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脈拍数と生命予後について(2019年スウェーデンの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脈拍と生命予後.jpg
2019年のBMJ Open Heart誌に掲載された、
脈拍数と生命予後と心血管疾患リスクとの関連についての論文です。

安静時の脈拍数が早いほど、
生命予後に悪影響を与えたり、
心血管疾患のリスクになるというのは、
これまでに疫学データで複数報告されています。

こうした情報が一般にも広まっているので、
僕も時々外来で患者さんから、
「脈が早いと早死にすると聞いたのですが大丈夫ですか」
のような質問を受けることがあります。

確かにある時点で脈拍が早いことが、
その後の死亡リスクの増加と関連する、
というようなデータは複数存在しています。

しかし、
その殆どは1回しか脈拍を測定していないので、
脈拍が早いことが生命予後の悪化の、
原因であるのか結果であるのかは明確ではありません。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
1943年に生まれた798名を対象として、
50歳の登録時の安静時の脈拍を測定して、
その後21年に渡る経過観察を行い、
60歳時にも脈拍数を測定して、
その変化と生命予後や心血管疾患との関連を検証しています。

長期の観察を行っている点と、
脈拍の変化を検証している点が今回のポイントです。

その結果、
50歳の安静時脈拍数が55回以下と比較して、
75回を超えていると、
その後の総死亡のリスクは2.3倍(95%CI: 1.2から4.7)、
心血管疾患の発症リスクは1.8倍(95%CI: 1.1から3.0)、
虚血性心疾患の発症リスクは2.2倍(95%CI: 1.1から4.5)、
それぞれ有意に増加していました。

次に50歳時と60歳時の安静時脈拍数が、
5以上変動したかどうかで検証すると、
脈拍が増加した場合と比較して、
脈拍が安定していると、
心血管疾患のリスクは44%(95%CI: 0.35から0.87)
有意に抑制されていました。

この10年間に脈拍が1回増加する毎に、
総死亡のリスクが3%、心血管疾患のリスクが1%、
虚血性心疾患のリスクが2%、
それぞれ増加すると算定されました。

このように、
安静時の脈拍が75回以上である場合と、
脈拍が10年で5以上増加した場合に、
総死亡のリスクや心血管疾患のリスク、
また虚血性心疾患のリスクのいずれもが増加していました。

これは脈拍自体のリスクと言うより、
交感神経の緊張状態や、
心機能の低下などを反映している可能性が高く、
特に経過の中で脈拍数が増加した時には、
何か心血管系の異常の兆候がないか、
一度は検討する必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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