新型コロナ検査結果取り違え事件顛末 [仕事のこと]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
今日は仕事の話です。
あってはならないことですが、
COVID-19のRT-PCR検査で結果の送信ミスがあり、
一昨日から昨日に掛けてはドタバタが続きました。
その経緯を今日はお話します。
以下の内容は基本的に事実ですが、
特定の個人や集団を非難したり攻撃するような意図ではありませんので、
その点はご理解の上お読み下さい。
クリニックでは主に大手の検査会社に、
新型コロナウイルスの遺伝子検査を依頼しています。
集配は1日に一度で、
3重に包装して検体が回収され、
翌日の夕方以降で、
クリニックに検査結果のファックスが送られて来る、
という段取りです。
以前は原則対面で結果をご説明する方針としていましたが、
遠方の方も検査に受診されることが増えたことと、
隔離して診察するスペースの管理の問題から、
現在は結果は電話でお伝えする方針としています。
1月9日の土曜日にもいつも通りに検査を行いました。
午前中の検査の時点では、
通常通り「明日のうちには電話でご連絡します」
とお話をしていましたが、
「待てよ、連休で通常通りの対応が取れるのかしら?」
と不安になりました。
1月3日の検査をした際に、
当然4日の夜には結果が来るものと思って待っていると、
幾ら待っても届かず、
問い合わせをして初めて、
その日はファックス送信が出来ない、
という事情を聞いた、ということがあったからです。
それで検査会社に問い合わせをすると、
「結果が届くのは早くて11日。遅いと12日になるかも知れない」
というビックリするような返事です。
法定の電源設備の1年に一度の点検があり、
それを1月10日に施行予定としているので、
ファックス送信の機能が停止してしまう、
というのです。
腹立たしいのはその点についての事前連絡が、
当日になるまで全くなかったことです。
事前に連絡があれば、その日の検査をなるべく減らしたり、
保健所依頼の緊急事案は他に廻してもらう、
というような対応は出来ましたし、
患者さんにもそのように説明出来たのですが、
もう後の祭りという感じです。
それでどうにか結果だけでも10日のうちに知らせてもらえないか、
というように担当者に掛け合うと、
電話で10日の夕方以降に口頭で連絡することは出来ます、
という返事でした。
10日は日曜日ですが、
レセプト作業がまだ終わっておらず、
1日突貫で仕事をする予定だったので、
それでも良いかと思ったのです。
10日の夜に約束通り電話が来ました。
9日は午前午後含めて11名の患者さん(生後2ヶ月から67歳まで)の検査をして、
そのうちの4名が陽性とのことでした。
電話でその4名の方の名前を教えてもらい、
それから電話を掛け始めました。
まず陰性の人からと思い、
最初の女性に電話を掛けました。
濃厚接触者で10日くらい前から軽い感冒症状があり、
数日前から味覚嗅覚障害が発生した、という事例です。
診察の時点でほぼほぼ感染しているな、という感触があり、
仮に発症から10日とすると、
唾液の検査はもう厳しいと判断して鼻咽頭から検体を採取しました。
それが陰性なので、おや、という感じがしました。
お聞きするとその日も症状は続いている、
というお話です。
これはタイミングで陰性になっただけかも知れないと思い、
12日にもう一度連絡をして、
経過を確認する方針としました。
次の事例も濃厚接触者の女性で、
2人暮らしのパートナーの感染です。
こちらもほぼ無症状で味覚嗅覚障害で発症し、
発症から間もないという事例です。
これもね、経験的にはほぼ間違いなく陽性、
というような感触の事例です。
にも関わらず結果は陰性でした。
おかしいな、と感じました。
濃厚接触者で急性の味覚嗅覚障害でしょ。
それが2例続けて陰性、というのは、
あまりこれまでになかったことです。
先刻の電話で伝えられた結果は、
本当に正しいのだろうか、という疑問を感じました。
それでもう一度検査会社の担当者の携帯に連絡しました。
「夜分遅く申し訳ないのだけれど、
さっきの結果は本当に間違いないのだろうか?
