阿佐ヶ谷スパイダース「老いと建築」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
阿佐ヶ谷スパイダースの新作公演が、
今吉祥寺シアターで上演されています。
長塚圭史さんの新作です。
今回は村岡希美さんを主演に、
1つの家の運命が、
そこに理想を見出した女性の人生と、
リンクして展開する物語です。
僕はかつての長塚圭史さんの「はたらくおとこ」などの作品に、
とても感銘と衝撃とを受けたので、
最近の抑制的な表現と過激を封印した劇作が、
勿論藝術は時間と共に変化することは当然ですが、
正直物足りなく思えることは事実です。
映画も傑作だったフロリアン・ゼレールの「ファーザー」は、
認知症の老人の意識の流れを、
エチュードのように構成した作品でしたが、
その影響は明らかにありそうで、
この作品では認知症の女性の意識の中で、
過去と現在と現実と幻想とが、
複雑に交錯しつつ展開されます。
また、村岡さんが主役だからということでもないのでしょうが、
この作品は結構ケラ作品、
特に「100年の秘密」や「わが闇」辺りに似た雰囲気で、
「家」という建築が1つの主役となっている点も同じですし、
1つの家の謎を含めた年代記を、
過去と現在を交錯させつつ描くというところも同じです。
ただ、こういう作風が、
本当に長塚さんに合ったものなのか、
と言う点で考えると、
少し疑問に感じざるを得ません。
ダブルミーニングというか、
最初の方で主人公が家を要塞に見立てて、
その意味が最後になって初めて分かる、
というような技巧を使っているのですが、
あまり腑に落ちたという感じにならないんですね。
こういうのは、野田秀樹さんが抜群に上手いでしょ。
同じ台詞が全く別の文脈で響くという感じ。
演劇ならではの戦慄がありますよね。
そういう感じはこの作品にはなくて、
正直今ひとつの感じが否めません。
セットもただ大きな柱を立てただけ、
という感じの抽象的なものなんですね。
枯れ葉を床に播いてそれが舞ったりして、
工夫されていることは分かるんですが、
この内容だと、もう少し建築としての家の輪郭が、
クリアに可視化されて欲しいという感じが強くします。
ケラ作品はもっとお金を掛けて、
リアルに旧家を再現していましたよね。
何でもお金を掛ければ良い、
という訳ではないのですが、
この内容で肝心の建築が可視化されない、
というのはないのではないかと思うのです。
今回の新作はここ数年の長塚さんの作品の中では、
最も平明で分かり易いもので、
役者さんも適材適所で良かったと思いますし、
鑑賞したのは平日でしたが、
客席はほぼ埋まっている盛況でした。
ただ、長塚さんには、
正直もっと胸騒ぎのするような熱のある舞台を、
やって欲しいなと思いますし、
今回の作品はこれはこれで良いとして、
次はまた枯れない情熱を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
阿佐ヶ谷スパイダースの新作公演が、
今吉祥寺シアターで上演されています。
長塚圭史さんの新作です。
今回は村岡希美さんを主演に、
1つの家の運命が、
そこに理想を見出した女性の人生と、
リンクして展開する物語です。
僕はかつての長塚圭史さんの「はたらくおとこ」などの作品に、
とても感銘と衝撃とを受けたので、
最近の抑制的な表現と過激を封印した劇作が、
勿論藝術は時間と共に変化することは当然ですが、
正直物足りなく思えることは事実です。
映画も傑作だったフロリアン・ゼレールの「ファーザー」は、
認知症の老人の意識の流れを、
エチュードのように構成した作品でしたが、
その影響は明らかにありそうで、
この作品では認知症の女性の意識の中で、
過去と現在と現実と幻想とが、
複雑に交錯しつつ展開されます。
また、村岡さんが主役だからということでもないのでしょうが、
この作品は結構ケラ作品、
特に「100年の秘密」や「わが闇」辺りに似た雰囲気で、
「家」という建築が1つの主役となっている点も同じですし、
1つの家の謎を含めた年代記を、
過去と現在を交錯させつつ描くというところも同じです。
ただ、こういう作風が、
本当に長塚さんに合ったものなのか、
と言う点で考えると、
少し疑問に感じざるを得ません。
ダブルミーニングというか、
最初の方で主人公が家を要塞に見立てて、
その意味が最後になって初めて分かる、
というような技巧を使っているのですが、
あまり腑に落ちたという感じにならないんですね。
こういうのは、野田秀樹さんが抜群に上手いでしょ。
同じ台詞が全く別の文脈で響くという感じ。
演劇ならではの戦慄がありますよね。
そういう感じはこの作品にはなくて、
正直今ひとつの感じが否めません。
セットもただ大きな柱を立てただけ、
という感じの抽象的なものなんですね。
枯れ葉を床に播いてそれが舞ったりして、
工夫されていることは分かるんですが、
この内容だと、もう少し建築としての家の輪郭が、
クリアに可視化されて欲しいという感じが強くします。
ケラ作品はもっとお金を掛けて、
リアルに旧家を再現していましたよね。
何でもお金を掛ければ良い、
という訳ではないのですが、
この内容で肝心の建築が可視化されない、
というのはないのではないかと思うのです。
今回の新作はここ数年の長塚さんの作品の中では、
最も平明で分かり易いもので、
役者さんも適材適所で良かったと思いますし、
鑑賞したのは平日でしたが、
客席はほぼ埋まっている盛況でした。
ただ、長塚さんには、
正直もっと胸騒ぎのするような熱のある舞台を、
やって欲しいなと思いますし、
今回の作品はこれはこれで良いとして、
次はまた枯れない情熱を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2021-11-14 18:52
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