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ナトリウムとカリウムの排泄量と心血管疾患リスク(2021年複数回測定データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
大腸ファイバー検査の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナトリウムとカリウムと健康2021.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年11月13日ウェブ掲載された、
ナトリウムとカリウムの摂取量と、
心血管疾患リスクとの関連を検証した論文です。

塩分は毎日どのくらい摂るのが最も健康的なのでしょうか?

これはまだ完全には解決されていない問題です。

日本人は欧米人と比較すると、
伝統的な食生活においては、
塩分が多く脂質は少ないという特徴がありました。

かつての日本人は平均で1日20グラム以上という、
非常に沢山の塩分を摂っていて、
そのために脳卒中や胃癌が多かったのです。

その一方で欧米では、
塩分の摂取はそれほど多くない一方で、
脂質の摂取量は多く、
そのために心筋梗塞が多かったのです。

高血圧は脳卒中のリスクにもなり、
また心筋梗塞のリスクにもなりますが、
塩分の摂取量を減らすことにより、
高血圧の患者さんでは血圧が減少することが実証され、
そのことから、
塩分は制限すればするほど健康的である、
という考えが一般にも広まりました。

WHOは2025年までに、
塩分の摂取量を1日5グラム未満にすることを目標に掲げています。

ところが、2011年のJAMA誌に、
びっくりするような論文が発表されました。

高血圧の患者さんにおいて、
塩分摂取量の目安になる尿中のナトリウムの排泄量を、
病気のリスクと比較検証したところ、
尿中ナトリウム排泄量が4から6グラムの間が、
最も心筋梗塞や心不全、脳卒中による入院のリスクが小さくなり、
それより多くても少なくても、
そのリスクは増加する、
という結果が得られたのです。

尿中ナトリウム排泄が4グラムと言うのは、
食塩の1日の摂取量が10グラムくらいに相当します。

つまり、1日10グラムを切るような塩分制限は、
却って有害な可能性がある、という結果になっていたのです。

ただ、このデータは高血圧の患者さんの臨床試験のデータを、
後から解析したものなので、
病気による影響が否定出来ません。

それで、
高血圧の方もそうでない方もひっくるめて、
10万人余という対象者を登録して、
前向きにその予後を観察するという研究が、
同じ研究者のグループによって、
2014年8月のNew England…誌に発表されました。

それがPURE研究です。

対象者は世界中からエントリーされていますが、
42%は中国からの登録です。
それを含めて半数はアジアという布陣です。

24時間のナトリウム排泄量は、
平均で4.93グラムで、
カリウム排泄量は平均で2.12グラムです。
このナトリウム排泄量は、
食塩摂取量が12.5グラムに相当します。

3.7年の観察期間中に、
3.3%に当たる3317名に、
心血管疾患の発症や死亡が起こっています。

これをナトリウム排泄量から推測される食塩摂取量と対比させると、
ナトリウム排泄量が3から6グラム
(食塩摂取量で推定7.6グラムから15.2グラム)
の間が最も死亡と心血管疾患の発症リスクが低く、
それより高くても低くても、
リスクが増加することが確認されました。
一方でカリウムの排泄量に関しては、
それが少ないほどリスクは増加し、
排泄量が2グラムを越えると、
そのリスクの低下はなだらかになりますが、
ナトリウムのように逆転する傾向は認められていません。

この傾向は高血圧や基礎疾患のあるなしに関わらず、
同じように存在していましたが、
高血圧が存在していると、
ナトリウム排泄量と予後との関連はより強いものとなり、
その場合にはナトリウム排泄量が3グラム未満であっても、
ナトリウム排泄量が増えるほど、
リスクの増加は認められました。

要するに、2011年のJAMA誌の報告とほぼ同じように、
塩分摂取は多くても少なくても心血管疾患のリスクになっていたのです。

ただ、この研究に関しては、
尿の検体が1回しか採取されておらず、
それが本当にナトリウムやカリウムの摂取量を、
反映しているのかどうかという指摘があります。

そこで今回の研究では、
6つの大規模な疫学データをまとめて解析することで、
最低でも2回以上のナトリウムとカリウムの尿中排泄量を測定したデータと、
心血管疾患リスクとの関連を検証しています。

トータルで10709名(平均年齢51.5歳)の対象者に
中間値で8.8年の経過観察を行なったところ、
年間1000人当たり5.9件という頻度で、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患が発症していました。

