妊娠中と授乳期の甲状腺疾患治療ガイドライン(2017年ATA) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019 年のJAMA誌に掲載された、
2017版(最新)の妊娠中の甲状腺疾患治療ガイドラインについての解説記事です。
JAMAはアメリカの医師会雑誌で、
オリジナルの研究論文もありますし、
こうした主にアメリカの診療ガイドラインの解説記事も、
定期的に掲載されています。
妊娠中には甲状腺機能に変化が起こります。
妊娠初期には胎盤から分泌されるHCGが、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)様作用を持つことで、
甲状腺が刺激されホルモン値は少し上昇します。
これはまだ下垂体が形成されていない胎児に、
甲状腺ホルモンを与えるような働きがあるので、
理に適った変化なのです。
従って、妊娠初期には甲状腺機能は、
計測上はやや亢進しているのが正常で、
軽度の機能低下であっても、
胎児の健康に影響を与える可能性があります。
特に橋本病の抗体が陽性であると、
甲状腺ホルモンを効率的に作る力が弱いので、
その影響がより大きいと考えられています。
バセドウ病を合併して妊娠することもあり、
病状によっては抗甲状腺剤による治療が行われますが、
抗甲状腺剤により僅かながら胎児の先天性障害のリスクは増加するので、
妊娠初期の正常な機能亢進をバセドウ病と見誤らないことと、
より奇形などのリスクが少ない治療を、
選択することが必要となります。
こうした点を踏まえて、
2017年のアメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、
次のような提言がなされています。
①アメリカにおいては妊娠中に1日150μgのヨウ化カリウムのサプリメントを、ヨード欠乏の予防のために使用することが推奨される。(これはヨードの摂取量の多い日本においては、必要がありません)
②妊娠中にはTSHの基準値を妊娠時期に合わせて変更する必要がある。(これは妊娠7から12週の間においては、TSHの下限を40%上限を50%引き下げるのが妥当としています。ホルモン濃度は概ね1.5倍増加します)
③潜在性甲状腺機能低下症においては、TSHを指標としてホルモン補充療法を施行します。この場合の基準値は妊娠中のものを用い、橋本病の抗体が陽性の場合には、TSHが2.5を超えれば治療開始を検討します。(実際にはもう少し複雑です。下記の表をご覧下さい。
④甲状腺機能低下症で治療中の患者が妊娠した場合には、甲状腺ホルモンの補充量はT4の場合20から30%増やします。
⑤妊娠初期の甲状腺機能亢進症は、一時的な正常の妊娠に伴うものと、バセドウ病などによるものの両方の可能性があります。T4と比較して明らかにT3の上昇幅が大きく、バセドウ病の自己抗体(TSAb)が上昇していれば、バセドウ病の可能性が高くなります。抗甲状腺剤は妊娠16週までの間はチアマゾールではなくプロピルチオウラシルを使用します。
⑥授乳期の甲状腺機能低下症は軽症でも治療するべきとの意見があります。ただ、裏付けとなるデータは限られていて、強い推奨ではありません。
⑦妊娠時に甲状腺機能のチェックをルーチンで行うかどうかは、まだ異論があり現時点では推奨されていません。
以上です。
日本ではTSHが2.5を超えていれば、
甲状腺ホルモン剤が妊娠中は使用されることが多いと思いますが、
これはそもそもは橋本病の患者さんのみのデータで、
橋本病の抗体が陰性の場合に、
それが適切であるかどうかの根拠は乏しいのが実際です。
妊娠中の抗甲状腺剤の使用については、
これまで見解が二転三転していて、
一時はチアマゾールとプロピルチオウラシルのどちらを妊娠中に使用しても、
差はないというデータが日本発であり、
それが信用されていたのですが、
現在は妊娠初期ではプロピルチオウラシルの方が、
トータルな奇形の頻度がやや少なく、
重症の事例も少ないというデータが複数あることより、
上記のような方針となっています。
妊娠中期以降のリスクについては、
チアマゾールでも違いはないと考えられています。
上記のガイドラインはヨードのサプリメントのことを除けば、
日本でも全て当て嵌まるものと考えて良く、
現時点での世界標準的な考え方として、
もう一度しっかり押さえておきたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019 年のJAMA誌に掲載された、
