若年性脳卒中の長期予後(オランダの大規模データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
若年発症の脳卒中の予後を検証した論文です。
脳卒中というのは、
脳梗塞と脳出血とを併せた用語です。
脳内出血は高血圧によって起こることが多く、
脳梗塞は身体に血栓という血の塊が出来易い体質や、
心臓の病気、
動脈硬化の進行などによって起こります。
このため、
脳卒中の多くは50歳以上で発症しますが、
中にはより若年での発症があり、
概ね18歳から49歳までの間に起こる脳卒中を、
若年性脳卒中と呼んでいます。
ただ、これは必ずしも国際的な定義のようなものではなく、
文献によっては45歳までになっていたり、
40歳までになっていることもあります。
若年性の脳卒中では、
動脈硬化の進行による原因は、
当然少ないので、
高齢者の脳卒中とは別個に考える必要があります。
これまでにも何度か取り上げましたが、
身体に血栓の出来易い体質や、
心臓の中に小さな穴が開いていたり、
血管に出来た傷が原因になったりと、
その起こり方にも、
高齢者とは違いがあるのです。
高齢者の脳卒中は特に発症後数年の間は、
再発が多く、
そのため再発予防の治療が、
必要となることがしばしばです。
当然その長期予後も、
脳卒中を起こしていない方とは違います。
ただ、
その予後のデータが、
原因の異なる若年性脳卒中の患者さんにおいても、
そのまま当て嵌まるとは限りません。
たとえば30代の方が、
脳梗塞の発作を起こし、
後遺症なく回復をしたとします。
その後のその方の人生において、
どのようなリスクがあり、
どのような点に注意をすれば、
そのリスクを最小に出来るのか、
というようなデータは、
非常に重要なものになりますが、
実際には若年性脳卒中自体の頻度が少ないので、
これまでに、
まとまった長期予後のデータは、
殆ど存在しませんでした。
2013年のJAMA誌に、
オランダにおいて、
1980年から2010年に発症した、
発症当時18歳から50歳までの患者さん、
トータル959名のその後の経過を、
平均11.1年間観察したという、
これまでにない大規模な、
「若年性脳卒中の長期予後」の疫学研究が発表されました。
これはその時点でブログ記事としています。
脳卒中発症後30日間は生存した患者さんの、
その後20年間の累積の死亡のリスクが、
主なターゲットになっています。
結果として、
観察の終了時には全体の2割に当たる、
192名の患者さんが亡くなられています。
患者さんの発症時の年齢を考えると、
これはかなりの高率であることが、
お分かり頂けるかと思います。
ただ、この例数では脳卒中のタイプ毎のリスクの差など、
より詳細な検証をすることは出来ませんでした。
そこで今回の検証では、
同じオランダで18から49歳で初回の脳卒中を発症した、
トータル15527名に中間値で9.3年という経過観察を行って、
長期の生命予後を検証しています。
観察期間が終了した時点で、
トータルで3540名が死亡しており、
そのうちの1776名は発症から30日以内の死亡でした。
残りの1764名がその後の死亡です。
脳卒中発症後30日以降に生じた、
15年の累積死亡率は.17.0%(95%CI:16.2から17.9)
となっていました。
これは2013年論文とほぼ一致する結果です。
これをより詳細に見てみます。
虚血性脳梗塞を起こした場合の累積死亡リスクは、
一般住民と比較して5.1倍(95%CI:4.7から5.4)
有意に増加していました。
一般住民の死亡リスクが人口1000人当り年間2.4名であったのに対して、
虚血性脳梗塞後は12.0名となっていました。
同様に脳内出血を起こした場合の累積死亡リスクは、
一般住民と比較して8.4倍(95%CI: 7.4から9.3)
こちらも有意に増加していました。
一般住民の死亡リスクが人口1000人当り年間2.2名であったのに対して、
脳内出血は18.7名となっていました。
このように、
脳卒中のタイプが違っても、
若年性の脳卒中を起こすと、
15年が経過してもその生命予後には、
起こさなかった場合と明確な差があり、
今後このリスクを如何にして下げるかを、
多角的に検証する必要があるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
