「旅のおわり世界のはじまり」 [映画]
こんにちは。
北品川藤jクリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
大好きな黒沢清監督の新作は、
日本とウズベキスタンの合作で、
全編ウズベキスタンロケという異色作です。
これは一言で言えば「変な映画」です。
物凄い駄作にもなりそうなところを、
スレスレのところで踏みとどまっていると思うのですが、
物凄く良いところと、かなり凡庸なところと、
それはないでしょう、というところが、
モザイクのように複雑にミックスされていて、
結果として「褒めるのもけなすのも難しい」という、
黒沢清監督作品としては、
通常運転のレベルに仕上がっています。
黒沢監督の実質的な出世作は、
「ドレミファ娘の血が騒ぐ」ですが、
この映画はヒロイン映画で、
主人公が急に歌いだすという点や、
シネマスコープの画面でヒロインの正面のアップが多い、
という点で、
「ドレミファ娘の血が騒ぐ」に似ています。
ヒロイン1人をメインに据えたインチキミュージカル映画を、
黒沢監督はそれ以降1本も撮っていないので、
この映画は確かに「初心に帰った」黒沢映画と言えなくもありません。
ただ、それ以外の部分については、
海外でテレビのニュース映像を見た時に、
2つの世界が結びつくという発想や、
異世界での孤独が人生の次のステップへの足掛かりになる点、
面白い動きをするものを、
行き当たりばったりでも貪欲に物語に取り込む発想など、
これまで積み上げて来た黒沢映画に、
共通する要素も多く見られます。
今回抜群に個性的なのはラストで、
一皮剥けた主人公がずんずん丘を登ってゆくと、
そこで「サウンドオブミュージック」が降臨するというのは、
唖然呆然とする一方で、
こんなラストをある種の説得力を持って実現させてしまうのは、
まあ世界広しと言えど黒沢清監督しか、
存在しないよなあ、という気分にもなるのです。
それ以外の部分については、
正直玉石混淆という感じがあって、
外国で分からない言葉で質問されて逃げてしまったり、
食べるものを買いに行こうとしてバスの乗り方に困ったりと、
今時、こんなエピソードが要る?
猿岩石の電波少年の頃のセンスじゃん、
と問いかけたくなるような凡庸さでガッカリしますし、
撮影クルーの感じもとてもステレオタイプで萎えてしまいます。
その一方でヘンテコで原始的な絶叫マシーンに、
乗り込んで回転させられる前田敦子さんの姿など、
偶然とは言え抜群の面白さでワクワクします。
ヤギのエピソードは微妙なところで、
悪くはないけれど、もう少し気の利いたものがあってもいいのに、
という感じがしましたし、
シベリア抑留の日本人が劇場の装飾を作ったという話は、
ウズベキスタン側からの要請で入れたようですが、
これもさんざんあちこちで聞いた話で、
何度も日本の番組でも取り上げられていますし、
何を今更、という感じがありました。
主人公の前田敦子さんは、
今演技者として乗ってきているという感じがあって、
「町田くんの世界」でも彼女のみ抜群でしたし、
今回もさすがの存在感でした。
ただ、何があっても動じない、という感じなので、
異邦人として、
もっと怯えたり怖がったりしてほしかったし、
それが監督の意図でもあったのではないかしら、
というようには感じました。
要するにもっと薄っぺらな存在感であった方が、
この作品の役柄には合っていたので、
この作品の魅力は多くが前田敦子さんに負っているのですが、
それは監督の意図したものとは違うのでは、
というように感じたのです。
ただ、ラストの歌のある種の不安定な質感だけは、
映画の基調音にフィットするもので、
それがラストが良かった大きな要因でもあるように感じました。
前田敦子さんと黒沢清監督のどちらかのファンにとっては、
必見と言って良い映画、
それ以外の方にとっては、
「なんじゃこりゃ!」と言われても仕方のない映画、
それがこの作品であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤jクリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
