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英国発新型コロナウイルス変異(B.1.1.7)の特徴 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
B.1.1.7変異の特徴.jpg
査読前の論文を公開しているmedRxivと言うサイトに、
2021年1月4日ウェブ掲載された、
英国発の変異ウイルスで日本にも既に侵入している。
新型コロナウイルスの「B.1.1.7」と名付けられた変異の特徴を、
疫学と遺伝子解析の観点から検証した論文です。

2020年12月19日に、
イギリスのジョンソン首相はこの変異ウイルスが、
実効再生産数(R1)を0.4増加させ、
感染感受性を最大で70%増加させる、
という内容をスピーチしましたが、
その元になっているデータが、
どうやらこの研究であるようです。

イギリスの数理疫学者ファーガソン博士らによる研究です。

さて、
2020年にイギリスで報告された変異ウイルスは、
「B.1.1.7」変異と名付けられ、
英国公衆衛生庁(Public Health England)は、
このウイルスをVOC(Variant of Concern 202012/01)と命名しています。

この変異ウイルスは17カ所の複数の変異が、
同時に認められているという点が特徴で、
その多くがウイルスが人間の細胞に結合する、
スパイク(突起)の部分の遺伝子に存在しています。

そのため、イギリスで現行主に使用されている、
RT-PCR検査では、
スパイク蛋白の遺伝子部分のプローブが反応せず、
典型的な結果が出ないという現象が生じています。

遺伝子検査では、
ウイルスに特徴的な幾つかの遺伝子配列を、
増幅してそれを組み合わせることで判定を行っているので、
通常結果の誤判定には至らないのですが、
SGTF(S-gene target failures)という特徴的な所見が認められます。

つまり、
遺伝子検査をして診断を行った新型コロナウイルス感染症の事例のうち、
このSGTFが認められた事例は、
ほぼ変異ウイルスであると考えて良い訳です。

このことを利用して今回の研究では、
変異ウイルスと今までのウイルスとの増殖や広がり方の違いを、
数理疫学的に解析しているのです。

イギリスにおいて変異ウイルスが急速に拡大して、
新型コロナウイルスの感染の主体となり、
それが感染そのものの拡大に結び付いていること自体は事実ですが、
実際にこの変異ウイルスが、
これまでのウイルスと比較して、
感染力が高いのかどうか、
という点はそれだけでは分かりません。

感染力が同じであっても、
そのウイルスの潜伏期が短いと、
同じ時間内においては、
感染者はより多くなるからです。

今回の検証では感染陽性者の分布と広がりを、
SGTFのあるなしで分類して比較することにより、
その比較を行っています。

その結果、変異ウイルスが急増した原因は、
潜伏期の違いは若干はあるにしても、
主因は感染力の違いにあることが確認されました。

1人の感染者からどれだけの数に感染させるかを示す、
実効再生産数(R1)という指標で比較すると、
これまでのウイルスと比較して、
変異ウイルスは0.4から0.7その数値を押し上げる力を持ち、
単独での実効再生産数は1.4から1.8と算出されました。
これはたとえば実効再生産数が0.8という地域があるとして、
そこでは1を切っているので、
感染はコントロールされているのですが、
そこに変異ウイルスが侵入して感染拡大すると、
それが1を超えることになるので、
急激に感染拡大に至る、という理屈になる訳です。

現状の対策が感染の押さえ込みに、
一定の有効性があって維持されていても、
そこに変異ウイルスが紛れ込むことにより、
対策は無効になって感染拡大に至る、
というところにこの変異の怖さがある訳です。

この変異ウイルスはより若者に感染しやすく、
それも感染拡大の主因となっていると想定されました。

どうやらこの変異ウイルスの感染力が高いことは事実のようで、
それが日本にも既に入り込んでいることを考えると、
感染収束への道筋は、
まだまだ混迷が予想されるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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