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身体の痛みに対する抗うつ剤治療の有効性(2020年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サインバルタの痛みへの有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年1月20日ウェブ掲載された、
身体の痛みに対する抗うつ剤の効果についての論文です。

原因不明の腰痛や頸部痛、
膝や股関節などの変形性関節症などによる痛みは、
世界的に非常に多い症状です。
全人口の12%が変形性関節症に罹患している、
という統計さえあるほどです。
しかし、手術など原因の治療が有効となるのは、
その極一部に過ぎず、
多くの患者さんは痛みに耐えながら生活している、
というのが実際です。

通常使用されるのは、
非ステロイド系消炎鎮痛剤と呼ばれる痛み止めで、
ロキソニンなどはその代表的な薬です。
このタイプの薬は痛みを抑えるには即効性がありますが、
腎障害や胃潰瘍、
心臓病など多くの副作用や有害事象が報告されています。
つまり、応急的な使用には問題ありませんが、
長く続けることは望ましくはありません。
それに代わって最近広く使用されているのが、
オピオイドという弱い麻薬系の薬と、
うつ病の治療薬である抗うつ剤の使用です。

オピオイドは鎮痛剤ですから、
その使用の是非はともかくとして、
有効性のあること自体は納得のゆくところです。
しかし抗うつ剤は何故痛みに効くのでしょうか?
中枢性に痛みの伝達を抑制するなど、
一応の理屈はあるのですが、
うつ病自体への治療効果と比較すると、
そのメカニズムや有効性は、
科学的に実証されているとは言い難いところがあります。

今回の研究は、
これまでの主だった臨床データを,
まとめて解析したメタ解析ですが、
33の臨床研究のトータル5318名のデータが含まれています。

データが豊富なのは、
SNRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤で、
特にデュロキセチン(商品名サインバルタなど)が、
臨床試験データが多く、
疼痛ガイドラインにも採用されています。

ただ、メタ解析の結果では、
腰痛や変形性関節症の痛みを、
SNRIが軽減するという傾向はあるものの、
それほど明確な効果、というほどではなく、
座骨神経痛に至っては、
ほぼ無効と言って良いレベルでした。

慢性疼痛に対して世界的に広く使用されているSNRIですが、
その有効性は臨床的に意味があるかどうか、
というくらいのレベルで、
その安易な使用については、
今後再検討がされるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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