大好きな黒沢清監督の新作は、
日本とウズベキスタンの合作で、
全編ウズベキスタンロケという異色作です。
これは一言で言えば「変な映画」です。
物凄い駄作にもなりそうなところを、
スレスレのところで踏みとどまっていると思うのですが、
物凄く良いところと、かなり凡庸なところと、
それはないでしょう、というところが、
モザイクのように複雑にミックスされていて、
結果として「褒めるのもけなすのも難しい」という、
黒沢清監督作品としては、
通常運転のレベルに仕上がっています。
黒沢監督の実質的な出世作は、
「ドレミファ娘の血が騒ぐ」ですが、
この映画はヒロイン映画で、
主人公が急に歌いだすという点や、
シネマスコープの画面でヒロインの正面のアップが多い、
という点で、
「ドレミファ娘の血が騒ぐ」に似ています。
ヒロイン1人をメインに据えたインチキミュージカル映画を、
黒沢監督はそれ以降1本も撮っていないので、
この映画は確かに「初心に帰った」黒沢映画と言えなくもありません。
ただ、それ以外の部分については、
海外でテレビのニュース映像を見た時に、
2つの世界が結びつくという発想や、
異世界での孤独が人生の次のステップへの足掛かりになる点、
面白い動きをするものを、
行き当たりばったりでも貪欲に物語に取り込む発想など、
これまで積み上げて来た黒沢映画に、
共通する要素も多く見られます。
今回抜群に個性的なのはラストで、
一皮剥けた主人公がずんずん丘を登ってゆくと、
そこで「サウンドオブミュージック」が降臨するというのは、
唖然呆然とする一方で、
こんなラストをある種の説得力を持って実現させてしまうのは、
まあ世界広しと言えど黒沢清監督しか、
存在しないよなあ、という気分にもなるのです。
それ以外の部分については、
正直玉石混淆という感じがあって、
外国で分からない言葉で質問されて逃げてしまったり、
食べるものを買いに行こうとしてバスの乗り方に困ったりと、
今時、こんなエピソードが要る?
猿岩石の電波少年の頃のセンスじゃん、
と問いかけたくなるような凡庸さでガッカリしますし、
撮影クルーの感じもとてもステレオタイプで萎えてしまいます。
その一方でヘンテコで原始的な絶叫マシーンに、
乗り込んで回転させられる前田敦子さんの姿など、
偶然とは言え抜群の面白さでワクワクします。
ヤギのエピソードは微妙なところで、
悪くはないけれど、もう少し気の利いたものがあってもいいのに、
という感じがしましたし、
シベリア抑留の日本人が劇場の装飾を作ったという話は、
ウズベキスタン側からの要請で入れたようですが、
これもさんざんあちこちで聞いた話で、
何度も日本の番組でも取り上げられていますし、
何を今更、という感じがありました。
主人公の前田敦子さんは、
今演技者として乗ってきているという感じがあって、
「町田くんの世界」でも彼女のみ抜群でしたし、
今回もさすがの存在感でした。
ただ、何があっても動じない、という感じなので、
異邦人として、
もっと怯えたり怖がったりしてほしかったし、
それが監督の意図でもあったのではないかしら、
というようには感じました。
要するにもっと薄っぺらな存在感であった方が、
この作品の役柄には合っていたので、
この作品の魅力は多くが前田敦子さんに負っているのですが、
それは監督の意図したものとは違うのでは、
というように感じたのです。
ただ、ラストの歌のある種の不安定な質感だけは、
映画の基調音にフィットするもので、
それがラストが良かった大きな要因でもあるように感じました。
前田敦子さんと黒沢清監督のどちらかのファンにとっては、
必見と言って良い映画、
それ以外の方にとっては、
「なんじゃこりゃ!」と言われても仕方のない映画、
それがこの作品であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2019-06-23 05:36
nice!(7)
コメント(0)
コメント 0