「ヤクザと家族 The Family」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
注目の藤井道人監督の新作は、
監督自身のオリジナル脚本によるヤクザ映画という、
少し意表を突くようなものでした。
これは好みは分かれるところのある映画ですが、
力作であることは間違いがありません。
藤井さんは熱のある人物描写に才があり、
その特質は存分に発揮されていますし、
主役の綾野剛さんが、
また凄みのある熱演でした。
これは1999年、2005年、2019年という3部構成で、
第一部は主人公の不良少年がヤクザの盃を交わすまで、
第二部はヤクザの抗争から主人公が鉄砲玉となって刑務所に入るまでを描き、
第三部では全てが変わってしまった現代で、
主人公があがく姿を描きます。
先日の井筒監督の「無頼」が、
戦後の闇市からバブル崩壊までの話でしたから、
丁度それを引き継ぐ感じで、
ヤクザを軸にした戦後史の前後編というような趣もあります。
3部構成ですが、
第一部は15分くらいしかなく、
第一部が終わると共に、タイトルバックになりますから、
基本的には2部構成で、
そこにプロローグが付くというような格好です。
これ、1部は正調ヤクザ映画の感じで、
2部は「アウトレイジ」を意識した新ヤクザ映画の感じ、
そして3部は現代版「極道残酷物語」
という感じの壮絶で虚無的な世界になります。
画角も変わるんですね。
1部と2部は上下の切れたシネスコサイズで、
それが3部になると上下に広がって、
アイマックスと同じ画角になります。
トータルにスタイリッシュで完成度は高いですね。
前半など敢えて古いスタイルを取っていますが、
随所に新しい工夫がありますし、
後半でスタイルを全く切り替えるという、
思い切りの良さも凄いと思います。
「無頼」と比べるのは井筒監督に失礼なのですが、
正直完成度には雲泥の差がありました。
ただ、「無頼」の泥臭いような魅力はこの映画にはなく、
主役級以外のヤクザの面々の存在感では、
「無頼」の方が遙かに上でした。
藤井監督は根っからのシネフィルだと思うのですね。
最初のタイトルバックがバーンと出る時の爽快感、
凄いですよね。
臆面もなくかつての任侠映画のカタルシスを引用して、
それを超える落差を生み出しています。
ワンカットで主人公が路地を逃げて車にはねられるところ、
凄い撮影ですよね。
あれ、「1917」でしょ。
完全なワンカットじゃないものを、
技術でワンカットに見せているんですよね。
館ひろしさんが襲撃されるところも、
車の中から並走するバイクが近づいてきて、
銃撃があって、そのまま車が激突して、
これも凄いよね。
自動車の中の撮り方をね。
最初はレトロな固定カメラで、
それから移動撮影で、と変えているんですね。
この辺の凝り方も半端じゃありません。
途中で画角と雰囲気を一変させるのは、
多分昨年の「ウェイブス」という映画を参考にしていますね。
あれも主人公が犯罪を犯したところで、
視点が反転して画角も変わります。
内容に関しては、
物語が「多視点」を許さない、という感じになっているでしょ。
それがちょっと引っかかる感じはしました。
豊原功補さんの経済ヤクザや岩松了さんの悪徳警察官は、
悪そのものとして描いているでしょ。
「この人なりの言い分があるんじゃないか」
というような視点は許さない作劇ですよね。
後半SNSで主人公が追い詰められるのも、
現実はそこまで一方的じゃないという気がするのに、
ともかく一視点で押し切りますよね。
娯楽映画としてはそれでいいのですが、
この映画は社会派映画的側面もあるじゃないですか。
それで1つの考え方のみの押しつけが強い、
と言う点にはちょっと違和感を感じました。
それから、最初10分の時点で、
もう主人公はこのまま駄目になるな、
という感じがするでしょ。
それが結局その想定通りに進むじゃないですか。
それもちょっとしんどいな、という感じは残ります。
もうちょっと途中でこちらの予測を裏切るような展開があっても、
いいのじゃないかな、というようには感じました。
ちょっと息苦しすぎる映画なんですね。
これは疑似家族を描いた映画で、
館ひろしさんと綾野剛さん、磯村勇斗さんという3世代があって、
血のつながりはないのですが、
それこそが家族だ、と言っているんですね。
死に際の館さんが「家族を大事にしろよ」と言うのですが、
言われる綾野さんには、
文字通りの家族は1人もいないのです。
そう考えるとかなり重いテーマで、
これからの社会は、
良くも悪くも「血の繋がった家族」というもの以外の絆を、
探して行かなければいけないのかも知れません。
そんな訳でそれほど好きな映画ではないのですが、
紛れもない力作で、
現在の日本映画を代表するような仕上がりです。
綾野剛さんは現時点で随一、
という感じの芝居を見せていますし、
館さんの芝居も、
その存在をスクリーンに焼き付ける、
という感じのものでした。
見応えはありますが、
気分は軽くはなりません。
なるべく体調の良い時の鑑賞がお勧めです。
「よし明日頑張ろう」という感じの映画ではなくて、
「まあそうだよね。生きるってしんどいけど、どうにかするしかないか」