2017版(最新)の妊娠中の甲状腺疾患治療ガイドラインについての解説記事です。
JAMAはアメリカの医師会雑誌で、
オリジナルの研究論文もありますし、
こうした主にアメリカの診療ガイドラインの解説記事も、
定期的に掲載されています。
妊娠中には甲状腺機能に変化が起こります。
妊娠初期には胎盤から分泌されるHCGが、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)様作用を持つことで、
甲状腺が刺激されホルモン値は少し上昇します。
これはまだ下垂体が形成されていない胎児に、
甲状腺ホルモンを与えるような働きがあるので、
理に適った変化なのです。
従って、妊娠初期には甲状腺機能は、
計測上はやや亢進しているのが正常で、
軽度の機能低下であっても、
胎児の健康に影響を与える可能性があります。
特に橋本病の抗体が陽性であると、
甲状腺ホルモンを効率的に作る力が弱いので、
その影響がより大きいと考えられています。
バセドウ病を合併して妊娠することもあり、
病状によっては抗甲状腺剤による治療が行われますが、
抗甲状腺剤により僅かながら胎児の先天性障害のリスクは増加するので、
妊娠初期の正常な機能亢進をバセドウ病と見誤らないことと、
より奇形などのリスクが少ない治療を、
選択することが必要となります。
こうした点を踏まえて、
2017年のアメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、
次のような提言がなされています。
①アメリカにおいては妊娠中に1日150μgのヨウ化カリウムのサプリメントを、ヨード欠乏の予防のために使用することが推奨される。(これはヨードの摂取量の多い日本においては、必要がありません)
②妊娠中にはTSHの基準値を妊娠時期に合わせて変更する必要がある。(これは妊娠7から12週の間においては、TSHの下限を40%上限を50%引き下げるのが妥当としています。ホルモン濃度は概ね1.5倍増加します)
③潜在性甲状腺機能低下症においては、TSHを指標としてホルモン補充療法を施行します。この場合の基準値は妊娠中のものを用い、橋本病の抗体が陽性の場合には、TSHが2.5を超えれば治療開始を検討します。(実際にはもう少し複雑です。下記の表をご覧下さい。
④甲状腺機能低下症で治療中の患者が妊娠した場合には、甲状腺ホルモンの補充量はT4の場合20から30%増やします。
⑤妊娠初期の甲状腺機能亢進症は、一時的な正常の妊娠に伴うものと、バセドウ病などによるものの両方の可能性があります。T4と比較して明らかにT3の上昇幅が大きく、バセドウ病の自己抗体(TSAb)が上昇していれば、バセドウ病の可能性が高くなります。抗甲状腺剤は妊娠16週までの間はチアマゾールではなくプロピルチオウラシルを使用します。
⑥授乳期の甲状腺機能低下症は軽症でも治療するべきとの意見があります。ただ、裏付けとなるデータは限られていて、強い推奨ではありません。
⑦妊娠時に甲状腺機能のチェックをルーチンで行うかどうかは、まだ異論があり現時点では推奨されていません。
以上です。
日本ではTSHが2.5を超えていれば、
甲状腺ホルモン剤が妊娠中は使用されることが多いと思いますが、
これはそもそもは橋本病の患者さんのみのデータで、
橋本病の抗体が陰性の場合に、
それが適切であるかどうかの根拠は乏しいのが実際です。
妊娠中の抗甲状腺剤の使用については、
これまで見解が二転三転していて、
一時はチアマゾールとプロピルチオウラシルのどちらを妊娠中に使用しても、
差はないというデータが日本発であり、
それが信用されていたのですが、
現在は妊娠初期ではプロピルチオウラシルの方が、
トータルな奇形の頻度がやや少なく、
重症の事例も少ないというデータが複数あることより、
上記のような方針となっています。
妊娠中期以降のリスクについては、
チアマゾールでも違いはないと考えられています。
上記のガイドラインはヨードのサプリメントのことを除けば、
日本でも全て当て嵌まるものと考えて良く、
現時点での世界標準的な考え方として、
もう一度しっかり押さえておきたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-05-27 05:53
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