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インフルエンザ感染と湿度との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
インフルエンザと湿度の関係.jpg
2019年のPNAS(米科学アカデミー紀要)に掲載された、
インフルエンザ感染に対する湿度の影響についての論文です。

季節性インフルエンザの感染は、
北半球では11月から3月に多く、
南半球では5月から9月に多いという特徴があります。

これは概ね気候の影響として説明されています。

インフルエンザウイルスの感染は、
温度と湿度が共に低い環境で、
より活発化することが知られています。

ただ、2019年のApplied and Environmental Microbiology誌に掲載された論文では、
カナダの疫学データを解析した結果として、
通常湿度として表現されている相対湿度は、
確かにB型インフルエンザは低いほど感染が活発化しますが、
A型インフルエンザはむしろ高いほど感染が活発化する、
という結果になっていました。

つまり、湿度が低いほどインフルエンザ感染が活発化する、
という「常識」も、
実際にはそれほど確実と言える知見ではありません。

仮に湿度が低いとインフルエンザが流行し易いとして、
その原因は何なのでしょうか?

湿度特に絶対湿度が高いと、
インフルエンザウイルスを含む飛沫粒子が安定せず、
感染が起こりにくい、
とする複数のデータが存在しています。

ただ、高温多湿の地域ではインフルエンザ感染は、
湿度の高い時期に流行しているので、
そのことの説明にはなっていません。

2012年のPLOS One誌に掲載された論文では、
相対湿度が100%に近いような状況においては、
塩分濃度などの関係で、
ウイルス粒子は安定して感染も起こりやすくなるけれど、
それを下回る相対湿度においては、
湿度が低いほど感染が起こりやすい、
という複雑な関係があることが報告されています。

以上はウイルス粒子の安定性から見たメカニズムです。

その一方で厚生労働省のサイトには、
人間の気道の粘膜の防御機能が、
相対湿度が低いと低下する、
という趣旨の説明がありますが、
その根拠はあまり明確なものがありません。

上記論文の記載をみても、
粘膜の防御機能などが湿度によってどう変化するかについては、
その根拠となる知見は限られているようです。

今回の研究はアメリカのエール大学などの研究チームによるもので、
ネズミによる動物実験ですが、
相対湿度が10から20%と低い環境と、
50%と通常の環境とで、
気道の防御機能の違いを比較検証しています。

その結果、
湿度が低いと気道粘膜の繊毛運動が低下し、
インフルエンザウイルス感染時に障害された、
粘膜の機能回復も遅れることが確認されました。

つまり、厚労省のサイトにあることも嘘ではなく、
インフルエンザ感染に対抗する粘膜の防御機能は、
湿度が10から20%では低下することが、
動物実験のレベルではありますが、
確認されたのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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