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岩松了「カモメよ、そこから銀座は見えるか?」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カモメよ、そこから銀座は見えるか?.jpg
岩松了さんの新作が、
今本多劇場で上演されています。
画像は富山公演のものですが、
東京公演に足を運びました。

これはちょっとレトロな雰囲気の、
おそらく昭和の時代の銀座を舞台にして、
井之脇海さん演じる兄と、黒島結菜さん演じる妹、
そして2人の父親の愛人であった、
松雪泰子さん演じる女性との関係を軸に、
汚職事件が絡んだ、
松本清張さんの小説のようなドラマが展開され、
青木柚さん演じる謎の青年の登場から、
最近の岩松さんが良く描いている、
誰が生きていて誰が死んでいるのか定かでない、
内田百閒のような幻想世界に帰着します。

最初に若い2人の「浮浪者」が登場し、
靴を巡る「ゴドーを待ちながら」的な会話を展開。
そこから青木柚さん演じる青年が、
架空の兄と妹の話をするのですが、
相手の青年はその妹が兄に渡す筈の弁当を、
既に持っているのです。
そこに架空の話と紹介された兄妹が実際に登場し、
今度は浮浪者2人の方が、
架空の存在であるかのようにも見えて来ます。

兄妹の父親の愛人であった松雪さんが登場すると、
どうやら松雪さんが産む筈であったが、
実際には生まれなかった兄妹の腹違いの弟が、
その浮浪者であったという開示があります。
しかし、その後も物語は生と死の反転を繰り返し、
浮浪者はある世界では縊死していて、
別の世界では妹と恋人になっている、
という反転したビジョンのままに幕が下ります。

岩松さんらしい幻想怪異譚で、
比較的分かり易い部類とは思いますが、
ハンカチなどの小道具の複雑な移動や、
カモメの出現や銀座が海だったことのリフレインなど、
例によって謎めいたディテールと、
複雑で精緻な仕掛けが絡み合い、
矢張り途中で観客は置いてけぼりにされて、
最後は迷宮の中に彷徨うような気分にさせられます。

岩松作品としてはそれほど突出したもの、
という印象はありませんが
最後の詰め方はなかなか迫力があり、
役者も岩松世界を充分分かった手練れが揃っているので、
まずはその迷宮世界にゆったりと浸ることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ダウ90000「また点滅に戻るだけ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
mata.jpg
今人気急上昇の8人組グループ、
ダウ90000の演劇公演に足を運びました。

コントと演劇の両方で活躍するグループと言うと、
昔の東京ヴォードビルショーがそうでしたし、
もう少し最近ではジョビジョバがそうでした。
ただ、どちらのグループも、
基本的には演劇色の方が強くて、
コントライブみたいなものもやってはいても、
小劇場的肉体演技が、
ベースにある感じでした。

でもダウ90000はそうした演劇色は非常に薄くて、
基本棒立ちでタラタラ喋るというスタイル。

その意味では小劇場よりお笑い芸人に近い感じのスタイルです。
主宰の蓮見翔さんの語りのスタイルが、
売れっ子の漫才師のツッコミのようで面白く、
蓮見さんの語りのリズムが、
全体を1つの作品にしている、という感じです。

内容は非常に技巧的で複雑な仕掛けが用意されています。
今回の作品は演劇公演ということで、
プリクラやゲームなどがある、
所沢の複合娯楽施設に舞台が設定され、
そこに、たまたま大学時代の友達が集まるのですが、
付き合った別れたの複雑な関係性が、
ジグソーパズルのように展開されます。

ただ、演劇好きの観点から見ると、
複雑な人間関係の絵解きが、
必ずしも舞台上のダイナミズムには繋がっていないので、
結局は常に蓮見さんの語り芸を楽しむと言う感じになり、
舞台に立体的な盛り上がりがないのがやや物足りなく感じました。

それでも、これまでにない魅力的な集団であることは間違いがなく、
今後も可能な範囲で足を運びたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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唐組「透明人間」(2023年春公演上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
透明人間.jpg
唐組の第71回公演として、
「透明人間」が上演されています。

