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新型コロナウイルス感染症に対する吸入と経鼻ステロイドの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19へのステロイド治療の効果.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年11月2日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
吸入と経鼻ステロイド治療の有効性を検証した論文です。

吸入ステロイドが、
新型コロナウイルス感染症の重症化予防に、
有効なのではないかという知見は、
日本では第1波の流行初期の時点からあり、
臨床的には実際に試みられて、
一般向けのニュースにさえなっていました。

それはシクレソニド(商品名オルベスコ)という、
ややマイナーな吸入ステロイドについての知見でした。

オルベスコを使用することにより、
新型コロナウイルス感染症の予後が劇的に改善し、
それはオルベスコに特異的な、
抗ウイルス作用によるらしい、という情報でした。

ただ、他の吸入ステロイドでは効果がなく、
オルベスコのみが有効というのは、
あまり説得力のない見解で、
その抗ウイルス作用は国立感染症研究所で行われた、
基礎研究のデータによるという説明でしたが、
その時点でそうしたデータは公開されていなかったので
(その後確かにデータは論文化されましたが、
あまり話題にする人はいませんでした)、
その話を信用した方が良いのか悪いのか、
迷うような思いもありました。

吸入ステロイドは気道の炎症を抑え、
喘息発作などの急性増悪を予防する効果があるので、
新型コロナウイルス感染症に伴う、
急激な呼吸器症状の悪化を、
予防するのではないか、という期待があります。

その一方でステロイドは免疫を抑制しますから、
感染症や肺炎はむしろ増悪するというリスクも否定は出来ません。

その後オルベスコの有効性は、
あまり声高に言う人がいなくなり、
国立国際医療センターで少数例での臨床試験が行われて、
オルベスコを使用した方が肺炎の発症が多かった、
という結果であったので、
「オルベスコは無効」と報道され、
日本でのオルベスコによる新型コロナ治療は、
一気にしぼんでしまいました。

この顛末はどうも不可解なところが多いのです。

それほどの根拠がないのに、
まるで特効薬のように扱われ、
臨床でも積極的に使用されたのも強引で不思議ですし、
その一方でオルベスコが無効とされた臨床試験も、
とても精度の高いものとは思えず、
オルベスコを完全否定する根拠としては脆弱なのに、
それで使用が打ち切りになったのも不思議です。

それはともかく、
吸入ステロイドによる新型コロナウイルス感染症治療は、
日本では消えうせた一方で、
海外ではそれなりに注目を集めるようになってきています。

先日ご紹介したLancet Respiratory Medicine誌に掲載された研究では、
シクレソニド以外の吸入ステロイドであるブデソニドを使用して、
一定の有効性が得られたとする結果が報告されています。

今回の検証はカナダにおいて、
シクレソニドを吸入と経鼻と併用で使用し、
新型コロナウイルス感染症の外来患者への有効性を比較しています。

18歳以上で発熱や咳息切れなどの症状を伴い、
遺伝子検査で新型コロナウイルス感染症と診断された外来患者、
トータル203名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は吸収ステロイドのシクレソニドを1日600μgで2回、
経鼻で1日200μgで1回使用し、
もう一方は生理食塩水のみを使用して、
14日間の経過観察を行なっています。

その結果治療開始後7日以内に症状が改善したのは、
実薬群では40%に対して、偽薬群では35%で、
この差は統計的には有意ではありませんでした。
事例は比較的若く合併疾患も少なかったため、
明確な差が付かなかった可能性が示唆されました。

このように、
吸入と経鼻ステロイドが、
新型コロナウイルス感染症の有症状期間短縮に、
一定の有効性がある可能性は、
否定は出来ませんが、
その有効性の検証は現時点ではまだ不充分であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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