これを2回以上採取された24時間尿の、
ナトリウムとカリウムの排泄量と比較したところ、
食塩摂取量に換算して概ね5グラムから15グラムのレベルにおいて、
ナトリウムの推計の摂取量が多いほど、
直線的に心血管疾患のリスクは増加しており、
カリウムの摂取量については多いほど、
心血管疾患のリスクは低下していました。

つまり、PURE研究にあったような、
ナトリウムの摂取量が低くても高くても、
心血管疾患のリスクは増加するという関連性は、
今回は認められなかったのです。

ナトリウムとカリウムの適切な摂取量がどれくらいか、
という問題は、
まだ解決してはいないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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5から11歳の小児へのファイザー社新型コロナワクチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談やインフルエンザワクチン接種で、
都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナワクチンの小児への効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年11月9日掲載された、
12歳未満の年齢への、
ファイザー・ビオンテック社新型コロナウイルスワクチンの、
有効性と安全性についての論文です。

ファイザー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチンが、
現行その使用が認められている、
12歳以上の年齢層において、
短期的には高い有効性と安全性とが確認されていることは、
実地臨床において確認されている事実です。

そこで現状問題となっているのが、
12歳未満の年齢におけるワクチンの使用法と、
その有効性及び安全性です。

今回の臨床試験においては、
まず第1相臨床試験として、
48名の5から11歳の小児を16名ずつの3つの群に分け、
通常の使用量である30μgの抗原量のワクチンと、
それより少ない10μgと20μgという少量を投与して、
その免疫原性と抗体産生反応に、
大きな差はないことを確認、
発熱などの副反応は30μgで有意に多かったことより、
通常量の3分の1である10μgを、
5から11歳の適正量として選択しています。

次に第2、3相の臨床試験として、
5から11歳の2268名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は10μgの抗原を含むワクチンを2回接種し、
もう一方は偽ワクチンを接種して、
その効果と安全性を比較検証しています。
その結果2回目接種後1ヶ月後の抗体上昇は、
16から25歳に通常量のワクチンを接種した場合と、
明確な差は認められませんでした。
重篤な有害事象はワクチン群で確認されませんでした。
ワクチン2回目接種後7日以降における、
有症状新型コロナウイルス感染症の予防効果は、
90.7%(95%CI:67.7から98.3)と算出されました。

こうした臨床試験の結果から、
アメリカなどで5から11歳への、
3分の1量でのワクチン接種が承認され、
日本でも承認の方向となっているのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対する吸入と経鼻ステロイドの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19へのステロイド治療の効果.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年11月2日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
吸入と経鼻ステロイド治療の有効性を検証した論文です。

吸入ステロイドが、
新型コロナウイルス感染症の重症化予防に、
有効なのではないかという知見は、
日本では第1波の流行初期の時点からあり、
臨床的には実際に試みられて、
一般向けのニュースにさえなっていました。

それはシクレソニド(商品名オルベスコ)という、
ややマイナーな吸入ステロイドについての知見でした。

オルベスコを使用することにより、
新型コロナウイルス感染症の予後が劇的に改善し、
それはオルベスコに特異的な、
抗ウイルス作用によるらしい、という情報でした。

ただ、他の吸入ステロイドでは効果がなく、
オルベスコのみが有効というのは、
あまり説得力のない見解で、
その抗ウイルス作用は国立感染症研究所で行われた、
基礎研究のデータによるという説明でしたが、
その時点でそうしたデータは公開されていなかったので
(その後確かにデータは論文化されましたが、
あまり話題にする人はいませんでした)、
その話を信用した方が良いのか悪いのか、
迷うような思いもありました。

吸入ステロイドは気道の炎症を抑え、
喘息発作などの急性増悪を予防する効果があるので、
新型コロナウイルス感染症に伴う、
急激な呼吸器症状の悪化を、
予防するのではないか、という期待があります。

その一方でステロイドは免疫を抑制しますから、
感染症や肺炎はむしろ増悪するというリスクも否定は出来ません。

その後オルベスコの有効性は、
あまり声高に言う人がいなくなり、
国立国際医療センターで少数例での臨床試験が行われて、
オルベスコを使用した方が肺炎の発症が多かった、
という結果であったので、
「オルベスコは無効」と報道され、
日本でのオルベスコによる新型コロナ治療は、
一気にしぼんでしまいました。