ひょっとして陰性と陽性が逆、ということはないよね?」
と聞くと、
手元にはエクセルに記載されたデータの一部があり、
陽性は黄色で印字されているので、
その名前には間違いはない、という返事です。
そうか、それなら…と思い、
電話を掛け続けました。
陽性であった事例の1人は10歳の小学生で、
前日からの高熱と寒気のケースでした。
診察時には寝ていないとつらい、というような状態です。
ただ、咽頭所見は典型的ではなく、
周辺での感染事例もなし。
学校や家庭でも他に感染症状のある人はいません。
電話をして状態をお母さんにお聞きすると、
「今日はもう熱も下がってけろっとしています」
という返事です。
これも「おやっ」と思いました。
新型コロナで夜だけの発熱が続いたり、
熱の変動の大きな事例は結構あるのですね。
咽頭所見としては、
扁桃の腫大やリンパ濾胞の腫脹は目立たず、
咽頭後壁のみ真っ赤になっている、
というのが比較的特徴的な所見です。
1日のみの子供の高熱で、
翌日にはけろっとしているというのは、
新型コロナではない子供の風邪に、
その時比較的特徴的な所見でしたから、
経験的な勘というか印象としては、
「これはただの風邪」というものでした。
それでも、2度確認して結果には間違いない、と言うのですから、
これはもう信じるしかありません。
4名の感染者を含む11人全員に連絡を取り、
4名の発生届けを保健所に提出して、
電話での連絡を終えました。
翌日11日は極力家でゆっくりしたい、
という希望を持っていましたが、
結果の正式なファックスが届く筈なので、
その突き合わせだけは早くしたいと思い、
朝から検査会社に確認の電話を入れました。
すると…
問い合わせから2時間くらい経って連絡があり、
結果が間違っていた、という、
そうかも知れないな、と思いながらも、
そうあっては欲しくなかった事実が告げられました。
10日に陽性とされた4名のうち、
実際に陽性であったのは1名のみで、
他の3名は実際には陰性。
そして、味覚嗅覚障害で陰性とされた2名を含む、
別の3名が実際には陽性であった、というのです。
何故そんなあってはならないことが起こったのか、
というと、
データはエクセルで管理されていて、
通常入力後自動的にファックス送信となる場合には、
そこに人の手は加わらないのですが、
今回はファックス送信のシステムが点検で使えないので、
エクセルのデータをそのまま送信したのです。
その際検体に付けられた、営業所用の番号順に、
データを並び替えた時に、
陰性、陽性の表示の列が、
人為的ミスで並び替えられなかったので、
結果がバラバラになってしまったのです。
そんなことが起こり得るのだろうか、
と思いましたが、それが事実だったのです。
すぐにクリニックに向かい、
届いていたファックスを元にして善後策を練りました。
まず保健所に連絡をして、
10日に出した4人の発生届けのうち、
3人分を取り下げました。
そのうちの3名は既に保健所からの連絡が入っていました。
それから陽性と連絡して実際は陰性であった3名と、
陰性と連絡して実際は陽性であった3名に、
それぞれ電話をして結果を説明して謝罪し、
3名分の発生届けを再び提出しました。
検査会社の営業所の責任者と検査の責任者を呼び出し、
一緒に間違いのあった6人の自宅を廻りました。
結果の報告書を手渡しし、
同道した検査の責任者に説明と謝罪を再度してもらいました。
全て終わった時にはもう日は暮れていました。
今回の反省点としては、
矢張り重要な検査データは正式な形でもらうべきで、
イレギュラーな報告は大事なデータでは求めるべきではない、
ということです。
それから臨床の勘というものは馬鹿にするものではなく、
データが診察上の直感と明らかに乖離している時は、
データの信頼性について、
患者さんに説明して取り返しがつかなくなる前に、
しつこく検討する必要があるということです。
一歩間違えればもっと大事になりかねなかった事例であり、
今後も慎重に慎重を重ねつつ、
疲れた身体に鞭打って診療に当たりたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
