自分だけを助けて欲しい、自分だけを見て欲しい、
と思うのですが、
町田くんは少女のことは好きな一方で、
周囲の全ての人が困っていると、
それを助けないではいられないので、
それをすると少女からは怒られて関係が悪くなる、
というジレンマに直面するのです。

恋愛というものはそもそも独善的で身勝手な感情なので、
「全ての人を幸せにしたい」という気持ちとは、
基本的に相いれない部分がある訳です。
それでいながら、
両方とも素晴らしいものとされているところに根本的な矛盾があり、
主人公はそれを求道僧のように追及するのです。

普通の恋愛ドラマでは、
誤魔化してしまう部分にフォーカスを当てている訳で、
なかなか面白い発想だと思いました。

ただ、他の多くの方も指摘をされているように、
この映画はせっかくそうした問題提起をしておきながら、
ラストは留学する少女を少年が追いかけ、
それをこれまで町田くんに助けてもらったクラスメートが応援する、
という「恋愛至上主義」のものに変貌し、
2人が一緒になれてめでたしめでたしになってしまいます。

2つの概念の根本的な矛盾は、
一体いつ何処で消滅してしまったのでしょうか?

おいおい!という感じです。

この映画は前半では、
少女の妄想の中でのみ、
超現実的なことが起こります。
それでいて、ラストでは、
少女の妄想の中にあった光景が、
現実のものになって終わります。
ただ、この流れも如何にも唐突で、
妄想がどのようにして現実を侵食するに至ったのか、
それとも現実と妄想が何処かで反転したのか、
そうした点が何ら説明されていないので、
この点もラストの処理には納得がゆきません。

中段まではなかなか面白く、
主役2人の演技も悪くありませんし、
左右や上下の画面上の動きとそのスピードを、
自然に感情に転化させるような映像演出も悪くないと思います。
年齢無視のキャスティングも、
全て成功とは言えませんが、
前田敦子さんの女子高生などは、
なかなかのクオリティで、
「俯瞰して未来から見た青春」的な狙いも面白いと思いました。

その意味で、
同年代より高齢者に、
楽しめるノスタルジックさがあるのです。
この辺りの方法論は、
かつての大林宜彦映画に、
ちょっと似たところがありますが、
大林監督より遥かに自然に、
そのロジックを達成していたと思いました。

ただ、高齢者にもラストはガッカリかな?

何故こんな最後に全てを投げ出すようなことをしたのか、
どうにも納得はゆかないのです。

まあ、頑張って見るほどのことはないかな…
という感じの映画でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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プレガバリン(リリカ)の有害事象について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リリカの有害事象.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
末梢神経に由来する痛みなどの治療薬として、
最近日本でも広く使用されている、
プレガバリン(リリカ)の有害事象についての論文です。

ガバペンチン(ガバペン)は、
比較的新しく創薬された抗痙攣剤ですが、
帯状疱疹の後の神経痛など、
末梢神経が障害されることによる痛みに効果のあることが明らかになり、
てんかんよりもこうした慢性疼痛に対する治療薬として、
その有効性が評価されています。
プレガバリン(リリカ)は、
ガバペンチン由来の化合物で、
疼痛などに対する作用をより強化したとされ、
抗痙攣剤としてではなく、
もっぱら慢性疼痛の治療薬としてその使用がなされています。

日本における保険適応は、
ガバペンはてんかんに限られていますが、
ヨーロッパでは広く末梢神経障害性疼痛に適応が認められています。

プレガバリンは末梢神経障害性疼痛の治療薬として、
日本を含む世界各国で広く使用されています。
またヨーロッパでは全般性不安障害の治療薬として、
アメリカでは線維筋痛症の治療薬として、
適応が認められています。

ガバペンチンの関連薬は、
今世界的にその使用が拡大している薬剤です。

日本においてもそれは同様で、
原因の分からない慢性の痛みに対しては、
整形外科においても内科においても、
かなり気軽に処方されているという印象があります。

しかし、このタイプの薬剤は元々抗痙攣剤で、
眩暈や意識レベルの低下、眠気や認知機能低下など、
多くの有害事象があることも事実です。
2008年にアメリカのFDAは、
抗痙攣剤全般に希死念慮や自殺企図のリスクを、
上昇される可能性があるという警告を出しました。
ただ、ガバペンチンとプレガバリンについては、
データが少ないため明確な結果が得られていません。
この問題はまだグレイであるのです。

今回の研究は国民総背番号制の敷かれているスウェーデンにおいて、
ガバペンチンとプレガバリンが処方された事例191973名のデータを解析し、
自殺企図や過量服薬、外傷などのリスクを検証しています。

これは事例は多いのですが、
同一の患者さんで、処方期間と未処方期間を比較する、
という形で処方のリスクを計算しているので、
その点はやや精度に欠ける可能性はありそうです。

その結果、
ガバペンチンもしくはプレガバリンの使用により、
自殺企図と自殺による死亡を併せたリスクは1.26倍
(95%CI: 1.20 から1.32)、
過量服薬のリスクは1.24倍(95%CI: 1.19から1.28)、
外傷のリスクは1.22倍(95%CI:1.19から1.25)、
自動車事故のリスクは1.13倍(95%CI: 1.06から1.20)、
それぞれ有意に増加していました。

こうしたリスクの増加は、
ガバペンチンよりプレガバリンでより大きく、
また年齢では15歳から24歳という若年の使用で大きく、
55歳以上では有意な増加は見られませんでした。

このように、
プレガバリン(リリカ)の使用により、
若干ながら自殺企図や過量服薬などのリスクの増加があり、
それは若年でより顕著に見られていました。

現状このリスクがどの程度のものであるかは、
明確ではありませんが、
特にプレガバリンを15から24歳の年齢で使用する場合には、
より慎重に必要な事例に限って、
処方を行うべきであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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