この顛末はどうも不可解なところが多いのです。

それほどの根拠がないのに、
まるで特効薬のように扱われ、
臨床でも積極的に使用されたのも強引で不思議ですし、
その一方でオルベスコが無効とされた臨床試験も、
とても精度の高いものとは思えず、
オルベスコを完全否定する根拠としては脆弱なのに、
それで使用が打ち切りになったのも不思議です。

それはともかく、
吸入ステロイドによる新型コロナウイルス感染症治療は、
日本では消えうせた一方で、
海外ではそれなりに注目を集めるようになってきています。

先日ご紹介したLancet Respiratory Medicine誌に掲載された研究では、
シクレソニド以外の吸入ステロイドであるブデソニドを使用して、
一定の有効性が得られたとする結果が報告されています。

今回の検証はカナダにおいて、
シクレソニドを吸入と経鼻と併用で使用し、
新型コロナウイルス感染症の外来患者への有効性を比較しています。

18歳以上で発熱や咳息切れなどの症状を伴い、
遺伝子検査で新型コロナウイルス感染症と診断された外来患者、
トータル203名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は吸収ステロイドのシクレソニドを1日600μgで2回、
経鼻で1日200μgで1回使用し、
もう一方は生理食塩水のみを使用して、
14日間の経過観察を行なっています。

その結果治療開始後7日以内に症状が改善したのは、
実薬群では40%に対して、偽薬群では35%で、
この差は統計的には有意ではありませんでした。
事例は比較的若く合併疾患も少なかったため、
明確な差が付かなかった可能性が示唆されました。

このように、
吸入と経鼻ステロイドが、
新型コロナウイルス感染症の有症状期間短縮に、
一定の有効性がある可能性は、
否定は出来ませんが、
その有効性の検証は現時点ではまだ不充分であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ感染症後の持続症状と感染との関連(フランスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Long COVIDの実体.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年11月8日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症後の持続する体調不良と、
感染との関連についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
だるさや微熱などの症状が長期間持続することや、
肺疾患や生活習慣病などの全身疾患が、
新たに生じることも多いことは、
これまでにも多くの報告があります。

ただその名称自体も様々で、
以前ご紹介したイギリスの疫学データでは、
COVID-19罹患後症候群という概念で、
初発から12週間以上持続する症状を定義していましたが、
これも以前ご紹介したアメリカの論文では、
より広く発症から21日以上持続する体調不良を、
シンプルに後遺症と表現していました。
また、「long COVID」という表現が今回の論文では使用されていますが、
これも最近比較的多い表現です。

ただ、実際にどれだけの症状が、
新型コロナウイルスの感染それ自体と、
直接的な関連を持つものであるのか、
と言う点については、
必ずしも明らかではありません。

今回の検証はフランスにおいて、
新型コロナウイルス感染症の流行期に、
35852名の住民をインターネットで募集して登録し、
郵送による新型コロナウイルスの抗体検査を施行。
ネットを介したアンケートによる、
持続する身体症状と抗体との関連を比較検証しています。

その結果、
アンケートで新型コロナウイルス感染症に罹患した、
と答えたことと、
その後8週間持続する体調不良の多くとの間には、
有意な関連が認められ、
筋肉痛や全身倦怠感、頭痛、胸部痛、息切れなどの症状について、
1.39から16.37倍というリスク増加が認められました。

しかし、
これを新型コロナウイルス抗体陽性との関連でみると、
臭いが分からなくなる無嗅覚症のリスクが、
2.72倍(95%CI:1.66から4.46)有意に増加していた以外は、
症状と抗体陽性との間に有意な関連は認められませんでした。

これはネットのアンケートが主体のデータですし、
郵送で送られた検査キットの結果が、
確実に本人のものとは確認出来ないなど、
問題もあるデータなので注意が必要ですが、
本人の申し出と抗体価による確認とで、
新型コロナ感染症の後遺症のリスクに、
大きな差があるという結果は興味深く、
今後新型コロナ後遺症の明確な診断基準については、
より実証的な検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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阿佐ヶ谷スパイダース「老いと建築」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
老いと建築.jpg
阿佐ヶ谷スパイダースの新作公演が、
今吉祥寺シアターで上演されています。
長塚圭史さんの新作です。