今回は花園神社のテントに足を運びました。

この作品は1990年の初演後、
1997年には番外公演的に久保井研演出で上演。
その後「水中花」と題名を変えて、
内容にも少し手を入れて2001年に再演、
2006年には「透明人間」に題名を戻し、
更にラストなどに手を入れて再演。
更には初演版として2015年にも再演されています。
「秘密の花園」と共に、
唐組でも再演頻度の高い演目です。

初演は当時既にレトロな感じの唐芝居で、
戦時中の中国の荒野が出て来たり、
不服従の犬が登場したりと、
70年代のアングラ劇に回帰したようなイメージがありました。

ラストも主人公が水の中に引き込まれて終わるという、
「ふたりの女」のような趣向で、
確かテントも開かなかったと思います。
(唐先生の芝居では、
必ずテントの奥が開いて外が見えるように思われますが、
意外に一時期はテントを開けない、
密室劇として完結するラストが多くありました。)

それが再演時に外が開くラストに改訂され、
付け加わった台詞が、
元の物語と少し乖離しているようで、
違和感がありました。
2015年版からは初演に台詞を戻しての上演となり、
今回もその方針が踏襲されています。

初演が矢張り舞台空間の緻密さや、
辻役の長谷川公彦さんがどんぴしゃりだったので、
出来としては上になると思うのですが、
辻役の稲荷卓央さんももう3演目となり、
稲荷さんの代表作の1つと言って良い、
練り上げられた芝居になっていました。
紅テントのファンには、
心からお薦め出来る舞台です。

以下ネタバレを含む感想です。

田口という保健所に勤める若者が、
謎の男から一晩だけ、
自分の妹をあげる、と言われるのが発端で、
その妹が勤める焼き鳥屋には、
恐水病の犬とその飼い主が、
何故か軍服姿で蚊帳を身体に結び付けて、
押入れに寝起きしています。

しかし、犬はその場にはおらず、
飼い主の男は、
昔軍隊で犬の調教をしていて、
中国の荒野で死んだ筈の犬が、
その犬であるような話をします。

どうやら、その犬は、
「盲導犬」に登場するファキイルのような、
人間に従うことをよしとしない猛獣のようなのです。

そこに田口の上司の課長が現れ、
犬とそれを連れた謎の男が、
小学校のグラウンドで小学生の少年の腕を噛んで逃走した、
という話をします。

しかし、小学生を噛んだのは、
どうやら犬ではなく、
それを連れた謎の男の方なのです。

その男は犬の飼い主のかつての軍隊時代の上司の息子で、
その父親は犬の調教師であり、桃という現地の女性と、
大陸で情を交わしていました。
しかし、軍隊の医務官の陰謀で、
犬も女も非業の最期を遂げます。

小学生を噛んだのは、
その辻という犬の調教師の息子で、
おそらくは桃の息子でもあります。

彼は自分の父親の古いジャンパーを身にまとい、
父親に変身して戦地で失った桃を探しているのです。

1日だけ田口の妹になる筈だった女は、
辻の息子に囚われ、
その後もう1人の「桃」が登場すると、
無造作に片隅の水槽に捨てられます。

しかし、辻の息子は実は犬を見殺しにしていて、
それを見付けて怒った飼い主により、
射殺されて水槽に姿を消します。

ラストでは水槽に消えた桃を求めてさすらう田口の前に、
水底から桃が現れ、
田口を水に引き入れて終わります。

基本的なプロットは、
「盲導犬」と「ふたりの女」
そして「秘密の花園」をミックスしたような戯曲です。

2人の女が登場する意味合いが、
やや判然としないのですが、
犬にかつての軍用犬の名前が付けられたことにより、
時空を遡り、
辻という戦時中の調教師の妄執のようなものが、
その息子に受け継がれるという設定が、
如何にも唐先生で魅力的です。