若年発症の脳卒中の予後を検証した論文です。
脳卒中というのは、
脳梗塞と脳出血とを併せた用語です。
脳内出血は高血圧によって起こることが多く、
脳梗塞は身体に血栓という血の塊が出来易い体質や、
心臓の病気、
動脈硬化の進行などによって起こります。
このため、
脳卒中の多くは50歳以上で発症しますが、
中にはより若年での発症があり、
概ね18歳から49歳までの間に起こる脳卒中を、
若年性脳卒中と呼んでいます。
ただ、これは必ずしも国際的な定義のようなものではなく、
文献によっては45歳までになっていたり、
40歳までになっていることもあります。
若年性の脳卒中では、
動脈硬化の進行による原因は、
当然少ないので、
高齢者の脳卒中とは別個に考える必要があります。
これまでにも何度か取り上げましたが、
身体に血栓の出来易い体質や、
心臓の中に小さな穴が開いていたり、
血管に出来た傷が原因になったりと、
その起こり方にも、
高齢者とは違いがあるのです。
高齢者の脳卒中は特に発症後数年の間は、
再発が多く、
そのため再発予防の治療が、
必要となることがしばしばです。
当然その長期予後も、
脳卒中を起こしていない方とは違います。
ただ、
その予後のデータが、
原因の異なる若年性脳卒中の患者さんにおいても、
そのまま当て嵌まるとは限りません。
たとえば30代の方が、
脳梗塞の発作を起こし、
後遺症なく回復をしたとします。
その後のその方の人生において、
どのようなリスクがあり、
どのような点に注意をすれば、
そのリスクを最小に出来るのか、
というようなデータは、
非常に重要なものになりますが、
実際には若年性脳卒中自体の頻度が少ないので、
これまでに、
まとまった長期予後のデータは、
殆ど存在しませんでした。
2013年のJAMA誌に、
オランダにおいて、
1980年から2010年に発症した、
発症当時18歳から50歳までの患者さん、
トータル959名のその後の経過を、
平均11.1年間観察したという、
これまでにない大規模な、
「若年性脳卒中の長期予後」の疫学研究が発表されました。
これはその時点でブログ記事としています。
脳卒中発症後30日間は生存した患者さんの、
その後20年間の累積の死亡のリスクが、
主なターゲットになっています。
結果として、
観察の終了時には全体の2割に当たる、
192名の患者さんが亡くなられています。
患者さんの発症時の年齢を考えると、
これはかなりの高率であることが、
お分かり頂けるかと思います。
ただ、この例数では脳卒中のタイプ毎のリスクの差など、
より詳細な検証をすることは出来ませんでした。
そこで今回の検証では、
同じオランダで18から49歳で初回の脳卒中を発症した、
トータル15527名に中間値で9.3年という経過観察を行って、
長期の生命予後を検証しています。
観察期間が終了した時点で、
トータルで3540名が死亡しており、
そのうちの1776名は発症から30日以内の死亡でした。
残りの1764名がその後の死亡です。
脳卒中発症後30日以降に生じた、
15年の累積死亡率は.17.0%(95%CI:16.2から17.9)
となっていました。
これは2013年論文とほぼ一致する結果です。
これをより詳細に見てみます。
虚血性脳梗塞を起こした場合の累積死亡リスクは、
一般住民と比較して5.1倍(95%CI:4.7から5.4)
有意に増加していました。
一般住民の死亡リスクが人口1000人当り年間2.4名であったのに対して、
虚血性脳梗塞後は12.0名となっていました。
同様に脳内出血を起こした場合の累積死亡リスクは、
一般住民と比較して8.4倍(95%CI: 7.4から9.3)
こちらも有意に増加していました。
一般住民の死亡リスクが人口1000人当り年間2.2名であったのに対して、
脳内出血は18.7名となっていました。
このように、
脳卒中のタイプが違っても、
若年性の脳卒中を起こすと、
15年が経過してもその生命予後には、
起こさなかった場合と明確な差があり、
今後このリスクを如何にして下げるかを、
多角的に検証する必要があるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-05-28 05:53
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