今回は村岡希美さんを主演に、
1つの家の運命が、
そこに理想を見出した女性の人生と、
リンクして展開する物語です。

僕はかつての長塚圭史さんの「はたらくおとこ」などの作品に、
とても感銘と衝撃とを受けたので、
最近の抑制的な表現と過激を封印した劇作が、
勿論藝術は時間と共に変化することは当然ですが、
正直物足りなく思えることは事実です。

映画も傑作だったフロリアン・ゼレールの「ファーザー」は、
認知症の老人の意識の流れを、
エチュードのように構成した作品でしたが、
その影響は明らかにありそうで、
この作品では認知症の女性の意識の中で、
過去と現在と現実と幻想とが、
複雑に交錯しつつ展開されます。

また、村岡さんが主役だからということでもないのでしょうが、
この作品は結構ケラ作品、
特に「100年の秘密」や「わが闇」辺りに似た雰囲気で、
「家」という建築が1つの主役となっている点も同じですし、
1つの家の謎を含めた年代記を、
過去と現在を交錯させつつ描くというところも同じです。

ただ、こういう作風が、
本当に長塚さんに合ったものなのか、
と言う点で考えると、
少し疑問に感じざるを得ません。
ダブルミーニングというか、
最初の方で主人公が家を要塞に見立てて、
その意味が最後になって初めて分かる、
というような技巧を使っているのですが、
あまり腑に落ちたという感じにならないんですね。
こういうのは、野田秀樹さんが抜群に上手いでしょ。
同じ台詞が全く別の文脈で響くという感じ。
演劇ならではの戦慄がありますよね。
そういう感じはこの作品にはなくて、
正直今ひとつの感じが否めません。

セットもただ大きな柱を立てただけ、
という感じの抽象的なものなんですね。
枯れ葉を床に播いてそれが舞ったりして、
工夫されていることは分かるんですが、
この内容だと、もう少し建築としての家の輪郭が、
クリアに可視化されて欲しいという感じが強くします。
ケラ作品はもっとお金を掛けて、
リアルに旧家を再現していましたよね。
何でもお金を掛ければ良い、
という訳ではないのですが、
この内容で肝心の建築が可視化されない、
というのはないのではないかと思うのです。

今回の新作はここ数年の長塚さんの作品の中では、
最も平明で分かり易いもので、
役者さんも適材適所で良かったと思いますし、
鑑賞したのは平日でしたが、
客席はほぼ埋まっている盛況でした。

ただ、長塚さんには、
正直もっと胸騒ぎのするような熱のある舞台を、
やって欲しいなと思いますし、
今回の作品はこれはこれで良いとして、
次はまた枯れない情熱を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「マリグナント 狂暴な悪夢」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マリグナント.jpg
ソウシリーズの異才、ジェームズ・ワン監督の、
新作ホラー映画が今公開されています。

複雑な生い立ちのキャリアウーマンの女性が、
奇怪な謎の黒衣の殺人鬼につきまとわれ、
その殺人を何故か同時に体験するようになります。
殺人鬼の怪人の正体は、
一体何なのでしょうか?

これね、おバカホラー映画なんですよ。
かなりぶっ飛んだ作品なんです。
怪人の正体、どうですか、馬鹿でしょ。
でも馬鹿過ぎて楽しいし興奮もするのです。
最後はちょっと切なくもなります。
最初は、どうかなあ、という感じで見ていて、
あっ、これはゴシックホラーの古城だよね、とか、
ここはマリオ・バーバのやり口で、
ここは「リング」の換骨奪胎で、
「悪魔の棲む家」もちょっと入れてるのね、
とかと思いながら、少しウトウトもしながらダレていたのですが、
後半になると異様に盛り上がって、
なるほどこれがやりたかったのね、
と得心して嬉しくなりました。

これは80年代くらいのホラーを復活させた、
という感じの作品なんですね。

クローネンバーグの「スキャナーズ」や「ビデオドローム」、
トビー・フーパーの「スペースバンパイア」、
デ・パルマの「悪魔のシスター」や「フューリー」、
当たりが好きな人ならどんぴしゃりの感じ。
本当はもっと良く似た作品が他にあるのですが、
それを出すとネタばれになるので止めておきます。

サイコスリラーのムードのある謎めいた前半から、
怪人の正体が明らかになると、
今度は力感のある活劇になり、
ラストはホラーならではの奇妙な情感に満ちたラストに至ります。