舞台は焼き鳥屋の2階で固定されているのに、
それが一瞬にして大陸の荒野に変貌しますし、
スーパーの前に水道管の破裂で沼が出来たり、
小学校のグラウンドで小学生が噛まれたりといった情景も、
非常に巧みに描出されています。

この作品で特に面白いのは、
ダークヒーローとしての辻(息子)の造形で、
暴力的で女たらしのロマンチストという役柄は、
あまり唐先生の戯曲には、
登場しないキャラクターです。
こうした猛獣のような直情的な性格は、
唐先生の芝居では、
李礼仙で代表されるヒロインの役柄であったからです。

初演時にクールなビジュアルで人気があった、
長谷川公彦さんへのあて書きであることは間違いがありません。
その資質は長谷川さんとは違いますが、
稲荷さんはその役柄をまた別の個性で、
練り上げられた演技の代表作にしていると思います。

他のキャストも非常に質の高い、
正統的「アングラ芝居」を積み上げていて、
その演技の競演を見ているだけで、
至福の気分に浸ることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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た組「綿子はもつれる」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
綿子はもつれる.jpg
今個人的には一番注目している、
新進気鋭の劇作家加藤拓也さんの新作が、
劇団た組の公演として、
安達祐実さんをフィーチャーして上演されています。

このコンビの前作「もはやしずか」が衝撃的であったので、
今回もとても期待をして足を運びました。

「もはやしずか」と同じように、
今回も安達祐実さんと平原テツさんが夫婦を演じます。
前回はその下の世代として黒木華さんが登場して、
とても豪華な女優のツートップ体制だったのですが、
2人の息子として田村健太郎さんなどが登場しますが、
今回は明確に安達さんメインの物語になっています。

今回も素晴らしく刺激的な作品でした。

「もはやしずか」もイプセンを強く感じましたが、
今回ももろにイプセンという感じです。

平原さん演じる離婚歴があり前妻の息子を養育している男性が、
安達さんと再婚するのですが、
夫の浮気が明らかになり、
それから夫婦仲は冷え切って、
安達さんの方も不図したきっかけで別の男性と、
不倫の関係を始めるようになります。
その破綻した夫婦と息子との3人の家庭が、
ほぼ崩壊した状態でありながら継続しているのですが、
安達さんの不倫相手が、
その眼前で事故死してしまうので、
そのショックが家族の関係に、
絶対話せない秘密という要素を加え、
物語は混沌とした様相を帯びるのです。

破綻していながら、
生活を「家族」として続けないといけない、
という複雑で微妙な関係性を描いた作品で、
加藤作品を知り尽くした平原さんと、
演技の没入感では現在追随を許さない感のある安達さんの、
演技の競演が、
演劇ファンにとっては最高のご馳走です。

カーテンで斜めに仕切られた舞台が、
2つの時間と空間を絶妙に切り取って鮮やかですし、
複層的に流れる時間の処理もさすがです。

クライマックスでは安達さんが、
平原さんの前で延々と泣き続けるのですが、
泣くだけの表現がクライマックスとして成立するのは、
安達さんならではの至藝でした。
これだけで充分鑑賞の値打ちがあります。

ただ、今回ちょっと不満であったのは、
1つは田村健太郎さんが高校生の息子を演じたことで、
さすがにこれは外見的に無理がありました。
また「もはやしずか」でも問題となったラストの処理ですが、
抜け殻となった自分と過去の自分がすれ違う、
というようなかなり複雑なことをしているのですが、
あまり成功しているとは言い難く、
オープニングと同じ場面を繰り返すのも、
あまり良いとは思えませんでした。

この辺りが加藤さんの劇作の現時点での問題点で、
衝撃的かつ明快なラストが生まれた時に、
真の意味でイプセンに匹敵する家庭劇の名作が、
誕生するような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ウーマンリブvol.15「もうがまんできない」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
もうがまんできない.jpg
2022年に上演予定でコロナのために配信のみとなった、
宮藤官九郎さんの新作が、
今下北沢の本多劇場で本日まで上演されています。
(画像は2022年時のチラシのものです)

