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ナトリウムとカリウムの排泄量と心血管疾患リスク(2021年複数回測定データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
大腸ファイバー検査の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナトリウムとカリウムと健康2021.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年11月13日ウェブ掲載された、
ナトリウムとカリウムの摂取量と、
心血管疾患リスクとの関連を検証した論文です。

塩分は毎日どのくらい摂るのが最も健康的なのでしょうか?

これはまだ完全には解決されていない問題です。

日本人は欧米人と比較すると、
伝統的な食生活においては、
塩分が多く脂質は少ないという特徴がありました。

かつての日本人は平均で1日20グラム以上という、
非常に沢山の塩分を摂っていて、
そのために脳卒中や胃癌が多かったのです。

その一方で欧米では、
塩分の摂取はそれほど多くない一方で、
脂質の摂取量は多く、
そのために心筋梗塞が多かったのです。

高血圧は脳卒中のリスクにもなり、
また心筋梗塞のリスクにもなりますが、
塩分の摂取量を減らすことにより、
高血圧の患者さんでは血圧が減少することが実証され、
そのことから、
塩分は制限すればするほど健康的である、
という考えが一般にも広まりました。

WHOは2025年までに、
塩分の摂取量を1日5グラム未満にすることを目標に掲げています。

ところが、2011年のJAMA誌に、
びっくりするような論文が発表されました。

高血圧の患者さんにおいて、
塩分摂取量の目安になる尿中のナトリウムの排泄量を、
病気のリスクと比較検証したところ、
尿中ナトリウム排泄量が4から6グラムの間が、
最も心筋梗塞や心不全、脳卒中による入院のリスクが小さくなり、
それより多くても少なくても、
そのリスクは増加する、
という結果が得られたのです。

尿中ナトリウム排泄が4グラムと言うのは、
食塩の1日の摂取量が10グラムくらいに相当します。

つまり、1日10グラムを切るような塩分制限は、
却って有害な可能性がある、という結果になっていたのです。

ただ、このデータは高血圧の患者さんの臨床試験のデータを、
後から解析したものなので、
病気による影響が否定出来ません。

それで、
高血圧の方もそうでない方もひっくるめて、
10万人余という対象者を登録して、
前向きにその予後を観察するという研究が、
同じ研究者のグループによって、
2014年8月のNew England…誌に発表されました。

それがPURE研究です。

対象者は世界中からエントリーされていますが、
42%は中国からの登録です。
それを含めて半数はアジアという布陣です。

24時間のナトリウム排泄量は、
平均で4.93グラムで、
カリウム排泄量は平均で2.12グラムです。
このナトリウム排泄量は、
食塩摂取量が12.5グラムに相当します。

3.7年の観察期間中に、
3.3%に当たる3317名に、
心血管疾患の発症や死亡が起こっています。

これをナトリウム排泄量から推測される食塩摂取量と対比させると、
ナトリウム排泄量が3から6グラム
(食塩摂取量で推定7.6グラムから15.2グラム)
の間が最も死亡と心血管疾患の発症リスクが低く、
それより高くても低くても、
リスクが増加することが確認されました。
一方でカリウムの排泄量に関しては、
それが少ないほどリスクは増加し、
排泄量が2グラムを越えると、
そのリスクの低下はなだらかになりますが、
ナトリウムのように逆転する傾向は認められていません。

この傾向は高血圧や基礎疾患のあるなしに関わらず、
同じように存在していましたが、
高血圧が存在していると、
ナトリウム排泄量と予後との関連はより強いものとなり、
その場合にはナトリウム排泄量が3グラム未満であっても、
ナトリウム排泄量が増えるほど、
リスクの増加は認められました。

要するに、2011年のJAMA誌の報告とほぼ同じように、
塩分摂取は多くても少なくても心血管疾患のリスクになっていたのです。

ただ、この研究に関しては、
尿の検体が1回しか採取されておらず、
それが本当にナトリウムやカリウムの摂取量を、
反映しているのかどうかという指摘があります。

そこで今回の研究では、
6つの大規模な疫学データをまとめて解析することで、
最低でも2回以上のナトリウムとカリウムの尿中排泄量を測定したデータと、
心血管疾患リスクとの関連を検証しています。

トータルで10709名(平均年齢51.5歳)の対象者に
中間値で8.8年の経過観察を行なったところ、
年間1000人当たり5.9件という頻度で、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患が発症していました。

これを2回以上採取された24時間尿の、
ナトリウムとカリウムの排泄量と比較したところ、
食塩摂取量に換算して概ね5グラムから15グラムのレベルにおいて、
ナトリウムの推計の摂取量が多いほど、
直線的に心血管疾患のリスクは増加しており、
カリウムの摂取量については多いほど、
心血管疾患のリスクは低下していました。

つまり、PURE研究にあったような、
ナトリウムの摂取量が低くても高くても、
心血管疾患のリスクは増加するという関連性は、
今回は認められなかったのです。

ナトリウムとカリウムの適切な摂取量がどれくらいか、
という問題は、
まだ解決してはいないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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