イキウメ「獣の柱」(2019年再演版) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
哲学的で観念的な劇作と、
シャープで鋭利な演出で人気の劇団イキウメが、
2013年に図書館的人生のシリーズとして上演した作品を、
かなり内容に手を入れて、
装いを新たに再演しています。
これは非常に良かったです。
ある事件をきっかけにした架空年代記もので、
「散歩する侵略者」と「太陽」と並んで、
前川知大さんの現在までのベストと言って良いものだと思います。
「散歩する侵略者」は何度かヴァージョンが変わっていて、
最初のものはホラーミステリーに近いものでしたが、
最近のものは大分架空年代記ものに寄せていると思います。
個人的には初期のホラーミステリー的なもの、
特にひねりのある「関数ドミノ」や、
「プランクトンの踊り場」(後に「聖地X」に書き換え)辺りが、
他にないスタイルで好きだったのですが、
前川さんご本人はあまりこうしたどんでん返しのあるような、
ミステリータッチの作品は好みではないようで、
最初は僕もホラーミステリーを求めていたので、
年代記ものにはかなり違和感があったのですが、
最近は「これもありだな」と思えるようになっています。
そのきっかけになったのは「太陽」の再演で、
これは非常に充実した舞台でした。
今回の「獣の柱」の再演はそれに迫るものだと思います。
これは2003年にまず「快楽を与える隕石」という、
導入部のみが短編として創作され、
2013年にその後巨大な快楽を与える柱が、
地球全土に振り注いで、
それをきっかけに人間の社会が大きな変革を求められる、
という長編にブローアップされました。
2013年版は観ているのですが、
正直あまり良い印象は残っていません。
どうしても2011年の震災と重ねて考えてしまう、
というところがありましたし、
宗教が絡んだりして、内容にやや散漫な印象がありました。
池田成志さんが客演でしたが、
イキウメのスタイルに、
合わなかったように思います。
今回のバージョンは、
基本的には2013年版を踏襲しているのですが、
2000年と2051年を主な舞台としていて、
年代記としての性質がより明確になり、
震災とは無関係の創作であることも明確化されています。
オープニングに客席に向かって浜田信也さんが話し始めるので、
ちょっと危うい感じがしたのですが、
その後は2000年の災厄が、
比較的リアルに活写されていて時代の変化も分かりやすく、
話が膨らんでゆく辺りも自然でした。
ラストは最初に戻るのですが、
オープニングの意味が腑に落ちる感じになっていて、
それでいて種明かしはしないというか、
異常な現象の意味を、
語ることなく終わるというオープンエンドも好印象でした。
これは「太陽」と同じく、
今の社会と対比するような感覚で、
味わうべき物語ではないと思うのです。
純然たるイマジネーションの産物として、
かつてのSFのように、
架空の年代記として味わうべき物語です。
それをここまでの精度で舞台化することは、
現行前川さん以外では到底実現出来ない力業です。
今回はまたキャストが良かったですね。
これはキャスト全員に、
「快楽の魔力に囚われる」という場面があって、
それを各々の演技力で形にする訳です。
男優陣は皆充実していて、
いい塩梅に熟成感があるので、
その競演を見るだけでも演劇の楽しみがあります。
女優陣は今は毎回定まらないのですが、
今回は核になる村川絵梨さんがとても良くて、
さすが朝ドラのヒロインもやっただけあって華があり、
作品がぐっと締まった感じです。
また是非出てほしいな。
初演の池田成志さんの役は市川しんぺーさんで、
イキウメの出演経験もありますし、
こなれた芝居でうさん臭さもあるので、
なかなかの好演だったと思います。
そんな訳でイキウメの良さが十全に発揮された快作で、
2時間15分が決して長く感じられませんでした、
とんでもないほら話を、
とてもリアルに切実に感じさせた、
見事なお芝居だったと思います。
お薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
哲学的で観念的な劇作と、
シャープで鋭利な演出で人気の劇団イキウメが、
2013年に図書館的人生のシリーズとして上演した作品を、
かなり内容に手を入れて、
装いを新たに再演しています。
これは非常に良かったです。
ある事件をきっかけにした架空年代記もので、
「散歩する侵略者」と「太陽」と並んで、
前川知大さんの現在までのベストと言って良いものだと思います。
「散歩する侵略者」は何度かヴァージョンが変わっていて、
最初のものはホラーミステリーに近いものでしたが、
最近のものは大分架空年代記ものに寄せていると思います。
個人的には初期のホラーミステリー的なもの、
特にひねりのある「関数ドミノ」や、
「プランクトンの踊り場」(後に「聖地X」に書き換え)辺りが、
他にないスタイルで好きだったのですが、
前川さんご本人はあまりこうしたどんでん返しのあるような、
ミステリータッチの作品は好みではないようで、
最初は僕もホラーミステリーを求めていたので、
年代記ものにはかなり違和感があったのですが、
最近は「これもありだな」と思えるようになっています。
そのきっかけになったのは「太陽」の再演で、
これは非常に充実した舞台でした。
今回の「獣の柱」の再演はそれに迫るものだと思います。
これは2003年にまず「快楽を与える隕石」という、
導入部のみが短編として創作され、
2013年にその後巨大な快楽を与える柱が、
地球全土に振り注いで、
それをきっかけに人間の社会が大きな変革を求められる、
という長編にブローアップされました。
2013年版は観ているのですが、
正直あまり良い印象は残っていません。
どうしても2011年の震災と重ねて考えてしまう、
というところがありましたし、
宗教が絡んだりして、内容にやや散漫な印象がありました。
池田成志さんが客演でしたが、
イキウメのスタイルに、
合わなかったように思います。
今回のバージョンは、
基本的には2013年版を踏襲しているのですが、
2000年と2051年を主な舞台としていて、
年代記としての性質がより明確になり、
震災とは無関係の創作であることも明確化されています。
オープニングに客席に向かって浜田信也さんが話し始めるので、
ちょっと危うい感じがしたのですが、
その後は2000年の災厄が、
比較的リアルに活写されていて時代の変化も分かりやすく、
話が膨らんでゆく辺りも自然でした。
ラストは最初に戻るのですが、
オープニングの意味が腑に落ちる感じになっていて、
それでいて種明かしはしないというか、
異常な現象の意味を、
語ることなく終わるというオープンエンドも好印象でした。
これは「太陽」と同じく、
今の社会と対比するような感覚で、
味わうべき物語ではないと思うのです。
純然たるイマジネーションの産物として、
かつてのSFのように、
架空の年代記として味わうべき物語です。
それをここまでの精度で舞台化することは、
現行前川さん以外では到底実現出来ない力業です。
今回はまたキャストが良かったですね。
これはキャスト全員に、
「快楽の魔力に囚われる」という場面があって、
それを各々の演技力で形にする訳です。
男優陣は皆充実していて、
いい塩梅に熟成感があるので、
その競演を見るだけでも演劇の楽しみがあります。
女優陣は今は毎回定まらないのですが、
今回は核になる村川絵梨さんがとても良くて、
さすが朝ドラのヒロインもやっただけあって華があり、
作品がぐっと締まった感じです。
また是非出てほしいな。
初演の池田成志さんの役は市川しんぺーさんで、
イキウメの出演経験もありますし、
こなれた芝居でうさん臭さもあるので、
なかなかの好演だったと思います。
そんな訳でイキウメの良さが十全に発揮された快作で、
2時間15分が決して長く感じられませんでした、
とんでもないほら話を、
とてもリアルに切実に感じさせた、
見事なお芝居だったと思います。
お薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2019-05-26 07:09
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