これはちょっと岩松了さんに寄せた作風の、
複合的な苦い人間ドラマで、
クドカンとしては比較的分かり易く、
それほどの癖のない作品に仕上がっていたと思います。
クドカンの作品の全てを観ている訳ではありませんが、
3分の2以上は生で観ている経験の範囲で、
代表作の1つと言って過言ではないと思います。

発達障害の少女と、
その少女にデリヘルをさせている父親の歪んだ愛情の話、
10年以上売れず、解散を考えているお笑いコンビの話、
ITの経営者の妻が会社の部下と、
そうと知らずに不倫をしている話、
の3つの物語が、
渋谷の裏町に建つ雑居ビルの屋上と、
それに向かい合うタワーマンションのベランダを舞台に、
複合的に展開されます。

クドカンの作品としては緻密に計算された人間ドラマで、
特に発達障害の娘とその父親の話は、
かつて松尾スズキさんが得意としたテーマでしたが、
最近はコンプライアンス的問題があって、
松尾さん自身もそうした作品を書いていませんし、
クドカンとしても、
舞台より多くの人の目に触れる、
映像のドラマでは描き難いテーマではないかと思います。

今回は少女役に独特の個性を持つ新人を起用して、
その生々しさがよりリアルなものになっています。
演出も途中で挿入されるミュージカル風の幻想シーンが楽しく、
ラスト少女に殺人をさせようとする父親の企みを、
離れたベランダから阿部サダヲさん演じる間男が、
阻止しようと声を掛けるところに、
売れない漫才コンビの舞台を重ねるという、
重層的な構成が鮮やかで印象的でした。
ラストは本当に凄い場面になっていたと思います。
岩松了的なショックがあって、
でもそれがクドカンの世界として昇華されていました。
その前に久しぶりに怪優ぶりをいかんなく発揮していた平岩紙さんが、
スパイダーマンみたいに壁を這って、
セレブの世界から転落したと見せて、
図太く這い上がる場面があって、
それが伏線になっている点も凄いと思いました。

売れないお笑いコンビの話は、
以前にもウーマンリブの舞台で上演されたことがありましたが、
稽古をしている劇場のある雑居ビルの屋上に、
場面を限定した工夫や、
セレブのタワマンのベランダを向かい合わせて、
その格差を視覚的に見せ、
両者を梯子で結んでリスクのある綱渡りを見せたりする工夫で、
よりエッジの効いた物語に仕上がっていました。

個性豊かな役者の競演が楽しく、
クドカンの拘りが、
細部まで感じられる力作に仕上がっていたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ハリー・ポッターと呪いの子」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも院長の石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ハリー・ポッターと呪いの子.jpg
イギリス発のハリー・ポッターの公式の舞台が、
2022年からホリプロの主催でロングラン上演されています。

特別興味はなかったのですが、
演劇専門誌で多くの評論家が絶賛していたので、
「どんなものなのかしら」と思い、
遅ればせに足を運びました。
石丸幹二さんがメインのキャストです。

これはなかなか良かったですよ。
娯楽劇の1つのお手本という感じで、
日本製では望めないレベルで、
戯曲も演出も練り上げられています。
アメリカ的な仰々しい物量スペクタクルという感じではなくて、
アイデアとセンスで勝負という感じ。

原作のシリーズの19年後の後日談という設定になっていて、
ファンタスティックビーストの映画が前日談ですから、
なかなかこのシリーズは手が込んでいます。
これは作者も関わった舞台がオリジナルですが、
おそらく、というかほぼ確実に、
映画版にもなるのだと思います。

原作の後日談であると共に、
「バックトゥザフューチャー」のような時間SF的設定があり、
流行りのメタバースの要素も取り込んでいます。
ハリー・ポッターシリーズをあまり知らない人でも、
そう困らないように物語は明快に出来ていますし、
それでいて、知っているとより理解は深まります。
そしてラストは原作の「最初の時間」に時空を超えて登場人物が勢揃いする、
という原作ファンにも堪らない構成になっています。
さすがです。