というような気分になる映画です。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
注目の藤井道人監督の新作は、
監督自身のオリジナル脚本によるヤクザ映画という、
少し意表を突くようなものでした。
これは好みは分かれるところのある映画ですが、
力作であることは間違いがありません。
藤井さんは熱のある人物描写に才があり、
その特質は存分に発揮されていますし、
主役の綾野剛さんが、
また凄みのある熱演でした。
これは1999年、2005年、2019年という3部構成で、
第一部は主人公の不良少年がヤクザの盃を交わすまで、
第二部はヤクザの抗争から主人公が鉄砲玉となって刑務所に入るまでを描き、
第三部では全てが変わってしまった現代で、
主人公があがく姿を描きます。
先日の井筒監督の「無頼」が、
戦後の闇市からバブル崩壊までの話でしたから、
丁度それを引き継ぐ感じで、
ヤクザを軸にした戦後史の前後編というような趣もあります。
3部構成ですが、
第一部は15分くらいしかなく、
第一部が終わると共に、タイトルバックになりますから、
基本的には2部構成で、
そこにプロローグが付くというような格好です。
これ、1部は正調ヤクザ映画の感じで、
2部は「アウトレイジ」を意識した新ヤクザ映画の感じ、
そして3部は現代版「極道残酷物語」
という感じの壮絶で虚無的な世界になります。
画角も変わるんですね。
1部と2部は上下の切れたシネスコサイズで、
それが3部になると上下に広がって、
アイマックスと同じ画角になります。
トータルにスタイリッシュで完成度は高いですね。
前半など敢えて古いスタイルを取っていますが、
随所に新しい工夫がありますし、
後半でスタイルを全く切り替えるという、
思い切りの良さも凄いと思います。
「無頼」と比べるのは井筒監督に失礼なのですが、
正直完成度には雲泥の差がありました。
ただ、「無頼」の泥臭いような魅力はこの映画にはなく、
主役級以外のヤクザの面々の存在感では、
「無頼」の方が遙かに上でした。
藤井監督は根っからのシネフィルだと思うのですね。
最初のタイトルバックがバーンと出る時の爽快感、
凄いですよね。
臆面もなくかつての任侠映画のカタルシスを引用して、
それを超える落差を生み出しています。
ワンカットで主人公が路地を逃げて車にはねられるところ、
凄い撮影ですよね。
あれ、「1917」でしょ。
完全なワンカットじゃないものを、
技術でワンカットに見せているんですよね。
館ひろしさんが襲撃されるところも、
車の中から並走するバイクが近づいてきて、
銃撃があって、そのまま車が激突して、
これも凄いよね。
自動車の中の撮り方をね。
最初はレトロな固定カメラで、
それから移動撮影で、と変えているんですね。
この辺の凝り方も半端じゃありません。
途中で画角と雰囲気を一変させるのは、
多分昨年の「ウェイブス」という映画を参考にしていますね。
あれも主人公が犯罪を犯したところで、
視点が反転して画角も変わります。
内容に関しては、
物語が「多視点」を許さない、という感じになっているでしょ。
それがちょっと引っかかる感じはしました。
豊原功補さんの経済ヤクザや岩松了さんの悪徳警察官は、
悪そのものとして描いているでしょ。
「この人なりの言い分があるんじゃないか」
というような視点は許さない作劇ですよね。
後半SNSで主人公が追い詰められるのも、
現実はそこまで一方的じゃないという気がするのに、
ともかく一視点で押し切りますよね。
娯楽映画としてはそれでいいのですが、
この映画は社会派映画的側面もあるじゃないですか。
それで1つの考え方のみの押しつけが強い、
と言う点にはちょっと違和感を感じました。
それから、最初10分の時点で、
もう主人公はこのまま駄目になるな、
という感じがするでしょ。
それが結局その想定通りに進むじゃないですか。
それもちょっとしんどいな、という感じは残ります。
もうちょっと途中でこちらの予測を裏切るような展開があっても、
いいのじゃないかな、というようには感じました。
ちょっと息苦しすぎる映画なんですね。
これは疑似家族を描いた映画で、
館ひろしさんと綾野剛さん、磯村勇斗さんという3世代があって、
血のつながりはないのですが、
それこそが家族だ、と言っているんですね。
死に際の館さんが「家族を大事にしろよ」と言うのですが、
言われる綾野さんには、
文字通りの家族は1人もいないのです。
そう考えるとかなり重いテーマで、
これからの社会は、
良くも悪くも「血の繋がった家族」というもの以外の絆を、
探して行かなければいけないのかも知れません。
そんな訳でそれほど好きな映画ではないのですが、
紛れもない力作で、
現在の日本映画を代表するような仕上がりです。
綾野剛さんは現時点で随一、
という感じの芝居を見せていますし、
館さんの芝居も、
その存在をスクリーンに焼き付ける、
という感じのものでした。
見応えはありますが、
気分は軽くはなりません。
なるべく体調の良い時の鑑賞がお勧めです。
「よし明日頑張ろう」という感じの映画ではなくて、
「まあそうだよね。生きるってしんどいけど、どうにかするしかないか」
というような気分になる映画です。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。