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KAKUTA「らぶゆ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
らぶゆ.jpg
現在最も脂の乗った劇作家の1人である、
桑原裕子さんの新作が、
彼女の率いるKAKUTAの本公演として、
先日まで本多劇場で上演されました。

桑原さんの劇作は、
ある事件などをきっかけにしてあぶりだされる、
共同体のひずみのような人間関係の綾を、
鋭利かつ繊細に描く人間ドラマがその特徴で、
外連味のない骨太で真摯な作風が魅力です。

これまでに何本か観ていますが、
特に2017年に上演された「荒れ野」は、
極め付きの名作として印象に残っています。
今年11月に再演されるとのことですので、
これはもう必見です。

今回の作品は様々な事情で罪を犯し、
刑務所で知り合った個性的な男たちが、
出所後にユートピア的な共同生活を試み、
それが無残に潰えるまでの物語です。

10分の休憩を挟み2時間40分という長尺ですが、
非常に丁寧に描き分けられた人物を、
小須田康人さん、みのすけさん、中村中さんといった手練れが、
魅力たっぷりに演じるので長さを感じません。
演技と物語のみの力で、
自然と引き込まれ見入ってしまうのはさすがです。

これぞ芝居の醍醐味と言って良いと思います。

ただ、今回は福島を舞台にしていて、
後半で舞台が2011年の春であることが示され、
震災の当日が描かれます。

前半で福島という名称が出て来た時点で、
そんなことかも知れないな、というようには思うのですが、
震災がそれほどこの戯曲の中で、
大きな位置を占めているとは思えず、
その扱いも中途半端な感じがして、
正直あまり納得がゆきませんでした。

共同体が崩壊するのは別に震災のためではなく、
個々の人間同士のひずみが引き起こしているものです。
その意味ではこの物語において、
特に震災が登場することは不可欠ではなく、
たとえば「荒れ野」では、
ただの火事で同じような効果を挙げているのですから、
今回ももっと小さな事件で充分であったし、
この物語において、
震災を持ち出すことはあまりに重すぎて、
作品のバランスを崩しているように僕には思われました。

ただの火事で良かったですよね。

本気で震災を扱うのであれば、
もっとその必然性があるべきだと思いますし、
舞台面にももっと動きがあるべきだと思います。
舞台は殆ど動きがなく、
書割が倒れるのも暗転の中で、
それもごく一部のみです。
暗転と音だけで誤魔化すというのは、
あまりに杜撰だという気がしますし、
このくらいのことしか出来ないのであれば、
やるべきではなかったと思います。

そんな訳で不満はあったのですが、
桑原さんが当代随一の劇作家であることには間違いがなく、
これからもその劇作には、
最大限の期待を持っています。

次も本当に楽しみです。
頑張って下さい!

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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