セットは比較的シンプルなものですが、
古典的なブラックアート(黒い背景に黒子が潜んで人間や物体の浮遊を見せる)
を巧みに再利用して立体的な魔法を見せ、
それを群舞やワイヤーワークと組み合わせて、
変化に富んだ魔法を楽しませてくれます。
クライマックスでは色とりどりの炎が飛び交うという、
映画が実体化したようなワクワクする光景が待っています。

ただ、日本版は役者は主役以外は、
やや小粒な感じは否めません。
アンサンブルの技術レベルも、
公演によって差はあるのだと思いますが、
僕が観た時はパントマイムやスローモーションなど、
今一つの出来で、
空中で静止するトランクなども、
あまり止まっているようには見えませんでした。

途中でメタバースで悪の軍団が登場するところなど、
もっと迫力が欲しいな、と思いましたし、
魔法界や魔法学校の重鎮達にも、
もっと格上の感じを出して欲しかった、という思いはありました。
群舞は正直、劇団☆新感線の方が人数は少なくても、
迫力は勝っていたように思います。

全体として演技と身体能力のクオリティが、
それほど高いものではないので、
少し長いな、という印象がありました。
これは1つ1つの場面の細部が、
もう少しクオリティの高いものになると、
また違った見え方になるのだろうなあ、と感じました。

そんな訳で作品としては非常に素晴らしいものなのですが、
日本版にはもう少し頑張って欲しいな、という感じはありました。
ロングランを重ねて、
より磨きが掛かることを期待したいと思います。

それでも久々にロングランに相応しい娯楽作が登場した、
という印象はあり、
是非これからも回を重ねて欲しいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ブレイキング・ザ・コード」(2023年稲葉賀恵演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ブレイキング・ザ・コード.jpg
イギリスの劇作家ヒュー・ホワイトモアが執筆し、
1986年に初演された作品が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。

これはドイツ軍の暗号エニグマを解読し、
コンピューターやAIの先駆的な研究を行った、
アラン・チューリングの生涯を描いた作品です。

初演からほどない頃に劇団四季で日下武史さん主演で上演され、
その後はほぼ国内で上演されていなかったのですが、
今回文学座の稲葉賀恵さんの演出、
亀田佳明さんの主演という文学座コンビで、
新たに上演されました。

これは素晴らしかったですよ。

オープニングの何気ない場面から引き付けられましたし、
戯曲の構成の見事さに酔い、
主役を始めとした優れた役者の演技に酔い、
その現代に通じる高い思想性にも魅せられました。

多分今年観た芝居の中では一番集中して観ることが出来ましたし、
今でも全ての場面をクリアに思い出すことが出来ます。

正直地味な公演だと思いましたし、
観るかどうかも迷っていたのですが、
観ることが出来て本当に良かったと思いました。
素晴らしい戯曲、素晴らしいキャスト、素晴らしい演出、
この3拍子揃った舞台は稀にしかありませんし、
今後もあまり出逢うことはないと思います。

これね、最近の映画「Winny」に似たテーマで、
社会性のない世の中を変えた天才が、
凡人の社会に適合出来ずに排斥される、
という話なんですね。

哀しいし普遍的なテーマですよね。
でも、この作品はそれだけではなくて、
アラン・チューリングという稀有の変わり者の天才を、
母親や友人、恋人や愛人などの目から、
多面的に描いていて、
トータルに見て、
人間の不思議さのようなものを、
強く感じる作品になっているんですね。

オープニング、
チューリングが些細な泥棒の被害を、
警察官に申し出るところから始まるんですね。
何でこんなところから始まるんだろう、
というように思うのですが、
そこで展開される微妙にすれ違った会話だけで、
主人公の性格の特異性と複雑さが、
巧みに立ち上がって来るんですね。
上手い作劇だなあ、と思うのですが、
この場面が成功しているのは、
役者の演技が見事だからなのですね。
主人公の亀田さん、上手いよね。
それから警察官役の堀部圭亮さんが、
この人最近本当に良い役者さんになりましたよね、
絶妙なんですね。