こういうのはDCコミックスの悪役に、
もっとスタイリッシュで質の高い表現が、
今では実現されているんですよね。
でも、CGのメタモルフォーゼを含めて、
あそこまで完成度が高くなってしまうと、
逆に面白みや不気味さが乏しくなって、
その特殊な情感や興奮みたいなものも、
往々にして薄まってしまうのです。

今回の作品はその点を分かった上で、
マペットなどを最大限に利用して、
怪人の表現にはCGの効果を殆ど使わず、
80年代ホラーのテイストをそのままに再現しているんですね。

それがね、皆さんはどうか分かりませんが、
とても良い感じなんですね。
勿論80年代ホラーですから、
悪趣味の極みのような世界ではあるのですが、
それを容認して頂いた上でその世界に浸ると、
ああ、やっぱりこれだよね、
という、ホラーの理想形に近い感じが確かにあるのです。

80年代ホラーの絶望的にざらついて、
希望の欠片もないような感じが、
今の社会に意外にフィットしているような気がします。

そんな訳でこの映画は、
今ならではの感じ、現代的な感じはないのですが、
80年代ホラーの再現としてはとても完成度が高く、
おバカホラー映画としては、
とても愛すべき力作だと思います。

こうした映画の好きな方には、
とてもとてもお勧めです。

何真面目に馬鹿なことをやってるの、
と楽しくなるような映画です。
この間の「キャンディマン」や「ハロウィンKILLS」の、
100倍くらいは面白いですよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症へのステロイドの用量比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日なのでクリニックは休診ですが、
人間ドックの受診予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
デキサメサゾンの容量と有効性.jpg
JAMA誌に2021年10月21日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
ステロイド治療の用量についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の治療薬は、
抗体療法や飲み薬など多くが開発され、
臨床でも使用されていますが、
その殆どは緊急使用的扱いで、
使用されてはいるものの、
高いレベルでその有効性と安全性が確認されている、
というようには言えません。

その中で最もその有効性が確認されているのが、
中等症から重症に事例における。
ステロイド剤の使用です。

これは通常デキサメサゾンを1日6mg、10日間を上限に使用する、
というのが一般的な使用法ですが、
一部の臨床試験においては、
1日12mgかそれに相当する量の別の種類のステロイド剤が使用され、
有効であったと報告されています。

それでは、1日6mgのデキサメサゾンと比較した時、
より高用量のステロイド剤の使用により、
より高い有効性が得られるのでしょうか?

今回の臨床試験はヨーロッパとインドの26の病院において、
重症の新型コロナウイルス感染症の事例、
トータル1000例を登録してくじ引きで2つの群に分けると、
一方はデキサメサゾン1日6mgの通常治療を行ない、
もう一方はより高用量の1日12mgを使用して、
その経過を90日間まで比較検証しています。

その結果、
死亡リスクについては28日時点でも、90日時点でも、
高用量と比較して通常用量において、
やや高い傾向は認められたものの、
統計的に有意な差は認められませんでした。
その有害事象についても、
両群に明確な差は認められませんでした。

このように、
今回の検証では高用量のステロイド剤の有効性は、
明確には示されませんでした。
ただ、その有効性を完全に否定出来るという結果ではなく、
今後もステロイドの適正な用量については、
議論が続くことになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血小板増多とがん発症リスクとの関連(カナダの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血小板とがん.jpg
JAMA Network Open誌に、
2021年8月12日ウェブ掲載された、
血小板増多とがんとの関連についての論文です。

複数の癌において血小板の増多が見られるというのは、
19世紀半ばに既に報告があるほど古い知見です。
癌は多くの場合炎症と関連があり、
炎症は血小板の増多と関連しますから、
これはそれほど意外ということではありません。
癌の増殖はまた凝固を亢進させますから、
これも血小板増多の原因となります。

もしこの血小板の増多が、
癌が診断されるより早期から認められる所見であるとすると、
血小板増多が隠れている癌を発見する、
手掛かりになるという可能性があります。

今回の研究は、
カナダ、オンタリオ州の住民3386716名のデータを解析することにより、
血小板増多とその後の癌リスクとの関連を比較検証しているものです。
そのうち51624名が血小板数45万以上の血小板増多を示していました。
これを血小板数が基準値内の対象者とマッチングさせて、
その後の癌の発症と比較したところ、
血小板増多が確認されてから2年以内の固形癌の発症リスクは、
血小板増多がない場合と比較して、
2.67倍(95%CI:2.56から2.79)有意に増加していました。
癌の種類毎の解析では、
卵巣癌リスクが7.11倍(95%CI:5.59から9.03)、
胃癌が5.53倍(95%CI:4.12から7.41)、
大腸癌が5.41倍(95%CI:4.80から6.10)、
肺癌が4.41倍(95%CI:4.02から4.85)、
腎臓癌が3.64倍(95%CI:2.94から4.51)、
食道癌が3.64倍(95%CI:2.46から5.40)、
それぞれ有意に増加していました。