今日は仕事の話です。
あってはならないことですが、
COVID-19のRT-PCR検査で結果の送信ミスがあり、
一昨日から昨日に掛けてはドタバタが続きました。
その経緯を今日はお話します。
以下の内容は基本的に事実ですが、
特定の個人や集団を非難したり攻撃するような意図ではありませんので、
その点はご理解の上お読み下さい。
クリニックでは主に大手の検査会社に、
新型コロナウイルスの遺伝子検査を依頼しています。
集配は1日に一度で、
3重に包装して検体が回収され、
翌日の夕方以降で、
クリニックに検査結果のファックスが送られて来る、
という段取りです。
以前は原則対面で結果をご説明する方針としていましたが、
遠方の方も検査に受診されることが増えたことと、
隔離して診察するスペースの管理の問題から、
現在は結果は電話でお伝えする方針としています。
1月9日の土曜日にもいつも通りに検査を行いました。
午前中の検査の時点では、
通常通り「明日のうちには電話でご連絡します」
とお話をしていましたが、
「待てよ、連休で通常通りの対応が取れるのかしら?」
と不安になりました。
1月3日の検査をした際に、
当然4日の夜には結果が来るものと思って待っていると、
幾ら待っても届かず、
問い合わせをして初めて、
その日はファックス送信が出来ない、
という事情を聞いた、ということがあったからです。
それで検査会社に問い合わせをすると、
「結果が届くのは早くて11日。遅いと12日になるかも知れない」
というビックリするような返事です。
法定の電源設備の1年に一度の点検があり、
それを1月10日に施行予定としているので、
ファックス送信の機能が停止してしまう、
というのです。
腹立たしいのはその点についての事前連絡が、
当日になるまで全くなかったことです。
事前に連絡があれば、その日の検査をなるべく減らしたり、
保健所依頼の緊急事案は他に廻してもらう、
というような対応は出来ましたし、
患者さんにもそのように説明出来たのですが、
もう後の祭りという感じです。
それでどうにか結果だけでも10日のうちに知らせてもらえないか、
というように担当者に掛け合うと、
電話で10日の夕方以降に口頭で連絡することは出来ます、
という返事でした。
10日は日曜日ですが、
レセプト作業がまだ終わっておらず、
1日突貫で仕事をする予定だったので、
それでも良いかと思ったのです。
10日の夜に約束通り電話が来ました。
9日は午前午後含めて11名の患者さん(生後2ヶ月から67歳まで)の検査をして、
そのうちの4名が陽性とのことでした。
電話でその4名の方の名前を教えてもらい、
それから電話を掛け始めました。
まず陰性の人からと思い、
最初の女性に電話を掛けました。
濃厚接触者で10日くらい前から軽い感冒症状があり、
数日前から味覚嗅覚障害が発生した、という事例です。
診察の時点でほぼほぼ感染しているな、という感触があり、
仮に発症から10日とすると、
唾液の検査はもう厳しいと判断して鼻咽頭から検体を採取しました。
それが陰性なので、おや、という感じがしました。
お聞きするとその日も症状は続いている、
というお話です。
これはタイミングで陰性になっただけかも知れないと思い、
12日にもう一度連絡をして、
経過を確認する方針としました。
次の事例も濃厚接触者の女性で、
2人暮らしのパートナーの感染です。
こちらもほぼ無症状で味覚嗅覚障害で発症し、
発症から間もないという事例です。
これもね、経験的にはほぼ間違いなく陽性、
というような感触の事例です。
にも関わらず結果は陰性でした。
おかしいな、と感じました。
濃厚接触者で急性の味覚嗅覚障害でしょ。
それが2例続けて陰性、というのは、
あまりこれまでになかったことです。
先刻の電話で伝えられた結果は、
本当に正しいのだろうか、という疑問を感じました。
それでもう一度検査会社の担当者の携帯に連絡しました。
「夜分遅く申し訳ないのだけれど、
さっきの結果は本当に間違いないのだろうか?