やり過ぎない、主張しすぎない演出が、
またとてもいい感じなんですね。
多くの暗転があって、時制が頻繁に変わるのですが、
場面の終わりに必ず余韻があって、
それを引きずって暗転するので、
観客が何かを考える時間になっているんですね。
無駄な暗転になっていないんですよ。
「あっ、どうしたんだろう」と思ってちょっと考える、
そこに暗転が差し挟まれて、
観客の心が整理されたくらいのタイミングで、
次の場面に移るんですね。
だから、この暗転は邪魔になっていないのです。
凄いと思いました。

テーマの1つは「機械は考えることが出来るのか?」
という昔ながらの命題なんですね。
でも、今はAIの時代なので、
それを初演当時より身近に、
切実に感じることが出来るのです。
作中でチューリングは、
「2000年頃には考える機械が登場する」と言っていて、
まあほぼその通りになっているんですね。
でも、その一方で、
機械に変換不能な人間の心の闇のようなものは、
むしろ大きくなって来ているようにも思います。
その闇を同時に描いているところが、
この作品の多面的で優れているところだと思います。

それから個人と戦争と国家との向き合い方のようなもの、
戦争と国家というのは、
ほぼほぼ同じものなんですね。
そのことが、
今ほど切実に感じられる時代はないような気がします。
この作品のチューリングは、
戦争も国家も自分の人生の道具として利用したのですが、
その重荷に結局は潰されることになる訳です。

そんな訳で今回の上演は非常に意義のあるもので、
30年の時を経て、
この作品の理解はより深まり、
その煌きはより増しているんですね。
無意味な過去作の上演も多い中で、
今回の上演はととても時機に適ったものだと思います。

今回の上演で特筆するべきは矢張りキャストで、
主役の亀田さんの芝居は、
その特異なキャラを見事に立ち上がらせたのみならず、
取り憑かれたような1人語りで、
エニグマの解読やコンピューターの未来を語る技藝が素晴らしく、
圧倒的な存在感を見せていました。
主人公の母親に保坂知寿さん、
父親的な研究者に加藤敬二さんと、
かつての四季コンビを配して、
この芝居の情緒の部分に膨らみを持たせているのも見事でした。

そんな訳で総合藝術として、
高いレベルで完成されたお芝居で、
今年一番と言って良い、充実感のある舞台でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ナイロン100℃「Don't freak out」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドントフリークアウト.jpg
ナイロン100℃の結成30周年公演が、
先日下北沢のスズナリで上演されました。

ナイロンは最近は中劇場クラスでの上演が殆どでしたから、
スズナリは本当に久しぶり、という感じです。

30周年ですか…
僕は勿論旗揚げから観ているので、
「そんなに時間が経ってしまったのか」と、
何か愕然として人生を振り返るような気分になります。

今回の作品はあまり笑いの要素はなく、
戦前の旧家を舞台にしたおどろおどろしい物語が、
アート的白塗りメイクの役者さんにより演じられます。

旧家の没落が、
松永玲子さんと村岡希美さんによって演じられる、
2人の女中たちを主人公にして描かれる、
というのがポイントで、
お話的にはケラさんに時々ある、
残酷な家庭劇のスタイルですが、
旧弊な男尊女卑の世界を舞台にして、
そこで自立してたくましく生きて行く、
女性の姿を描いている、
という側面もあります。

以前からそのアート的な場面構成や、
歌や闇で場面を断ち切るという趣向、
ナンセンスコメディで見せる、
今はあまりありませんが、
かつては定番であった、
ラディカルで前衛的で、
観客を巻き込むような演出は、
寺山修司の演出にかなり近い部分がありましたから、
今回の作品はケラさんのキャリアの中でも、
かなり寺山修司に寄せたな、
という感じの部分があります。