このように、
原因不明の血小板増多は、
その後2年以内の癌リスクと強い関連があり、
特に卵巣癌や消化管の癌などの癌の可能性について、
検査を検討する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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007 ノー・タイム・トゥ・ダイ [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ノータイムトゥダイ.jpg
007シリーズの最新作で、
ダニエル・クレイグが最後のジェイムズ・ボンドを演じた映画が、
今ロードショー公開されています。

007シリーズは、
ショーン・コネリー版は主にテレビで、
何度も繰り返し観ていましたが、
ロジャー・ムーア版の「私を愛したスパイ」が、
ロードショーを劇場で鑑賞した最初です。
これは公開当時は、かつての007ものの復活、
というような評価があって、2回映画館に足を運びました。
次の「ムーンレイカー」も観ましたが、
ジョーズという悪役のコミカルな芝居など、
コメディ色が強くちょっと脱力しました。
その後は数本に1回くらい観ましたが、
正直あまり印象はありません。

前作の「スペクター」は映画館で観ていて、
オープニングなど迫力があってなかなかでしたが、
クライマックスは少しショボいと感じました。

今回の新作も、アバンタイトルはとても良かったですね。
余韻も迫力も充分で、
それで1本映画を観たような気分。
ただ、その後は少しダレる感じでしたね。
悪役が何か間抜けで弱いですよね。
最初から女の子1人殺せない訳ですし、
偉そうなことを言っている間に、
簡単に基地を壊されちゃうという具合でしょ。
これじゃ駄目だよね。
ラストの流れは「アベンジャーズ」みたいでしたね。
ああいう盛り上げが今の王道なんですね。
ただ、ああいう仰々しい盛り上がりを、
スパイ映画の骨格に入れ込むのは、
少し無理があるように感じました。

結局007シリーズとしては規格外のラストになった訳で、
これからどうするつもりかしら、
と思わなくもない一方、
アベンジャーズシリーズなどを観ていれば、
どうとでもなることは明らかなようにも思いますから、
これで打ち止めにはしない方針であるようですし、
少しおっかなびっくりの気分で、
次作を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対する中和抗体ソトロビマブの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
1日中インフルエンザワクチン接種で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ソトロビマブの効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年10月27日ウェブ掲載された、
新しい新型コロナウイルス感染症の初期治療薬、
中和抗体製剤のソトロビマブの臨床試験結果をまとめた論文です。

新型コロナウイルス感染症の今後の治療において、
重要であるのはその病気の初期に投与して、
その重症化や進行を抑制するための治療薬です。

その目的で現行使用されているのは、
中和抗体2種のカクテル療法ですが、
それに加えて今その有効性の期待されている薬剤の1つが、
グラクソ・スミスクライン社が開発したソトロビマブです。

ソトロビマブ(sotrovimab)は、
もともとSARSウイルス(SARS-CoV-1)の患者から発見された中和抗体で、
それがその後新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にも、
中和抗体として有効であることが確認されたのです。

今回の第3相臨床試験では、
有症状の新型コロナウイルス感染症に罹患して、
肥満や高齢、肺疾患など病気進行のリスクのある。
症状出現後5日以内の早期の患者、
トータル583名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はソトロビマブを1回500mgで単回注射で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
その後24時間以降29日以内の入院もしくは死亡のリスクを、
比較検証しています。

その結果、
ソトロビマブ群の1%に当たる3名と、
偽薬群の7%に当たる21名が、
入院もしくは死亡していて、
ソトロビマブは入院もしくは死亡のリスクを、
85%(97.24%CI:44から96)有意に低下させていました。
ただ、死亡の事例は偽薬群の1例のみです。
有害事象については偽薬群で有意な差はありませんでした。

このように、
早期投与で一定の有効性が期待される結果が得られました。
ただ、実際には重症化のケースはそれほど多くはないので、
この例数では充分にその有効性が示された、
とまでは言えないように思います。

今後のより詳細な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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