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トランスジェンダーと乳癌リスク(性転換後のリスクは?) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トランスジェンダーと乳癌リスク.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
性別を変更した場合の乳癌リスクの変化についての論文です。

性差というのは、
病気のリスクという点では、
医学で重要視されて来た分類です。

かなり多くの病気において、
その原因は分かっているものもあれば不明のものもありますが、
性別による発症率の差があることは、
間違いのない事実であるからです。

乳癌は性差のある病気の代表的なもので、
女性で発達した乳腺組織が、
女性ホルモンのよる長期の刺激を受けることにより、
発症することが分かっていて、
そのため女性に圧倒的に多く、
男性でも発症することはありますが、
極めて少ないというタイプの癌です。

従って、乳癌検診は女性にはありますが、
男性にはありません。

ただ、トランスジェンダーの方が増え、
女性から男性に、
また男性から女性に、
性別の転換が行われるようになると、
性別と病気との関係という概念も揺らいて来ます。

生物学的性別としては男性として生まれ、
後から獲得された性別に合わせて女性となり、
女性ホルモン剤を使用しているというようなトランスジェンダーの女性では、
乳癌のリスクは通常の女性とどのように違うのでしょうか?

今回のオランダの疫学研究では、
2260名のトランスジェンダーの女性(生物学的男性に生まれ女性に性転換)と、
1229名のトランスジェンダーの男性(生物学的女性に生まれ男性に性転換)を、
性別の変わらない女性や男性と比較して、
その乳癌リスクの違いを比較検証しています。

その結果、
2260名のトランスジェンダーの女性を、
長期間観察したところ15例の浸潤性乳癌が診断され、
女性ホルモン療法の継続期間の中央値は18年でした。

これをマッチングした性別の変わらない男性と比較すると、
乳癌のリスクは46.7倍(95%CI: 27.2から75.4)有意に増加していました。
ただ、これを性別の変わらない女性と比較すると、
0.3倍(95%CI:0.2から0.4)と有意に低値でした。
発生した乳癌の多くは乳管由来で、
女性ホルモンの受容体は83%で陽性でした。
またマーカーのHER2は8.3%で陽性でした。

トランスジェンダーの男性1229名の解析では、
男性ホルモン使用期間の中間値が15年で、
4名の浸潤性乳癌が診断され、
そのリスクは性別の変わらない女性と比較すると、
0.2倍(95%CI: 0.1から0.5)と有意に低値となっていました。

このように、
出生時の性別は男性のトランスジェンダーの女性で、
乳腺が存在していて女性ホルモンの使用が継続すると、
中間値で18年という比較的短期間でも乳癌が発症していて、
そのリスクは性転換していない女性と比較すれば少ないものの、
元の性別の男性と比較すれば46倍以上という高率になっています。

これは要するに、
乳癌というのは性別に特定の癌ではなくて、
女性ホルモンの影響がある程度の期間ありさえすれば、
発症する癌であるということになります。

上記文献の解説では、
乳癌検診の考え方としては、
その時点で女性ホルモンに曝露されていれば、
トランスジェンダーの女性であってもそうでなくても、
同じように乳癌検診を受けることが必要にして充分ではないか、
というように記載されています。

性別の転換や長期のホルモンの使用が、
格別特殊なことではなくなった現在、
性差のある病気のリスクについては、
色々と検証をし直す必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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