ただ、それならもっと、
ラディカルにやって欲しかったな、
というような思いもあります。
好きな世界なので、
どうしても希望が強くなってしまうのですね。

今回特筆するべきは、
矢張り舞台装置や映像などのスタッフワークの部分で、
これはもう今演劇界一と言って良い素晴らしさです。
あのスズナリに良くぞここまで作り込んだ、
と感嘆するような見事なセットに、
洗練された衣装とメイク、
そして音響と映像のコラボの精度は、
それだけで1つのアート作品として鑑賞することが出来ます。

役者は主役の2人を中心にして、
ナイロンの面々は的確で洗練された演技を見せていますし、
今回は特にゲストの松本まりかさんが、
艶っぽい役柄を魅力たっぷりに演じているのが眼福でした。

総じてケラさんの新作となると、
どうしても高いものを求めてしまうのですが、
非常に贅沢に作られた、
小劇場の宝石のような作品で、
心ゆくまでその世界に浸ることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COCOON PRODUCTION 2023「シブヤデマタアイマショウ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
シブヤデアイマショウ.jpg
2021年に上演された松尾スズキさんのミュージカルレビューショー、
「シブヤデアイマショウ」が、
シアターコクーンの休館に合わせて、
第2弾として今日まで上演されています。

これは第1弾がとても楽しかったので、
今回も是非と思い、
初演の能年玲奈さんが出ていないのが残念ですが、
期待して足を運びました。

今回もとても楽しかったですよ。

松尾スズキさんの関わった舞台としては、
この10年くらいでしたら一番好きな作品で、
過去を遡っても、
「愛の罰」の初演でしょ、それから「嘘は罪」の初演、
「キレイ」の初演、スズナリでやった1人芝居、
それに継ぐくらいに好きです。

基本的な構成は第一弾と同じなのですが、
前回はヒロインの能年玲奈さんが、
今回は多部未華子さんに代わり、
それに応じてヒロインの役柄も変更されて、
前回は能年さんが「召使を孕ませて家出した地方の名家のおぼっちゃま」
というとてもシュールで、
能年さんでなければ、とても演じられないな、
というような役柄を演じて素晴らしかったのですが、
今回は多部さんが本人を演じ、
彼女がホテルで寝ていると、
「不思議の国のアリス」もどきに、
ウサギに導かれて渋谷の町を彷徨うという、
夢の世界で別人格を演じる、
という趣向になっていました。

もう1つの主筋は、
前回も登場した秋山菜津子さんが,
自分自身をヒロインにしたミュージカルを作る、
という話で、
これは前回はダークサイドに堕ちた、
松尾スズキを救う、というようなお話であったのです。

この作品は何より松尾さんが、
パフォーマーとしての本領発揮の感じで、
恥ずかしそうに頑張っている姿がとても楽しいのです。
最初から客席にヨロヨロと登場する、
動きの藝からして素敵ですし、
得体の知れないダンスや歌も、
多部さんや秋山さんとの掛け合いも、
これはもう円熟した古典芸能を鑑賞するような気分です。

歌のレパートリーの中では、
「キレイ」で個人的には最高の名曲だと思っている、
「ここにいないあなたが好き」を、
初演のオリジナルキャストである、
秋山菜津子さんと村杉蝉之介さんが、
歌い上げてくれたのが最高のご馳走でした。
ただ、一般の知名度は低い曲なので、
客席の反応は薄かったのがとても残念です。

「コクーンの終末」ですし、
もっと終末感満点に、
破壊的な作品にしてくれても…
という思いもあるのですが、
松尾さんもそうした破滅的な時期は過ぎているのだと思いますし、
これはこれでとても素敵な時間だったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「帰ってきたマイ・ブラザー」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
帰ってきたマイ・ブラザー.jpg
水谷豊さんの主演舞台が、
マギーさんの脚本に小林顕作さんの演出、
相棒コンビの寺脇康文さんや堤真一さん、
段田安則さん、高橋克実さん、
更には峯村リエさんと池谷のぶえさんが脇を固めるという、
小劇場的には超豪華なメンバーで今上演されています。