ひょっとして陰性と陽性が逆、ということはないよね?」
と聞くと、
手元にはエクセルに記載されたデータの一部があり、
陽性は黄色で印字されているので、
その名前には間違いはない、という返事です。
そうか、それなら…と思い、
電話を掛け続けました。
陽性であった事例の1人は10歳の小学生で、
前日からの高熱と寒気のケースでした。
診察時には寝ていないとつらい、というような状態です。
ただ、咽頭所見は典型的ではなく、
周辺での感染事例もなし。
学校や家庭でも他に感染症状のある人はいません。
電話をして状態をお母さんにお聞きすると、
「今日はもう熱も下がってけろっとしています」
という返事です。
これも「おやっ」と思いました。
新型コロナで夜だけの発熱が続いたり、
熱の変動の大きな事例は結構あるのですね。
咽頭所見としては、
扁桃の腫大やリンパ濾胞の腫脹は目立たず、
咽頭後壁のみ真っ赤になっている、
というのが比較的特徴的な所見です。
1日のみの子供の高熱で、
翌日にはけろっとしているというのは、
新型コロナではない子供の風邪に、
その時比較的特徴的な所見でしたから、
経験的な勘というか印象としては、
「これはただの風邪」というものでした。
それでも、2度確認して結果には間違いない、と言うのですから、
これはもう信じるしかありません。
4名の感染者を含む11人全員に連絡を取り、
4名の発生届けを保健所に提出して、
電話での連絡を終えました。
翌日11日は極力家でゆっくりしたい、
という希望を持っていましたが、
結果の正式なファックスが届く筈なので、
その突き合わせだけは早くしたいと思い、
朝から検査会社に確認の電話を入れました。
すると…
問い合わせから2時間くらい経って連絡があり、
結果が間違っていた、という、
そうかも知れないな、と思いながらも、
そうあっては欲しくなかった事実が告げられました。
10日に陽性とされた4名のうち、
実際に陽性であったのは1名のみで、
他の3名は実際には陰性。
そして、味覚嗅覚障害で陰性とされた2名を含む、
別の3名が実際には陽性であった、というのです。
何故そんなあってはならないことが起こったのか、
というと、
データはエクセルで管理されていて、
通常入力後自動的にファックス送信となる場合には、
そこに人の手は加わらないのですが、
今回はファックス送信のシステムが点検で使えないので、
エクセルのデータをそのまま送信したのです。
その際検体に付けられた、営業所用の番号順に、
データを並び替えた時に、
陰性、陽性の表示の列が、
人為的ミスで並び替えられなかったので、
結果がバラバラになってしまったのです。
そんなことが起こり得るのだろうか、
と思いましたが、それが事実だったのです。
すぐにクリニックに向かい、
届いていたファックスを元にして善後策を練りました。
まず保健所に連絡をして、
10日に出した4人の発生届けのうち、
3人分を取り下げました。
そのうちの3名は既に保健所からの連絡が入っていました。
それから陽性と連絡して実際は陰性であった3名と、
陰性と連絡して実際は陽性であった3名に、
それぞれ電話をして結果を説明して謝罪し、
3名分の発生届けを再び提出しました。
検査会社の営業所の責任者と検査の責任者を呼び出し、
一緒に間違いのあった6人の自宅を廻りました。
結果の報告書を手渡しし、
同道した検査の責任者に説明と謝罪を再度してもらいました。
全て終わった時にはもう日は暮れていました。
今回の反省点としては、
矢張り重要な検査データは正式な形でもらうべきで、
イレギュラーな報告は大事なデータでは求めるべきではない、
ということです。
それから臨床の勘というものは馬鹿にするものではなく、
データが診察上の直感と明らかに乖離している時は、
データの信頼性について、
患者さんに説明して取り返しがつかなくなる前に、
しつこく検討する必要があるということです。
一歩間違えればもっと大事になりかねなかった事例であり、
今後も慎重に慎重を重ねつつ、
疲れた身体に鞭打って診療に当たりたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。