昔解散した実際に4人兄弟のコーラスグループが、
ひょんなことから数十年ぶりに公演を開くことになり、
その楽屋でのやり取りがお芝居として描かれて、
ラストはその公演風景で締め括られます。

これは個人的にはとても良かったです。

仲の悪いグループの公演直前の楽屋風景という、
これはもう本当にベタな設定なんですね。

それがその通り基本的には予定調和的に進みます。
最初は、とても公演など迎えられないのではないか、
という雰囲気なのですが、
色々な偶然や、蔭のマネージャーやファンの努力、
そして過去と向き合いながら葛藤する、
メンバー(今回は家族でもある)の人生を凝縮したような時間のやり取りがあって、
ラストでは公演の風景に全てが集約されてゆきます。

ここまでベタな設定ですと、
そのまま丁寧にやれば一定のレベルの舞台になるのは、
それはもう当然と言って良いのですが
その一方で特徴が出にくいという欠点はあります。

今回何が良かったかと言うと、
まず第一に上演時間の短さです。
トータルで上演時間は1時間半弱なんですね。
それでいて短すぎるという感じはありません。
オープニングからすぐ水谷さんと寺脇さんが登場して、
無意味な前振りがありませんし、
久しぶりに再会した4人兄弟が、
最初は過去のわだかまりがありながらも、
徐々に1つになって、
その日の舞台に向かうまでを、
時間経過を踏まえながら、丁寧に描いてゆきます。
1人2役の女優陣が途中に綺麗に挟まって、
単調になりがちな段取り部分を、
丁寧に補完してゆきます。
そして、いよいよ公演ということになると、
劇場がそのまま公演会場に変貌し、
観客はその世界に入り込んで、
本人と役柄とを二重写しにしながら、
その展開を見守るのです。

この短さの選択と、
凝縮されたマギーさんの台本の完成度の高さが、
この作品のまず第一の魅力です。

この作品の第二の魅力は勿論キャストです。

主役が水谷豊さんで、
マネージャー役には相棒でも共演の寺脇康文さんでしょ。
水谷さんの弟に段田さん、高橋さん、堤さんという、
それぞれ1人で充分舞台の主役を張れる面々が揃っています。
そして、アクセント的に出演する女優陣も、
おそらく今の演劇界で最も器用なコメディエンヌと言って良い、
峯村リエさんと池谷のぶえさんという豪華さです。

こうしたキャストを組むと、
ともすれば皆が顔見世的な出演になって、
「無駄に豪華」という感じになりがちなのですが、
今回は違っていました。

矢張り水谷さんがスーパースターなんですね。
そのオーラがとてつもないので、
水谷さんを活かすためには、
周りにもこのくらいのメンバーが必要なのです。

それから、矢張りこれはマギーさんの脚本が良いのですが、
1人として段取り的な役柄はなく、
それぞれがしっかり自分の役柄をこなし、
見せ場も作るという感じになっていて、
その贅沢なアンサンブルに、
こちらもちょっと豊かな気分にさせられるのです。

特筆するべきは矢張りラストで、
4人兄弟が真紅の背広でずらりと並び、
歌が始まった時の感銘というのは、
それまでの経過をしっかり見せられているだけに、
胸に迫るものがありましたし、
久しぶりに舞台を観て鳥肌が立ちました。

要するに1曲の歌が背負っているものを、
演劇として見せておいて、
それを感じながら歌を聞くことにより、
全ての思いがそこに集約されるのです。

その後はカーテンコールのダンスになるのですが、
全員が揃ってのダンスシーンは、
オールスターキャストならではの凄みのある舞台面で、
この場面のみでも、
このキャストを集めた意味は充分にあったと感じました。

そんな訳で、
とてもベタな芝居ですが、
それを超豪華なキャストと手練れのスタッフで、
1時間半の結晶体のような舞台に仕上げた傑作で、
是非是非劇場に足をお運び頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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